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[22653] 【ネタ】 ああっ女神さまっ (魔神転生Ⅱ プレイ日記風 憑依仕立て 攻略メモ添え)
Name: 774◆0928de07 ID:73a4f91d
Date: 2010/10/23 09:48
注意書き
①タイトルの元ネタは言わずと知れた藤島漫画。末妹最高。
 しかし本作はゴリゴリの魔神転生ⅡネタSSです。他作品とのクロスは一切ありません。
 従って女神さまは山ほど出てきますが、三姉妹は残念ながら出てきません。
 タイトルは魔神Ⅱプレイヤーであればほぼ確実に共感してもらえそうですが、
 そうでない方がこの注意書きを読まずに、ある種の期待を持って読んだ場合、
 タイトル詐欺と罵られても文句の言えない内容になっております。

②酷いネタバレです。
 ストーリーのネタバレは魔神Ⅱの面白さを一切損なうものではないと私は考えますが、
 ゲーム未プレイのネタバレを気にする方で、
 且つ何故かこれから魔神Ⅱをプレイしようと考えている方は避けた方が良いかもしれません。

③ゲームをプレイしながらだと3倍楽しめる仕様になっていますが(当社比)、
 それ故にプレイ済みだと先の展開が結構読めてしまったりもします。
 未プレイの方でも読めるように書いているつもりなので、
 もし感想を書いていただけるのでしたら、その辺りの事に配慮していただけると大変助かります。

④設定に関しては「魔神転生Ⅱ」本編から私が読み取れる範囲に限定し、構成上必要な改変・捏造をプラスして。
 上記に反するような、うろ覚えに因る誤りの類は一切ありませんので、その点についてはご安心ください。
 またヘビーメガテニストの諸兄には、シリーズ他作品との絡みが無いなどの不満もあるでしょうが、どうかご理解ください。


以上4点をご了承の上、お読みください。





更新履歴

prologue      10/21 投稿   10/22 チラ裏へ移転
第一話      10/23 投稿
第二話        /  投稿



[22653] prologue        ~ It's only the fairy tale ~
Name: 774◆0928de07 ID:73a4f91d
Date: 2010/10/23 09:47

『驚いたな。まさか意思疎通ができるようになるとは。そうだな、僕の事は「妖精さん」とでも呼ぶと良いよ。』



 その自称「妖精さん」に出会ったのは、目黒の研究所で不審な女性から受け取った「DIO-system」を起動した直後だった。
 とはいえ妖精さんが言うには、暫く前から『観ていた』との事。妙に頭がざわざわしたり、勘が鋭くなっていたりしたのは、どうやらそのせいだったらしい。正確には出会ったのではなく、DIOを通じて『意思疎通できるようになった』だそうだ。


 細かいことは追々に。
 ここに綴られるのは、怪しさギガオンの妖精さんと、それに取り憑かれた武内ナオキとが織り成すささやかな御伽噺である。



stage 0  Opening



 1995年の冬。
 その日は朝から何かがおかしかった。頭が妙にざわざわして、誰かから常に見られているような感覚。その為かどうかは判らないが、胸騒ぎと言うか、嫌な予感が消えなかった。どうやら嫌な予感の方は当たったようで、「緊急回線」からのメッセージが俺に届いた。


:EMERGENCY LINE:
「サキホド ケンキュウジョニテ ゲンインフメイノ
 バクハツジコガ ハッセイシ キデンノ リョウシンハ
 ナクナラレタ
 シキュウ ケンキュウジョマデ コラレタシ」


 すぐには信じられなかった。爆発事故? しかも原因不明?
 メッセージの中にある「ケンキュウジョ」ってのは、多分オヤジ達が働いている目黒技研(正式名称「防衛庁科学技術研究局」)のことだろう。研究内容については聞いた事が無い。恐らく機密に関る何かだろうと思っていた。
 俺は教授に断り研究室を出て、目黒にあるオヤジ達のラボに向かおうとした。だが、突如現れた悪魔の軍勢を率いる男によって東京が電撃的に占領され、身動きが取れなくなってしまった。

 魔都と化した東京。悪魔による新しい秩序の下、目黒のラボに近づく事すらできないまま一年ほど経った頃、反悪魔組織「パルチザン」の噂を耳にした。


 そもそもあのメッセージの送り主は誰だったのか。
 事故が起きたタイミングと、悪魔が出現したタイミング。
 あの事故については幾つもの疑問があった。

 悪魔が関る事件を追っていれば何か手がかりがつかめるかもしれない。
 悪魔から東京を開放すれば目黒のラボにも行けるかもしれない。
 そう考えた俺はパルチザンに入隊することにした。



stage 1 A.D.1996 TOKYO



chapter 1  SHIBUYA    ~ 渋谷開放作戦 ~

 俺は入隊してすぐに、渋谷の街を悪魔達から開放する作戦に参加することになった。パルチザンの本拠地がある新宿の周りを、確固たる地盤にするための作戦だそうだ。
 実行メンバーは「橘カオル」に「菊池トモハル」と俺、「武内ナオキ」の三人。まだ規模が小さいパルチザンとしては余り割ける戦力が無いとのこと。入ったばかりの俺に、貴重であるらしい通信用のヘッドセットを渡すとは。これは余程人材がいないのだろうか。聞けば渋谷の悪魔は烏合の衆らしいが、本当に大丈夫なのかと不安になった。

 一緒に行くことになったカオルはパルチザンのリーダーで、冷静沈着な「切れる男」だ。刀を使った近接戦闘に長けている。
 トモハルは一年前のあの日、行方不明になった妹を探していたところを悪魔に襲われたそうだ。そして危うい所をカオルに助けられ、そのままパルチザンに入隊したらしい。ボウガンが得意なお調子者だ。

 渋谷に着くと、何体かの悪魔が散らばってうろついていた。確かに全く統率されていない様子。「外道スライム」あたりは知っていたが、奥に居る骸骨は初めて見た。カオルに聞けば「邪鬼ウストック」だと言う答えが返ってきた。たまに鋭い一撃を放ってくるので注意が必要との事。ついでにこの辺で最近見かける悪魔について、基本的なことを教えてもらった。


 慎重に進撃を開始。まずはこちらの拠点に最も近いスライムを目標に。スライムが相手ということで、俺達に経験を積ませるためカオルは静観。
 まずはトモハルがボウガンで牽制し、俺がナイフでトドメ。かなり緊張していたが、拍子抜けするほどあっさりと、無傷で最初の戦闘を終えることができた。奴の屍骸の下から、箱に入ったきずぐすりが出てきた。落ちていた道具を拾おうとでもしていたのだろうか。
 近くに居たもう一匹のスライムも同様に処理し、続けて接近してくるウストックに対処。無造作に近づいてきた敵に対して、カオルが先制して体勢を崩し、トモハルがボウガンで追い討ちをかけ、弱ったところを俺がトドメ。こんな骸骨にボウガンでダメージを与えるとは、実はトモハルは凄いヤツかもしれないと思った。不思議なことにウストックがむき出しの「まほうびん」を落とした。こういうことも稀にあるらしい。肋骨辺りに挟んでいたのか。
 ウストックに集中しすぎたせいか、三体目のスライムの接近に気付けず、トモハルが近寄りざまの一撃をもらった。幸いそれほどの痛手にはならなかったようだ。最早手馴れたもので、トモハルと協力して屠ることに成功。屍骸の中から宝石トパーズが出てきた。謎だ。
 あとはカオルの指示に従って、一匹ずつおびき寄せての繰り返し。全て片付く頃には連携もかなり良くなっていた。

 敵拠点を守っていたのは「闘鬼ウェンディゴ」。マッチョで半裸と言う非常に近寄りがたい格好だったが、問題なく倒せた。ウェンディゴは姿形が人間に似ているので、攻撃が鈍るかと心配したが、不思議とすんなり倒すことができた。そもそもこちらを殺す気満々の鬼に、手加減とか考える余裕は全く無かったというのも大きかっただろう。


 作戦行動中は妙に勘が冴え渡っていた。悪魔との戦闘など初めてなのに、何となく相手の動きが読めたり、相手のどこにナイフを突き立てればいいのかが分かったり。自分でも不思議な感覚だった。戦闘後カオルとトモハルにも褒められた。初めてとは思えない動きだったと。

 更に次の作戦までは間があるので、俺の両親の手がかりを探すため目黒のラボに行くなら付き合うとまで言ってくれた。本当に気持ちの良いやつらだ。この借りはいつかきちんと返さねば。



chapter 2  MEGURO    ~ “ 目黒技研” 突入作戦 ~


 道中特にトラブルもなく目黒技研に到着した。研究所の周囲を悪魔が囲んでいる。
 トモハルが斥候の真似事(本人談)をしてきたところ、近くにスライムと「邪霊ゾンビ」、駅の向こうにウストック二体とウェンディゴ一体、そしてラボを守るように「妖鬼モムノフ」一体と、ポツンと外れてウェンディゴがもう一体。どこが真似事だ、完璧に本職じゃないかと、ちょっとだけ見直した。

 こちらは三人、敵は多数。だがカオルに従って闘えば負ける気がしなかった。渋谷でのカオルの指示は的確そのもの。こういうのを名指揮官と言うのか。実際カオルもこの戦力なら勝てると踏んだらしく、表の悪魔を排除してラボに突入することになった。

 邪霊ゾンビ。マヒの状態異常を引き起こす魔法「パラルー」を使用するかなり鬱陶しい悪魔だ。マヒで足止めされたくなかったら、いつも以上に慎重に間合いを計る必要がある。ここでは、敢えて気にせず突っ込む方針を採用した。状態異常の危険度は周囲の状況によって大きく左右されるのだそうだ。
 奥のモムノフは強敵。大昔の武者の亡霊と言ったところか? だが、一般に拠点を防衛している悪魔が積極的に動いてくる可能性は低いので、あまり警戒する必要は無いとのこと。


 作戦決定後、いよいよ進撃開始。目の前のスライムを鎧袖一触。
 予想通り近寄ってきたゾンビに、「パラルー」を撃たれたが不発。魔法へのレジストなんてどうしたら良いか全くわからなかったが、運が良かったと言うことか。もっとも、カオルが言うにはそうそう当たるものではないらしい。

 ゾンビの動きが止まったところで、一斉に反撃を開始。ゾンビは物理面に関しては、妙に耐久力が高いがそれ以外はからっきし。その耐久力も、三人がかりでギリギリ削りきれるレベルだった。
 その後も寄ってきたウストック達を、上手く間合いを外して一匹ずつ処理しながら前進。橋に陣取っていたウェンディゴは、相手の射程外からトモハルが一方的に削って俺がトドメ。これまでの壁役で手傷を負っていたカオルは、この隙に近くの泉で傷を癒していた。こういった体力・魔力を回復させる水が湧き出す泉は各地に存在し、それを上手くおさえることが戦いのカギなのだそうだ。
 ラボへの入り口を守っていた妖鬼モムノフも確かに強かったが、連携の取れた俺達の敵ではなかった。

 
 ここでトモハルは次の作戦の準備のために本拠地へ。ラボ内にも悪魔が居ることは予想できたが、元々好意でついてきてくれた連中だ。これ以上を望むのは我侭ってもんだろう。「無理すんじゃねーぞ!」と言って去っていくトモハルに感謝しつつ、カオルと二人でラボに侵入した。

 何故かトモハルがボウガンを置いていった。謎だ。
 


chapter 3  LAVORATORY  1F   ~ 防衛庁科学技術研究局 ~

 当然内部にも悪魔の群れがいたわけで。オヤジたちの事で気が急いていたのか「何でこんなところにまで」とか言ってしまった。はずい。

 トモハルが別行動のため、かなり厳しい戦いになることが予想された。
 とりあえず正面にある泉を確保するべく駆け寄ろうとしたら、「迂闊に泉に隣接すると悪魔に先に占拠され易い」と注意された。俺の位置からは同じく正面に見えている邪鬼ウストックも微妙に間合いの外。どうしたものかと迷っていると、カオルが「ウストックを無視して隣の部屋へ向かう」と言い出した。

 「カオルは攻撃できる位置なのに何故しないのか」と尋ねたら、「弱らせ過ぎると、相手が逃げ出して面倒になる」と言う答えが。「一息に倒せないなら、むしろ先攻のほうが攻撃を受けるリスクが高まる」とも。更にはわざと素手で攻撃して、相手の攻撃を誘う戦法すらあるそうだ。俺には思いもよらない考え方だった。


 ともかく、カオルの言葉を信じて睨み合いの状態を解消。ウストックの間合いのギリギリ内側をかすめつつ隣の部屋に向かうと、案の定ヤツがこちらに仕掛けてきた。
 「釣り」は成功。相手の攻撃を受けきって、反撃で削り、追撃で一気に落とす。大したダメージも無く、進軍もスムーズで一石二鳥。先制攻撃だけが策ではないと思い知らされた。
 俺が一人でウストックを始末している間に、カオルは隣の部屋にいたゾンビを釣り上げていた。パラルーは見事に回避したらしい。信用されるのは嬉しいが、息つく間もない連戦はちょっと勘弁して欲しい。
 釣り上げたゾンビは、本来二人だけでは一息に倒しきれないので、「少しだけ削って攻撃を誘う」予定だった。しかしカオルの一撃がかなり会心の手応えだったらしく、指示されるまま一気に畳み掛けたら倒せてしまった。機に乗じる事の重要性を学んだ。
 これまで俺は全ての敵にトドメを刺してきており、カオルに「突破力だけなら既に俺より上かもしれないな」と褒められた。けど、カオルの凄さは腕力だけじゃない。もっと色々なことを学ばねば。

 入り口の二部屋の探索を終えた俺達は、最初の部屋にあった扉に向かった。特に施錠されていたわけでも無く簡単に開いたのだが、扉の直ぐ向こうにいた「魔獣タンキ」二匹と鉢合わせに。向こうはすかさず遠距離攻撃を打ち込んできた。
こちらの間合いの外からチャージを仕掛け、一撃加えたら即離脱。素早い動きにこちらの反撃が間に合わない、非常に手強い相手だ。
 今まで通りに間合いを計ってもこちらが一方的にやられるだけなので、まずは距離を詰めることを最優先。部屋の入り口を塞いでいる相手はカオルに任せて、もう一匹の壁向こうからの遠距離攻撃(どうやってるんだ?)を上手く俺の方に誘導し、カオルの負担を軽減。最後に疲弊したカオルと入れ替わり、俺がトドメを刺した。
 足を止めての殴り合いで多くの手傷を負ったカオルだったが、俺と交代して直ぐに手前の泉で補給。即座に取って返し、既に満身創痍だった俺と再度交代し、もう一匹のタンキを相手取る。俺は入れ替わりで奥の部屋の泉へ。泉のありがたさが身に染みた戦いだった。そもそも無闇な突撃を敢行したのは、この泉が見えたからということもあったらしい。
 復帰した俺にタンキを任せて、カオルは更に奥にあった扉を開放。近くに潜んでいたウストックと交戦を開始した。妙に強いウストックで、カオルの一撃を受けてもそう簡単に崩れない。更に奥の部屋から二匹のスライムが突入してきて乱戦になった。このスライム達は、どうやら奥の部屋に見える謎のジェネレータから湧き出したもののようだ。

 カオルはウストックを削った後、一端泉まで後退。俺に「丁度良い相手だから一対多の経験も積んでおけ」と言った。
 戦場全体を見ることを心がけながら、相手の位置に注意して慎重に対処。だが予想に反して軽く片付けてしまい、ウストックはともかく、スライムの相手は余り鍛錬にならなかった。「本当に成長したな」とカオルが苦笑い。対悪魔戦にもかなり慣れてきた。

 二階への階段を守っていたのは、やはり妙に強いウストックとモムノフの鬼族タッグ。まず飛び出してきたウストックを仕留めた。ただ、拠点を防衛しているので動かないだろうと予想して油断していたのがまずかった。こちらの隙をつくような飛び出しで、カオルが痛恨の一撃を喰らってしまい危険な状態に。幸いモムノフの方は一向に移動する気配が無かった。好きなタイミングで戦闘を仕掛けられるならなにも問題は無い。一方的に攻撃を加えて二階への階段を確保した。


 その後、例のジェネレータを破壊しつつ考えた。そもそも人がいない研究所で、主電源が落ちていない事自体が不可解ではある。
 ……まさか外に居た悪魔が中に入ったのではなく、この研究所から生まれた悪魔が外に出て行ってたのか?
 いや、これは根拠の全く無い、単なる思いつきに過ぎない。何にせよ一刻も早くラボを封印するため、カオルは地下の動力施設へ。俺は事故の手がかりを求めて、モムノフが守っていた二階の調査に就くことに。
 正直心細いなんてレベルではないが、カオルの信頼には応えたいと思った。



chapter 4  LAVORATORY  2F   ~ DEJA VU ~

 オヤジ達は一体ここで何の研究をしていたのか。どうにもロクなもんだとは思えなかった。まさか今起きている悪魔がらみの混乱もオヤジ達が……。

 思い悩みながら歩いていると、甲高い鳴き声が聞こえた。姿は見えないが聞き覚えのある声。魔獣タンキだ。もしかしたら侵入者発見的な何かだったのかもしれない。状況次第では勝てない相手ではないが、一人では苦戦しそうだ。

 正面に現れたのは邪鬼ウストック二体。成長した俺にとっては、たまに繰り出す鋭い一撃さえ受けなければ、苦もなくあしらえる相手。ただ、手前に見えている泉を相手に取られると少し苦しい戦いになるだろう。距離的に、何も考えずに泉に向かって近寄ると、タッチの差で敵に占拠されそうだった。
 まずは気のない振りしてとにかく一歩、そろりと二歩目で泉に近寄り、ダダッとダッシュで無事泉を占拠することができた。そのままウストック二体を相手取っていると、魔獣タンキが壁越しに攻撃を打ち込んできた。相変わらず不思議だ。
 泉を確保し続ければ無視できるダメージだが、ここは敢えて壁から離れて逃げるウストックを追撃。戦場全体の状況を頭に入れつつ、タンキが壁のこちら側に来るように誘導を試みた。

 この行動は図に当たり、丁度邪鬼どもを片付けた頃に魔獣タンキが姿を現した。泉に固執するとこちらの射程の外から一方的に攻撃されるので、相手に泉を取らせないよう位置取りに注意しつつ階段付近まで誘導。「弱らせ過ぎて相手が逃げ出す」ことを織り込んでの行動だ。
 先手を譲った後、相手の隙を突いて退路を塞ぐようにして攻撃を仕掛け、それでも無理に逃げ出したところを後ろから追いすがって仕留めた。一対多の経験を活かして、戦場全体のイメージを頭の中に描けたことが大きいだろう。
 かなり神経を使う戦いだったが、学んだことを活かして自分なりに巧く闘えたと少し感動。

 その後、奥に見えた泉で少し補給し、ラボ内を順調に進んで遂に最奥に到達した。突っ込んできたゾンビを、机を盾にして圧倒。扉を守っていた妙に強いウストックとの戦いも、正攻法でギリギリ勝ちを拾うことができた。



 ウストック戦で乱れた息を整え、緊張しながら最奥の扉を開くと、そこには赤いスーツの女が立っていた。
 何故こんなところに一人で? 
 明らかに怪しい人物だったが独特の雰囲気があり、問われるがままに名前を答えていた。ちなみに彼女の名前はカレンと言うらしい。意味のわからないことを一方的にまくし立てた後、何かを押し付けてきた。
 問い質そうとした瞬間、ヘッドセットを通じてカオルからの連絡が入った。どうやら地下との通信は困難らしく、内容がほとんど聞き取れなかった。切羽詰っている様子ではなさそうだったので、タイミング的に電源を落とすとかその類の連絡だろうと推測。慌てて制止したが、どうやら通じなかったらしく、すぐに主電源が落ちた。
 気がつくと不審な女の姿も消えていた。一体何だと言うのか。


 急いで撤退するべきなんだろうが、俺はコレが何なのかどうしても気になっていた。ひとまず受け取った携帯端末らしきものを起動。

 <DIO>
 アクマとの交渉、及び契約したアクマを生体エネルギー「マグネタイト」と引き換えに召喚するプログラム。
 荒唐無稽だが、これが本物なら凄い話だ。どうやって試すか。
 しばし思考を巡らせていた……。










『DIOを起動したか。これから色々忙しくなるね。』



「誰だ! 誰か居るのか!」

 突如響いた声に、俺は肝を冷やす。2階には最早誰も居ないと思っていたのに。
 慌てて周囲を警戒する。接近に全く気付かなかったのに、声はすぐ近くで聞こえた。危険だ。

『む、まさか僕の声が聞こえているのか?』
「どこにいる! 姿を隠していないで出て来い!」

 油断なく辺りを見回す。周囲には動くものの気配が全く無い。声の聞こえる方向から居場所を割り出そうと考えたが。
 この声は、まるで、俺の頭の中から……?

『驚いたな。まさか意思疎通ができるようになるとは。そうだな、僕の事は「妖精さん」とでも呼ぶと良いよ。』



 沈思黙考。テレパシーという線もあるが、もっと碌でも無い考えが脳裏を過ぎる。

「……ちょっと待て。オマエはアレか。まさかとは思うが、俺の頭の中に居るのか?」
『どうやらそうらしい。DIOの機能を考えればこんなこともありうるのかもしれないね。』

 コイツの言うことは良くわからない。良くわからないが……。
 ダメだ。激しくダメだ。頭の中の「妖精さん」と会話する、20代も半ばの男。



『まあ何はともあれ、コンゴトモヨロシク。』






[22653] A.D.1996 TOKYO     ~ Mr.? Fairy ~
Name: 774◆0928de07 ID:73a4f91d
Date: 2010/10/23 09:51
 自称「妖精さん」のことはひとまず棚上げ(何か言っていたが全て無視)。俺はカオルとともにパルチザンの本拠地へ戻ってきた。すると驚いたことに、ここにも悪魔が溢れかえっていた。
 これまで相手にした連中と違って、統制のとれた動き。どうやら「悪魔を率いる男」による奇襲を受けたらしい。カオルが普段の様子からは想像もできないほどにブチ切れて、突っ込んでいった。

 無謀だ。そう思った自分を直ぐに恥じた。
 どうやら相手リーダー「オギワラ」の注意をひきつけて、俺とトモハルを逃がすための陽動だったようだ。もっともカオル自身は敵の司令官を討つことで、悪魔の統制を崩そうとしていたらしい。俺達はカオルの指示に従って撤退。見捨てる形になってしまったのが悔しいが、俺が残ったところで力にはなれない。俺にできるのはカオルを信じることだけだ。

 オギワラの部下らしき、でかいサングラスの男が追ってきた。正直逃げ切ることは難しそうだ。
 遂には追いつかれ、俺は……。


chapter 5  IKEBUKURO     ~ 起動 ~

 気が付いたら俺は一人でひらけた場所に居た。
 周囲を観察したところ、どうやらここは池袋のようだ。状況が全くわからない。俺はオギワラの部下に捕まったのではなかったのか?
 偶然と成り行きでトモハルの妹であるアヤと行動を共にすることに。気絶していたところを助けてもらった事には感謝しているが、俺の事を記憶喪失扱いするのはやめてほしい。天然か。
 まずはトモハル達を探すため、手がかりを求めてパルチザンの本拠地である新宿を目指して、山手線沿いに南下する。当然、自称「妖精さん」のことは黙っておく。

『仲間に隠し事はよくないな。』
「『俺の頭の中には妖精さんが住んでるんです』なんて、どう考えてもアブナイ人だろうが。」
『気苦労が絶えないね。』

 オマエのせいだ。湧き上がる怒りを抑えつつ、幾つか疑問に思っていたことをぶつける。 

「カオルから聞いた、『妖精ピクシー』とかとは違うんだよな。」
『勿論さ。僕は正しく「妖精さん」だからね。』

 全く意味が分からない。若干イライラしながら質問を続ける。

「何で俺の頭の中に居るんだよ。」
『もともと機械を使ってキミに接続していたんだ。ひょっとしたらDIOのお陰で繋がりが双方向になったのかもね。』

 ダメだ。暫く問答を続けたが、これ以上コイツの話を聞いても理解できる予感が全くしない。そもそも理解させようと言う気が無いのかもしれない。以前、卒業の挨拶に来た学部生に対して「今後は何かを教えて貰おうとするなら、まず自分の用意できる対価を考えることが大事になるよ」とか偉そうにアドバイスした事を思い出してしまった。
 仕方が無いので話題を変える。

「とりあえず『妖精さん』と呼ぶのは認められない。男の尊厳とかそういうものがダメになる気がする。」
『そうは言ってもね。気に入っているんだけど、そのネーミング。』
「断固他の呼び方を要求する。」
『うーん。それじゃあ、「戦闘妖精雪風」とか、「独立型戦闘支援ユニットADA」とかどうだろう。』
「まじめに考えろよ。」
『立ち位置的にはぴったりなんだけどなぁ。』

 ああもう、コイツめんどくせぇ。おまけに意味も全くわからない。コイツは名無しで十分だ。

『それはそうと、前方から悪魔の集団が接近しているよ。ビルの陰に隠れて見えないけど、距離800m。先頭は筋肉モリモリ、マッチョマンの変態だ。このまま行けば直に接触するね。向こうは風下で既に気付いているから迂回も難しそうだ。』
「何だよそれ。何でそんなことが分かるんだ。」
『妖精さんだからね。不思議な力を持っているのさ。』

 人を喰ったような物言い。有り体に言えば気に喰わない。

「わけわかんねぇ。あともうオマエを名前で呼ぶ気はないから。」
『なるほどそこに落ち着いたか。友好を深めたい僕としては悲しい限りだが、まあ仕方ないね。』
「本気で言ってるのか? 怪しさ爆発の奴と友好を結ぶ気なんてねぇよ。」
『む、お喋りはここまでだ。来るよ。』

 半信半疑どころか疑い9割ではあるが、一応アヤに警戒するように呼びかける。驚いたことに、程なくして闘鬼ウェンディゴがビルの陰から現れた。

「確かにマッチョで半裸だが!」

 正面ウェンディゴの道を塞ぎ、アヤに近づけさせないよう必死の思いで相手を防ぐ。大して強くもない相手なのに、誰かを守りながら闘うのがこれ程難しいことだったとは。カオルはずっとこんな風に闘っていたのか。
 相手の攻撃を受けきってから反撃しようと考えていたが、いきなりアヤが飛び出してきてウェンディゴに攻撃を加えた。

「なっ?!」

 そもそも連携が取れるとは思っていなかったが、それでもこの積極性は大誤算だ。
 ウェンディゴがアヤに反撃。豪腕の一撃でアヤが吹っ飛ばされた。ウェンディゴの注意がアヤに向く。このままでは不味い。だが今この瞬間、この体勢なら一撃で仕留められる!

『待て、そいつにはまだトドメを刺すな!』
「うるさい、耳元で怒鳴るな!」

 線路の向こうには既に魔獣タンキと妖精ピクシーらしき姿が見えてきている。自称妖精がどうかは知らないが、こっちは命がけだ。加減などしている余裕は無い。遅れてきたウストックも合わせて、さすがにこれだけの悪魔を同時に捌くのは厳しかった。俺もアヤも、ピクシーの魔法攻撃などでかなりの傷を負ったが、辛うじて撃退に成功。正直ヒヤリとした場面もあったが、運良く相手の攻撃が外れるなどして、どうにか乗り切ることができた。
 アイツは『危なっかしいというか、動きが素人くさいというか……』などと失礼な事を抜かしていたが、勝ちは勝ちだ。


『次の敵集団までかなり距離があるし、キミもまだ聞きたい事とかあるよね。休憩がてら質問タイム再開と行こうか。』
「不思議な力って、具体的には何があるんだ。」

 とりあえずさっきから気になっていた不思議パワーって奴について聞いてみる。

『まず一つは【千里眼】。戦場の地形、敵の配置や装備・能力などを完全に把握できる。』

 ……は? 本当なら最強じゃないか、それ。

「いや、凄い能力じゃん。相手の位置をこちらだけ把握できるとか、一方的過ぎないか?」
『そうでもないよ。これで圧勝できるのは、こちらに相手を各個撃破できるだけの戦力と、戦闘を継続するための十分な物資がある場合だ。現状の乏しい戦力と物資では、幾分マシになるくらいさ。』

 そういうものか。確かに今、助言を受けても苦戦したばかりだしな。

『次に【未来視】。戦略レベルでの大まかな流れが見えるのと、戦術レベルでの高精度未来予測だね。
 前者に関しては正直見えるだけで、基本的に僕単体では流れは変えられない。
 後者に関してはどの敵がどう動くか、どのタイミングでどんな援軍が来るのかがわかる。
 もっとも、「5分後四方を囲むジェネレータから大量の魔王様が湧いてくる」なんて状況になったら詰みだから過信は禁物だ。』

 十分反則だ。

『最後に【望む未来を掴み取る力】。先に述べた【未来視】は、実はこの能力の副産物だったりするんだけどね。具体的にはある時刻を基点にして、自分の望む結果が出るまで何度でも試行を繰り返せる能力だ。勿論これにも細かい制限がある。詳細な説明は省くけど、万能ではないという事だけ意識しておいて欲しい。』

 言葉も無い。
 もしかしたらさっきの戦いで「運良く起きた事」は、コレのお陰だったんじゃないか?
 いや、それだけじゃない。「ここぞ」という危険なとき、いつも「運良く」事が進んではいなかったか?
 コイツは既に俺達に力を貸していてくれたということなのか。

「オマエの言うことが本当だという証拠は?」
『この場で証明することは難しいが、薄々認めているのではないかい?』

 図星だ。そして「やっぱり」とも思う。コイツの言葉に嘘は無いという、実体験に基づく直感。そもそもこんな事で俺を騙して、コイツに何か得があるとも思えない。というかコイツがいなければ、多分この最悪な状況で生き延びて今に至ることなどできなかっただろう。
 しかし、一番聞いておかなければならない事がまだ残っている。

「……なあ、何で俺に協力してくれるんだ?」

 コイツは凄い能力を持っている。俺なんかに力を貸すより、もっと凄い奴と協力すれば、コイツの言う「戦略レベルの流れ」だって変えられるんじゃないか?

『基本的には選択肢が他に無いからだね。幾つかの例外を除いて、僕達は接続する対象を自由に選べない。』

 なるほど、そういう事なのか。ホッとしつつも、何故か落胆している自分に戸惑う。

『まあそれ以上に、キミが流れに抗い行動し、そして最後まで信念を貫き通す様を見てみたいんだ。そうできるだけの力をキミは持っている。』


 驚いた。同時に随分と買いかぶられていると思う。見事に不意を衝かれたことに対する若干の照れ隠しで、揶揄するように言う。

「観客気分かよ。」
『キミにしては鋭いね。僕が観るのはキミの綴る物語。当然ハッピーエンド以外はありえないさ。』

 なるほどこの位の距離感が丁度良いかもしれない。何にせよ、コイツが俺達の幸せを願っていることは確かなようだ。胸の奥にわだかまっていた疑念が、少し解けた気がした。



 休憩を終えた俺達は進軍を再開し、何事も無く池袋の駅に到着した。駅の向こうにはサンシャインビルが見えている。アイツが言うには、ビルの近くにタンキやらモムノフやらがウロウロしているそうだ。

『ストップだ。これ以上迂闊に進むとモムノフの間合いに踏み込むことになる。残りの敵集団への対処を決めておこう。』
「相手の位置と射程が判るなら、俺が囮になって一匹一匹釣り出すのがベストだと思うがどうだ?」
『なるほど、カオルが多用した戦法だね。しっかり学んでいるようで何よりだ。』

 トモハルの事といい、カオルの事といい、やはりコイツは随分前から俺に力を貸していたようだ。今にして思えば初陣の時の動きも、コイツのパワーだったのかもしれない。

『けど、折角だから DIO をフル活用しよう。会話が成立するやつは基本全員仲魔にするつもりで。』
「 DIO か。実際正常に動作したとして、そんなに簡単に仲間になるものなのか?」
『大体が相手の機嫌次第なんだけど、確実を期すならダメージを与えてから傷薬をプレゼントするのが有効かな。』
「酷い自作自演だな。まるでヤクザだ。」
『このくらい基本、基本。』

 どこの業界の基本なんだか。

『次に勧誘するべき悪魔について説明するよ。まずは闘鬼ウェンディゴだね。今回うっかり倒しちゃったので勧誘は無理だけど、次見たら絶対忘れないこと。』
「ぐ、さっきのはそういうことだったのか。んでも、ウェンディゴって役に立つのか?」

 正直、一対一なら片手間であしらえるレベルだ。仲間にしたところであまり役に立たない気がする。

『ぶっちゃけ闘鬼は、というか大抵の鬼族もだけど、攻撃力はあっても基本的には役立たずだね。一応弓を使えるのが唯一の取り柄だけど、実際は仲魔が少ないときの間に合わせくらいかな。』
「だったら態々勧誘する必要ないだろ。」

 べ、別にうっかり倒してしまった自分の失態を誤魔化したいわけではない。

『とは言えウェンディゴ先生には戦闘以外の大事な使い道があるんだよね。』
「もって回った言い方だな。てか、先生って何だよ。」
『うーん、今説明しても仕方が無いと言うか、追々説明すると言うか。』

 この辺についてはどうにも良くわからんが、ひとまず信用して先を促す。

『同様の文脈で妖鬼モムノフも必要だね。もっとも、槍など持たせれば結構戦闘に堪えるけど。』
「ウェンディゴに比べりゃ強いもんな。」
『あと、彼は超強力な「バーニングリング」と言う特技を覚えるんだけどね。』
「だけど?」
『覚えが悪いのさ。成長に時間がかかる。彼の特技習得に拘ると、そこがボトルネックになるので今回はスルーだ。いずれ妖精族の炎雷使い「幻魔フーリー」が覚えるから心配は要らないよ。』

 幻魔。何かカッコいいな。

『あとは育成対象としてのピクシー・タンキで終了。』
「邪鬼とかは勧誘しなくていいのか? 奴らそこそこ強いぞ。」
『あいつらと会話成立すると思う?』

 そういうものか。

『話を戻すよ。妖精ピクシーの役割は主に回復だね。彼女の存在はこの界隈では貴重だよ。』
「確かにこれまでは泉を探すか、薬を使うかするしかなかったからな。回復に手間を取られなくなるのは大きいか。」
『ひ弱さを上手くフォローする必要があるけど、魔法力の枯渇にさえ注意すれば本当に心強い味方だ。』
「タンキはどうなんだ?」
『彼は遊撃役だね。トモハルポジションって言った方がわかり易いかな。その嫌らしさは身をもって知ってるでしょ。』
「まあな。」

 確かに相当煩わされた。ちなみに、トモハルがいやらしいと言っている訳ではない。いや、帽子のかぶり方とかエロイけど。

『まずはモムノフの間合いに注意して、左手にいるピクシーを勧誘しよう。丁度泉を防衛しているし、補給には持って来いだ。』
「了解。」

 特に反対する理由もないので真っ直ぐピクシーを勧誘にいく。さすがに可愛らしい外見をした本物の妖精相手に、ヤクザ紛いの自作自演をする気にはならなかった。




『うまくやったね、このジゴロ。いやロリコン?』
「うぜぇ。」

 話しかけたら、逆に仲間になりたいと言ってきた。大歓迎だと伝えたら、仲間になるついでに何故か宝石とお金をくれた。
 俺は何も悪いことをしていないはずだ。

『続けてトレジャーを守っているタンキを勧誘に行くよ。』

 結局泉では補給せずに、そのままタンキを勧誘。どうやら一部悪魔にはアイテムに執着する習性があって、今回のタンキもそのために動かなかったらしい。そんなヤツがこうもあっさり仲間になってしまうのは果たしてどうなのか。

『鳥頭なんじゃないの。』

 酷い答えだ。

「それはともかく、こうやって片っ端から悪魔を勧誘していれば、わざわざ倒さなくても楽に進めるんじゃないか?」
『アイデアとしては悪くないんだけど、現実には色々問題があってね。』
「問題?」
『そうだ。そろそろモムノフの間合いに踏み込むね。それについても追々講義することにしよう。』
「わかった。」

 頷き、思考を切り替える。先程仲間にしたばかりのタンキとピクシーを召喚。多少のダメージなら気にしなくて良いという安心感は想像以上に大きい。まずはモムノフの一撃を受け止める事を決め、どのように勧誘するかの計画を練っていたのだが。

「まさかオマエが悪魔と会話できるとはね。」

 そうなのだ。何故か悪魔はコイツの存在を認識できて、更には会話することさえ可能だったのだ。しかもモムノフを仲間にするとき、ついでに舌先三寸で宝石とか色々巻き上げていた。支配者がどうとか忠誠がどうとか。どう考えても俺より悪質だ。

『そうだね。予想の範囲内とは言え、僕も少し驚いているよ。』
「予想していたのか?」
『僕とキミ、キミと悪魔がDIOを通じて意思疎通できるんだから、僕と悪魔もできるんじゃないかなって。根拠の無い、所謂憶測だけどね。』
「三段論法ってやつか。」
『いや、違うけど。』
 

「……そろそろ行くか。」
『そうだね、そうしよう。』

 ちなみに敵拠点を守っていた「邪鬼ハンジャ」は問題なく倒せた。ピクシーの魔法攻撃はやはり強い。
 


chapter 6 SHINJUKU    ~ FRI-DAY ~

 池袋から新宿まで移動する間に、俺はアイツから各種悪魔についての基礎知識や、対悪魔の戦術論等を学んでいた。確かにアイツの持つ不思議パワーは凄いが、制約が色々あるらしい以上頼りきりにはなれないし、なりたくない。勉強は苦手ではないし、何より命が掛かっている。我ながら良いペースで吸収できているのではないか。
 ちなみに味方の悪魔の事を「仲魔」と言うそうだ。駄洒落か。

 そんなある時、アイツがいつも以上に気取った調子で話しかけてきた。

『さて。仲魔も増えたことだし、そろそろキミの育成方針について伝えておきたいと思う。』
「なんだよ急に。ていうか、『育成』とかなんか嫌な響きだな。」

 どうやらヤツも微妙な物言いだと思ったらしく、気まずい沈黙が場を支配する。

「めんどくさい。オマエに全部任すよ。」
『「オマエ」ではない。この場では「せんせいさん」と呼びなさい。』

 マジうぜぇ。

『キミにはまず筋力を極限まで鍛え上げて、示現流の達人的なサムシングを目指してもらう。』

 達人か。良くわからんが、何か心惹かれる響きがあるな。

「でもさ、オマエ前に俺の事を『素人くさい』とか言ってたじゃないか。そんな達人になんてなれるのかよ。」
『なれるよ。キミならなれる。僕と、僕の【未来視】が保証する。』

 相変わらず照れくさいことを平気で言う。
 しかし前衛として闘うなら、つよさ・はやさ・たいりょくのバランスが大事なんじゃないか?

「速さがあると二回攻撃できるから強いってトモハルが言ってたぞ。」
『二回攻撃? いらない、いらない。腕力さえあれば全ての敵を一撃滅殺、二の太刀要らず。』
「速さが無いと敵に攻撃があたらないし、反撃2回喰らうってトモハルが速さアピールしてた。」
『命中回避? いらない、いらない。僕の【望む未来を掴み取る力】があればキミ一人ぐらい、どうとでもなる。』

 何と言うか、速さが取り柄のトモハルが泣き出しそうな考え方だな。


『最終的にはベレッタで魔王様をオーバーキルできるくらいになってもらう。』
「拳銃に筋力関係ないだろ。ていうかそれ意味あるのか?」
『メリットはあんまり無いね。デメリットならそれなりにあるけど。強いて言うなら浪漫、かな。』
「オマエ猫のウンコとか踏めばいいのに。」
『キミの頭の中に猫のウンコがあれば可能かも知れないね。』

 こっちは必死だってのに。何と言うか、少しだけ、ほんのちょっとだけだが、信頼していた俺が馬鹿みたいじゃないか。

『冗談はさておき、キミにはトドメ役として働いてもらうために、やはりある程度までは筋力を重点的に上げてもらう。その結果、戦闘経験がキミに集中する事になるんだ。全体的に味方を成長させるより、一人飛びぬけて強い人間がいたほうが何かと都合がいいからね。』

 どうやら純粋にふざけていた訳ではないらしい。言われてみると正しい内容の気もするが、一つ引っかかる点がる。

「でもそうすると、アヤとか合流する予定のトモハルとか危険じゃないか?」
『それはその通りだ。ただ、そこは僕の能力とキミの戦術で何とかするしかない。僕だって誰一人途中で失う気はないからね。』

 つまり考慮済みってことか。

「オマエがそう言うからには、大きなメリットがあるんだろ?」
『……あはは、随分と信用されたものだね。嬉しいよ。勿論メリットはある。一部を除いて悪魔は自分より弱いものには従わない。つまりキミが強くなればなるほど、強力な仲魔を使役することができるんだ。』

 考える。多分これはかなり重要なことだ。これまでの講義で仲魔の重要性は理解している。なるほど仲間全員を平均的に成長させたのでは、いつまで経っても強力な仲魔を使役できないということか。池袋で言っていた「問題」ってのも恐らくこのことだろう。

「だから『育成方針』とやらをわざわざ俺に伝えたのか。」
『その通り。これらの方針をふまえて、今後の戦術を練って欲しいということさ。』

 考えるべき事は増えたが、戦力増強の様子が容易に想像できる。何だか俺、ワクワクしてきた。

『そして矛盾するようだが、キミが闘っても全く鍛錬にならないような弱い悪魔は、こちらの弱い仲間に倒させるようにしてくれ。』
「そうおかしい事でもないだろ。要するに以前カオルが俺にしていた事だよな。」
『その通りだ。』

 何だか少し胸が熱くなる。早くカオル達と合流しなくては。
 ちなみに、アイツにカオル達はどこにいるか聞いたところ、『人事を尽くして天命を待て』の一点張り。ハッピーエンドがどうこう言ってるわけだから、将来的には会えるのだろう。だが、手を抜いてはその未来も遠ざかるといったところだろうか。

 程無くして新宿に着いたが、やはりと言うか何と言うか。カオルやトモハルは見つからなかった。そんな時、悪魔発生以来この新宿を一度も離れていないと言うツワモノ、八神製作所会長の噂を聞いた。彼なら何か知っているかもしれないと、藁にもすがる気分で八神製作所を目指す。一応アイツにも意見を聞くと、『キミの好きにすると良い』と答えが返ってきた。


『そろそろ接敵が近いな。』
「注意するべきことはあるか?」
『今の君達ならそう苦戦しないと思う。ただ一つだけ。地霊ブラウニーは必ず仲魔にするように。最優先事項だ。一匹しかいないから、いつかみたいにうっかり倒したりしないようにね。』

 結構根に持ってやがる。

「うっさいな、わかってるよ。んで、地霊ブラウニーって今見えてきたアレだろ? 随分チッコイな。」
『形姿は可愛いけど、能力は折り紙つきだよ。高い物理防御力と、抜群の対地火力を誇る高性能戦車だ。彼が仲魔にいるのといないのとでは戦闘の困難さが段違いさ。更には固有特技持ちと、言う事無しだね。』

 何そのスーパー悪魔。闘って勝てる気がしない。

「べた褒めだな。弱点とか無いのか?」
『あるにはあるけど、それを差し引いてもって奴だね。それについては追々講義しよう。』
「わかった。」


 まずは最寄の敵ピクシーを一撃で仕留める。アドバイスに従って、必要ないけどタンキとピクシーで削っておいた。アイツが言うにはこういう細かい積み重ねが大事らしい。

『気を抜かないで。来るよ。』
「わかってる。」

 予想通り地霊ブラウニーがこちらに向かって突っ込んできた。仲魔のピクシーが近寄りざまの一撃を受ける。信じられないことに、その一撃だけで既に瀕死だ。おまけにピクシーの必死の反撃は、ブラウニーに寸毫の傷もつけられなかった。話には聞いていたが、実際に目にすると馬鹿げた強さだ。
 慌てて勧誘。でも仲魔で削るのは忘れない。想像通り魔法防御は相当薄い。ちなみに性格は可愛らしい外見相応のお子様。アイツがイカサマギャンブルを仕掛けて、仲魔にするついでに色々巻き上げていた。

『狂気の沙汰ほど面白い……! 』

 何か無茶苦茶喜んでる。超大人気無い。いや、そもそも大人なのか?

 奥にいた敵ピクシーの間合いに入ったため、近寄られて魔法を撃たれる。覚悟はしていたが、俺の体力の半分近くを持っていかれるような感覚に焦りが生じる。だが近くに泉もあるし、今の俺達には仲魔ピクシーもいる。戦闘に支障は無い。もはやルーチンとなった感のある、削り・トドメの連携で屠る。
 一方、間合いに入っても全く動かない悪魔もいた。見た目の特徴から判断して、講義にも出てきた「妖魔インプ」だろう。可愛らしい外見だが、話が通じないから勧誘できないと言われていた敵だ。決して容赦せず必ず倒せとも。
 回復されると鬱陶しいので、勧誘したばかりのブラウニーを召喚し、体勢を整え一気に攻め落とす。やはりアイテムを拾おうとしていたようだ。それとは別にインプ自身が「ワーカーズはっぴ」を落とした。何だか儲けた気分だ。
 とりあえず法被を着ながら八神製作所をスルーして、奥にいる邪鬼ハンジャを釣る。 こちらの思惑から寸分も外れることなく相手が動くさまは、本当に気持ちが良いものだ。そう調子に乗っていたら、ついでに更に奥にいたヌエまで釣れてしまった。まだまだ未熟ということか。とは言え、特に問題があるはずもなく。
 ちなみにヌエは「ワーカーズメット」を落とした。防具は貴重品だ。ホクホク。

 そんなこんなで良い気分に浸っていると、暫くダンマリだったアイツが唐突に話しかけてきた。

『あー、僕今から当分役立たずだから。後よろしくー。』
「何だよ藪から棒に。」
『いやね、今回ね、【望む未来を掴み取る力】使ったんだけどね、
 もうね、精神力というかね、MP(ムチムチプリンプリン)的なサムシングがね、ゴリゴリ削られちゃったのよ。
 ていうか、インプとかキミより運が高いとか、ぶっちゃけありえない。
 ていうか、【望む未来を掴み取る力】って名前長いよね。言うだけで無駄にMP減る。
 よし、以降【ハヤトロギア】と呼ぶようにしよう。そうしよう。そうしよう……』

 何だか消え入りそうな上、口調まで変わっている。これは相当ヤバそうだ。

「わかった。任せておけ。」
『かゆ……うま……。』


 気のせいかもしれないが、何かが遠ざかっていくような感覚。気持ちを切り替える。思考を冷静に。アイツのように。
 【望む未来を掴み取る力】改め【ハヤトロギア】は暫く当てにできない。失敗の許されない状況。背筋に冷たいものが走る。案外、俺の気の緩みを戒めるためだったりするのかもしれないが、仮にそうだとしてもここで手を抜いては全てが台無しだ。考えろ、考えるんだ武内ナオキ。
 落ちる寸前に、以前聞いた「視覚共有」とやらをしたのか、戦場全体を俯瞰したイメージが頭に残っている。これは大きなアドバンテージだ。考えていることは共有できないらしく、近未来情報は持ち合わせていない。落ちる前に伝えてくれよと思わないでも無いが、まあ俺には過ぎた能力だ。
 何だか「妖精さん」的思考が板についてきたな、と思わず苦笑い。

 現状残っているのは拠点を防衛しているヌエと、今回初めて見る「邪霊ゴースト」、更にアイテムを拾おうとしているタンキだ。配置から見て、この中で恐らくゴーストだけが間合いに踏み込んだら即座に襲い掛かってくるタイプ。
 しかし講義によれば、初手は状態異常魔法「ドルミナー」ほぼ一択。ドルミナーによって SLEEP 状態にされるのは痛いが、モムノフ辺りを餌に釣れば全く問題ないだろう。上手くヌエの射程外で闘えるかがポイントになる。動かない敵タンキは仲魔のピクシー・タンキで削って、ブラウニーに倒させるのもありか。

 大丈夫だ。集中攻撃さえ喰らわなければ万に一つの負けも無い相手。
 そして集中攻撃されないためのプランは既に用意した。
 あとは冷静に実行するのみ。






『ただいまー。』
「戻ってきたか。」
『すまないね。でもどうやら鮮やかに倒しきったみたいで何より。』

 むず痒い。

「しかし何だな。俺は気付かなかったけど、そんなにオマエの精神力?が消耗するような危ない場面があったのか。」
『うーん、危ない場面、というのは無かったね。強いて言うなら最初のブラウニーの一撃くらいさ。』

 確かにアレは肝を潰した。

『ただ、「ワーカーズ」装備を落とさせるためにエライ苦労したと言うか。』
「確かに防具は貴重だが、そこまでして入手するようなものか?」
『あー、これは所謂「レアアイテム」って奴なんだ。』
「レアアイテム?」
『そ。店で買えないどころか、他ではまともに入手することすらできない珍しいアイテム。』
「つっても大した性能じゃない気がするがな。」
『そう侮るものではないよ。運のパラメタ強化が大きいがひとつ。更に一式揃えてブラウニーに着せれば、大抵の物理攻撃は通らなくなる。』
「いや、運とやらはともかく後者はどっちかっつうとブラウニーが固いからのような。」

 そうなのだ。
 仲魔になって改めて思うが、あんな可愛いナリして、もの凄く防御力が高い。おまけに火力もあって頼りがいがある。味方になったらガッカリ、なんて定番のオチを蹴飛ばしてくれた。コイツが『真っ先に確保しろ』とせっついてきたのも当然か。


『あー、うー、えーと、白状すると、蒐集癖。』
「ああ、そうなのか。」
『およ、怒らないの?』
「そこまで傲慢じゃねえよ。」

 コイツの存在が俺達の生死を左右するのは確かだが、実際コイツが力を貸してくれるのは、恐らく純然たる好意によるものだ。それに「あって当然」と甘えてプラスになることは多分無い。

「まあ、何だ。可能な範囲で付き合うさ。」



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