【萬物相】低年齢化する家出

 米国の作家サリンジャーの小説『ライ麦畑でつかまえて』は、大人や社会に対し反発を抱く16歳の少年の話だ。ニューヨークの弁護士の息子として生まれたホールデンは、名門私立高校に進学し、両親のように成功の人生を歩むよう強要される。しかし、少年の成績は、英語以外はすべて落第。クリスマスを前に退学させられた少年は、寄宿舎を出て、家には帰らず三日間、街をさまよい続ける。列車の中で出会った少女にうそを並べ立て、友達とバーで酒を飲み、ホテルで娼婦を呼ぶ。

 自分自身の過ちを、世の中のせいにする。この作品がヒットした理由は、ホールデンと同世代の青少年たちが経験する、既成社会との不和、そこから抜け出すための脱出の夢を、人間の成長の一過程としてうまく描いているからだ。トム・ソーヤも、両親を早くに亡くし、口うるさい叔母に育てられる中、家を出る。ハックルベリー・フィンは、酒癖の悪い父親のせいで憂うつな日々を送っていた。二人の少年がミシシッピ川の海賊になって繰り広げる冒険に読者が共感を得たのも、成長期の「脱出精神」を刺激したからだろう。

 しかし、現実の社会で家出は、痛快でも美しいものでもない。子どもたちは一時的な反抗心から家を出るが、世の中は未熟な彼らを待っていましたと言わんばかりに、暗黒の世界に引きずり込む。男子は家出から1週間以上たつと、多くが空き巣狙いや強盗に手を染め、女子は半数が、3カ月以内に援助交際や売春行為に及ぶという調査結果が出ている。

 青少年は、家出の道に一歩足を踏み入れると、大部分は敗者の人生から抜け出せなくなる。このような家出青少年が、ソウルだけでも1万人を超える。女性家族部が先日発表した調査結果で、青少年の家出が年々低年齢化していることが分かった。全国の青少年保護施設にやって来る青少年が初めて家出を経験する平均年齢は、男子が13.3歳、女子が13.8歳だという。

 家庭は、人間が成長過程で出会う最初の社会だ。そこで起こる両親の不和や過剰な期待と干渉、家族の葛藤(かっとう)や暴力、コミュニケーション不足から、多くの家出と非行が芽生える。先日、ソウル市内で住宅に火を付けて家族を死なせた14歳の中学生も、「判事や検事になりたければ勉強しろ」という父の小言が嫌だったと話した。子どもたちは、年々幼く過激になっていくというのに、家庭が健全さを失っているとすれば、社会の未来は暗い。

金泰翼(キム・テイク)論説委員

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

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