【コラム】誰のための犠牲だったのか(下)

 衝撃が大きければ大きいほど、北朝鮮に残された家族は厳しい報復を受けざるを得ない。元留学生チョ・スングン氏の父は、朝鮮人民軍総政治局幹部だったが後に自殺し、家族は全員が収容所に入れられた。高英煥氏の家族は、年老いた両親を含む全員が耀徳収容所に入れられ、収容所の存在について暴露したアン・ヒョク氏の家族はどうなったか分からない。そのほかの脱北者たちの家族も、簡単には死ぬことができず、何とか今も生きているようだ。

 脱北者たちは北朝鮮に残してきた家族のことを考えると、一生を罪人のような思いで生きていくしかない。また、かつては脱北者なら誰もが国家報勲対象だったが、今はそうではない。しかし、誰も不平は言わない。ただ金正日(キム・ジョンイル)体制に反対し、その体制に大きな打撃を与えたことが、大韓民国の歴史と本当に何の関係もないのか、聞いてみたい。憲法によると、北朝鮮も大韓民国であり、北朝鮮の人民は大韓民国の国民だという。大韓民国の側から、金正日政権と戦った脱北者たちの犠牲は、大きな目で見れば大韓民国の民主化の歴史とも言えるはずだ。

 戦争真っ最中でもなく平和な時期に、金正日政権は何の罪もない人民を数知れず飢え死にさせ、また政治犯収容所では数十万人を虐殺した。この政権に大きな打撃を加え、自ら悲惨な姿となりながらも戦う人間がいたとすれば、それはファン・ジャンヨプ氏だ。ファン氏の親せき150人はすでに処刑されたか収容所に入れられ、1500人以上の知人は職を追われたという知らせを聞いた。ファン氏の亡命は北朝鮮の体制を根本から揺るがし、北朝鮮が誇りとする思想的な重みも瞬時にして無意味なものへと転落させた。これほどの英雄が生涯を終え、国立顕忠院に埋葬されるのがなぜ問題視されるのか分からない。北朝鮮の民主化に向けた戦いは、間違いなく大韓民国の歴史の一部だ。

姜哲煥(カン・チョルファン)東北アジア研究所研究委員

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

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