2010年10月19日10時42分
明(善)と暗(悪)の二元的世界観で知られるマニ教の宇宙観を描いたとみられる絵画が国内に現存していることが、京大大学院文学研究科の吉田豊教授(言語学)らの調査でわかった。吉田教授によれば、10層の天と8層の大地からなるという独自の宇宙観がほぼ完全な形で絵画で確認されたのは世界初という。
吉田教授が「宇宙図」と呼ぶ絵画は、国内で個人が所蔵している。縦137.1センチ、横56.6センチで、絹布に描かれている。仏教絵画との比較などから、中国の元(1271〜1368)の時代かその前後に、江南地方(浙江省、福建省など)の絵師が制作したとみられるという。
マニ教は布教に、教義を図解した絵画も使っていたとされる。「宇宙図」では最上部が天国とみられ、その右下に太陽、左下に月が描かれている。さらにその下には円弧で10層に分かれた「天」があり、天使や悪魔、かに座や天秤(てんびん)座、さそり座など十二星座も確認できるという。
「天」の下は人間が住む地上で、須弥山(しゅみせん)があり、最下部は地獄と解釈されている。
吉田教授は「この絵画と文献資料を突き合わせることで、文献研究では分からなかった謎を解く手がかりを得ることが期待される」と話している。(大村治郎)
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〈マニ教〉 3世紀のペルシャ人、マニが開祖。ゾロアスター教、キリスト教、仏教などの諸要素を加えた宗教で、二元的世界観を教理の根本とし、悪からの救済を重視する。西はスペイン、東は中国まで伝えられたが、11世紀ごろから衰え、15世紀ごろ消滅したとされる。
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■本紙記事、共同通信に酷似 マニ教「宇宙図」本社謝罪
朝日新聞社は22日、本社が19日付朝刊文化面に掲載した「マニ教『宇宙図』確認」の記事について、共同通信社が配信した記事と表現が酷似した部分があったとして同社に経緯を説明し、謝罪した。執筆した記者は研究者に直接取材し、独自に資料を集めて書いたが、「共同通信社が配信した記事も参考にしたために表現が引きずられた」と話している。引き続き調査を進め、関係者を処分する。
同社から「9月26日に配信した記事と似ている」と指摘があり、本社が調査した結果、当該記事の本文部分の表現で、共同通信社の記事と重なる部分が多くあった。
記事は大阪本社生活文化グループの記者(47)が執筆した。各紙に9月27日付で掲載された共同配信の記事を読んだ同グループのデスク(48)が取材を指示。記者は翌28日午後、「宇宙図」を研究している京都大大学院教授の研究室で約1時間半取材し、その内容をノートに18ページにわたって記録した。さらに、教授から提供された関連資料なども参考にしながら執筆、出稿した。
前文、マニ教の説明、教授の談話などは独自の内容になっていたが、共同の記事で「仏教絵画との比較などから、中国の元(1271〜1368年)、またはその前後に、現在の浙江、福建両省など江南地方の絵師が制作したとみられるという」という部分が、本紙では「仏教絵画との比較などから、中国の元(1271〜1368)の時代かその前後に、江南地方(浙江省、福建省など)の絵師が制作したとみられるという」となるなど、表現が重なる部分があった。
〈渡辺雅隆・大阪本社編集局長の話〉 独自に取材し、資料や参考文献をもとに記事を書きましたが、本文の表現が共同通信社配信の記事と酷似していることは否定できません。共同通信社および加盟社、関係者のみなさまに深くおわびいたします。