略奪国家駆逐する気概を

　【ｆｒｏｍ　Ｅｄｉｔｏｒ】

　南シナ海のインドネシア領ナトナ諸島。ボルネオ島北西の大小約２７０の島から成るこの島の北部海域には世界最大級の天然ガス田が眠る。２０年ほど前、ジャカルタの国営資源会社プルタミナに当時副総裁だったバハルディン氏を訪ねたときに聞いた忘れられない言葉がある。「日本のガスや電力にとってもナトナの資源は欠かせない財産のはず。近い将来、必ず商業生産にこぎつけます」

　当時、プルタミナはメジャーのエクソンとともにナトナを共同開発していたものの、天然ガスに随伴して産出する炭酸ガスの含有率の高さに作業は難航していた。炭酸ガスを地中に封印するコストが膨大だったからだ。貯留技術の進歩でこの問題は解消されたが、政府は将来を見越してこのガス田を温存している。

　だが、南沙諸島などと同じく、この海域も中国と一触即発の状況にある。インドネシアの排他的経済水域（ＥＥＺ）であるにもかかわらず、突然中国が領有権を主張。重装備の大型漁業監視船がこの海域に入り、恫喝（どうかつ）を繰り返しているのだ。当然狙いは、北極圏のバレンツ海でロシアが開発中の巨大ガス田・シュトックマンをもしのぐ膨大な天然ガス資源である。

　中国は、今年６、７月の２回にわたって漁船を送りこんで拿捕（だほ）させ、監視船名目で武装艦を繰り出した。この手法は沖縄・尖閣諸島のやり方に酷似している。違うのはインドネシアが即座に警備艇を派遣して武装した監視船と全面対峙（たいじ）したことだ。天然ガスをはじめエネルギー資源が最大の外貨獲得手段であるインドネシアにとって、資源は国家財産である。中国の横暴は国の存亡にかかわる。決して引けない理由はそこにある。

　翻って日本の現状はどうか。中国漁船衝突事件では船長釈放を那覇地検の判断と言い切り、証拠のビデオ映像公開にすら及び腰、白樺ガス田の掘削行為も黙認だ。立ち話程度の会談で菅直人首相が「温家宝首相と互恵関係を確認できた」とは聞いてあきれる。

　「バレンツ海にちょっかいを出したら、プーチンは戦術核を使うよ」。旧知の商社マンはシュトックマンを引き合いに出してこういう。現在、東シナ海で起きていることはナトナと同じく中国による日本領土、資源の強奪行為である。この「悪（あ）しき隣人」を尖閣から駆逐する気概を持たねば、ハノイで画策中の日中会談など何の意味もない。相手は一筋縄ではいかない略奪国家である。（編集長　鶴田東洋彦）