【コラム】習近平氏の「お言葉」

 韓国政界では21日、毎週木曜日の午後3時(北京時間)に行われる中国外務省の定例会見に視線が集中した。中国の習近平国家副主席が昨年、金大中(キム・デジュン)元大統領と会談した際、「李明博(イ・ミョンバク)政権は韓半島(朝鮮半島)の平和の妨害者だ」と発言したかどうか、事実関係をめぐり与野党が対立する中、中国政府がどんな「判定」を下すのかに注目していたからだ。

 約50人の内外記者が出席した記者会見の最初の質問は、韓国人記者が発した。習副主席が民主党の朴智元(パク・チウォン)院内代表の主張する通り、「李明博政権が韓半島の平和の妨害者だ」と語ったのかどうか確認を求める質問だった。中国外務省の馬朝旭報道局長は、まるで質問を待っていたかのように、準備してきた答えを示した。馬局長は「確認の結果、それは事実と合致しない」と述べた。全世界から集まった記者は、中国外務省が韓国の政争について、審判役を果たす奇妙な風景を見守った。中国が速やかに反応を示したのは、「内政問題にわが国の指導者を巻き込むな」という不快感を遠回しに表現したものといえる。

 今回の騒動の発端は、19日に行われた民主党の院内対策会議だった。約30人の記者の前で、同党の政策基調を発表する場だったが、朴院内代表は急に、習副主席が中国の次期指導者に内定したことに言及し、「平和の妨害者」発言について切り出した。民主党はこれまで、「金大中・盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権がやっと構築した韓半島の平和基調を李明博政権が破壊した」との主張を繰り返してきたが、中国の次期指導者に内定した習副主席の権威を借り、そうした論争で有利な立場に立とうとしたようだ。「習近平様がこうおっしゃったのだから、論争に決着が付いた」と言わんばかりに、習副主席の「お言葉」を最強カードとして切った格好だ。

 大統領府(青瓦台)は翌20日、朴院内代表の発言を「利敵行為」だと批判し、取り消しと謝罪を要求。これに対し、民主党は国会広報が「青瓦台の高慢な反応だ」と反発した。当時会談に同席していた丁世鉉(チョン・セヒョン)元統一部長官も朴院内代表を支持した。しかし、21日になると、朴院内代表側が当時の中国側通訳に責任を転嫁するような発言を行うなど、主張を後退させ、丁元長官も「妨害者という単語で、青瓦台は本質を隠している」と述べ、発言の真偽よりは趣旨に焦点を移した。

 北朝鮮の三代世襲による不愉快な出来事の一つに、金正日(キム・ジョンイル)総書記が三男・正恩(ジョンウン)氏を連れ、中国まで冊封を受けに行ったことがある。しかし、朴院内代表の行動は、中国に隷属しようとしているのが北朝鮮だけではないのではないかとの懸念を生んだ。民主党は事有るごとに、現政権の外交を「一方的親米外交」と批判し、自主外交を強調するが、朴院内代表は外交と無関係な国内政治にまで中国を巻き込んだ。「わが国の政界の政争に結論を下してほしい」と自ら願い出た形だ。朝鮮王朝時代に派閥抗争が起きるたびに中国の判定を待った「事大主義」が再現されたことになる。後継者を承認してもらうために訪中した金正日総書記、そして、習副主席の発言を歪曲(わいきょく)までして、政争の道具に活用した韓国の野党指導者を見て、中国は何を思うだろうか。自分たちで運命を切り開くことができず、清や日本を仰ぎ見て、植民地支配を招いた朝鮮王朝末期や大韓帝国時代の歴史が繰り返されないとは言い切れない。

鄭佑相(チョン・ウサン)政治部外交チーム長

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

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