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2010年10月22日(金)付

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前特捜部長起訴―検証し、根本から出直せ

大阪地検特捜部で起きた証拠改ざん事件で、当時の部長と副部長が犯人隠避の罪で起訴され懲戒免職となった。あわせて、監督責任を問われた検察幹部らも処分を受けた。記者会見した大[記事全文]

米中間選挙―「チェンジ」の熱うせて

世界で評価されるオバマ大統領が国内でふるわない。11月の議会選挙に与党の民主党は守勢である。経済の重圧の下で改革をどう進めるのだろうか。米東部の有名校プリンストン大学。[記事全文]

前特捜部長起訴―検証し、根本から出直せ

 大阪地検特捜部で起きた証拠改ざん事件で、当時の部長と副部長が犯人隠避の罪で起訴され懲戒免職となった。あわせて、監督責任を問われた検察幹部らも処分を受けた。

 記者会見した大林宏検事総長が述べたように、まさに「前代未聞」の「信じられない」事態である。地に落ちた信頼をどうやって回復するか。いばらの道を覚悟しなければならない。

 起訴された2人は一貫して容疑を否認しており、裁判では無罪を主張する方針だ。最高検は、意図的な改ざんだったことを認めた主任検事らの供述を軸に立証を進めるとみられる。

 有罪か無罪か、刑事責任の有無は公判の行方を見定めるしかない。

 だが、証拠の内容が書き換えられた疑惑を知りながら、それを解明することなく郵便不正事件の公判を続けた。その一点において2人の行為は、法律家としても、組織を預かる責任者としても、許されるものではない。

 国民から託されている権限の重みを忘れ、正義を踏みにじる。そんな検察官をどうして生んでしまったのか。国民が最も知りたい点はそこにある。公判と並行しての困難な作業になるが、最高検はこの問題をとことん追究し、明らかにする責務がある。

 検察の改革をめぐっては、柳田稔法相が第三者による検証機関の設置を表明している。適切な人を選び、組織のありようや捜査の進め方、検察官の人事や評価方法を根本から見直し、再生への足がかりをつけてもらいたい。

 改めて事件を振り返ると、立ち止まれる機会は何度もあった。それなのに、部長、副部長だけでなく、捜査と公判にかかわった複数の検察官が、結局は目をつぶってしまった。

 職業倫理にかかわる困難な判断を迫られた際にどう身を律し、振る舞うべきか。法律家にとって重大な問題である。日本弁護士連合会は6年前、違反すると懲戒の対象になる弁護士職務基本規程を定めている。

 だが、検察官にはそうした明文の定めはない。「公益の代表者」としての自覚を持ち、職務に忠実なのは当然とされてきたからだ。それが幻想であること、そして暴走したときの恐ろしさがこの事件で明らかになった。

 検察側に不都合な証拠も弁護側に開示するのはもちろん、被告に有利な証拠を見つけたときは速やかに伝える。これに反した場合には、法曹資格の取り消しを含む厳しい処分を科す。

 単なる心構えではなく、そうした内容を盛り込んだ倫理規定の検討を急ぐべきだ。もちろん、取り調べ過程の録画など、捜査の適正を図る法整備も進める必要がある。

 検察も弱さを抱えた人間の集団だという前提に立って、改革に取り組まなければならない。

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米中間選挙―「チェンジ」の熱うせて

 世界で評価されるオバマ大統領が国内でふるわない。11月の議会選挙に与党の民主党は守勢である。経済の重圧の下で改革をどう進めるのだろうか。

 米東部の有名校プリンストン大学。就職率が高いこの大学でも、職探しに不安を持つ学生は少なくない。「2年前に比べ、多くの無党派層が耳を傾けてくれる」と、野党・共和党の支援活動をする学生は言う。

 2008年の大統領選挙では、大学新聞の調査で8割の学生がオバマ氏を支持した。イラク戦争で行き詰まり、国際社会の信頼が低下したところへ、金融危機が津波のように襲っていた。大きな喪失感。そして未来への不安。チェンジ(変化)を呼びかけたオバマ氏に多くの国民が期待をかけた。

 来月2日投票の議会中間選挙では、全議席改選の下院で、民主党が多数を失う可能性が高い。3分の1が改選の上院でも民主党が過半数を保てるかどうか。ぎりぎりの争いが続く。

 巨額の財政出動をしたにもかかわらず、景気が思わしくない。失業率が高いまま、オバマ政権で生活が良くなったと思えないのが多くの国民感情だ。就任したときに70%前後あった支持率は、今では40%台半ばに落ちた。

 08年は戦争が大きな争点だった。ところが最近の調査では、出口が見えないアフガニスタン戦争を注視する国民は2割。他方、経済・失業問題が最大の関心事としたのは6割にのぼる。内向き志向が際立っている。

 経済問題の多くはブッシュ前政権時代に端を発している。この不況を乗り切るのは誰が大統領でも難しい。オバマ大統領が力を入れた医療保険改革は歴史的な一歩と評価できる。だが、中間層の多くは経済・失業問題にもっと重きを置くべきだとの思いが強い。

 「アメリカンドリームは息絶えたのか」。失業中の30歳の男性が大統領を問い詰めた。9月にワシントンで開かれた市民との対話集会での一幕だ。不安と不満のはけ口がオバマ氏批判になり、民主党の苦戦を誘っている。

 こうしたなか、反オバマを掲げる保守派の市民運動「ティーパーティー」(茶会)が支持を広げている。「小さな政府」による減税や医療保険改革の破棄を掲げる。茶会には、1950年代のアメリカこそが理想との思いが見える。世界で圧倒的に強く、国内では白人中心に社会が動いていた。9・11のようなテロの心配もなかった。

 だが、世界は変わった。中国やインドが激しく追い上げている。黄金の50年代が戻ってくるとは考えにくい。政策論議が甘い茶会が力を伸ばしても、展望が開けるとも思えない。

 中間選挙は議会の選挙であり、大統領選ではない。とはいえ、オバマ氏は再選をにらみながら停滞からどう巻き返すか。残る10日余りを注視したい。

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