あるアメリカの研究者が、プロ野球とプロバスケットボールの分野で、全ての選手の能力について1〜10で評価を行った。その後、その点数をチームごとに合計し、それを元に各チームの次シーズンの成績を予想した。シーズンが終わって実際の結果と比べると、一方のスポーツでは結果の90%が予想どおりになり、一方では、35%しか正しく予想できなかった。
さて、読者は、どちらが野球、またはバスケットボールだと思うだろうか。結果は、90%の方が野球であった。このことから、野球チームの強さはバスケットボールに比べて、個人の能力の合計に、より近いチームタスクであるということができる。確かに、野球チームでは、投球、打撃、捕球などのタスクはシーケンシャルにつながっている。すなわち、結合I型に近い。一方、バスケットボールは試合中、他のメンバーのプレーに合わせて自分の役割を変えることが多い、すなわち結合II型に近いと言える。
これを知った筆者は、スポーツの個人賞を調べたくなった。野球には、個人賞がたくさんあるのは読者の知るところだろう。打者には、ホームラン王、打点王、首位打者、安打王、盗塁王、犠打王などがある。投手にも、最多勝、最優秀防御率、最多奪三振、最高勝率、さらにはセーブ王もある。一方、日本のサッカーの個人賞を見てみると、得点王、MVP、ベストイレブンぐらいしかない。サッカーが結合II型のチームワークだと考えると、スポーツにも、チームのタスクの依存関係にタイプがあり、それによって個人賞のありかたにも違いが出てくるということがわかる。
では、チームのパフォーマンスとは
次に、チームのパフォーマンスというものを考えてみよう。チームのインプットは、メンバーの能力と努力量であり、アウトプットはチームに課せられた課題の達成度と考えることができる。「チームワークがよくなると、1+1が2にも3にもなる」と耳にすることも多いが、これを言い換えると、
チームのパフォーマンス>メンバーのパフォーマンスの合計
ということになる。しかし、前稿でも紹介したように、期待とは違い、このようなことにはならないのである。たとえば綱引きを数人のメンバーからなるチームで行う、こんな実験がある。事前に一人ひとりのメンバーの引く力を測っておき、それを100%とする。これを2人で引かせて、その力を測ると、2人の合計の93%になってしまうのだ。3人では85%になり、8人で引くとなんと48%と半分以下になってしまうのである。
すなわち、
チームのパフォーマンス<メンバーのパフォーマンスの合計
となってしまうのだ。
このような実験は、運動能力だけではなく、問題解決など知的な能力についても数多くされていて、同様の結果となっている。この例は、前出のチームタスクの分類でいうと加算型だが、分離型のタスクについても同様なパフォーマンスの低下が明らかになっている。分離型の場合には、メンバーの一人でも解決できればチームとして目的の達成ができるはずである。
つまり、
チームのパフォーマンス=最もすぐれたメンバーのパフォーマンス
ということになる。
しかしこれについても、期待を裏切る結果が出ている。その実験では、被験者にまず個人でパズル問題を解き、回答を提出してもらう。次に、5人のチームとなってチームとしての解を出す。すると、最初に5人とも正解だったチームと、4人が正解で1人が間違っていたチームは、100%のチームが正解を出した。しかし、正解者が3名いたチームが正解を出した割合は、100%には至らず96%であった。さらに、正解者が2名のチームは92%、1名のチームは73%しか正解が出せなかったのである。つまり、チームの中に正解者が1人いるにもかかわらず、正解を出せなかったチームが4つに1つあったわけである。この現象は上記の式に反している。