前原誠司の「直球勝負」(47)
〜総選挙による政権交代を堂々と目指します〜
2007年には、統一地方選挙、参議院選挙という大きな選挙が2回ありました。多くの方々にご支援を頂き、感謝を込めて心より御礼申し上げます。特に暑い夏に行われた参議院選挙では大変お世話になり、お蔭様で参議院では与野党逆転を実現することが出来ました。
しかし、その後、政治は目まぐるしく変化しました。安倍首相(当時)の突然の辞任と福田康夫首相の誕生。そして、にわかに湧き上がった「大連立」構想と小沢代表の辞任騒動。いずれも政治の信頼を大きく揺るがしました。特に、福田首相と小沢代表による、都合3回にわたる党首会談の後に出てきた大連立構想は、いかにも唐突でした。大連立が絶対に駄目だと言うつもりはありません。しかし、参議院選挙で多数の議席を頂き、いよいよ解散・総選挙に追い込んで政権交代を目指すという段階では、到底、国民の理解が得られるものではありません。あくまで、総選挙による政権交代を目指すべきです。
日本の政治は、衆議院と参議院の多数党が異なるという、「ねじれ」を初めて経験しています。与党も民主党も、お互いの主張を展開して歩み寄りを行わなければ、国民の生活に資する法案は一つも通らないことになり、困るのは政争に巻き込まれた国民ということになります。「私達は誰のために、何のために政治を行っているのか」。それをまず、第一に考えるべきです。政党のためでもなければ、ましてや次の選挙に勝つためでもありません。国民が困っていることを解決し、将来の安心と安定を保障して、国民が等しく健康で、夢と希望を持って働き、生活できる環境を作り上げることに尽きます。そのためには、与野党とも様々なテーマで具体的な案を出し合い、国会という開かれた場で議論をした上で、修正・合意を得ていくプロセスが求められます。
特に1月から始まる通常国会では、2008年度予算が主な議論になりますが、特例公債の発行や、3月31日で期限の切れる道路特定財源をはじめとする租税特別措置のあり方を、お互いが知恵を出してまとめていかなければ、4月1日からの予算執行ができなくなり、国民の生活に大きな悪影響を及ぼすことになるでしょう。「談合ではない政策協議を国会の場で行うこと」を民主党の大きな役割と受け止め、同時に、その積み重ねが次の来るべき総選挙に勝利することにつながると信じ、建設的な努力を行なってまいります。
(今まで取組んできたこと。これからも取組むこと)
(1)
天下りの根絶
2006年2月の予算委員会で、天下りの受け皿である公益法人には会計法が適用されない、つまり競争入札の原則適用が除外されているのはおかしいと谷垣財務相(当時)に指摘し、以来、公益法人には当たり前だった特命随意契約がなくなることになりました。しかし、各省庁は様々な悪知恵を働かせ、所管の公益法人が結果的に随意契約で仕事が取れ続けるような仕組みを巧妙に作り上げました。2007年10月の予算委員会では国土交通省所管の公益法人の呆れた実態を取り上げ、福田首相は全省庁の調査と是正を約束しましたが、その効果は未だ定かではありません。厳しい視線でフォローを続けます。
民主党の予備的調査によると、現在約4500の公益法人が存在し、そこで働く天下り役人の数は実に約2万8千人にも及びます。そして、これらの公益法人に上半期だけで約5兆9千億円もの補助金が使われています。早期勧奨退職制度、つまり定年を待たずして省庁を退職し、天下り生活を始める制度を無くせば、天下りはなくなり、天下りの受け皿でしかない公益法人は無くすことが可能になります。そうすれば、巨額の税金の無駄遣いを無くすことが可能になります。
人材バンクでは天下りはなくなりません。「早期勧奨退職制度の廃止(天下りの廃止)→天下り公益法人の廃止→税金の無駄遣いが無くなり、民間企業やNPOにビジネスチャンスが広がる」。この図式を実現するために、今後も努力を続けます。
(2)
無駄な公共事業の中止と公共事業費の削減
この5〜6年で、公共事業はかなり減りました。国費ベースでは、約半分にまで削減されました。しかし対GDP比で見ると日本は約3%超で、他の先進国が1%台からせいぜい2%台であることを考えると、まだまだ削減の余地は十分にあります。特に、見直しが必要なのは道路と河川です。2007年3月の予算委員会では、道路特定財源の一般財源化をさらに進めるよう、塩崎官房長官(当時)に迫りました。日本は莫大な財政赤字を抱え(国と地方合わせて1000兆円超。対GDP比200%超と先進国最悪の状況)、しかもかなり速いスピードで少子高齢化が進んでいます。借金も返さなければなりませんが、少子化対策や医療・年金・介護といった社会保障制度の崩壊回避・充実も急務です。要は、道路を取るか、教育や少子化対策、年金や医療などの充実をとるかの選択を国民は迫られています。
「無駄な道路は無い」と言えば、そうかもしれません。しかし、費用対効果の観点から見れば、多くの新設道路には疑問符がつくでしょう。暫定税率を見直した上で、環境税などの導入によって、結果的には一般財源化を実現することが必要だと考えます。
河川整備にも知恵を絞らなければなりません。洪水対策は必要ですが、「ダム建設ありき」の国土交通省の方針には大いなる疑問を感じます。例えば、2007年10月の予算委員会で取り上げた熊本県の川辺川ダムは、今から30年以上も前の1976年に多目的ダム(治水・農業利水・水力発電)として計画されましたが、未だに本体工事に着手できていないばかりか、農林水産省は農業利水から撤退し、電源開発は「発電事業は行わない」と表明しました。つまり、当初計画で想定していた状況から、社会情勢は大きく変化したのです。当初、総工費は350億円の予定でしたが、本体工事に着手できていないにもかかわらず、今まで2000億円以上の巨費が既に費やされています。これからダムを作るとなれば、さらに1000億円以上の費用がかかるとされています。河川改修などによる治水とダム建設のコスト比較を、情報公開を徹底する状況下で行い、「ダム建設ありき」ではない治水対策を推進してまいります。
(3)
参加型地方主権社会の確立と「教育力」の向上
「究極の行政改革は地方分権だ」と、私は言い続けてきました。補助金や地方交付税の裏負担という「麻薬」によって、地方公共団体は「借金漬け」という「シャブ漬け」体質に陥っています。私は2007年2月、3月、そして10月の予算委員会において、破綻した夕張市の再生策と「第2の夕張」を作らないための取り組み、地方財政計画の問題点、道府県と政令指定都市の抱える矛盾など、具体的な国と地方の問題を取り上げてきました。これらの問題点を対処療法的に是正することは短期的には必要ですが、最も大切なのは、将来の地方主権社会の具体像とプロセスを示すことにあります。2010年には政府から地方分権推進一括法案が提出されることになっていますが、中央官庁の抵抗によって骨抜きにされたものが出てくる可能性は極めて高いと思います。国会の論戦のみならず、民主党の同僚議員や有識者と協力して、「目指すべき地方主権社会」の策定作業を行ない、しっかりした対案をまとめる所存です。
真の地方主権が確立されれば、行政改革効果によって多額の税金が節約されるだけではなく、地方間の競争によって日本全体が活性化されます。また、基礎自治体の創意工夫によって様々な形で国民が、今までは行政が担ってきた「公」の分野に参画することも可能になります。2007年は団塊の世代のフロントランナーが大量に定年退職を迎えましたが、まだまだお元気で、豊富な社会経験をお持ちです。是非、そのノウハウ、経験を社会に役立ててもらい、その活動を通じてその方々にも生きがいを感じてもらいたいものです。特に教育の分野では、教育委員会が主導して来た学校運営を地域のボランティアやPTAにも担ってもらい、「地域力」を「教育力」に変える取り組みを進めていかなければなりません。教育基本法や教育3法の改正も大切ですが、一つ一つの学校を地域の住民が参加することによって変えていく「下からの教育改革」が必要だと考えます。地元・京都で先進的に取組まれているコミュニティースクール(学校運営協議会制度)を全国に紹介し、そして展開していく作業をこれからも続けてまいります。
(4)
成長経済の維持と発展
政権運営の核心は、少子高齢化が進む日本において、日本経済をどのように成長軌道に乗せるかあると言っても過言ではありません。政府は口を開けば「いざなぎ景気」を上回る景気拡大が続いているといいます。確かに、数値だけ見ると日本の景気は拡大しています。しかし、大きな問題が2点あります。一つは、景気拡大の勢いが極めて弱く、OECD平均が5%を上回るにもかかわらず、日本の実質成長率は1%程度しかありません。これは、不良債権の処理、特に地方金融機関の不良債権処理がこれからで、未だデフレを脱却できていないことが理由として挙げられます。
もう一つの問題点は、アメリカの好景気と中国の特筆すべき経済成長を背景に輸出主導型の景気拡大は続いているものの、GDPの約6割を占める消費は冷え込んだままです。この景気の拡大局面においても平均所得と個人消費はむしろマイナスで推移しています。この背景には非正規雇用が全雇用形態の約3分の1(約1731万人)を占め、極めて低い所得水準を強いられていることにあります。しかも今後、アメリカのサブプライムローン(低所得者向け住宅ローン)に端を発した金融不安・信用収縮が深刻で、日本経済も大きな影響を受けることは必至です。また、中国の金融機関が抱える不良債権も高い水準にあり、環境・エネルギー問題への対応とあいまって、経済の調整局面を迎えることが予想されます。外需に頼った今の経済構造では、日本の経済は失速してしまいます。
他方、昔のように建設国債を発行して公共事業に頼る旧来型手法に回帰することは、今の財政状況、人口動態を考えれば不可能です。従って、特に私は以下の点にこだわって、日本経済の下支えと成長軌道に乗せるための取り組みを引き続き行ってまいります。
@ 消費を拡大するためにも、非正規雇用をできるだけ正規雇用化する取り組みを進めるとともに、企業の競争力を殺がない範囲で最低賃金を引き上げる。
A 第3セクターの整理も含め、地方金融機関の不良債権処理を強力に進める。
B 地方の基幹産業となる農林水業・観光業の発展を国策として努力する。特に農業は上場している株式会社も参入できるような仕組みに変え、あわせて食糧自給率の向上にも力を入れる。
C 海洋基本法をテコに、エネルギー開発や環境関連といった成長産業の育成を国策として行う(私は民主党を代表して、海洋基本法フォローアップチームの共同座長を務めており、基本計画の策定に尽力しました。これからも海洋エネルギーの開発、水産資源の持続可能な開発、環境問題への取り組み、そして海上航行路の安全確保や海上輸送の人材育成などに、ライフワークの一つとして取り組んでまいります)。
(5)
安心できる年金・医療制度の実現
前回の参議院選挙では、年金が大きなテーマになりました。消えた年金記録やグリーンピアなどへの年金保険料の流用といった問題だけではなく、年金制度そのものへの不安・不信が国民の間に根強いということが明らかになりました。今後、最低保障年金の金額アップや生活保護費と基礎年金支給額の逆転現象などを解消するためにも、保険料中心から税を基本とした年金制度のシステム設計が急務となります。
医療・介護の現場も非常に混乱しています。財政再建の必要性から、診療報酬削減が医療制度改革の本旨とすりかえられ、本来必要な支出まで削られた結果、特に病院における勤務医や看護師が不足し、また地方のみならず都市部も、最近は産科医・小児科医の不足が深刻になっています。各地で医療崩壊という言葉が使われるようになりました。
もちろん、医療における無駄は無くさなければなりませんが、対GDP比では医療費は約8%で、先進国の中でも低い水準で今の良質な医療制度が維持されてきました。天下りや無駄な公共事業を無くすと共に、タバコ税の大幅なアップなどによって財源を作り出し、社会保障制度の立て直しを図ります。
(6)
戦略的外交・安全保障に向けた取組み
2007年2月及び10月の予算委員会で、私は北朝鮮に対する方針転換を安倍総理(当時)と福田総理に求めました。特に安倍総理は、拉致問題を重視するあまり、2002年の日朝平壌宣言よりもハードルを上げて「拉致問題の進展がなければ一切の支援を行わない」との姿勢を明確にしました。確かに拉致問題は大変重要な外交課題ですが、北朝鮮の核開発問題も極めて重要です。北朝鮮は日本に届くミサイルを200発以上配備しており、10発程度の核弾頭を保有しているのではないかと言われています。アメリカに届くミサイルは北朝鮮に未だ配備されていない現実を考えると、仮に北朝鮮の体制が不安定化した場合、日本や韓国が核攻撃の対象になるのは決してゼロではありません。6者協議の枠組みを堅持しつつ、核問題の進展が見られた場合、日本も「行動対行動」の原則に加わり、北朝鮮への支援に参加することは日朝平壌宣言を逸脱するものではなく、日米協調の歩調も守れ、日朝協議をテコに拉致問題の解決を迫ることもできるでしょう。このように、すべての外交・安全保障問題には大局的な観点からの戦略的アプローチが求められます。
他のテーマとしては以下の点を特に力を入れ、今後とも取組んでいきたい。
@ 現時点において、日本はインテリジェンス(情報)・装備の技術・パワープロジェクション(敵地攻撃)能力などをアメリカに過度に依存しており、そういった観点からも日米同盟の堅持は当面、日本の安全保障の中核であり続ける。アメリカとの同盟維持・強化の観点からもテロとの戦いやPSI(大量破壊兵器の拡散防止)活動には日本も積極的に参加すべきである。
A 他方、自国の安全保障を過度に他国に依存し過ぎないために、独自のインテリジェンス収集力を強化すべきである。さしあたり、内閣に統合情報委員会(JIC)を設置し、情報における省庁の縦割り主義を除去するために横断的な組織を作るべきである。あわせて、国家戦略を検討し、策定する国家安全保障会議(NSC)も内閣に設置すべきである。
B 短期的には北朝鮮の核問題を解決し、中長期的には北東アジアの環境やエネルギー問題を解決するために、6者協議を発展させる形で北東アジア開発銀行(仮称)を作るべきである。
C エネルギー・環境・食糧安全保障の概念を明確化し、具体的な行動計画を策定すべきである。
D 農業政策の見直しを行ったうえで、できるだけ早急に各国とのFTA、特にアメリカと韓国との間では締結できるよう、交渉を進めるべきである。
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