きょうのコラム「時鐘」 2010年10月22日

 「北國文芸」十月賞一位に選ばれた句を見て、心がくつろいだ。「空澄んで水澄んで能登澄みにけり」(西田さい雪)。「能登」を「越中」「加賀」と詠み替えてもいいだろう

この間まで熱中症で騒いでいたから、秋のたたずまいは格別である。澄んだ空の美しさ、吹く風の優しさにあらためて気付く。「白山も大秋晴の一部分」(川渕渉)は佳作の一句

秋の雲は軽いのだ、と教えてくれた画家がいる。山に雲がかかったら、口をとがらせて息を吹きかける。そうすると、やがて雲が流れていくそうな。澄んだ空には、そんなウソも似合いそうである

今年はマツタケご飯にありつけた。貴重なキノコも店頭で見掛ける。豊作だそうだが、暴れ回るクマを警戒しての「コケ採り」である。心して食さねばなるまい

十月賞一位に選ばれたもう一つの俳句は、「秋刀魚(さんま)焼く能登の塩降り能登炭火」(閨のぼる)。それがどうした、と昔なら当たり前のような光景が、いまは豊かな暮らしのひとこまとして詠われる。まねをしようにも、できない人が大勢いる。マツタケご飯よりもぜいたくなふるさとの秋だろう。