事実は小説より奇なり
……なんて、考えたスーパーな偉人は誰だ?
たった今オレの中では顔も知らんそいつに賞賛と鉄拳を食らわせることが決定した。
何故?というのはオレの方が聞きたい。
教えてくれるなら教えて下さい。
どうして?
どうして?
どうしてオレは……………っ!!
「オギャオギャオー!?(赤ちゃんなんだー!?)」
「せっ、先生!赤ん坊が突然奇声を発しました!!!」
プロローグ「異端児」
なんか知らないけど…………気がついたら赤ちゃんになってた。
きっかけとか全く思い出せない。
オレは誰だ?
今まで何をしていてどんな人生を送ってきたんだ。
というかこの状況、何?
疑問だらけではあるが何が出来る訳でもない。
何せオレは赤ちゃんだ。
赤ちゃん舐めんな!! 取りあえず言いわせてくれ。
赤ちゃんはヤバい。マジで。
何せ一人では何も出来ない。
首すら座ってないので、寝返りすらもダメだ。
行動はもちろんのごとく 排泄も…………食事も。
………スマン、誰かオレを殺してくれ。
おそらく人類史上初だ己の母であろう女性に欲情した赤ん坊は。
……直接の表現は避けるが、身体が発達してなくてホントに良かった。
おまけにオレの母親はかなりの美人だった。
背は高くないのだが、繊細な磁器のようにきめ細かい肌に、均整のとれた八頭身。サラサラとした黒髪に血行の良さそうな頬。大きな目に形のいい唇。
そして目の下の泣き黒子が特徴のどこか子犬を連想させる可愛らしい人だ。
こんな美人めとったのはお前か!!
……と、この身体の父親に会ったら言ってやるつもりだったが、母である女性の話を聞く限りだと父親は亡くなってるらしい。
何度か見せてもらった写真には 母である女性の隣で幸せそうに笑う男の姿があった。
父は海兵で本部とやらの大佐だったそうだ。
何でもびっくりするくらい強かったらしい。
まぁ話の半分くらいは誇張だろう。
……ありえんだろう。
指で壁に穴を空けたとか、
鉄のように堅いとか、
おまけに空を走ったとか…………。
まぁ、とにかく母が嬉しそうに父のことを言葉の通じないはずのオレに話した。
その言葉の端々に感じる寂しさがとても悲しかった。
なぁ……どうしてこんないい人置いて先に逝っちまったんだ?アンタ?
………おかげで欲情するたび本気で死にたくなるだろ。
はぁ………早く離乳出来ないかな。
「クレスちゃーん、オシメ換えますねー」
ぎゃあー!!
止めて下さいお母様!! 今はシリアスですよ!
一日に数回訪れる生き地獄を終える。
ちなみにクレスというのはオレの名前だ。
エル・クレスと言うらしい。
前世とでも言うべきか?
オレにはそれが思い出せない。
もしかしたら知らないや分からないというのが正しいかもしれない。
だが “自我” と “自我を形成するために必要な最低限の知識” は持っている。
自分でも良くわからん。
もしかしたらオレは神様の手違いで前世の “自我” を持ったまま転生でもしたのかもしれない。
それともオレはもともと“自我”を持って生まれて来たのかもしれない。
どちらも同じようなものだろうが、出来るなら後者のパターンであってほしい。
もし前者であるなら、オレは人を一人殺しているようなものだ。
この可愛らしい母親から息子まで奪っているならオレは自分が許せない。
だがそれはオレの希望で、もはやこの自分である赤ん坊が普通で無いのは確かだ。
オレに出来ることは普通の人間として振る舞う努力をするくらいか…。
……偽善だよな。やっぱり。
自分の浅い考えに反吐が出そうだ。
まぁ、暗い気分も終わりにしよう。
四の五の考えるのも取りあえずはやめにしよう。
人生はこれからなのだ。
考える時間はまだある。
これからどんなことが起こるかはまだわからない。
今はただ………
「クレスちゃーん。ご飯ですよ―」
全力で煩悩と戦おう。
クレスの母親であるシルファーは生後間もない自分の息子に何か違和感のようなものを抱いていた。
気のせいであろうかと考えてはいたが、その思いは日を追うごとに強くなった。
(この子、全然泣かない!?)
本来赤ん坊というのは例外なく泣くものだ。
それは、生存本能に近いと言える。
だが、クレス泣かないのだ。
泣かないことでシルファーを困らせないようにしている節さえあった。
恐ろしいほどに静かな赤ん坊だった。
クレスが泣くのは一日にほんの数回。
それも、食事、排泄、が必要な時だけなのである。
シルファーは不審に思い医者のもとへとクレスを連れて行ったが、検査の結果は極めて良好。健康体そのものだった。
「賢いお子さんですね」
医者は言う。
だが、シルファーは少し違うように感じていた。
この子は遠慮している。
まるで、自分は他人なのだと主張するかのように……
(でも、わたしは認めない。あなたはわたしの子、どんなことがあっても絶対に!!)
シルファーは決意していた。
父親がいないからこそ、自分が二人分の愛情でこの子に接するのだと。
その愛情は本物で、何よりも強いものだった。
あとがき
処女作になります。
初心者なので拙い文章、間違った文法または表現、等々があると思いまが、
よろしくお願いします。