☆Side Amy★
……空気が重い。
スクリーンの中ではフェイトちゃんがシグナムと戦闘中、……は、まあ良い。
で、ここは海鳴の司令室。わたしの隣にはシアちゃん。うん、あれだ。
この前のマリヤさんやなのはちゃんの戦闘からずっと、シアちゃんの機嫌が悪い。流石に当たり散らすほど子供じゃない……、子供なんだけどさ、不機嫌さを隠しきれずにいる。
取りあえず、なのはちゃんは軽傷だったんだけど、念のため本局の病院で療養中。
対して、マリヤさんは結構重体。最初は本局の病院に担ぎ込まれたんだけど、話を聞いた親御さん達が確保、聖王教会系の病院に連れ込まれたらしい。その後情報はシャットアウト。親友の状況が分からず、シアちゃんはイライラって訳。
なんだけどキャンベルさん家とシアちゃんの仲悪い訳じゃない。ご家族の方達からはシアちゃんに頻繁に連絡があるらしいし。でもなんか変にクッション挟んだ言い方で家のお姫様はお冠。
女の子だね~。
……現実逃避は此処までで。
地球から近い管理外世界に張ったサーチャーに感があったのが少し前。で、見付けたのがシグナム。
シアちゃんかフェイトちゃんか。どっちも派遣を希望したんだけど、わたしの判断でフェイトちゃんを送った。だってフェイトちゃんが自分の意見を主張するのが珍しくて、それに応えたかったんだよ。
でシアちゃんはますます不機嫌に。
現在、リンディ提督やクロノ君は不在。アースラの改修作業の報告と受領の申請に本局に出向いている。
なのでアースラチームのナンバー3のわたしに指揮が回ってきてるんだ。
わたしは一応アースラチームのナンバー3と言うことになっている。理由は簡単。ラインの士官だからだ。
これでも士官学校の卒業生、二尉さんなんだよ。
細かいことを言うとアースラチームにはわたしより上位の人は居る。軍医さんとか、武装隊の隊長さんとか。でも組織の構成上、司令部付きのわたしの方が上に来る。
だからリンディ提督やクロノ君が居ない時は、わたしが指揮を執ることになってるんだ。
なんだけど、ぶっちゃけわたしは情報士官だ。指揮に向いているとは口が裂けても言えない。
それでも今やっているのが悪手、戦力の逐次投入だというのは分かっている。フェイトちゃんとシアちゃん、二人揃ってシグナムにぶつけて倒す、それがいい手だと言うことは分かってるんだ。
それをしなかったのには理由がある。シグナムは『闇の書』を持っていなかったから。
わたし達のメインターゲットは『闇の書』。ここで二人とも出撃させたら、その後『闇の書』を発見できても手が出せなくなってしまう。
それはシアちゃんも分かってくれていると思う。大人しく司令室で待機してくれてるんだから。
実際シアちゃんはアグレッシブだ。指示をしてもその通りに動いてくれないことが時々ある。なんだけど、結果としてベストに近い動きをするから注意しにくいんだ。指示を無視というより、指示の先読みをしてるというか。
このシアちゃんを使いこなしていると聞くネコムラさん。クロノ君は嫌ってるけど結構凄い人かも。
「ん? 感あり!」
サーチャーが同じ世界で別の反応を感知。開いてみるとベータちゃん。そしてその手の中には、
「「『闇の書』!」」
よっしゃ、ドンピシャ♪ 偉いぞわたし。
「シアちゃん、よろしく」
「OK、任しておくのさッ ……手足の二、三本はいいよね♪」
うん、最後の台詞、わたしは聞いてないのさっ♪
☆Side ??????★
「シグナムにはフェイト。ヴィータ、じゃなくてベータにはシアか」
「シアの方は問題ないね。あの娘ならちゃんとやってくれる筈」
「うん、問題はシグナムの方ね」
「と言うか、やるじゃないのフェイト。あのシグナムと互角なんて」
「そうね。でも……」
「ん? どうかしたのかい?」
「ええ。ここは。うん、フェイトを止めましょう」
「えっ、ちょっと待って! あの娘も可愛いウチの娘だよ。まさか傷付けようってかい」
「あなたにも分かる筈よ。一見互角でも、フェイトはまだシグナムにはおよばない」
「そりゃあ、実戦経験とか色々不足してるけどさぁ」
「それにシグナムの方が強いとはいえ、無傷で制圧できるほどの差はない」
「……あっ! そうか」
「幾ら『闇の書』のプログラムが不殺を心がけていたとしても、何があるのか分からないのが戦いよ。このまま戦闘を続けていたら、取り返しの付かないことが起こるかも」
「そうなる前にこっちで戦局を決める、か」
「そういうこと」
「うん、それは確かに正しいのかも知れないけど……」
「けど?」
「あの娘、……怒るよ」
「う、それは……」
「頭の良い娘だから、最後には分かってくれるだろうけど。それまでは……」
「そうね。二、三発は覚悟しなくちゃね」
「仕方ない、付き合うよ。でも……」
「でも?」
「右だと良いね。左は……きつそうだ」
「……」
☆Side Alicia★
「勿論、左だよ」
≪シア、どうしました?≫
「ん、なんかそういう突っ込みを入れたい気分なのさッ」
≪警告。そういう態度を続けているとギャグ系キャラ、堕ちます≫
む、それは拙い。アタシは女の子らしく、キュートでプリティでリリカル目指すんだから。だから、
「忠告、ありがと」
でだ、視界の先に赤いちびっ子発見。ベータだ。
さて、戦闘開始なのさッ!
☆Side Signum★
今回我々がリンカーコア蒐集に向かったのは砂漠の世界、ではなくとある管理外世界の砂漠地方。
この地にに住む魔法生物、砂虫が目当てだ。最初は順調だったのだが調子に乗りすぎたようだ。大物目当てに挑んだところ、危ない場面に遭遇してしまった。
そこに乱入してきたのがフェイト・テスタロッサ。一応ピンチを救って貰ったのだが獲物を逃がす結果となり、痛し痒し。
そして始まる私と彼女の勝負。地球というか日本の諺で言うところの三度目の正直だ。
フェイト・テスタロッサもこの前のマリヤ・キャンベルに負けぬ維持を見せる。
バリアジャケットの魔力構築を削って速度に当ててきた。つまり今までとは速さが格段に上がる。
「はぁぁぁっ!!」
テスタロッサの斧剣が振り下ろされる。私は辛うじて受けようとした。しかし、
「え! なにっ?」
テスタロッサのデバイスが振り下ろされることはなかった。
テスタロッサの腕には輝くリングのようなものがまとわりついていた。バインドだ。勿論私のものではない。だとすると誰が?
答えは直ぐに出た。テスタロッサの背後に人影が湧く。それが彼女に手を伸ばすとバインドは増し、テスタロッサの全身を拘束してしまった。
背後の人影、あれは……シャマルが見たという仮面の男か? しかし、
「貴様、なんの真似だ!」
シャマルを助けて貰ったことには礼を言おう。しかし騎士の勝負に水を差されたこと、水に流す訳にはいかない。
「フッ、何を言っている『闇の書』の騎士」ソレは私の怒りを嘲笑う。「貴様らがやらねばならぬ事、ソレは何だ?」
「そ、それは……」
「さあ、奪え。貴様らの獲物、この娘のリンカーコアを」
仮面の男はバインドで固められたテスタロッサを私に差し出す。テスタロッサは何とか抜け出そうとするが男の方が一枚も二枚も上のようだ。彼女の拘束は小揺るぎもしない。
「さあ」
「くっ」
……私は、『闇の書』の騎士。私のなすべき事は主はやてをお助けすること。その為のリンカーコア。
だから私は、レヴァンティンの柄元をかざす。
私のかざした手に、テスタロッサは驚いたような、傷ついたような、失望したような、表情を残し……
≪Sammlung≫
☆Side Alicia★
≪シア、司令室と交信が途切れました≫
「ん? 故障?」
≪不明です≫
さて、どうするか? アウェイ? での単独は不安だな。この前のマリヤの件もあるし。
ん、ん、ん、ん。そうか。
「リニス、バルデッシュと直接回線繋いで。同じ世界だから繋がるはず」
≪了解です≫
「テメェら、なにチンタラやってやがる!」
そんなアタシ達に誘導弾1つ、2つ。アタシはそれを余裕で交わし、
「スティンガー・レイ!」
直射弾で撃墜する。
アタシとベータの戦いは一進一退。元々は逃げるベータをアタシが追う戦いになる筈だったんだけど、ベータがやたら突っかかって普通に空中戦。アタシとしてはどうでも良いんだけどさぁ。
さてどうするか。キャンキャン叫くベータの相手もめんどくさいんで、いっその事撃墜してやろうかな。だけどベータ、『闇の書』もってるし。
そんな時。
≪バルデッシュと回線接続。救援要請。デルタ、出現しました≫
? なんで? なんであの人がフェイトのとこに? で、救援要請?
……やばい、な。 なんか嫌な予感がする。
(リニス、転送準備。バルディシュから座標もらって)
(≪了解しました≫)
リニスの準備ができるまでアタシは牽制。敵の前で無防備に転送なんて以ての外。隙を作らないと。だから取りあえず、
「スティンガー・スナイプ!!」
誘導弾を二発発射。
「させるかよっ!!」
ベータが迎撃している間に次の準備。
「アイシクル・ジャベルン!」
アタシの背後から4発の特殊誘導弾が伸びる。それを見てベータは次の一手、どうしようか躊躇する。前の戦いでコレに痛い眼を見たのを忘れてない。前に出て迎撃か、後ろに下がって防御か。
だからアタシは次の手。
「スティンガー・レイ!!」
ベータの動きを制限するように直射弾を連続発射。
「そうは行くか!!」
多重攻撃を嫌がったベータは後ろに下がり、アタシから距離を取ろうとする。だからアタシもそれに遭わせ全力後退。そして、
「リニス、行って!」
≪了解しました≫
リニスによる転送用魔法陣展開。アタシはその中に突っ込む。離脱成功。
フェイト。お願い、無事でいて。
☆Side Signum★
私の腕の中には一人の娘。黒と黄金の少女、フェイト・テスタロッサ。
私と彼女は武を競っていた筈だった。しかし私は仮面の男の声に負けてしまった。
拘束され身動きのとれない少女。私が彼女のコアを奪う直前、彼女の浮かべた表情が私を苛む。
裏切られた。その一言だ。
そう、私は正面から戦おうとする彼女を裏切った。主の為、仲間のため、なんとでも言い訳できる。だが、真っ直ぐ心をぶつけてきた彼女を裏切ったことには変わりない。
こんな私が騎士と名乗るなど……
(……シグナム)
いや、私は騎士だ。主はやて、あの幼い主を救うまで私は彼女の騎士であり続けねばならない。たとえこの身にどんな汚名が降りかかろうと、だ。
(……おい、シグナム)
だから騎士として胸を張る。主の為に、仲間の為に。
(だから、おい! シグナム!!)
なんだ? 念話。ヴィータか?
(どうしたんだよ、ボーッっとして)
(いや、何でもない。どうかしたのか?)
(アリシアだ、あの女を見失った)
(見失った?)
(ああ、いきなり転移しやがって。今度こそアイゼンの落ちない染みにしてやるつもりだったのによぉ)
「アリシア・テスタロッサ、か」
私は頭上を見上げた。そこに展開されているのは、数日前に見たばかりのミッド式の転送魔法陣。その中から姿を現すのは、もう一人の黒と金色の魔法少女。
フェイト・テスタロッサが姉と呼ぶ少女、アリシア・グレアム。
彼女の目線は私には向かない。真っ直ぐ私の腕の中のテスタロッサだけを見詰めている。
まるで私には、視線を向ける価値すらないと言っているように。
(彼女なら、私の方に来た)
(おし、ならちょうど良い。アタシもそっちに行く。アタシとシグナム、2人がかりでアイツを潰すんだ)
……ベルカの騎士が2人がかりで1人に掛かる? この幼い少女に? それは、
(ダメだ)
(何でだよ! アリシアの危険性、オメェだって分かってんだろ)
ああ、分かっている。彼女の戦闘力も、心の強さも、覚悟のほども分かっている。だが、しかし、
(ベルカの騎士が、2人がかりとはあり得ない)
(シグナム、オメェ!)
そこまで堕ちる訳にはいかない。
チカ、チカ、チカ。
私の腕の中の少女、その手の中にあるデバイスコアが点灯する。
チカ、チカ、チカ。
それに合わせるかのようにアリシア・グレアムのデバイスも点灯する。ここで起きた出来事を伝えているのだろう。デバイスから情報を得ているのか、アリシア・グレアムの口元が苦く歪む。
アレにヴィータを付き合わせるわけにはいかない。
(それにだ、そちらには闇の書がある。アレを何時までも管理局の眼の前に触れさせてはおけない)
(あっ!)
(グズグズしていたらクロい執務官やあの白い少女、高町なんとかが来るかもしれん。そうしたら厄介だ)
(だけどオメェ一人じゃ)
(フッ、私を舐めるな。お前達の将が、これくらいでどうとかなると思っているのか)
(……わーったよ。でもシグナム、無事に帰って来いよ)
(無論だ)
砂漠に降り立った少女はゆっくりと歩み寄り、既に私の目の前に立っていた。だから私は立ち上がり腕の中の少女を彼女に差し出す。
アリシア・グレアムは無言でフェイト・テスタロッサを受け取り、……私に背を向ける。
ガツガツ・ケリケリ。
そんな感じで砂を踏み固め、テスタロッサの体を優しく横たえる。そして、
「バルディシュ、カートリッジロード」
≪Yes Mam!≫
アリシア・グレアムの命令にテスタロッサのデバイスは従う。
ガチン、ガチン!!
圧縮された魔力がデバイスに満ちる。
「シールド発生、並びに維持。お願い、バルディシュ。フェイトを守って」
≪Please leave it. Mam≫
横たえられたテスタロッサを守るため、球状シールドが張られる。これで多少のことで彼女が傷付けられることはない。だから、
「ねえ、シグナム。マリヤの次、なのはの次はフェイト?」
アリシア・グレアムの口調には抑揚がない。感情がこもっていないのではない。感情をもてあましているのだ。
「次はクロにぃ? それともリンディ姉さん? ネコさん?」
「それは……」
「ううん、分かってる。これはただの八つ当たりだって。こんな事意味がない、するべきじゃ無いって」
? この少女はなにを言ってるんだ?
「でもね、シグナム」デバイスを握る手に力が入る。「八つ当たりに付き合って貰う!! なのは流に『お話』、だぁ!!」
☆Side Alicia★
アタシとシグナムは砂漠の空で向かい合う。
シグナムの手の内は分かっている。接近してクロスレンジでのどつき合いだ。だけどこういう騎士の戦い方、アタシは良く知っている。つまりマリヤと同じ間合い、手の内は読めている。
だからアタシはミドルレンジを保つ。
この戦いは剣士が懐に飛び込めるか、砲撃手がそれを阻止できるか、それに掛かってくる。
ついでに言うとアレだ。シグナムがこの場から逃げ出すにはアタシを何とかするしかない。後ろを見せ、逃げに入っても長距離砲撃持ちのアタシからは逃げられない。アタシをある程度無力化しない事には戦場離脱も無理なのだ。
≪Stinger Snipe≫
「はぁぁっっっ!」
アタシの放った誘導弾をシグナムが切り捨てる。その隙に
「スティンガー・レイ」
直射弾を発射、しかし、
≪Panzergeists≫
シグナムの騎士甲冑に弾かれる。しかしこの一瞬、シグナムの動きは制限される。だから、
≪Flaze Cannon!≫
「甘い!」
蒼い砲撃をぶっ放す。しかし、シグナムは魔剣一閃、吹き上げた炎の反動で体を変える。
シグナムは砲撃の術後硬直を付こうとしたようだが、そうは行かない。アタシはその直後に背後に飛んでいる。シグナムは舌打ち1つ、剣を構え直す。
「やるな、アリシア・グレアム」
「当然、フェイト・テスタロッサのお姉ちゃんを舐めて貰っちゃ困るのさッ」
そう、下で眠っているフェイトに無様な真似は見せられないのさッ。
「ならば、こちらも本気で行かせて貰おう」
≪Schlangeform!≫
シグナムのデバイス、確かレバ剣、が解けていく。剣から鞭というか、なんというか、蛇腹剣?とかいう形態に。
これがシグナムの中距離制圧用の形態。だから、
(勝った)
そう、アタシはコレがくるのを待っていたんだ。
「行くぞ」
シグナムがレバ剣を振るうと、アタシの目の前の空間がごっそり削られていく。それに巻き込まれないようにアタシはちょっとだけ後退。大質量の蛇腹剣を頭上に這わせ、シグナムが詰めるように前進してくる。
そう、大質量だ。
レバ剣はただ分割した訳ではない。ベルカ式デバイス特有の形状変換でその質量を増している。ベータのハンマーと同じようにね。
だからベータハンマーと同じような弱点を持つはず。それは蛇腹剣の圧倒的な慣性を制御するため、攻撃の最中は、起点であるシグナムは移動できないということ。つまりシグナムの足を封じたのと同じ意味なのだ。
そしてタイムラグ。
シグナムが手元で制御しても、そのコントロールが末端にたどり着くまでラグが出来る。フェイトとマリヤにこのモードを見せた。ソレがコイツの敗因だ。
「リニス、行くよ。ウィング全開!」
アタシの声をトリガーにリニスから二対四枚の羽根が展開する。高速移動用の二枚と姿勢制御用の一対。次いでリニスの声。
≪はい、ドライブ全開≫
四枚の飛行用の翼に火が入る。次いで、
「アクセル、チャージ!」
リニスの先から剣、じゃなくて魔力で構成されたパイルが伸びる。
準備完了。さて行くのさッ。
≪OK A,C,S Full Drive!!≫
アタシ達はシグナムに突っ込んだ。シグナムが蛇腹剣を放つのが見える。だけど、
「リニス、ランダム回避」
≪OK Believe me. Cia!≫
勿論信じてるのさッ。
幾ら元は剣だとは言え、分割した今、その速度はマリヤやシグナムの振るう剣の何分か一に過ぎない。
リニスの圧倒的演算能力を生かせば回避出来ない訳はない。アタシのリニスは管理局最新、最高のデバイスなんだ。だからアタシは鋼の鞭をかい潜る。そして向かうは『闇の書』の魔導プログラム。
「なにぃ!」
一旦剣の波を抜ければあとは一直線。放った剣を手元に返すには圧倒的に時間が足りない。だからアタシはただ撃ち貫くだけ。
≪Zero Drive Circuit Open!≫
この世界にあるモノ、その全てはちっちゃいパーツ、分子とやらで出来ている。
この分子が激しく運動すれば温度が高く、動かなければ冷たくなる、そうだ。
迎撃を諦めたシグナムが手元を返す。剣の柄、いや根本でリニスを受ける恰好だ。
リニスに搭載してあるゼロドライブユニットはこの分子を動き(Drive)をゼロにする。
原理? 知らないよ。だって魔法だもん。
計算通り、アタシは容赦なく飛び込む。そして、
≪Zero Drive!≫
「インパクトぉぉっ!!!」
☆Side Signum★
≪Zero Drive!≫
「インパクトぉぉっ!!!」
蒼い光と共に突っ込んできたアリシア・グレアム。このタイミングでは迎撃は無理、だから私は彼女の突進をレヴァンティンの根本で受けた。そして、視界が真っ白に染まる。
何が起きた?
この変化に私の頭は付いていかない。分かっているのは、
「冷たい」
私が握っていた愛剣レヴァンティン、それが真っ白に凍り付いている。流石に先端まで凍っている訳ではないが、私が握っている柄や根本は完全に凍り付いている。
そしてそれはレヴァンティンを握りしめていた私の手も同様だ。冷たく、固く、力が入らない。
レヴァンティンは炎の魔剣。レヴァンティンの炎ならこんな氷……、溶かせる訳がない。凍り付いて強度を失った金属、そんなモノを炎にかざせば結果は明らか。砕け散るだけだ。そんな事は出来ないのだが、甘かった。
アリシア・グレアムだ。気を取られた隙に彼女はデバイスを振りかぶると、
「消滅!!」
先頭のパイルをレヴァンティンに振り下ろしていた。凍り付いた金属がそれに堪えられるはずもなく、
バキキーーーン!!
レヴァンティンの刃が砕け散る。残されたのは私が握りしめていた柄のみ。デバイスコアこそ残っているとは言え、ほぼ全壊と言って良い。
「フフン」
唖然とした私の視界の中、アリシアが嗤う。そう、彼女は分かっている。ヴィータ達とは違い、私の攻撃の起点は全てレヴァンティンだ。それを失った今、私の戦闘能力は激減してしまっている。
そして凍り付いた両手、これでは戦いにならない。
そこに追い打ちが来る。
「アイシクル・ジャベルン!」
アリシアの背後から誘導弾が発射される。アレはベータを落とす布石になったモノ。受けるのは拙い。
だがそれを追うように、
≪Stinger Ray≫
デバイスから至近距離から直射弾。それに対し
≪....Panzer .geists≫
レヴァンティンが咄嗟に強化防御を張ってしまう。パンツァーガイストはミッド式のシールドなどとは違う。基本的に騎士甲冑の部分強化魔法だ。直射弾に対応して展開してしまうと、
ドス!!
背中、脇腹、左脚。
そこに誘導弾が突き刺さる。ついで直射弾を防御した瞬間。
パリ--ーン!!
誘導弾が弾ける。そして私の体を拘束するバインド魔法。
そしてその時にはアリシアは全力攻撃出来るだけの十分な距離を取っていた。
「クロにぃのエクスキューションシフト、ガンマは堪えたみたいだけどアンタはどうかな。アタシのコレはクロにぃのアレとはひと味違うよ」
天上に伸ばしたアリシアの右腕、その直上に展開される魔力スフィア。それは黒でも金でも無く蒼色。それはアリシア・グレアムのデバイスの色。つまり、凍結属性?
魔力スフィアの数は概算で百を超える。それがピタリと私を狙う。
「行くよ。スティンガーブレイド・ブリザードシフト……」
私は此処までなのか? 『闇の書』の守護騎士である私はここでひとたび散るのか?
『闇の書』のオプション、魔導プログラムである我々は、一旦滅んでも主の命があれば復活することが出来る。
しかしそれでは、私が散ったのを主に知られることになる。主は聡明な方だ。私が命を失ったことで、我々の所行に気付かれる可能性が高い。
なんとしてもそれは避けなくてはならない。だが、どうやって。
アリシアは私の方を見、ニヤリと嗤い、顔色を失い、そして、
「フェイトぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
ソレを発射した。
☆Side Fate★
カツカツ、カツカツ。
空の上に2つの人影。1つは黒と金、もう一つは白と赤。
ああ、シグナムと……あの人だ。
凄いな、あのシグナムと互角、ううん優位に立っている。
またあの人には迷惑を掛けちゃった。こんなわたし、ダメだよね。あの男の人、デルタにあっさり捕まっちゃうようじゃ。
カツカツ、カツカツ。
また音がする。何だろう? わたしは視線を下ろし……
「あ、ああああああっ!?」
なに? 蟲?
そこに居たのはこの世界の現住生物。シグナムが狩っていた生き物だ。ただしシグナムが戦っていたモノよりかはかなり小さい。とは言えこの胴回りはわたしと同じくらい在る。
そんな蟲がわたしの周りに数匹……。バルデッシュが張ったシールドにへばりついている。
この蟲達はなんで此処に? わたしの周りに?
ギャァァァァ
そんな声? と共にソレは口を開ける。気持ち悪い牙を生やして。
そして、それはつまり、
「わたしを、狙っている?」
じ、冗談じゃない。わたしはこんなところで死ぬわけにはいかない。母さんとまだちゃんと話していない。なのはのお見舞いにも行ってない。それに……
ねえさ……、あの人と仲直りもできていない。
「バルディシュ、カートリッジロード」
≪Yes Sir!≫
シグナムに奪われてわたしの魔力は空っぽだ。でもわたしにはバルディシュがいる。バルディシュのカートリッジなら。でも
ガチン!! カチン!
えっ、なに? カートリッジ切れ? 予備のカートリッジは……ない。
シグナムが狩っていたように、この蟲は魔法生物だ。それがシールド魔法に干渉して、もう持たない。
わたしが悲鳴を上げそうになった、その瞬間だ
「フェイトぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
ズドドドドドドドっっっっっっっっっ!!
頭上から無数の剣が振ってきた。これはあの人の……なんとかシフト。範囲攻撃だ。
見上げると顔を強ばらせ飛び降りてくる、あの人。あの人は地面に舞い降りると、
「フェイト、大丈夫?」
わたしに抱きついてくる。
顔を見、腕を見、脚を見、怪我がないのを確認すると、安心したかのようにわたしに体重を預けてくる。
だからわたしも恐る恐るあの人の体に手を回し……、しかし、あの人はそれに気付かず視線をキッと空に向ける。
……なんか悔しい。でもわたしも頭を振ると気持ちを切り替えて空を見る。
正しくは空じゃない。空に浮かぶ一人の騎士を。
シグナムはわたしとあの人の方を見、なにか言おうと口を開き掛け、そして噤む。それに答えたのは、
「勝負は、アタシの勝ちだね」
「ああ、私の負けだ」
あの人だった。あの人は疲れたように手を振ると、
「なら、良い。もうどっかに行っちゃえ」
「……いいのか?」
「元々、怪我してるフェイトを放って戦ったアタシが悪いんだ」
≪....Sorry Mam≫
「バルデッシュの所為じゃないよ」
「済まない」
「いいのさッ。でも、次ぎに会ったら、今度こそ、潰す!」
「分かった、肝に銘じておく。で、フェイト・テスタロッサ」
「は、はい!」
なんだろう?
「貴公との勝負、私は汚した。言い訳はしないが、謝罪する。済まなかった」
シグナムはわたしに頭を下げると、
「もう、会わないことを祈っておく」
飛び去っていった。
それを確認すると、緊張が解けたのか、頭の中がボッとしてきた。
隣にある優しい温度。わたしはソレに持たれるように意識を失った。
次に目が覚めるとき、ね さんに隣に居て欲しいと思いながら。
PS1
シア暴走の回。設定でも書いたように周りの人が傷付けられるとシアの沸点はとたんに下がります。
やっちゃいけないと分かっていても暴走します。シアの活動時間はまだ4年程度なんです。本当に子供なんですよ。
PS2
さりげなく最長?
というか微妙にリリカル?
シニカルに、ロジカルに、テンポ良くが私の一人称作品のコンセプトなんだけど、外したかな?
PS3
えーと、方向性とかご意見とか色々確認したいんで、コメントください。
ウサギは寂しいと死んでしまうんですよ。(なお、コレは実は嘘、ただの都市伝説なんですよ。群れを作らないウサギの類は単独行動デフォルトです)