<NG本社とアニューの綱引き>
これまでの経緯をみると常識的に考えて、後援会やブラジル酵素の販売を考案したとされる橋本幸雄会長の責任はもとより、それを後押しした山下利光副会長以下ナチュラルグループ本社幹部の責任は免れないだろう。一方で、アニュー側にも弱みはあるのだった。ブラジル酵素の顧客を新規で集めればアニューのオーナーには10%のコミッションが支払われていたといわれており、なかには1億円以上を稼いだ店舗もあるらしい。
「関西で60億円から70億円、九州でも相当に拡がっていた」と後援会の被害を危ぶむ関係者の声もある。今のところ後援会メンバーによる訴訟は起こされていないというが、仮に刑事事件に発展すれば、出資法違反容疑で当局が介入する下地は十分すぎる程できている。否、「ナチュラルグループ本社の凋落(3)」でみてきたように、一部の関係者の間ではすでに当局の介入は行なわれているとも見られており、「橋本会長と山下副会長に責任を押しつけるための工作が始まっている」と明かす関係者もいることがNET-IBニュースの取材でわかった。現在、各地のアニュー店に謝罪行脚を行なっている富田義久代表代行は、ある地で、「4月の時点で逮捕は覚悟していた。家族にも話していた。しかし橋本会長は家族にも一言も話していなかった」という意味の苦言を述べ、その時点で橋本追い落としの腹を決めたと告白したといわれている。また、いまのところ「警察関係を止めている」とオーナーらを前に堂々と発言したというのだ。これが本当だとしたら、あるまじき行為である。
7月の時点では、「橋本会長がブラジルに逃げ出すのではないか」と危惧する声も相次いでいた。アニュー店のなかには、店を閉めたいという声もあったという。あるメーカーは、「アニューのなかにもいろいろなスタンスがある。あるオーナーは、7月から別の店をやりたいと言い出した。健康食品の販売を始めると言っていたが、仕入れ条件を良くして留まるよう説得した」と明かす。
7月22日、ナチュラルグループ本社は取引先の幹部を招いて幹事会を開催した。関係者の関心を集めたのが超ワンマンとされる橋本会長の去就だった。
「カリスマ性のある橋本会長が辞めたら、倒産の道しかない」と断言する関係者の話がある一方で、「橋本会長と山下副会長は身を引き、第三者が代表に就くだろう」との話もあった。あとでわかったことだが、第三者というのが上述した富田氏のことである。複数の業界関係者の間で、このような話がまことしやかに囁かれていた。情報は錯綜していた。
6月に行なわれた店長の集まりや役員会でも、橋本会長追い出しの気運が盛り上がっていたと言われている。なかなか結束を図れない理由の裏にはもちろん、橋本会長の飛びぬけたカリスマ性も見逃せないが、「ブラジル酵素」をめぐる深刻なトラブルが、同社内の役員のみならず、全国にまたがる約300店舗のアニューの店長や消費者のあいだに重くわだかまっているという事情がありそうだった。
【田代 宏】