岐阜市の解体会社「丸萬後藤興業」が工場を解体中に外壁が倒壊し、女子高生(17)が下敷きになって死亡した事故で、当時、鉄骨入りの建築物の解体に必要な資格を持つ社員が現場を離れていたことが分かった。労働安全衛生法は、有資格者を現場に配置するよう定めている。ただし業界関係者によると、資格を持つ社員が現場にいないことは度々あり、制度は形骸(けいがい)化しているという。【石山絵歩、三上剛輝】
同法は、高さ5メートル以上の建物の骨組みなどを解体する際、必要な技能講習を受けた「建築物等の鉄骨の組み立て等作業主任者」が現場を指揮するよう規定している。
倒壊した壁は高さ約11メートル。捜査関係者によると、資格を持つ社員は事故の起きた14日の朝に現場を訪れたが、発生当時は別の現場にいたとみられる。事故現場の指揮は、コンクリート製の工作物の解体に必要な別の資格しか持たない社員に任せていたという。
業界関係者によると、同様の運用例は他の業者でもあるという。岐阜県内のある会社には有資格者は1人しかいないが、現場は1日3~5カ所あり、有資格者が巡回している。男性社長は「講習を受けたからといってすぐ現場指揮はできず、結局ベテランが指揮する。体裁上、有資格者はいるが、それが事故防止につながるとは思えない」と弁明する。
作業主任者の講習を主催する建設業労働災害防止協会のホームページによると、岐阜県での10年度の講習会は1回のみで、平日の2日間だった。この社長は「人手が少ない中、講習を受ける余裕はない」と漏らす。
別の解体会社の40代の男性社長は「講習会には社長の奥さんなど女性の参加者が多い。資格を得ても現場に出すわけではなく『現場は現場に任せればいい』という考えの業者も多い」と明かす。
全国解体工事業団体連合会の担当者は「不況に伴う競争激化で、作業員当たりの現場の数は増えている。厳密に運用している会社もあるだろうが、有資格者を配置しきれないケースが増えている恐れがある」と指摘する。
今回の事故では、ワイヤや重機で壁を固定しないまま、壁のすぐ横にあったエレベーター外枠を倒そうとしたところ壁が倒壊した。
毎日新聞 2010年10月18日 2時33分(最終更新 10月18日 9時22分)