現在位置:
  1. asahi.com
  2. 社説

社説

Astandなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

2010年10月21日(木)付

印刷

このエントリをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録 このエントリをdel.icio.usに登録 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをBuzzurlに登録

B型肝炎―自分の問題として考える

とても大きな金額になる。だが、立ちすくむわけにはいかない。どう負担を分かち合うか、国民全体で考える必要がある。B型肝炎患者の救済問題は重い課題を投げかけている。集団予防[記事全文]

リニア新幹線―直線ルート精査し説明を

壮大な新プロジェクトに注目したい。JR東海の「リニア中央新幹線」のおおまかなルートが内定し、計画が本格的に動き出す。国土交通相が諮問した審議会がきのう、長野県内で迂回(うかい)する2案を退け[記事全文]

B型肝炎―自分の問題として考える

 とても大きな金額になる。だが、立ちすくむわけにはいかない。どう負担を分かち合うか、国民全体で考える必要がある。B型肝炎患者の救済問題は重い課題を投げかけている。

 集団予防接種が原因でB型肝炎に感染したとして患者らが賠償を求めた裁判で、国は最大2500万円(死亡時ほか)を支払うことなどを柱とする和解案を示した。これを全国の潜在患者にまで当てはめると、必要な予算は向こう30年で2兆円になり、閣僚からは増税もありうるという発言もある。

 戦後間もない1948年に予防接種法が施行された。法律に基づく集団接種は、百日ぜきやジフテリア、結核などの伝染病から子供の命を守るとともに、社会の防衛という意味があった。

 だが、旧厚生省が1人ずつ注射器を取りかえるよう通知した88年まで使い回しが続き、一部の人にB型肝炎ウイルスを感染させた。これが原因で慢性肝炎などになった患者らが先に起こした裁判で、最高裁は国の過失を認めて賠償を命じている。

 政府によると、B型肝炎の患者・感染者の総数は120万人前後。母子感染が多いとされ、予防接種が原因との疑いがあるのは、ウイルスを持つが症状は出ていない持続感染者(45万人前後)を含め50万人程度とみられる。

 今回の和解案について患者側は、金額を過大に見せて不安をあおり、国民と患者の間にくさびを打ち込むものだと批判する。たしかに平穏な日常生活を送っている人も多く、想定される患者や感染者のどれほどの人がこの先、支給を求めるかは分からない。

 だが、最大限どこまでの負担が必要になるかは、主権者であり納税者である国民が知っていて当然の情報だ。和解案の詳細を公表した政府の姿勢は評価していいだろう。

 問題の時期に集団予防接種を受けた人は20〜60歳代になっている。予防接種による感染の率について様々な見方があるが、可能性はだれにもあった。国民の多くはいま負担の方法を考える立場だが、もしかしたら救済を求める側になっていたかもしれない。

 「国」という打ち出の小づちをもった存在が我々とは別にあって、お金を出してくれるわけではない。長年の過った厚生行政の償いは、最後は国民が引き受けるしかない。

 より幅広い救済を求めている患者側は今月26日に考えを明らかにする。厳しい協議になるのは間違いないが、国側も患者側も、主張を裏付けるデータや情報をしっかり出し合い、国民合意につながる話し合いをして欲しい。それをにらみつつ、国会も必要な財源を論議しなくてはならない。

 多くの感染者は、周囲からの差別や偏見にも悩まされてきた。この和解協議はひとごとでは済まされない。

検索フォーム

リニア新幹線―直線ルート精査し説明を

 壮大な新プロジェクトに注目したい。JR東海の「リニア中央新幹線」のおおまかなルートが内定し、計画が本格的に動き出す。国土交通相が諮問した審議会がきのう、長野県内で迂回(うかい)する2案を退け、南アルプスを貫く直線ルートを選んだ。

 直線ルートのリニア新幹線は、東京―大阪間の約440キロを直行すれば67分で結べる。審議会の答申や国交相の認可は来春以降となるが、JR東海の検討にはずみがつきそうだ。

 整備新幹線のような公共事業ではない。8兆円を超える東阪間の建設費をJR東海が自前でひねり出す、前代未聞の巨大民間事業である。開業後の採算も考えれば、建設費が最も安いルートを選ぶのは当然だろう。

 超伝導で軌道より10センチも浮いたまま最高時速500キロ超で営業する世界最新鋭のリニアは「地上と地中を飛ぶ航空機」とも言える。旅客機と競うにも東京から名古屋まで40分、大阪へ1時間余と最短の直線ルートが最適だ。

 この計画は整備新幹線と同じ法律にもとづいて手続きを踏んでいる。巨大な社会基盤として、公的な面からの慎重な検討が必要だからだ。

 今後、計画を詰める上で課題となるのは、南アルプスの大自然への影響を最小限に抑え、長大なトンネル工事や超伝導リニアという新技術がもたらす安全性への不安をどう一掃するかだ。国交省や審議会、JR東海はこれらについて、国民にていねいに説明しなくてはならない。

 まず着工する東京―名古屋間だけでも投資規模は5兆円を上回る。事業規模が一企業にとって巨大すぎるのではないか、といった懸念が国民の間にあってもおかしくない。だが、JR東海は国鉄民営化後に東海道新幹線を政府から約5兆円余で買い取り、その借入額を約2兆円減らしてきた実績がある。その経験は生きるだろう。

 とはいえ日本は人口減少が続く。右肩上がりの鉄道需要を期待することができない以上、事業の採算をはじくうえで甘い需要見通しに立つことは避けねばならない。

 JR東海は、景気悪化で東海道新幹線の利用客が減って収益が悪化したため、東名間のリニア新幹線の開業目標を当初の2025年から27年に延ばした。大阪までの開業は45年となる。

 いずれ東海道新幹線の大規模修理が必要になることも考えれば、リニアの早期開業が望ましいが、事業採算を考えるなら、やむを得ない判断だったのではないか。

 リニア新幹線の需要が長期的に見込めるためには、政府の役割も大きい。訪日観光客を大幅に増やし、航空網や高速道路との総合的な役割分担を進める。そうした成長戦略の実施が、何よりも早期実現への支援策になる。

検索フォーム

PR情報