10/05/03 (月) |
11:34 |
少しだけ、昔を振り返ってみましょう。
5月3日――― 出来る事なら、来て欲しくなかった日だ。
「嵐山ちゃん、誕生日おめでとう!はいコレ、お姉ちゃんからの誕生日プレゼントよ」 「……豪華な料理…だね」 「うふふ!だって今日は私と私の大切な嵐山ちゃんの誕生日だもの」 「……」 「嵐山ちゃん?どうしたの?今日は貴方の大好きな料理を沢山作ったのよ?」 「…いい加減にしてくれないか?」 「え…?」 「そうやっていつまでも【子供扱い】するのは辞めてくれって言ってるんだ!!」
俺はもう【子供】じゃない。 高校生にもなって身内から誕生日を祝って貰う、 それが俺の中では許されない原因の1つだった。
俺は双子の姉から手渡されたプレゼントの小箱を床に思いきり叩きつけ、 そのまま家を飛び出して行った―――。
―――
「……」
家を飛び出して来たものの、 行く宛てもない俺は… 公園のブランコに座ってボンヤリと流れる雲を眺め続けていた。
もう――――――――――――――― 忘れられているのかも分からない。
俺が7歳になる年、ある事件に依って彩南町に引っ越した。 その時、隣に住んでいた【その人】を、 俺は本当の【姉】の様に慕っていた。
【その人】の悩みや、 【その人】が通っていて今は俺の通う『彩南高校』であった出来事、 そして――― 【その人】が当時慕っていた異性の話を俺は聞いてあげていた。
けれど――― 【その人】が大学を卒業した時。 小学校6年生になった俺の耳にこんな噂が入って来た。
『【その人】が慕っていた異性からの交際を【その人】は断った』と―――。 俺は真相を確かめるべく、 【その人】の部屋の窓をノックした。
【回想】
「林檎」 「…嵐山くん?どうしたの?」 「どうしたのじゃないよ、何で断ったの?」 「…どうしてなんだろうね」 「え…?」 「彼の事を好きになればなるほど…心が離れていくって云うのかな…」 「林檎、言ってる意味が良く理解らないよ」 「…ゴメンね。暫く1人にしてくれないかな?」 「…林檎」
【回想終】
「…今頃になって何であんな昔の事を思い出すかな…」
小さく笑いながら、商店街でもブラつこうかと思い立ち上がった時だった―――。 公園の外からこちらをジッと見つめる女性の姿が視線に入った。
「……?」
俺は公園から出ようとした足を止め、 暫く様子を伺っていた。
何処か見覚えのある粟色の髪を靡かせながら、 その女性は公園内へと入って来た。
次第にその女性が近付いて来るにつれて――― 俺の瞳は大きく見開き始めた。
「…っっ!?」 「嵐山…くん?」 「え…っ?」
何処か懐かしい声に名前を呼ばれて、 俺は思わず口を聞いてしまった。
「もし間違ってたらゴメンね?でも…面影が凄く残ってるし…」 「…林檎?」 「えっ!?」 「うっわ…マジ綺麗になってて一瞬誰だか理解らなかったぜ」 「じゃあやっぱり…嵐山くんなの?」 「あぁ。すっげぇ久し振り」 「うん!えっと、最後に逢ったのって…いつだったっけ?」 「覚えてないのか?」 「ゴメン!あの時は1人暮らしの準備に追われてたし…っっ」 「そうだったな」 「でも、こんな所で何をしてたの?」 「え?あ、あぁ…ちょっとな」 「ちょっとって?」 「大した事じゃないさ。そう言ってる林檎だってどうして戻って来たの?」 「え?嵐山くん、今日が何の日か覚えてないの?」
大きな瞳を2度程瞬きをして、 【その人】は俺に尋ねて来た。
「…え?」 「もしかして…ホントに忘れちゃった?」 「…覚えててくれたのか?」 「ふふっ!当たり前じゃない」 「―――っっ」
その言葉を聞いた俺の身体は――― 【憧れの人】を優しく包み込んだ。
「嵐山くん――――――??」 「すっげぇ嬉しい…」 「ど、どうしたの??」 「さっきまで…【誕生日なんか来なくても良い】って思ってたんだ」 「え…?」 「でも…やっぱり【誕生日】って良いモンだな」 「嵐山くん!言ってる意味が理解らないよ?」 「理解らなくて良い。だけど今は…こうしてたいんだ」 俺は【憧れの人】を優しく包み込みながら―――――― 心の中で、
今日と云う【誕生日】を喜んでいた……。
今からちょうど12年前のお話。
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