◆ことばの話2428「小泉チルドレン」
これも去年の残り物。
2005年新語・流行語大賞(見事、大賞!)にも選ばれた「小泉劇場」の中核は「小泉チルドレン」でした。これを初めて耳にした時の感想は、
「辻元清美さんは『土井チルドレン』だったな。でも議員は一人だから、今や『土井チャイルド』かな?それにしても、チャイルドやチルドレンというには、佐藤ゆかりさんも、片山さつきさんも、みんな年食ってねえか?杉村太蔵くらいかな、チャイルドって感じなのは。そう言えば昔、『フラワー・ピープル』とか『フラワー・チルドレン』ってなかった?」
てなことを考えていたのでした。
その頃に『現代用語の基礎知識2006』の執筆依頼が来たので、「小泉チルドレン」についても書くのかなと思ったら、
「『小泉チルドレン』は、政治用語のところで既に取り上げますので、こちらでは結構です。でも『○○チルドレン』という言い方について書いてください。」
とのことでしたので、書きました。それをここに掲げます。
★○○チルドレン
2005年9月11日の衆院選で、小泉純一郎総理の息のかかった「新人」議員たちのことが「小泉チルドレン」と呼ばれた。この「○○チルドレン」という呼び名、10年ほど前には、土井たか子・社民党党首のもと議員となった福島瑞穂氏、辻元清美氏らが「土井チルドレン」と呼ばれた。さらに小沢一郎・新進党党首の下で1年生議員となった人たちは「小沢チルドレン」と呼ばれた。その昔「フラワー・チルドレン」というのもあった。
インターネットのGoogle検索(2005年9月30日)では、「小泉チルドレン」=8万5600件、「土井チルドレン」=314件、「小沢チルドレン」=197件、「フラワー・チルドレン」=1万件。
「チルドレン」は「派閥」と似ているが、従来の政治手法である「派閥」とは違う形で集まっていることを強調するために、「派閥」という言葉は使わない。
「チルドレン」と「○○派」の違いは、まず、派閥構成員の力量の違いにある。「チルドレン」は、構成メンバーが領袖に比べて非力すぎ、領袖に取って代わることはない。しかし「派閥」の場合は、継承者の椅子を狙うナンバー2、ナンバー3という有力者がいる。「群雄割拠」が「派閥」、「トップとその他」が「チルドレン」。「チルドレン」は付きまとっているだけで、ドンの力が頭一つも二つも三つも飛び抜けているので、「派」にはならない。「チルドレン」は、所詮「子ども」ということか。
また「その派閥の領袖が、与党にいるかどうか」という要素も大きい。小沢、土井は、与党ではなかったので「○○派」ではなく「○○チルドレン」。その考え方でいくと、小泉は与党の総裁であるので、「小泉派」としてもよいのだが、「自民党をぶっこわす」を標榜して派閥をぶっ壊す人なので、「与党であって与党でない」立場にある。よって、野党と同じように「チルドレン」となってしまうのではないか。
Googleで「○○チルドレン」の「○○」に、人の苗字を入れて検索したところ(9月30日)、「菅チルドレン」=73件、「青木チルドレン」=21件、「野中チルドレン」=17件、「武部チルドレン」=30件、「鳩山チルドレン」=1件で、「神崎」「志位」「前原」は0件であったが、「田中チルドレン」=354件。この「田中」は田中角栄・元総理ではなく、田中康夫・長野県知事である。また「岡田チルドレン」=50件だが、こちらは民主党の岡田克也・前代表ではなく、2年ぶりの優勝を決めた阪神タイガースの岡田彰布監督を指していた。(なお「岡田チルドレン」は、1998年、岡田・現監督が、阪神2軍の打撃コーチに就任して12年ぶりにウエスタンリーグで優勝した時に育てた、浜中おさむ・田中秀太・関本健太郎といった選手のことで、「小沢チルドレン」になぞらえて岡田門下生を呼んだもの。日刊スポーツの井之川昇平記者が命名したという。)
「チルドレン」と同じようなものに、吉田茂・元総理の「吉田学校」があった。池田勇人、佐藤栄作などが「吉田学校」の生徒。自由党入党・総裁就任後に、少なかった子飼いの勢力を拡張するため、吉田は多くの官僚出身者を国会議員に引き立てた。これが「吉田学校」と呼ばれたグループである。しかしこれ以外に「○○学校」があったかと言うと、小説のタイトルとしては『池田学校』『角栄学校』があるが、「吉田学校」ほど一般的ではない。(「学校」と言うからには「先生と生徒」という関係。「派閥」は大人同士、「チルドレン」は「親子」という関係性。)
また、小泉が総裁になってすぐの選挙では、「小泉チルドレン」ではなく「小泉親衛隊」という言い方が一般的だった。これは既に政界に身を置く若手政治家が、本来の所属派閥を超えて、草の根的に小泉を応援するという流れの中でそう呼ばれていたので、新人議員ではなかった。この「親衛隊」という言い方は、小沢一郎にも「小沢親衛隊」と使われた。この場合は、新進党とか新生党とか自由党という党本来の枠組み以上に、小沢個人に心酔して付いていく信奉者に対して使われていたようだ。
ということでした。 |