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【日本版コラム】アメリカ人記者が見たCEATEC―「革新性」に注目集まる

津山恵子 フリージャーナリスト

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 「みろ、本物のエビが入ってるぞ」「ハンバーガーもアメリカより大きいぞ」―—。

 10月初旬、私は千葉・幕張メッセの会議室で7人の米国人記者が日本のマクドナルドのハンバーガーに感動している姿を目撃していた。日本最大のIT(情報技術)家電見本市、「CEATEC JAPAN 2010」の取材に来ていた米国人記者の取材コーディネーターとして、日本を訪れていたからだ。

イメージ Bloomberg News

三菱自動車の電気自動車「アイミーブ」

 米国で誕生したファストフードも、「品質」「中身」重視で、米国人を驚かせているという事実に、日本流ビジネスのきめ細かさを実感した。

 「アメリカの携帯電話は、日本より3年以上遅れている。これこそ、人々が求めているものなのに!」

 と嘆いていたのはアフリカ系アメリカ人向け音楽チャンネル、「ブラック・エンターテインメント・テレビジョン(BET)」のジェフ・ジョンソン記者。民放各社が出資して設立された携帯電話向けテレビ放送サービス、マルチメディア放送(mmbi)ブースの取材中だ。

 もちろん、日本では現在ワンセグでテレビ番組を携帯電話で見られるが、2012年からは放送デジタル化で空き地となるアナログ放送の周波数を使って、携帯電話向け放送サービスが新たに始まる。一方、米国では携帯電話でテレビ放送をリアルタイムで見るサービスはほとんど皆無だし、計画すら聞かない。

 激しい視聴率競争をしているケーブルネットワーク局のBETは、音楽が中心で、しかも視聴者は圧倒的に若者が多い。ジェフは、携帯電話向けの放送がいかに若者にアピールするかを知っていて、mmbiに注目したわけだ。

 ジェフは、三菱自動車のエコカー「i―MiEV(アイ・ミーブ)」も運転免許がいらない幕張メッセ会場内で試乗、長いリポートを撮影した。

 「BETの視聴者がこんなすごい日本の技術のことを知る機会は極めて少ない。編集者がリポートをカットしなければいいけど」という惚れ込みようだ。

 日本の環境関連ビジネスも、海外メディアの注目の的だ。環境ビジネスのオンラインメディア「Greentech Media」のマイケル・カネロス編集長は、CEATEC取材陣の常連。「グリーン・テクノロジーは、消費者の手に入るまでに80年ぐらいはかかるのでは、と思っていたけど、この数年は現実のものとなってきた。しかもデザインがおしゃれになって、親しみがわく」と語る。

 マイケルが注目していたのは、TDKの「シースルーOLED(有機ELパネル)」。プロトタイプだが、一方からは映像が見えるものの、後ろからは見えない。また、ヤマハの超薄型静電式スピーカー「TLF―SP(Thin-Light-Flexible Speaker)」は、1.5ミリの薄さで軽量。これらがなぜ、グリーン・テクノロジーか、と疑問に思うが、マイケルはこうした部品の小型化や革新性に注目する。「部品が薄く軽量になるほど、製品にかかるコストが軽減できる。製造過程の原材料や、工場での消費電力も大幅に抑えることができる」と彼は言う。

 CEATEC最終日の一日前に取材に来たのは、女性レースカー・ドライバーで環境問題活動家のレイラニ・ムーンター。早朝に日産自動車の環境関連ブースを使って、何本もビデオを撮った。12月から発売される電気自動車「リーフ」を熱心に取材。米テレビ局からの電話取材に答えて、全国に2200の充電ステーションができること、30分で約8割の充電ができることなど事細かにリポートした上で、「米国が外国の原油を買うのに何十億ドルも費やしているうちに、ほかにできることがたくさんある。私は家にソーラーパネルを付けて、それで電気自動車を充電して走りたい」と締めくくった。

 冒頭の米国人記者7人はCEATECの期間中、ベスト商品賞に相当する「米国メディアパネル イノベーションアワード」を選んだ。最優秀賞を選ぶ審査会議で、IT関連ウェブサイト「Engadget.com」のジョシュア・フルーリンガー記者が口火を切った。「いいかい、キーワードはInnovation(革新)と Revolution(革命)だ」。狭い幕張メッセ会場にそんなに革新と革命が転がっているのか、と思ったが、彼はあっと言う間に8つの商品を挙げた。こうして7人がそれぞれ、お気に入りの商品や技術を数十にわたりエントリーしたが、最優秀賞は全員一致で、東芝の「グラスレス3Dレグザ」となった。重たくて煩わしいメガネをかけないで、3Dテレビが見られることが3D技術の主流になるという理由からだ。

 米国人記者らが次々に発見する日本の「革新性」に、逆に驚いていた5日間だったが、残念なのは、日本のメーカーの宣伝が下手なことだ。米国から「Cnet.com」、BET、Engadget.comのような有力メディアまで押し掛けるのに、説明パネルに英語がほとんどない。7人の記者も、ハイライトとなる商品の英語の資料は、幕張に来てから手渡された。

 米国人記者の目を通して、日本の技術力を教えられたものの、もどかしさも残る一時帰国だった。

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津山恵子(つやま・けいこ) フリージャーナリスト

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東京生まれ。共同通信社経済部記者として、通信、ハイテク、メディア業界を中心に取材。2003年、ビジネスニュース特派員として、ニューヨーク勤務。 06年、ニューヨークを拠点にフリーランスに転向。08年米大統領選挙で、オバマ大統領候補を予備選挙から大統領就任まで取材し、AERAに執筆した。米国の経済、政治について「AERA」「週刊ダイヤモンド」「文藝春秋」などに執筆。著書に「カナダ・デジタル不思議大国の秘密」(現代書館、カナダ首相出版賞審査員特別賞受賞)など。

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日本版コラム〔10月18日更新〕