英語メディアが第三者の目で見た日中のデモ、浮かび上がるのは

gooニュース・JAPANなニュース2010年10月19日(火)13:30

学生たちが「中国女性の服を脱がせようとした」とは、いったい何事か。記事によると、成都にあるコーヒー・チェーン「Dicos」で食事をしていた女性は、実は伝統的な中国服を着ていたのだが、それを日本の着物と間違ったデモ隊は「むりやり服を脱がせた」とAP通信は書きます。女性はトイレで服を着替え、ほかの人から服を借りる羽目になったのだと店長が話しているそうです。

記事によると、「成都のデモが当局の許可を得ていたか不明だが、政府支援を受けている大学組織が主催していたと、香港の『蘋果日報(アップルデイリー)』は書いている。成都の西南民族大学の学生は(中略)デモの計画はネットのチャットグループを通じて広まったが、主催者が誰かは分からないと話した」とのこと。

「北京の中国人民大学で国際関係論を教える時殷弘教授は、政府がデモに反対していたなら、学生たちが参加できたはずはないと話す」とAP通信は書き、さらに北京の中国社会科学院政治学研究所のアナリスト、リュウ・シャンイン氏にも取材。デモは中国人の怒りが中国政府への不満に変化する前に、日本への怒りとして発散させるための場なのだとリュウ氏は指摘します。「国民感情を抑圧すれば、不満が高まるだけだと政府は承知している。国内での政府の評判は、腐敗に汚職、住宅費の高騰、年金問題などと、ただでさえ悪い。国民が外国に抱く不満を発散させてやらなければ、国民は政府の正当性を疑うようになってしまう」と。

中国国務院直属にして最高峰のシンクタンクともいえる中国社会科学院の研究者が、外国メディアに対して、ここまではっきり政府批判をするのに驚きました。これもまた、中国のひとつの側面なのでしょう。開かれていると捉えるべきか、メディア戦術に優れていると捉えるべきか。

しかしそれにしても。「伝統的な中国服」と「日本の着物」の区別もつかずに、女性にその場で服を脱がせようと、いきりたつ学生の集団というのは……。AP通信が伝えたこの出来事が本当なら(疑う理由もありませんが)、非常に象徴的な場面だったように思います。胸が悪くなるほど。

かつて自分も長いこと学生でしたし、大学生だから無知で愚かなわけでも、大学生の集団だから愚かなわけでも、学生運動だから愚かなわけでもないというのは承知しています。それでも、AP通信が伝えたこの場面には、なにか本質的な、暗澹たる既視感を覚えます。今の社会に居場所や仕事が見つけられず、不満に満ちた若者集団、政府や権力者にいいように利用される、教条的でファナティックな若者集団というのは……。ヒトラー・ユーゲントを持ち出すまでもなく、中国にはかつて文化大革命があり、紅衛兵という集団がいたわけですから。

今の中国政府には、21世紀的な経済力と1960年代的な統治術が共存している(1960年代的というのは中国においてであって、欧米基準からすればそれは1930年代的)。それが、私が抱いている違和感の根本なのではないかと思えてきました。

中国政府に対する違和感。ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマン氏は『ニューヨーク・タイムズ』紙のコラムで、中国のレアアース輸出規制を取り上げて、「非常に不穏な感じがする(I find this story deeply disturbing)」と書きました。「世界最新の経済超大国は、その地位に伴う責任を担う用意がないようだ。残念ながら、漁船事件に対する中国の反応はこのことを更に裏付けるものだった」と。

「主な経済大国は通常、国際システムにとっての利害は自分にとっての利害でもあると認識しているので、経済戦争を選ばない。ひどい挑発を受けても。中国によるひどく保護主義的な為替レート政策について、アメリカの政策担当者がどれだけ呻吟と逡巡を重ねてきたかを見れば、それは明らかだ。しかし中国は、政治紛争を意のままにするため、通商上の力関係を何のためらいもなく駆使した。国際通商法にあからさまに違反しているのに(そんなことはしていないと否定するが)。レアアースのエピソードを中国のほかの国際商取引の行動と足し合わせると(中略)、そこに浮かび上がるのは、ルールを守ろうとしない、ならず者の経済超大国 (rogue economic superpower) の姿だ。問題は、では私たちはそれについてどうするつもりなのか、ということだ」


◇本日の言葉いろいろ

nationalist = 国家主義、民族主義、国粋主義、愛国主義

rogue = 悪漢、ならず者 (rogue state = ならずもの国家)

・economic superpower = 経済超大国

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◇筆者について…
加藤祐子 東京生まれ。シブがき隊や爆笑問題と同い年。8歳からニューヨーク英語を話すも、「ビートルズ」と「モンティ・パイソン」の洗礼でイギリス英語も体得。オックスフォード大学修士課程修了。全国紙社会部と経済部、国際機関本部を経て、CNN日本語版サイトで米大統領選の日本語報道を担当。2006年2月よりgooニュース編集者。フィナンシャル・タイムズ翻訳も担当。英語屋のニュース屋。最新の訳書に「策謀家チェイニー 副大統領が創った『ブッシュのアメリカ』」(朝日新聞出版)。


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