問題視されたホメオパシー
かつて訪れたアフリカ某国の厚生省にあたるところには、普通の医療を司る各種部署に加えて、伝統医療部というのがあった。伝統的な部族の呪術師たちを監督する部署だそうな。「なんだい、呪文の統一規格でもつくってるのか」とからかったら、彼らは憮然とした顔をして「俺たちだって呪術なんか効かないのは知ってるけど、でも医療が発達してないところでは気休めでも重要なんだ。そしてときどき、プラスチックを粉にして飲むとエイズが治るとか、有害な教えを連中が広めたりする。それを把握して指導しないといけないんだよ」と説明してくれた。ぼくは己の不明を恥じたのだった。
さて、この夏には「ホメオパシー」というインチキ民間療法が問題視された。毒物の波動を転写した(といっても分子一つもないくらい薄めるだけ)水と砂糖玉で病気が治ると称する療法で、それを広めるために現代医学すら否定することも多い。むろん蓼食う虫もなんとやらだが、それがなんと医療関係者のあいだに蔓延し、まともな医療を奪われた患者が死亡するに至り、大きな問題となった。
じつは、こうした医療関係者のあいだの怪しげな民間療法蔓延は、日本に限った話ではない。英米では一時、「セラピューティック・タッチ」なるものが医療関係者に蔓延して問題になった。患者の身体に手をかざすと、患部が感じられて治療もできてしまうという民間療法で、入院中にそれをしつこく奨められた9歳の女の子が、頭にきてその連中に検証実験を行ない、患部どころか机のなかの手の位置すら当てられないことを明らかにした論文を発表して話題になったりもした。
むろんその気持ちはわからないでもない。医療関係者は、患者さんのためにできるかぎりのことをしたいという使命感を抱く人びとだ。そして人は、無力だと思うのはいやだ。実際にはクソの役にも立たなくても、患者に対し何か努力をしているのだ、と思えるのには安心感があるのだろう。そしてそれは患者(とその家族)も同じだ。チリの大作家イザベル・アジェンデは、不治の病で意識不明となった娘を前に、だんだんインチキ民間療法にからめとられていった。その痛々しい様子は、彼女の『パウラ』に(得意げに!)描かれている。心細い病人にとっては、気休めでも重要なのだ。
専門性のない大臣のお粗末
だが有害な気休めは排除しなくてはならない。イギリスにはロイヤル・ホメオパシー病院なるものがあって、日本のホメオパシー業者の拠り所になっていた。イギリスではちゃんと認知された療法だ、というわけだ。だがじつはこの病院、日本での騒動の直前になくなっている。長年にわたり何一つ実績が出せずに予算縮小されつづけ、他の民間療法といっしょくたの「統合医療病院」となり、それも近いうちにお取りつぶしだろうといわれる。よいことです。患者の気休めになるとはいえ、こういうものに対する公的なお墨付きはなくす方向なのだ。
ところが日本では、鳩山前首相がそんなものを真面目に採り上げるといいだした。そして実害が出て、各方面から批判が出てきたが、一方で長妻前厚生労働大臣の指示で、同省の研究班ががんの補完代替医療の事例収集を行なうとのこと。「補完代替医療」についてはすでに多くの研究で有効性が否定されているはずだが、まともなかたちで検証するのであれば止めはしない。
だが一方では、「頭がよくなるパン」という明らかなジョーク商品に対して、効果が検証されていないからと保健所から指導が入ったとか。そっちも検証したらどうです?
むろん、ほんとうは鳩山前首相が思いつきでくだらないことを口走ったのがアホだ。そしてもし政治主導をいうなら、厚労大臣は医療のイロハくらいは理解していて、鳩山ルーピー発言は黙殺するか明確に否定すべきだ。ところがいまは、何の専門性もない者が党内派閥のご褒美として、中身を何も知らない役所の大臣になってしまうからこんなぶざまなことになる。
温室効果ガスの削減など、環境問題に注目が集まるなか、石油はともすれば「悪しき要因」としてばかり取り上げられがちである。しかし、無資源国であるわが国にとって…
人類の歴史は常に「危険への挑戦」の連続であった。それを一つ一つ真摯に受け止め、一歩一歩確実に克服してきたからこそ今日のような豊かで多様な文化があり…
悩める個人投資家に朗報!
元為替チーフディーラーの両雄が!)下落相場でも勝てる!)投資法を徹底指南!
コンプライアンスは一般に「法令遵守」と訳されている。「その“遵守”が間違い」だと郷原氏は指摘する。ただし、それは法令遵守だけでは足りないという意味ではない。とにかく法令を守れ、違反するなというだけでは、何のために、なぜ守らなければならないのか…
木内博一 (農事組合法人「和郷園」代表理事)
当連載が本になりました!
『最強の農家のつくり方』(定価1,470円)
「農業界の革命児」が語る成功の方程式と日本再生への構想をぜひ、ご一読ください。
野口悠紀雄(早稲田大学教授)
「オフショア」「タックスヘイブン」の姿を知ることで、日本経済の問題点と進むべき道が見えてくる!
第2回 タックスヘイブンは存在悪か?