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2010年10月20日(水)付

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「陳情」改革―今度こそ旧弊を断って

利益誘導の温床になりがちだった「陳情」システムを、民主主義をよりよく機能させるための装置に変える。それくらいの発想を求めたい。民主党が陳情・要請対応本部を設置した。昨年[記事全文]

アルマ望遠鏡―よその惑星系を見たい

私たちの宇宙観は、ガリレオが小さな望遠鏡で木星の衛星を発見して以来、新しい観測手段が登場するたびに大きく変わってきた。今度はどう変えてくれるだろう。そんな期待をしたくな[記事全文]

「陳情」改革―今度こそ旧弊を断って

 利益誘導の温床になりがちだった「陳情」システムを、民主主義をよりよく機能させるための装置に変える。それくらいの発想を求めたい。

 民主党が陳情・要請対応本部を設置した。昨年、当時の小沢一郎幹事長が主導した陳情改革の弊害を踏まえ、新たな仕組みを築く。

 昨年は「政官癒着の排除と利益誘導型政治からの脱却」を掲げ、分権型陳情と名付けた仕組みをつくった。具体的には自治体や業界団体などの陳情を幹事長室に集約し、政府側に伝えた。

 だがガソリン税暫定税率の水準維持をはじめ、小沢氏が鳩山由紀夫首相に「全国民からの要望」と称して伝えた重点要望は、どんな陳情に基づくのかもわからず、あまりに不透明だった。

 公共事業の「個所付け」に関する情報を、陳情への回答という形で、国土交通省に先立って党から自治体に伝えたのも、権勢の誇示だと批判された。

 それは脱・利益誘導でも分権型でもない。改めるのは当然である。

 本部には幹事長室と組織委員会、企業団体対策委員会、政策調査会の35人が加わる。枝野幸男本部長によれば、多くの人がかかわり、牽制(けんせい)しあうことで公正を期すという。それは当然として、もっと大胆な変更が必要だろう。

 陳情といっても中身は様々だ。ここに道路を、といった個所付けの要望は公共事業予算の奪いあいにすぎない。

 菅直人首相は、来年度予算から補助金の一括交付金化に着手するとし、「地域で、霞が関の発想に縛られない独自のモデルを構想して下さい」と促している。ならば、交付金の自由度を徹底して高め、分権を進め、陳情などせずに済むようにするべきである。

 個所付けをめぐる陳情が減り、永田町と霞が関に閑古鳥が鳴き始めれば、目標達成といっていい。

 地域では決められない大規模な事業は、国家戦略や費用対効果を基本に判断すればよい。

 一方で、地域や業界の実情を聞き、政策提言を受け付ける回路は開いておかなければならない。

 その際に大切なのは、カネと票との取引という旧弊と縁を切ることだ。「選挙目当て」は、底が割れる。

 業界団体や自治体に限らず、NPOやふつうの地域住民に門戸を開く。だれもがアクセスできれば偏りは小さくなり、「国民の声」の実態に近づく。そうなれば目標達成である。

 予算の奪いあいから、市井の知恵の出しあいへ。いっそのこと、この際、陳情という言葉を使うこと自体をやめてみてはどうか。

 陳情には、「お上」に申し上げるというニュアンスがつきまとう。だが、主権者は国民である。おねだりでも分け与えるのでもなく、同じ地平に立ってともに考える姿勢が大前提だろう。

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アルマ望遠鏡―よその惑星系を見たい

 私たちの宇宙観は、ガリレオが小さな望遠鏡で木星の衛星を発見して以来、新しい観測手段が登場するたびに大きく変わってきた。今度はどう変えてくれるだろう。

 そんな期待をしたくなる大型望遠鏡の建設が、鉱山の救出劇で注目された南米チリで進んでいる。アタカマ高地で日米欧が共同して作るアルマ電波望遠鏡だ。自力で光れない生まれる前の星や物質が出す電波を観測する。来年初めに一部の観測が始まる。

 現地は標高5千メートル、空気が平地の半分しかない。研究者らはゆっくり呼吸しながら、ゆっくり歩く。苦しくなったら酸素を吸う。紫外線が強いので、顔が真っ白になるほどの日焼け止めも欠かせない。人間に厳しい環境だが、電波のゆらぎを生じる空気が少なく、乾燥していて電波を吸収する水蒸気も少ない。観測に最適な地である。

 電波をとらえるのは、パラボラアンテナだ。直径12メートルが54台、7メートル12台、合計66台ある。移動でき、観測目的にあわせて配置を変える。山手線の内側より広い直径18キロの範囲に展開すると、同じ直径の巨大アンテナに相当する分解能が得られる。

 視力でいうと、人間の1.0に対して6千、ハッブル宇宙望遠鏡の10倍、東京から大阪の1円玉が見分けられる目のよさだ。

 それぞれ計画を進めていた日米欧がチリの協力を得て、技術や費用を出し合っている。総額約1200億円。日本からは国立天文台が参加し、費用の4分の1を負担する。

 観測のねらいはまず、惑星系の誕生現場をとらえることだ。1995年以来、中心の星の手前を横切るのをとらえるなどの方法で、450個以上の太陽系外の惑星が見つかっている。

 地球のように生命を育める惑星はあるか、そもそも惑星系はどうやってできるのか。太陽系や地球はありふれた存在か、それともまれなのか。

 よその惑星系の詳しい観測が答えを与えてくれるだろう。結果次第で、この宇宙に生命や文明はどれくらいあるのか、手がかりも得られそうだ。

 生命に関連するアミノ酸などの分子があるかどうかも、電波の特徴を手がかりに探る。宇宙の果てで銀河が生まれる現場を見ることも大きな目的だ。

 電波観測は日本の得意分野といっていい。長野県の野辺山にある口径45メートル電波望遠鏡は、ミリ波という領域で30年世界一の座にある。アタカマ高地を命がけで踏査し、観測の適地であることを見つけたのも日本の研究者だ。

 近くの5600メートルの山頂にある東大アタカマ天文台ではこの夏、口径1メートルの赤外線望遠鏡が出来た。全国の大学が協力して、研究と教育に使う。

 日本への期待は大きい。持ち味を大いに生かし、世界を驚かせたい。

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