その瞬間、成瀬は両腕を天に突き上げた。小久保の力ない打球は西岡のグラブへ。エースは、ナインと歓喜の抱擁を交わした。
1失点完投勝利を飾った第1戦に続き、雌雄を決する最終戦でも快投を演じたのは、やはり成瀬だった。わずか4安打で二塁も踏ませない圧巻の投球は文句なしのMVP。鮮やかに“下克上”を完遂し、シーズン3位チームの日本シリーズ進出という新事実を日本プロ野球史に刻んだ。
「ボクらは3位でチャレンジャー。負けて当たり前と開き直っていたので、驚くほどプレッシャーがなかったし楽に投げられた。無四球でしたし、120点です」
2戦連続して中4日での登板だったが、今の成瀬には関係ない。「体は重かったけど1人で投げ抜いてやろうと思った。(4点の援護を得た)五回からはギアを上げていきました」
その力投に西村監督も「中4日が続いたのに結果を残してくれた。さすがエース。素晴らしかった」と目を細めた。
修羅場をくぐり抜けてきたからこそ、大舞台でも平常心で投げられた。最後の3連勝で3位に滑り込んだレギュラーシーズン。1日の最終戦(対オリックス)は、6回1/3を3失点と苦闘しながら勝利投手になった。それでも表情は青ざめていた。「(登板前夜に)まったく眠れなくて…本当に苦しかった」。
それが、負ければ終わりの試合をモノにしていくうちに、成瀬もチームもたくましくなっていった。CSファーストステージでは西武を連日の逆転劇で破り、ファイナルステージはリーグ覇者に王手をかけられてから、怒とうの3連勝。「貴重な経験をさせてもらって、ステップアップできたと思う」と振り返った。
記念のウイニングボールは西岡に渡した。
「主将(西岡)に引っ張ってもらいましたから。ボクにはまだもらう機会があるし、日本シリーズでは1球1球大事に投げて、最低限の投球をしたい」
5年ぶりの日本一へ。日本シリーズも成瀬が奇跡を起こすキーマンとなる。(片倉尚文)