きょうの社説 2010年10月20日

◎COP10開幕 ハードル高い「南北問題」
 生物多様性条約の第10回締約国会議(COP10)が名古屋市で始まり、豊かな生態 系を守るための議定書の採択をめざして本格討議が行われている。条約加盟国が心を合わせることが望まれるが、生物多様性の問題は環境保全問題というよりも、経済利益をめぐって先進国と発展途上国が争う「南北問題」の性格が色濃く、合意するのは容易ではない。議長国の日本は主導力を発揮しなければならない。

 先進国と途上国の最大の対立点は、遺伝資源で得た利益配分をどうするかである。植物 や微生物の遺伝子には特異な働きをするものがあり、この遺伝資源を応用した医薬品や健康食品が少なくない。米国の製薬会社がマダガスカル原産のニチニチソウという植物から抗がん剤を開発し、巨額の利益を上げた例はよく知られる。

 この植物は現地の住民が薬草として大事に守ってきたもので、製薬会社から何の見返り もないことに不満が募り、遺伝資源による利益を公平に配分することが生物多様性条約の目的に加えられた。

 しかし、具体的な配分ルールの決定は、これまで持ち越されてきた。原産国(途上国) 側は、遺伝資源の「派生品」やワクチン開発に役立つウイルスなどの病原体まで対象に含めるよう求めているほか、植民地時代にさかのぼって利益配分を求める強硬意見も出ているという。

 これに対して、先進国側は過大な制約で企業の開発が抑制されるのを恐れ、慎重な姿勢 をとっている。

 この溝を埋めるのは簡単ではない。中国は、新型インフルエンザの治療薬タミフルの主 原料である八角など遺伝資源の原産国の立場と、将来の利用国の立場も考えてか、事前協議では沈黙を保ってきた。中国が途上国と先進国のどちらに比重を置くかで議論は大きく左右される可能性がある。

 また、たとえ合意に至ったとしても、バイオ産業が盛んで、世界最大の遺伝資源利用国 の米国が条約の網から抜け落ちるという大きな問題が残される。

 議論の大前提として、遺伝資源は共有の財産という共通認識に立つことが大事であろう 。

◎教員確保策を強化 質の向上も問われている
 石川県教委は今年度、教員志望者の確保を狙いに県出身の学生が在学する県外大学への 訪問活動などを強化する。約10年後にピークを迎える教員の大量離職に備え、これまでも受験資格の年齢制限緩和などで受験者増を図ってきた。全国的に教員確保の動きが強まるなかで、意欲のある志望者の掘り起こしに努めてもらいたい。

 数の確保と合わせて、問われているのが質である。折しも教員の相次ぐ不祥事が問題と なった。ごく一部の者であっても、教員にあるまじき行為は児童生徒、保護者ら多くの信頼を損ない、教育現場に深刻な影響を与えてしまう。来春採用の公立学校教員試験の合格者は、過去10年間で最多となる355人(前年度250人)に上った。今後も世代交代が急激に進み、次代を担う教員の質の向上が欠かせない。

 今年の試験は公務員志向の高まりや県教委の取り組みが奏功するなどした形で、受験者 数も過去10年間で最多の1600人を超えた。それでも倍率は低下しており、人材確保に向けて今年は大学向けの説明会の時期を半年前倒し、対象外だった1〜3年生も対象に加える考えである。より多くの機会を設けて、石川県が望む教師像や子供たちが求める先生像、現役教員の声を伝えるなどして、やる気と能力のある人材が石川県の教員を目指すよう後押ししてほしい。

 誠に残念なことに今年は金沢市の2人の教員が盗撮と買春容疑で逮捕された。教育界全 体で重く受け止め、再発防止を徹底しなければならない。採用にあたっての人物や適性の見極め、採用後の研修や日ごろの指導、コミュニケーションなどを再点検して、新人からベテランまでの教員の資質の向上につなげる必要がある。

 健康面では昨年度、県内の公立学校で、うつ病などの精神疾患を理由に休職した教員は 45人に上り、3年連続で前年度を上回っている。理由はさまざまだが、職場の対人関係や家庭の問題などが複雑に絡んでいると県教委は分析している。学校全体で心身の健康を守る環境を整えてもらいたい。