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「家で最期」支える訪問看護
「住み慣れた自宅で最期まで過ごしたい」と望んでも、それがかなう人は少ない。実現には何が必要なのか。訪問看護ステーションの取り組みから考えた。(針原陽子、写真も)
病院やボランティアと連携
東京都新宿区の静かな住宅地。一人暮らしの女性(95)のもとを訪れた看護師の田中信子さんが、血圧を測りながら「夜、一人で寂しくないですか?」と話しかけた。女性は「寂しくないよ」と答える。2人は10年来の付き合いだ。
認知症や心臓疾患のあるこの女性の要介護度は現在、最重度の「5」。家族が朝と週末に訪れるほか、訪問介護・看護、医師の往診を受けている。しかし、一人の時間も多い。万一の事態がいつ起きてもおかしくないが、「救急車は呼ばない」と以前から約束している。家族やヘルパーが異変に気づいた時は、田中さんの勤める「白十字訪問看護ステーション」(本部・新宿区、秋山正子代表)に連絡し、そのうえで往診医を呼んだりすることになっている。
女性の次女(64)は「母にとってはこの家こそ『自分の居場所』。最期は家で迎えさせたい。訪問看護や往診の先生たちが支えてくれるので安心です」と話す。
同ステーションは、常勤9人、非常勤7人の看護師が、1か月に平均150人を担当する大規模事業所。在宅
自宅で死亡12%
厚生労働省によると、2009年の1年間で、最も多かった国内の死亡場所は、医療機関で81%。自宅での死亡は12%にすぎない。08年の別の調査では、一般国民の63%が終末期の自宅療養を望むと回答。一方で66%が「家族に負担がかかる」「急変した時の対応に不安がある」などから、家で最期を迎えるのは実現困難と答えている。
ステーションでは「家で最期を迎えられる」と本人や家族に伝えるほか、在宅療養をしやすくするため、ボランティアを養成したり、病院や行政に働きかけたりするほか、住民啓発などにも取り組む。
例えば2年前、病院から自宅に戻った肺がん末期の男性(当時76歳)。同ステーション内に事務局を置くボランティアのメンバーが見守りを兼ねて男性宅を訪れ、その人生を聞き取った。男性は死の数日前、自らの人生が聞き書きされた冊子の表紙を見て笑みをこぼした。
男性の死後、ステーション代表の秋山さんらは病院を訪れ、自宅での様子を報告。主治医は「『男性、一人暮らし、肺がん』の在宅療養なんて想定外だった。今後は希望があれば対応したい」と答えたという。
ステーション主催で開かれた在宅療養に関するシンポジウムでは、男性の家族も参加し、「最期を住み慣れた家で精神的に楽な状態で過ごせた。私たち家族も満足できた」と語った。
生活の質落とさず
秋山さんは「自宅の方が生活の質がよく、本人や家族の満足度も高い。ただ、『絶対在宅』でなく、その人にとってどんな形がいいのか考えている」と説明する。
新宿区も、在宅療養の支援に乗り出した。かかりつけ医の紹介、在宅療養者の急変時に備える「緊急一時入院病床」の確保、訪問看護ステーションの人材確保――などに力を入れる。健康部の白井淳子副参事は「最期まで自宅で療養したいという区民の声に応えるため、在宅療養の支援は急務。今後も在宅医療関係者の話を聞きながら施策を進めたい」と意欲的だ。
◆白十字訪問看護ステーションのホームページ(http://www.hakujuji-net.com/020/) ◆新宿区の療養支援策は、同区健康推進課のページ(http://www.city.shinjuku.lg.jp/fukushi/index02_04.html)が詳しい。 |
(2010年10月19日 読売新聞)
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