あなたはビル・ヘンソンの写真に賛成、それとも反対?




アメリカで写真といえばいまだにアンセルアダムスの写真を多くの人が思い出す。
写真にさほど興味のないアメリカ人にとって彼は写真の代名詞だ。
写真にさほど興味のない日本人に木村伊兵衛や森山大道と言ってもぜいぜい時代劇の役者か何かだと思うかも知れないが、篠山紀信やアラーキーの名前を聞いてプロレスラーや政治家を思い浮かべる人は少ないだろう。
タスマニアで写真が好きだと言えば写真に興味のないほとんどの人たちはピーター・ドンブロンスキーというタスマニアの伝説的写真家の話をはじめる。
では写真に興味のない一般的オーストラリア人にとってアンセルアダムスや篠山紀信にあたる人は誰だろうか?
それはきっとビル・ヘンソンではないだろうか。


























3点ともにビル・ヘンソン
















写真家としてオーストラリアではすでに揺るぎない名声を収めているビル・ヘンソンだが昨年シドニーの個展で彼は地雷を踏んでしまった。
思春期の少年少女(12歳から16歳以下)を被写体にしたヌード写真が児童保護団体から猛烈なクレームを受け、写真展のオープニング直前に作品が警察に押収されてしまったのだ。
ケビン・ラッド首相もビル・ヘンソンの作品に対してかなり強い批判のコメントを出し、これはオーストラリア中の論争の的になった。
美しい少年少女の写真はアートか児童ポルノか?
以前紹介したゲイ・レズビアンのパレード、マルディグラが人びとに受け入れられるこの自由な国においてビル・ヘンソンの写真展がこれほどまでの論争になったことは僕にはとても驚きだった。
自由、自由と言うが、これがひとたび子供の問題になるとオージーたちは極端にナーバスになる。
学校でも公園でも子供たちを守ろうとするルールはかなり厳しい。
僕も子供を持つ親、こういう動きには大いに賛成だ。
こういうことに関して厳しいのは基本的に大切なことだと思う、基本的には。
日本で起こる登校、下校時の痛ましい事件・事故をオーストラリア人が耳にするたび彼らは素朴な疑問を持つ。
どうして親が子供たちを送り迎えしないのかと。
ほとんどの先進国では子供を学校に送り迎えするか、スクールバスを使って登下校するのが常識だ。
それは登校、下校時が危険だからだ。
日本ではすでに多くの事件事故が起こっているにも関わらずこういう基本的なことが見直されない。
これは本当に不思議だ。
話は写真に戻るが、子供の写真の扱いに対する学校や親たちの反応が過剰ではないかと思うことがしばしばある。
子供を守ることに関して厳しいのは賛成だとさっき言っていたじゃないか、と突っ込む人もいると思うがこういうことへの過剰なルールは物事の本質を見る目や感覚を奪ってしまう危険性があるような気がするのだ。
子供たちが関わる写真の仕事は制限が多すぎてなかなか思うようなものが撮れない。
卒業式や運動会で自分の子供すら撮影禁止の学校も出始めているらしい。
子供たちの顔が一切出ない学校のホームページ、子供たちの顔が出ない公園の写真、僕たちは将来写真で子供たちの姿を見ることができなくなるかもしれない。
西欧の宗教画などでは全裸の天使が空を舞い、噴水に小便小僧がオシッコを流すが、たぶん近い将来ユニクロのTシャツと短パン姿で空を舞うキューピットや便器に座る大便小僧しか僕たちは目にすることが出来なくなるだろう。

子供たちを暗闇から見つめ、牙を剥く獣が世の中に増えすぎていたとしても裸イコール悪という公式を僕たちは作るべきではない。
男も、女も、子供たちも、年寄りも、裸には語り尽くせないストーリーがあり、性別、年齢、体型に関わらず美しい。
子供たちを守るという強い決意と全てを覆い隠してしまわないというきわどい判断の狭間で僕たちは上手くバランスをとりながら生きていかなければいけない時代に突入しているようだ。

で、あなたはビル・ヘンソンの写真に賛成、それとも反対?


















テキストとは関係ないけど、ソーマとシオナ@キングストンビーチ








ビル・ヘンソンの写真をもっと見たい人はこちらで












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# by somashiona | 2009-03-30 21:19 | Trackback(1) | Comments(33)

タスマニア冬の風景#5

北海道で生まれ育った僕にとって、暖房とは灯油を燃やすというイメージに直結する。
幼い頃、学校で石炭ストーブを使っていた記憶がかすかにある。
石炭ストーブの周りには鉄の柵のようなものがあって、休み時間雪に埋もれたグランドでクラスメートと遊んだ後、皆のぬれた手袋や帽子がストーブの柵にぶら下げられ、そこから湯気が上がっていた。


タスマニアの暖房は、おそらくまだ木が主流だと思う。
冬になると長さ30〜40cm直径20〜30cmに切られた丸太が小型トラックの荷台に満載され道路の路肩に止めてあるのをよく目にする。
そのくらいの量だと大体200ドル前後の値札が荷台に表示されているはずだ。
このトラック一杯の丸太、以前住んでた家では1ヶ月半で全て消費した。
冬期間中、タスマニアの人たちが皆、毎日この勢いで木を燃やしていると考えると、ちょっと恐ろしい気がする。
世界の暖房燃料の80%以上はまだこの木に依存しているらしいので、冬になると世界中で凄まじい量の木が灰になっているということだ。


今僕が住んでいる狭いフラットでは電気ストーブを使っている。
僕は寒がりなので朝起きたらすぐにこのストーブのスイッチをオンにし、家にいる限りは寝る前までオフにすることはない。
家の中ではアウトドア用の温かいソックスをはき、常時フリースを着ている。
(北海道の冬、家の中ではTシャツだった)
時にはダウンベストを着て、毛糸の帽子をかぶることもあるが、それでも歯をカチカチならし、震えているときがある。


ベッドのシーツの下はもちろん電気毛布。
つい最近までは湯たんぽも一緒に使っていた。
湯たんぽ、皆さん知っているだろうか?
厚いゴム製で出来た氷枕のような袋状の物の中に熱湯を注入し、さらにそれを毛がふさふさした厚手の生地で出来た巾着のような袋に入れ、ベッドに入れる寝る。(とても悪い説明文)
僕はこの湯たんぽを毎晩抱きしめて寝ていたのだが、ある日、強く抱きしめすぎたのか、低温火傷を負い、身体に水ぶくれが出来たのをきっかけに、辛い別れを味わった。
この湯たんぽ、タスマニアでは人気の商品で、子供からお年寄りまで愛用者が多い。
僕の子供たちはこの湯たんぽを巾着ではなく、毛がふさふさしたワンちゃんや猫ちゃんのぬいぐるみのような袋に入れて毎晩抱きしめている。
「次はゾウさんのぬいぐるみにしようかなぁ」と僕の家でホットチョコレートをすする友人に言うと「君はね、違うものを抱きしめて寝ることをそろそろ真剣に考えるべきだよ」と彼は真顔で僕に答えた。


あ〜あ、だから冬は嫌なんだ。



























Mt Wellington Pinnacle, Tasmania










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# by somashiona | 2008-07-27 22:02 | Trackback | Comments(12)

ピーターとモーラッグの作品展 #2







さあ、お待たせ、ピーターとモーラッグの作品展!
まずはモーラッグの絵から。
あなたもタスマニアの森に迷い込んでちょーだい。












































































写真ブログで絵画鑑賞もたまにはいいでしょ。
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# by somashiona | 2008-05-17 18:55 | Trackback | Comments(14)

写真モードに変身!




僕の場合、写真を撮るときは写真撮るモードに変身する必要がある。

会計帳簿をつけながら、どうして今月は残高がこれだけなの?と首をひねっているとき、キャンプの前日にソファーに寝転がって明日の天気予報を見ているとき、子供たちに包丁の使い方を教えているとき、どれも真剣で集中しているのだが、写真モードのときの僕とはまったく違う。

本郷タケシや一文字隼人がショッカーと戦う前は、周りに誰もいなくても「変身っ!」と声に出して言い、それから腕を回して飛び上がるように、僕も「違う人」になる必要があるのだ。
(何の話しか分からない人、一番古い「仮面ライダー」を観てください)

僕の知り合いの素晴らしい写心をとる写真家はいつも頭にオレンジのヘッドランプを付けて撮影している。きっとあのランプが彼にとって写真モードに変身する為の道具なのだろうし、有名な風景写真家の方が撮影の時にはいつもバンダナをしているのも、もしかするとそれがその人にとっての写真モードの証なのかもしれない。
奈良で鹿の着ぐるみを着て撮影しているあの人は、もう完全に変身してしまっている。







午前3時30分、ベッドから抜け出し、熱いシャワーを浴びる。
写真機材と入れたてのエスプレッソを車に詰込み、闇の中へと走らせる。
車内では音楽をかけず、ラジオのスウィッチもオフだ。
昨夜からの雨がまだ続いている。
フロントガラスに当たる雨の音がBGMだ。
おおざっぱな方向だけを決め、あとはヘッドライトが照らし出す路面をひたすら凝視する。

しばらくすると、空にだんだんと青味が差してくる。
周りの景色がうっすらと見えてくると、途端に写真モード用のアンテナが動き出す。この日の朝日がどんなものかはまだ分からないが、朝のほんの短いゴージャスな瞬間に心がときめく何かをファインダーの中から覗いていたい。

車をゆっくりと走らせながら辺りの様子をうかがっているとき、たくさんの言葉やストーリーが頭の中を駆け巡る。その駆け巡ったものが感動的であったとき、僕ははじめて写真モードに変身できる。


変身しても見た目は同じなのだが、頭の中と、僕の目はまったく前と違う。
一度変身してしまうと、見るもの全てが感動的に見えるのだ。
とくに見慣れた、何の変哲もない日常的なものが突然光って見える。
これを僕は「感動フィルター」と呼ぶのだが、このフィルターを通してものを見ると足下の石ころ、雑草、頭上の電線、道路標識、もう全てが僕の撮る写真の中になくてはならない大切なキャストのように思える。
肉体的精神的にも顕著な変化が現れる。
体温が上がり、脈拍も上がる。
寒がりな僕だが、この時は寒さなど感じず、恐がりな僕だが、この時はどんなものにも向かっていける。
同時に精神的にはかなりエモーショナルになり、涙腺はゆるゆるだ。
シャッターを切る瞬間がある種のオーガズムだと思ってもらってもいいだろう。(あっ、失礼!)
たぶんある種のドラッグを体内で自己生産している状態なのかも知れない。
子供の頃、具合が悪くなって母親と病院に行くと、きまって「うぅ〜ん、自家中毒ですねぇ、、、」とお医者さんに言われたものだが、これもある意味、大人の自家中毒かもしれない。













雨上がりの、もう何十回も車を走らせ一度も止まったことのない道路の路肩に車を寄せ、路面に反射する朝日に目を潤ませる。
眩しいからじゃない。
まるで生まれてはじめて朝日を見た人のように、「美しい、、、」と呟きながらシャッターを切る。













そうかと思えば道端のフェンスからしたたる雨の滴を見て、なぜだか「もののあはれ」を感じてしまう。
「Oh, what a wonderful world、、、」頭の中はルイ・アームストロングだ。
「素晴らしい、、、」と呟きながらシャッターを切る。













サッカーグラントにひっそりと立つサッカーゴールなどを見た時には、もう人ごととは思えない。「君はいつだって、そんなふうに一人で立ち続けているんだね、、、」と自分にまつわるあらゆる状況を無理矢理サッカーゴールにオーバーラップさせ「いいんだよ、それで、、、」と呟きながらシャッターを切る。


写真モードと感動フィルターさえあれば、被写体を選ばない。
ただ大切なことは一人で行動すること。
このトリップ状態を身近な人が見てしまうと、もう二度と会ってくれない可能性がある。

「こいつ、バカなこと言ってやがる」と思っているあなた。
あなたにも写真モードが必ずあるはず。
いい写真が撮れたときの精神状態をよぉ〜く思い出してみてほしい。
その状態を撮影のたびに、意図的に作れるようになれば、それはもう、写真モード!
さあ、声に出して言ってみよう「へぇ〜んしん、とぉ〜っ!」


(どてっ!)








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# by somashiona | 2007-12-04 16:55 | Trackback | Comments(28)

完璧なる雲を求めて 最終回 ーーー 画家、フィリップ・ウルフハーゲン 














ウルフハーゲンが作品を制作する工程を見ていると、彼の芸術をより一層理解できる。













毎朝、必ずこのスタジオにやって来て仕事をする。
週6日、5時間が基本ルールだ。
仕事中、ヘンデル、ベートーベン、そしてブリテンなどクラッシクを中心にした彼のお気に入りの音楽がスタジオ内に流れる。













パレットの上にはハンドグランドオイルに蜜ろうを混ぜた絵の具の固まりが散らばっている。この調合が彼の作品に独特なムードを与える。この日、パレットの上には雲のベースになる色の絵の具がたくさんの小さな山を作っていた。その山のひとつをナイフですくい、素早くブレンドする。絵の具がもつ独特のきめを引き出せるまで、その行為は続く。彼の作業は全てにおいて驚くほどのスピードだ。ナイフを使って絵の具にラインや立体感を付けていく様子はまるで宝石の原石を削っているかのようであり、湧き出る感情を叩き付けているかのようでもある。




















彼は作品を生み出すためのスケッチとしてカメラを使う。
使い込まれたマミヤ6x7が三脚に取り付けられ、スタジオの脇に置いてあった。













彼の絵がキャンバスに描かれるにいたるまで、様々な思考のスケッチが彼の頭の中で繰り広げられ、それが日記のようにスケッチブックの中に記憶される。
思考のプロセスが記された彼の美しいハンドライティングと水彩でさらりと描かれたスケッチ。それだけでもう完全なアートだ。写真家ピーター・ビアードの日記を僕は思い出していた。













仕事を始める彼。その顔つきは見る見るうちに苦悩の形相に変わった。
絵の具を混ぜる音、キャンバスの上にナイフを走らせる音、そして彼の息づかいがスタジオ内に流れる優雅なクラッシック音楽をかき消すかのように僕の耳に響いた。













「僕はセオリーに乗っ取った方法で絵を描かない。作品制作のプロセスの中から沸き上がるものに忠実に従う、これがある意味、僕の方法論かもしれない」













このプロセスこそが、彼の芸術の要であり、地獄の時間だ。













僕は無言でファインダーから見える彼の姿を追い、シャッターを切り続けた。
おそらくファインダー越しでなければ作業する彼を至近距離から直視できなかったであろう。
真剣勝負する人間の鋭い気がひしひしと伝わってくるのだ。













「創造のプロセスは僕にとって、それはもう、苦悩以外の何ものでもない。表現したいものの核心を得るため、何ヶ月も失意の時を過ごすことがある。そして、それはまるで中世の錬金術や魔術のように、突然目にはハッキリと見えない形で舞い降りて、収まるべき場所へおさまる。それは静寂さと統合性を兼ね備えたもので、あたかもずうっと前からそこに存在していたかのようにやって来るんだ。そして僕がそれを感じ取ったとき、やっといい絵が描けるって確信するんだ」













彼と二人で歩いているとき、僕はちょっとくだらないと思える質問を彼にした。
今回の仕事とは関係のない個人的な質問だ。

彼は優秀な作家であり、同時に小さな子を持つ父親でもある。
スタジオ以外では夫として、父親として全力を尽くす人だ。
彼の創作の世界と現実の家庭生活は対極にあるような気が僕にはしたのだ。
どうやってバランスをとるのだろう、、、?

「人類の共通の感情、自然が発する未来へのメッセージに思いを馳せた1時間後に、僕は子供のおむつを取り替えなくてはいけないんだよ。でもそういう日常の繰り返しがあってこそ、僕たちは人間の普遍性やこの大自然について考えられるようになると思うんだ」

そう言って彼はまた雲を見上げた。













仕事を終え、ホバートへ向かう車の中。
撮影をした僕も、インタヴューをしたギャビーも無言だった。
彼の思想や情熱に打ちのめされたからだ。
この日の経験が何か違った形で活かされる日が、いつの日かギャビーや僕にもやってくるだろう。
追い続ける人から、僕はいつだって大きな勇気をもらうのだ。






おわり






帰りの様子は以前僕がブログでアップした「流れる雲を追いかけて」でどうぞ。









ranking banner画家もやっぱり大変なんだなぁ、と思った人はポチッと、うぅ〜ん、むむぅ〜、、、、(苦悩する音)。





一連のフィリップ・ウルフハーゲン氏の写真はアメリカ合衆国ワシントン州で行なわれる彼の個展のパンフレット用にベットギャラリー・ホバートの依頼で撮影したものです。

彼の作品に関する質問等はBETT Gallery HOBARTへお願いします。(もちろん英語で)

BETT Gallery HOBART
Email:dick@bettgallery.com.au
Web:www.bettgallery.com.au








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# by somashiona | 2007-11-11 16:42 | Trackback | Comments(20)

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