円高・株安:不安底なし 政府、代表選控え「無策」

2010年8月24日 21時48分 更新:8月24日 23時41分

終値9000円を割った日経平均を表示する株価ボード=東京都千代田区で2010年8月24日午後5時15分、梅田麻衣子撮影
終値9000円を割った日経平均を表示する株価ボード=東京都千代田区で2010年8月24日午後5時15分、梅田麻衣子撮影

 外国為替・株式市場で円高・株安が止まらない。円相場は24日、1ドル=83円台の高値水準に突入し、日経平均株価は9000円割れの安値に沈んだ。だが、民主党代表選を控えた菅政権は円高対策をタイムリーに打ち出せないばかりか、円高けん制を狙った野田佳彦財務相の緊急会見が失望感から一段の円高を招く材料になるなど、政策不在を投機筋に狙い撃ちされかねない状態となっている。

 日経平均株価の終値が9000円を割り込んだ24日、急激な円高・株安に対する政府・日銀の「無策」に批判が高まった。菅直人首相は追加経済対策の基本方針を27日に表明する方針で、「住宅エコポイント」の延長や若年層の雇用対策などが盛り込まれる見通し。ただ、即効性を期待できる政策は少なく、政府・民主党内では日銀に一層の金融緩和を求める声が強まっている一方、9月の代表選へ向けた抗争ばかりが目立つ民主党への失望感も広がる。

 「今日も労働界から経済対策の要望を受けたし、新卒者の雇用対策の特命チームも発足させた。やるべきことはしっかりやっている」。菅首相は24日夕、首相官邸で記者団に強調した。円高・株安が進む中、23日から3日間にわたって続けている新人議員との懇談が「代表選対策」と批判されていることへの反論だった。

 首相は23日に日銀の白川方明総裁と電話で協議したが、具体的な円高対策が発表されなかったことでかえって円高・株安を加速させる結果となった。民主党の玄葉光一郎政調会長は日銀に対し「買い取り資産を多様化するとか選択肢はある」と追加の金融緩和策を求める発言をしているが、日銀は9月6、7日に開く金融政策決定会合まで市場の動向を見極める構え。日銀内では日本経済の先行きについて「中国など新興国にけん引され、回復傾向をたどる」との見方がなお根強い。

 批判の高まりを受け、首相は24日、新人議員との懇談で「円高対策、景気回復のための経済対策は積極的にやっていく」と強調。首相官邸で開いた「新卒者雇用・特命チーム」の初会合でも「若い方の就職が困難な状況が続いている。待ったなしの状態だ」と対策を急ぐ姿勢を示した。

 野田佳彦財務相も24日夕、緊急の記者会見を行ったが、この発言も円高対策に慎重と受け取られ、さらに円は急騰。政府の後手を印象づけた。

 野党は政府・民主党批判を強めている。自民党の谷垣禎一総裁は同日の党役員会で「国民生活を無視し、党内闘争だけに目が向いている」と指摘し、石破茂政調会長に独自の経済対策をまとめるよう指示した。9月3日にも新卒者の雇用支援や法人税減税などの骨格を発表したい考えだ。

 みんなの党の渡辺喜美代表も「日銀の量的緩和しかない。1年生議員と会うなら日銀総裁とちゃんと会って議論すべきだ」と菅首相の「無策」を激しく非難した。【田中成之、久田宏、清水憲司】

 ◇市場、失望感深める

 日経平均株価が約1年4カ月ぶりに9000円を割り込んだのは、米欧など世界経済の先行き不透明感が強まっていることに加え、政府・日銀が具体的な円高対策を迅速に打ち出せないことに、市場が失望感を深めているためだ。市場心理は急速に悪化しており、さらなる円高・株安を予想する声も出始めた。

 「国は事態を放置せず、為替介入があるという姿勢をはっきり示すべきだ。そうでないと、市場からなめられる」。東京証券取引所の斉藤惇社長は24日の会見で、政府の姿勢に苦言を呈した。

 急激な円高の背景には、米国や中国、欧州など世界経済の減速感が強まってきたことがある。欧州中央銀行(ECB)理事会のメンバーでドイツ連邦銀行のウェーバー総裁が先週、ECBの金融緩和政策の長期化を示唆する発言をしたことを受け、市場ではユーロ売りが加速した。

 米国も4~6月期の国内総生産(GDP)改定値や住宅、雇用統計など重要な経済指標の発表を控えているが、市場では悪化を予想する声が多い。このため、「市場のリスク回避の動きが強まり、比較的安全とされる円が一番に買われている」(日興コーディアル証券の松本圭史氏)。

 円高を受け、24日の東京株式市場では東証1部全体の2割に当たる361銘柄が年初来安値を更新した。安値更新銘柄には景気に敏感とされる半導体装置や工作機械などが含まれ、市場では「日本の景気悪化を先取りした形だ」(大手証券アナリスト)と受け止められた。

 しかし、23日の菅首相と日銀の白川総裁の電話協議に続き、24日夕の野田財務相の緊急会見でも円高阻止に向けた具体策は示されず、円相場は逆に急伸した。市場からは「問題が山積しているのに、菅政権は民主党代表選に向けた権力闘争に注力し、危機感がない」(カブドットコム証券の山田勉氏)と批判が噴出した。

 市場では「9月上旬に政府・日銀が何らかの対策を打つ」との期待も残っているが、対応がもたつけば、市場は一段と荒れる可能性がある。【田所柳子】

株価と円相場の推移
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