予約採用給付奨学金:大学の導入相次ぐ 人材確保の狙いも

2010年8月24日 15時0分

 大学受験生を対象に合格決定前に奨学金の内定を出す予約採用給付奨学金制度を新設する大学が相次いでいる。お茶の水女子大(東京都文京区)は国立大で初めて導入、11年度入試に向けて今月から募集を始めた。経済的理由で進学をあきらめざるを得ない生徒を支援しようとする取り組みだが、一方で少子化で受験者数が減少傾向にある大学側にとっては優秀な人材を引き付けようという狙いもあるようだ。【喜浦遊】

 予約採用給付奨学金は受験前に入学後の受給者を内定する制度。入試に合格して、実際に入学すれば授業料免除や奨学金支給が受けられる。返済は不要。

 制度を新設した大学は、いずれも高校の成績や保護者の年収などの条件付きで募集。国立大で初めて導入したお茶の水女子大は「奨学金を受給できると事前に知らせることで受験の機会が失われないようにしたい」と説明。創価大(東京都八王子市)は「切実な経済事情にありながらも大学で学びたいという生徒は志が高い。入学後に他の学生にもいい刺激になる」と大学側のメリットを強調する。愛知大(愛知県豊橋市)は「私立大学には行けないと思っている生徒に使ってほしい」と話す。

 既に09年の入学生から予約採用を始めている早稲田大(東京都新宿区)は、高校の評定平均値3.5以上▽保護者の年収が700万円未満--などを条件に、500人の学生に40万円を4年間給付している。

 奨学金問題に詳しい東京大学大学総合教育研究センターの小林雅之教授(教育社会学)は「事前に受給できる見通しが立つので、経済力のない家庭の生徒に進学をうながせる。貸与では借金と同じで、卒業後に安定した就職先が見つかるとは限らない状況下ではためらってしまう」と話している。

 ◇貸与型は学生に重い負担

 東京大学大学経営・政策研究センターが05、06年に行った調査では、4年制大学への進学率は年収1000万円超の家庭では62.4%に上るが、400万円以下の家庭では31.4%だった。奨学金の貸与制度を実施している独立行政法人・日本学生支援機構によると、貸与総数は98年度の約50万人から08年度には約122万人に倍増している。予約採用奨学金も前身の日本育英会が発足した1943年から導入しているが、原則返済が必要な貸与型だ。返済時の負担が少なくなるよう必要な金額だけ借りる制度もある。

 貸与型では借金として後に生活を圧迫する。大学関係者によると、借金をためらい合格後に入学をあきらめたり、学費や生活費を捻出(ねんしゅつ)するためアルバイトに明け暮れ、学業に専念できない学生もいるという。奨学金返還の滞納も問題化し、機構が訴訟を起こすケースも増えている。

 各大学の予約採用給付奨学金は事前に受給の可否が分かり、返済も必要ないことから、金銭的負担や将来への不安を軽減できる。

 一方大学側には、少子化が進む中でより多くの受験者を「囲い込み」したいとの思惑もある。文部科学省の調査では10年度の進学者数は約58万人で、10年前より約2万人減少している。大学側は「不況の中、どんな奨学金制度があるかは、受験生にとって大学選びのポイントの一つとなる」ととらえている。

top
文字サイズ変更
この記事を印刷

PR情報

アーカイブ一覧

 

おすすめ情報

注目ブランド