2010年8月23日 20時47分
【ブリュッセル福島良典】欧州に暮らす少数民族ロマへの対応を巡り、欧州連合(EU、加盟27カ国)が揺れている。犯罪対策の一環として約200人のロマを出身国ルーマニアなどに送還したフランスに続き、多数のロマを抱えるイタリアがEUに国外追放の許可を求める考えを明らかにした。特定集団の排除による「国内治安の維持」か、欧州市民として自由に暮らす「人権の尊重」か--。ロマの扱いは欧州に難題を突き付けている。
フランスのサルコジ政権は7月28日、国内にあるロマなどの違法キャンプ300カ所の撤去や、犯罪者の強制送還を含むロマ対策の強化を発表した。8月6日に違法キャンプの撤去を開始したのに続き、政府は19、20の両日、216人のロマに帰国費用を渡し、ルーマニアとブルガリアに帰還させた。
これを受け、イタリアのマローニ内相は21日付イタリア紙コリエレ・デラ・セラで、ロマによる自主的な帰還に任せたフランスの措置では不十分だと指摘。「最低限の収入や定住地などの生活条件を満たしていないと判断されたEU加盟国の市民」を国外追放する許可を9月6日のEU主要加盟国の内相会合で求める意向を表明した。
人の移動の自由は物資の円滑な流通や、通貨の共通化と並ぶEUの基盤だ。しかし、「国境なき欧州」で増加する不法滞在者の取り締まりは各国政府にとって頭痛の種になっている。「欧州市民の移動の自由」を強調するEUに対して、ロマ送還国のフランス、出身国のルーマニアともに「ロマが欧州社会に溶け込むためのEUレベルの計画」の立案を急ぐよう促している。
ルーマニアとブルガリアは07年1月にEU入りしたばかりの新規加盟国。「駆け込み加盟」の色彩が濃く、EUは組織犯罪や政府高官による汚職の摘発を強化するよう両国政府に求め続けている。両国からフランスやイタリアなどへのロマの流入は、EU域内の「東西格差」が人口移動という形で噴出している現象でもある。
ロマ送還には人権団体や国際機関に加え、ローマ・カトリック教会が抗議の声を強めている。ローマ法王ベネディクト16世は22日、「人間の多様性」を受け入れるよう説き、フランス政府の措置を暗に批判した。また、フランス北部でロマ支援に取り組む神父が抗議の意思表示として勲章の返上を宣言するなど、ロマ送還への非難がカトリック界で広がっている。