北朝鮮で作られたという100ドル札。怪しく輝く液体。金日成主席の頭髪との関連が・・・。
独占解明!頭髪に秘密が・・・ 北朝鮮とニセ札の接点
【司会者・田丸美寿々さん】(スタジオにて)
「続いての特集も北朝鮮です。あさって('06年3月)7日、ニューヨークで米朝協議が開かれますけれども、ここでの最大の争点は“北朝鮮による偽ドル製造疑惑”です。今回、私たちは中朝国境で100ドル札を入手しました。で、それを詳細に調べていきますと、ドルの偽造と北朝鮮を結びつける興味深い物証にたどり着きました。」
独占解明!北朝鮮ニセ札疑惑
【ナレーター】
中国から届いた一通の電子メール。それは3年に渡り追跡してきた“偽造アメリカドル札”に関する情報だった。100ドル札の写真が1枚。「ニセ札」だという。私たちは情報提供者のもとへ向った。
密貿易業者や脱北者らの越境があとを絶たない中朝国境地帯。('05年11月)張り詰めた空気。中国のとある駅でカメラは、列車で大移動する中国人民解放軍兵士をとらえた。近年、中国は「北朝鮮の有事に備え、新たに戦闘能力の高い兵士を10万人以上も国境周辺に投入した」と言われている。
私たちが目指す先は中朝国境地帯の奥深い地方都市・図們(トモン)。列車を降り、バス・タクシーと乗り継ぐ。高い塀に囲まれた建物は“図們収容所”。脱北者の多くはここに収監され、後に北朝鮮に送り返されるという。その北朝鮮が間近に迫る国境の街・図們市に到着した。
【記者】VTR
「階段を上るとこうした観光地になっています。みんな望遠鏡で見てます。」
【ナレーター】
観光客が覗き込む望遠鏡のその先に北朝鮮がある。(北朝鮮・南陽)国境の橋の向こう側では、故金日成主席の肖像画が住民を見下ろしていた。望遠鏡を覗くと、銃を持った北朝鮮の国境警備兵が行進していた。観光客の呼びかけに北朝鮮の兵士が答えることはなかった。
川をはるかにさかのぼると、そこは麻薬などの密貿易地帯である。川が凍るこの季節、密貿易や脱北者らがあとを絶たないという。
【記者】VTR
「北朝鮮の山が目の前にあります。」
【ナレーター】
3年前(中国 '03年)私たちはこの場所で「北朝鮮製のニセドル札を受け取る」という中国人密貿易者に同行した。現れたのは、凍った川を渡って中国側に密入国した北朝鮮の現役兵士だった。
【中国人密貿易者】VTR
「何枚持って来たんだよ。」
【北朝鮮兵士】
「3枚です。」
【ナレーター】
北朝鮮の兵士が中国人密貿易者に何かを手渡した。旧100ドル札が数枚。「北朝鮮製のニセ札」だという。
【記者】VTR
「北朝鮮では誰がニセ札を使うのですか?」
【北朝鮮兵士】
「会社です。」
【記者】
「貿易会社とかですか?」
【北朝鮮兵士】
「はい。」
【ナレーター】
後日、この旧100ドル札は「質の悪いニセドル札」と鑑定された。密貿易の決済にニセ札が使われたことになる。これまで世界各地で数多く確認されている旧100ドル札のニセ札。90年代半ばから大量に出回っていたのが通称「スーパーK」と呼ばれるニセ札だ。この「スーパーK」の製造には“北朝鮮の国家ぐるみの関与”が指摘されてきた。「スーパーK」の印刷精度は非常に高く、当初は本物との判別は困難を極めた。だが今回、我々のもとに送られて来たのは新しい100ドル札の写真。高度な偽造防止技術が導入され偽造は、困難とされてきた。
本当にニセ札なのか?その真偽を確かめるべく、私たちは情報提供者との接触を試みた。やって来たのは中国のとある街。寂れたホテルのロビーで、情報提供者が現れるのをひたすら待ち続けた。
やがて現れたのは「北朝鮮との闇取引きをしている」という中国人密貿易者のグループ。一人がおもむろに白い封筒を取り出した。「北朝鮮から待ち出した」という100ドル札が3枚。すべてニセ札だという。光にかざすと“すかし”が確認できた。見る角度で色の変わる特殊インクで印刷された「100」の文字を本物のそれと比べてみる。違いはわからない。
肉眼での判別は諦め、持参したループで覗いて見る。偽造防止のための“安全線”と呼ばれる特殊文字が見事に印刷されていた。また、特に偽造が難しいとされている“マイクロ文字”。「USA100」もはっきり確認できた。画面左が本物のマイクロ文字。その差は見た目では分からない。
これは本物ではないのだろうか?中国人の密貿易者を問い質すと、男は「この100ドル札は北朝鮮で製造されたニセ札だ!」と主張した。「北朝鮮国内でこのニセ札を受け取った際に撮影した」というビデオテープがあった。映し出されたのは金親子の肖像画。白い封筒から取り出された3枚の100ドル札。
【中国人密貿易者】VTR
「こんなによくできているニセドル札は見たことがないですよ。本当によくできていますね。」
【北朝鮮の男性】
「本物と同じだよ。」
【ナレーター】
一瞬、北朝鮮の男性と思しき姿が映った。
【北朝鮮の男性】VTR
「平壌で製造したものを持って来たんだ。」
【中国人密貿易者】
「これは直接平壌に行って購入したものですか?」
【北朝鮮の男性】
「その通り。」
【中国人密貿易者】
「保衛部の人間から買ったと言っていましたね?」
【北朝鮮の男性】
「そうだ。」
【ナレーター】
北朝鮮製のニセ100ドル札。本当だろうか?札の番号は「DE04948139A」。今回、私たちに提供された100ドル札の番号と一致した。中国人の密貿易者がニセ100ドル札について語った。
【中国人密貿易者】
「中国でも北朝鮮でもたくさんニセドルを見たことがある。海岸で海産物を買う時にニセドルが使われているよ。素人には(本物とニセ札の)見分けはつかないな。」
【ナレーター】
さらに「ニセ100ドル札は日本国内にも入り込んでいる」という。
【中国人密貿易者】
「北朝鮮では貿易をする時、例えば日本との海産物の貿易でもニセドルが使われているよ。」
【ナレーター】
私たちが入手した100ドル札。本物か偽物か?私たちは鑑定を急いだ。鑑定を依頼したのはニセ札鑑定の第一人者。(東京・台東区(株)松村エンジニアリング)あの「スーパーK」を初めて世界で発見し、「スーパーK」と令名したのが松村喜秀氏だ。(偽造通貨鑑定家)その実績を買われ、通貨当局からニセ札の鑑定を依頼されることも少なくないという。私たちは入手した100ドル札の真偽の判定を松村氏に委ねることにした。
【松村喜秀さん・偽造通貨鑑定家】
「(印字が)デコボコして指先に感じます。カラーコピーだとツルっとして(印字が)何も感じないんです。印刷機械は本物と非常に近い印刷機が使われています。だから例えばこれがニセ札だとしたら、今まで出ているような、まぁコピー機械を使ったとかあるいはコンピューターを使って簡単にスキャナニングしたのをプリントアウトしたとか、そういうレベルのものではないです。かなり高い(印刷)レベルのものです。」
【ナレーター】
しかしこの100ドル札の真偽を判定するのは松村氏でさえ容易ではなかった。結果が出るまでには数週間の時間が費やされた。数週間後―。
【記者】
「本物でしょうか?ニセ物でしょうか?」
【松村喜秀さん・偽造通貨鑑定家】
「これは“ニセ”です。非常に高いレベルの“ニセ”です。」
【ナレーター】
ニセ札鑑定の第一人者が下した判定は「ニセ札」だった。
◆偽札鑑定 根拠その1◆
【松村喜秀さん・偽造通貨鑑定家】
「非常に大きい衝撃を受けたのは“1”という部分、耳の部分なんですけれども、シャープにキレイに出来ています。」
【ナレーター】
まず数字の“100”に偽造の動かぬ証拠があった。本物の“1”の先端は丸みをおびている。しかし・・・、今回私たちが入手したニセ札はというと“1”の先端は直線的であるということがわかった。違いはこれだけではなかった。
【松村喜秀さん・偽造通貨鑑定家】
「キレイに丸いところにピタッと出来ていますよね。出っ張りはないです。これはキレイですよね。キレイなものが“ニセ札”なんです。」
◆偽札鑑定 根拠その2◆
【ナレーター】
札の裏に印刷された“建物の時計の針”にも偽造を裏付ける証拠があった。時計の長針。本物はわずかに内側の辺から外に飛び出している。ところが二セ札の長針は内側の辺から外に飛び出してはいない。
【松村喜秀さん・偽造通貨鑑定家】
「今現在では一番最高のレベルのニセ札です。印刷方法には一切問題はありません。これはもうパーフェクトに良く出来ています。」
【ナレーター】
ニセ100ドル札には数字の“1”と“時計の針”を除けば、本物とほぼ同程度の印刷技術があることがわかった。
【松村喜秀さん・偽造通貨鑑定家】
「これは個人レベルでは絶対に不可能です。最低でも数十人の人員が必要です。実際に本物を造るのとほとんど変わらないくらいの設備投資と、あとどうしても人員も必要となってきます。きちんとした組織でないと(入手したニセ札レベルに)そこまで達するのはほとんど不可能に近いです。」
【ナレーター】
松村氏は「ドル札偽造の背後に見え隠れする組織の存在」を指摘した。
【ブッシュ大統領】VTR
「我々は北朝鮮に対してドル札偽造をやめるよう強く求めている。」('06年1月26日)
【ナレーター】
今年1月、アメリカのブッシュ大統領はニセドル札の製造元として北朝鮮を名指しで批判した。「北朝鮮は、国内で印刷したニセドル札を海外の金融機関に持ち込み本物と交換するいわゆる“マネーロンダリング”で莫大な利益を上げている」という。アメリカ政府は「こうして得られた資金が北朝鮮の核やミサイル開発の資金源になっている」と指摘している。
私たちのもとに興味深い情報が寄せられた。向ったのは韓国・ソウル。先月、韓国国会でニセ100ドル札に関する発言が飛び出したという。国会で野党議員の一人が「北朝鮮から入手した」とする高い精度のニセ100ドル札の実物を公開した。(国会本会議事堂・'06年2月23日)韓国最大野党「ハンナラ党」の金在原(キム・ジュウォン)議員である。
【金在原(キム・ジュウォン)議員】VTR
「こういう精密なニセドル札を製造するには国家レベルの介入があるのではないか。私たちも心配しているのです。」
【ナレーター】
しかし金議員は「ニセドル札が北朝鮮で製造された、という確証を得るにはまだ至っていない」という。
【ナレーター】
こうした中、ついにニセドル札と北朝鮮との接点が浮かび上がった。鑑定を依頼した松村氏から緊急の呼び出しを受けた。一体、何があったというのか?
【松村喜秀さん・偽造通貨鑑定家】
「えーと、今回非常に面白いと言いましょうか、大きな事件と言いましょうか、それを今回発見をしましたので・・・。」
【ナレーター】
松村氏はおもむろに特殊なライトを取り出した。
【松村喜秀さん・偽造通貨鑑定家】
「ライトをあてますと“ニセ”の方はここに丸い月のように見えてきました。ちょうどこの部分というのは裏側を見ますと、このマークに古いインクが使われています。これは非常にまれに見ると言いましょうか、今までに見たことのないそういうインクを使っている部分なんです。」
【ナレーター】
“アメリカ連邦準備制度理事会”の印章。その黒インクに重大な秘密が隠されていた。
◆偽札鑑定 黒インクの秘密◆
【ナレーター】
紫外線を発する特殊なライトをニセドル札の裏側から照射する。すると何故か印章の部分だけが白く浮かび上がった。続いて本物のドル札の印章に紫外線をあてた。しかし印章は浮かび上がってこない。ニセドル札の印章の不可思議な現象。これは何を意味するのだろうか?
紫外線をあてると浮かび上がるのは“発光インク”と呼ばれる特殊なインクのみ。つまりあの印章の印刷機は“発光インク”が使われていたことになる。一体何故、ニセ札の印章の裏側が光ったのか?そのメカニズムはこうだ。これは紙幣の断面を拡大したイメージ図。黒インクに“発光インク”を混ぜて使用した場合、黒い部分だけが紙に付着し、発行インクは紙を浸透して裏面に染み出る性質を持っているという。
私たちはアメリカの財務省に「100ドル札の印章に“発光インク”が使用されているかどうか」を尋ねた。しかしアメリカ財務省担当者は「セキュリティ上の問題で一切答えられない」という。かつて大蔵省印刷局に勤めていた人物に“発光インク”の使用方法について尋ねると―。
【植村峻(たかし)さん・紙幣研究家(元大蔵省印刷局)】
「この“発光インク”というのは日本でもそうですが、世界でも、一般の方が市販のブラックライトをあててはっきりと図柄がカラフルな色が見えることが一番の目的なんですよね。“発光インク”を黒い(インクの)ところに入れてしまったのでは何も見えないわけですから。原則的には普通はそういうことはしないんじゃないかと思いますけどね。」
【ナレーター】
通常“発光インク”は単体でのみ紙幣に使用される。「他の色インクと混ぜて使用するということは考えにくい」という。ところが“あの国では”この特殊な方法が用いられていた。
ニセ札疑惑 頭髪に潜む接点
【松村喜秀さん・偽造通貨鑑定家】
「これは北朝鮮の100ウォンの本物です。北朝鮮の本物です。」
【ナレーター】
北朝鮮の100ウォン札。その故金日成主席の頭髪にある秘密が隠されていた。
◆偽札鑑定 故金日成主席の頭髪に秘密◆
【松村喜秀さん・偽造通貨鑑定家】
「同じようにこれを照らしてみますと、ビックリするようなことが起きます。このように“頭の部分”“目の部分”この“黒い部分”がそのまま裏側の方に映し出されております。」
【ナレーター】
見事に頭髪と眉毛の形に“発光インク”が浮かび上がった。故金日成主席の頭髪にもニセドル札の印章と同様に、黒インクに“発光インク”が混ぜられていたことが判明した。
【松村喜秀さん・偽造通貨鑑定家】
「これ(本物ウォン札)とこれ(偽物ドル札)は同じ場所で造られた可能性が非常に高いです。同じような似たような材料を使って、似てるような工場で、同じような方法で造られた可能性が非常に高いと思います。」
【ナレーター】
ますます色濃くなったニセ100ドル札と北朝鮮との接点。アメリカのブッシュ大統領は「北朝鮮がドル札の偽造を止めない限り経済制裁を解除しない」方針を打ち出している。それに対し北朝鮮は反発を強め「六ヵ国協議、次回会合への出席を拒否」し続けている。北朝鮮のニセ札製造疑惑。その解明が今後の情勢を大きく左右しそうだ。
【司会者・田丸美寿々さん】(スタジオにて)
「今回入手したニセドル紙幣は、かつて見つかった“スーパーK”よりも格段に精巧に出来ていまして、俗に“スーパーZ”と呼ばれているそうです。
さて、これは本物の100ドル紙幣です。で、ここにあります黒い“アメリカ連邦準備制度理事会”のマーク、まぁ日本でいうと日銀のマークなんですが、ニセ物はこれが黒い“発光インク”で刷られていますので、後ろから特殊なライトをあてますとこの辺りが白く光るんですね。そしてこれは本物の北朝鮮のウォンです。この金日成主席の髪の部分がですね、同様の黒いインクで刷られていまして、裏からやはりライトをあてますと髪の毛や眉の部分が白く光ります。
さてそうなりますと、同様のインクで同様の印刷方法で刷ったということは、『北朝鮮がニセのドルを造っている可能性が極めて高い』ということになるんですが、では何故わざわざそのインクを使うのでしょうか?松村さん、あの鑑定家の松村さんによりますと、推測ですが一つは『北朝鮮が自ら造ったニセドルを見分けるため』、もう一つは北朝鮮はインクを海外から輸入しているのですが、『アメリカがあえて輸入インクの中にこの“発光インク”を紛れ込ませることで、北朝鮮がニセドルを造っている証拠を掴むため』という見方があるようです。
さあ、どうなんでしょうか?いずれにせよ、あさって('06年3月7日)米朝協議が開かれます。そこではアメリカは“動かぬ証拠”を北朝鮮に突きつけることになるんでしょうか?」
終わり