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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2006年05月23日

あまりに有名な国際的詐欺: the Nigerian 419 scam

ここ10年というもの、ナイジェリア政府関係者からメールやファックスを不定期ながらいくつも受け取っています。多かった頃は毎月数回で、このところは年に数回です。通信手段も最初はファックスでしたが、3年ぐらい前からはもっぱらEメールです。大体が真偽はともかく政府機関からのもので、中には、大統領府からのものもあります。ご立派な大統領府の紋章が入っているレターヘッドを使っており、こんな感じです。

419sample.jpg

話の流れは基本的に決まっていて、(1)さる筋からの情報であなたなら信頼できると知ったこと、(2)数千万ドルつまり数十億円の資金の移動のために、あなたの口座にいったんその資金を振り込ませてもらうという具合に、どうしてもあなたの力を借りる必要があること、(3)その報酬として1/3程度つまり億単位の金を払う用意のあること、の三点です。

資金の性質はだいたいが国外にプールしてある裏金という筋書きになっています。国外のプロジェクト請負業者が自国政府に過大請求するようしくんだので、上乗せ分が自分たちのふところに入ることになっているのだが、せっかくの横取り分が外国にあるので、これをまっとうな金として国内に持ち込むためにあなたの口座名義を使わせてくれと言って来るわけです。(バリエーションとして、最近、自分は独裁者の未亡人で、亡き夫が海外に遺した資産を国内に還流するのに協力してくれというのがありました)

これは俗に Nigerian 419 scam と呼ばれている国際的詐欺のパターンで、実行の過程で殺害や身代金要求のための拉致もためらわずにやる凶悪な連中による国際犯罪です。基本的には、資金の移動のために、ひとまず少額の経費を前払してもらう必要があるというイントロがあることから、advance fee fraud とも称され、16 世紀から行われている Spanish Prisoner Letter という古典的なものの焼き直しですが、この手の詐欺を取り締まるナイジェリア刑法の条文が第 419 条であることから、(日本在住の善良なナイジェリア人のことを思うと気の毒な命名ではありますが、) Nigerian 419 と呼ばれています。

なぜナイジェリアかは知りませんが、アメリカの郵政当局が令状を取って、ナイジェリアからの郵便をすべて開封したら、7割がこの手の詐欺(以下 419詐欺)を目的とするものだったと言います。ネットで "Nigerian 419" で検索するといくらでも情報がありますが、中には、419詐欺はナイジェリアにとり石油収入に次ぐ第二の収入源だとしているサイトもあります。ただ、実際には、その後、「発信源」はナイジェリアから西アフリカの周辺諸国へと拡大しており、現に3年前に、419詐欺にひっかかって誘拐された元ノーサンプトン市長のイギリス人の場合は、舞台は南アフリカでした。

ことの性質上、正確な被害額は不明ですが、アメリカの郵政当局は毎年、100万ドル単位の被害が出ているとしています。当然、ターゲットとされている先進諸国の取り締まり当局も以下のとおり、国民に注意を呼びかけています。

アメリカでは財務省のシークレットサービスが中心になっています。
http://www.secretservice.gov/alert419.shtml
また、イギリスではロンドン警視庁のサイトでは、手口の詳細を含め、こんな形で呼びかけています。
http://www.met.police.uk/fraudalert/419.htm

日本の警察がどう対応しているのかは承知していません。初めて怪しいファックスを受け取ったときは、中途半端に英語ができる人が危ないよなとの思いから、警察庁の相談室に報告したら、所轄の警察署にご相談くださいと言われたので、こりゃものがわかっとらん、言うだけ無駄だとあきらめました。まあ、わが国の警察も英語がからむことになるとどうしても腰が引けてしまうのでしょう。情けないことです。

わが国で積極的に手を打っているのは、不思議なことに警察ではなく、外務省です。例えば、外務省のサイトでは、次のように 419 詐欺に対する警戒を呼びかけています。(そもそも「渡航情報」ということですから、渡航するつもりのない人には無縁の話で終わってしまうわけで、こういった広報のやり方自体、効果のほどに疑問があります)

まず、渡航情報のセクションにある「ナイジェリア:詐欺事件(通称:419事件)」というページでは、こう説明しています。

ナイジェリアを中心とした国際的金融詐欺事件(通称「419号事件」)が後[ママ]
を絶たず、邦人を含め多数の被害者が発生しています。突然Eメールやファッ
クス、国際電話等で、口座の名義貸しや多額の商取引を持ちかけられた場合に
は、まず疑ってかかるようにして下さい。政府関係者や銀行関係者を装って接
触してくる場合もありますので、不審な相手には銀行口座などの個人情報は、
絶対に教えないで下さい。また、しばしば偽造した公文書が犯行に使用されて
いますので、公文書だからといって、安易に信用することは禁物です。最近で
は、最初は金銭の要求はせずに信用させた上、ナイジェリアに呼び出し、到着
した時点で身柄を拘束し、身代金を要求したり、ナイジェリアではなくヨーロ
ッパで接触するといった新しい手口も用いられているようですので、十分注意
して下さい。

次に、「国際的詐欺事件の多発」というページでは、 詳しく手口を解説しているのですが、その中にこういうのがあります。

5.紙幣消印型

 黒く塗りつぶされた(あるいはスタンプが押された)ドル紙幣と称するも
 のが詰め込まれたスーツケースを見せる。その中から一枚を抜き出し、液体
 をかけて塗料を落とし、本物の百ドル紙幣であることを実演して相手を信用
 させる。
 
 スーツケースはこの他にもいくつかあると述べ、これを国外に持ち出し、
 液体により処理を施すには一時的に資金が必要であり、資金援助が得られれ
 ば謝礼を支払うと持ちかける。

ただ、この説明はちょっと要領を得ない感じです。この点、アメリカの郵政当局は、この "black money" (黒塗り紙幣)に塗られている特殊な液体を溶かすための追加払いを求める手口をこんなふうに説明しています。

In a recently concluded Inspection Service investigation, a victim, who had already spent thousands of dollars on various fees, was told that additional money was needed to "decoat" a suitcase full of "coated" one hundred dollar bills. The victim was told that the bills were temporarily defaced with a black film to mask the origin of the money, and a special, very expensive solution must be purchased to "decoat" the bills.(先般決着を見た郵政監察局の捜査では、既に各種名目で数千ドル払わされていた被害者が、「コーティング」してある100ドルの詰まっているスーツケースがあるのだが、このコーティングをはがすためにもっと金が要ると請求を受けている。金の出どころをわからなくするため、一時的に黒いフィルム状のコーティングが施してあり、これを除去するためには、特殊で、しかも非常に高価な溶剤を購入する必要があるというのである)

ちなみに、この "black money" の詳細をレポートしているロンドン警視庁のウェブページを見ると、洗浄するための溶剤の費用ということで、2万ドルから50万ドルむしり取られるのが一般のようです。

何であれバカバカしい限りです。真顔でこんなことを言っている詐欺師と、それを真に受けて感心しながらうなずいている、とんまな被害者を想像するだけで、笑えます。常識のあるおとなが引っかかるはずないじゃないかと思うのが普通でしょう。ところが、わが国で実際に、そこそこの有名人がこの「黒塗り紙幣」に騙されている例を最近知って、驚きました。

「週刊朝日」の5月 26日号に載っている記事がそれで、表紙からして、「スケート連盟を翻弄した『黒い札束』」とあります。記事を読むと、会長の元側近という人物が会長から黒塗りの100ドル札を見せられた上、これは「表面を黒く塗った札束で、インクを洗えばきれいになる」と説明を受けたとのこと。そして、「黒い札束を手に入れるため、ナイジェリアに何度も国際電話をかけ」、「取引の相手方からドルによる追加資金を要求され」たとか、あるいは「同僚が…東京駅近くの銀行へ海外送金しに行かされていました」といった事実が並びます。まさに 419 詐欺そのものです。

この記事によると、この元会長殿は、外資系薬品メーカーの社長を務め、「持ち前の英語力を生かして」日本人としては初めて世界のフィギュア界のトップまでのぼりつめた大物なのだそうです。しかし、詐欺師からの書面は通常、文法ミスが多いものです。例えば、手元にあるものの書き出しは、こうなっています。

Your company's name was given to me by a Nigerian diplomat who was posted to your country, therefore we trust we can confide in you and propose that we do business that is mutually beneficial.(御社の名前は貴国に駐在しているナイジェリアの外交官からもたらされたものです。したがって、御社を信頼し、機密事項をも打ち明けられると考えており、相互に利益となるビジネスを進めることをご提案申しあげたいと存じます)

問題は、主語と述語動詞を備えている二つの独立節がカンマ+ therefore のセットで区切られていることです。二つの独立節をつなぐとすれば、カンマ+ and などの等位接続詞との組み合わせが必要で、therefore といった接続副詞では足りません。(正しい形に直すとすれば、...to your country, and therefore we trust...とするか、...to your country. Therefore we trust...のいずれかです)

こんなことはパンクチュエーションのイロハに当たるようなもので、このあたりがいい加減な会社ないし人を信用して大金を渡す方がどうかしています。私に言わせれば、たいした英語力もないのに、英語でビジネスをしようとするからこんな馬鹿げた詐欺にひっかかってしまうのです。

日本語の世界だけに住んでいても危ない連中はゴマンといるわけですから、英語の世界にまで進出するとなれば、おのずとそれなりのものを身につけていないともっと危ないことになるという教訓が得られそうな話です。




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Comments

昨日、祖母にエアーメールで某国の宝くじ当選のお知らせが届きました。全て日本語で書いてあるのですが、「最終通知」という表記からして怪しい。90歳の祖母に刺激を与えないように、孫はそっとそのメールを破棄しました。

人をだまそうとする輩は、本当にあの手この手を考えてきますねぇ。

[返信]

宝くじの当選通知は英語のものはよく受け取っていますが、和文化が進んでいたのは意外でした。悪い奴らも国際化が進んでいる以上、まともな市民の方も自衛のため意識を高めておく必要がありますね。

あの手この手と言えば、下記、サイト、勉強になります。特に外国に旅行に行かれる方には。

http://www.anzen.mofa.go.jp/jikenbo/jiken_index.html

ロンドンの銀行マンから預金者が死んで身寄りがないため、それを2人で分けるために弁護士に名義変更してもらうから弁護士費用を払ってくれというメールが来ました。その弁護士事務所をヤフーUKの検索サイトで調べたら、何と本当に実在していましたが、送金先が個人口座であり、最初にウエスタンユニオンを指定してきましたので、それは何でもおかしいと思い、ロンドンの弁護士紹介所に連絡して調べてもらった結果、実在しないことがわかりました。ウエッブサイトにあたかも存在しているように載せるのは今は分けないことなのですね。実に巧妙になってきました。

[返信]

アマゾンを語るフィッシングなど、サイトの見てくれはそっくりですもんね。ネット時代を生きる常識がないとひっかかることでしょう。ところで、お名前、ナイジェリア人かと思い、ドキっとしました。

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