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社説:反日デモ 中国の底流は深刻だ

 中国の内陸都市で反日デモが起きた。一部が日系大型スーパーに投石したり、日本料理店を破壊した。暴力は許せない。中国の信用を落とすだけだ。

 反日デモは、9月初めに尖閣諸島沖で中国漁船と巡視船が衝突して以来、断続的に続いていた。だが、今回のデモは極めて異常である。

 まず、デモのタイミングである。北京では5中全会と呼ばれる中国共産党の中央委員会全体会議で、次の5カ年計画を討議していた。このような重要会議の時には、全国的に厳戒態勢に入る。

 そのうえ、反体制の民主活動家、劉暁波氏のノーベル平和賞受賞が決まったため、当局は国内で民主化要求が高まるのを恐れ、劉氏の妻を軟禁状態に置いた。すると古参党員のなかからは当局の言論弾圧を批判する声明が出た。

 折しも上海では万博が開催中だ。広州ではアジア大会準備の追い込みである。中国の指導部にとって安定最優先で、デモなど許していられない時なのだ。

 さらに、温家宝首相がベルギーの国際会議の場を利用して菅直人首相と懇談し、日中関係の修復が動き出した直後である。いま反日デモをすれば温首相批判になる。

 今回の発生地は、四川省の綿陽、成都、陝西省西安などだった。綿陽は核兵器の研究所や製造工場が集まる特殊な軍事都市である。成都もミサイルや航空機の工場が多い。軍事機密を守るために監視が厳しいはずだ。それなのにデモは起きた。

 デモの参加者はほとんどが20歳代前後。「90後(1990年以後の生まれ)」と呼ばれる若者で、インターネットの呼びかけで集まった。

 だが仕掛け人は別にいる。9月の反日デモからずっと同じ系統だろう。スローガンやデモのスタイルがそっくりだからである。成都ではデモの先頭集団は「琉球回収、沖縄解放」の横断幕を掲げていた。解放とは解放軍による解放だ。政府に軍事力発動をけしかけているのである。

 こんな暴走に対し中国政府は「気持ちは理解できるが形式が不適切」と遠慮がちで生ぬるい。背後に胡錦濤政権に批判的な政治勢力がいるからではないか。

 5中全会では習近平国家副主席が党中央軍事委副主席に選出され、2012年の党大会で次の総書記を確実にした。習氏の支持基盤は軍や保守派といわれる。尖閣問題で強硬路線をとる危険はないのか。

 菅首相は「戦略的互恵関係を深めることで双方が冷静に努力する必要がある」と国会で答弁している。その通りだが、まず中国首脳との関係を築き、中国の深部の動きをつかむことが先決だ。

毎日新聞 2010年10月19日 2時33分

 

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