【萬物相】銅塊として売られた10ウォン硬貨

 「下を向いて歩いていたら多宝塔(10ウォン〈現在のレートで約0.7円〉玉)を拾った/…/もう一度よく見てみたが、やっぱり真っ赤な銅銭だ/使い道があるようでない10ウォン玉/そうやって生きてきたということなのか、そうやって生きていけということなのか」。ユ・アンジンの詩『多宝塔を拾う』の一節だ。道端で10ウォン玉を拾った作者自身も、小銭のように「使い道があるようでない」生き方をしていくのか、と自身の存在に思いをめぐらす。

 1960年代当時は、10ウォン硬貨一つでマッチの大箱やラーメン1袋、卵が一つ買えた。70年代には、たばこ1箱やスナック菓子1袋が買えた。80年代には、公衆電話から電話が掛けられたし、90年代には10ウォンでフーセンガムが買えた。ところが現在、10ウォン玉一つで買えるものは何もない。その代わりにインターネットなどでは、生活の中での10ウォン硬貨の活用法が多数紹介されている。例えば、「花瓶に入れておけば水の腐敗を防ぐ」「キッチンの排水口に入れると消臭効果がある」「パソコンのモニターの横に張っておくと、電磁波を遮断する」-などだ。

 10ウォン硬貨の原料には銅が使われているため、その抗菌・脱臭効果については科学者も認めている。66年に初めて登場した10ウォン硬貨の成分比率は、銅88%、亜鉛12%だった。しかし、銅の価格が高騰したため、70年代になると銅の比率が65%に抑えられた。2000年代に入り、原材料価格がさらに高騰すると、10ウォン硬貨1枚を作るのに30-40ウォンの材料費が掛かるようになった。そこで韓国銀行は06年、重さを従来の4分の1にした新しい1ウォン硬貨を作り、材料費を1枚当たり6ウォン程度に抑えた。

 06年以前に発行された10ウォン硬貨約5000万枚を溶かして14キロの銅の塊を1万4000個作り、販売していたグループのメンバーが、このほど警察に逮捕された。このメンバーらは、銀行やスーパーなどで5カ月にわたり、10ウォン硬貨を集めていた。10ウォン硬貨1枚には平均3グラムの銅が含まれているが、これを溶かして塊にするために約5億ウォン(約3600万円)を投資し、7億ウォン(5100万円)の利益を得ていたとのことだ。

 

 韓国の銀行法では、いかなる硬貨も紙幣も、「法定通貨としてすべての取引に無制限に通用する」と規定されている。価格が数百ウォン(数十円)でも数億ウォン(数千万円)でも、10ウォン硬貨でいくらでも買い物ができるというわけだ。10ウォンも正真正銘の金だ。大人たちは小遣いをせがむ子どもに対して、よく「地面を掘ってみろ、10ウォン玉が出てくるぞ」と話す。10ウォン硬貨の物質的価値はさほど大きいものではないが、それを稼ぐための労働価値は大切だと言いたいのだろう。10ウォン硬貨を溶かして銅塊を作り売るという奇抜な商法も、楽に稼いで楽に生きようという世相が生んだブラック・コメディーだ。

申孝燮(シン・ヒョソプ)論説委員

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

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