「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律」(以下「法」という。)が平成22年3月31日に成立し,同年4月1日より施行され,公立高等学校について授業料を無償とするとともに,私立高等学校等の生徒については,高等学校等就学支援金を支給する制度が創設されました。
今日,高等学校等は,その進学率が約98%に達し,国民的な教育機関となっており,その教育の効果が広く社会に還元されていることから,高等学校等の教育に係る費用について社会全体で負担していくことが要請されています。
また,高等学校等については,家庭の経済状況にかかわらず,全ての意志ある高校生等が安心して教育を受けることができるよう,家庭の経済的負担の軽減を図ることが喫緊の課題となっています。
さらに,諸外国では多くの国で後期中等教育を無償としており,経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約においても,中等教育における無償教育の漸進的な導入について規定されているなど,高等学校の無償化は,国際的な状況に照らして一般的なものと考えられます。
本制度は,このような観点から,ひとりひとりの学ぶ機会を社会全体で支え,助け合っていく社会を目指してスタートしました。
具体的には,公立高等学校については,原則として授業料を徴収しないこととし,これに伴って要する経費を国から地方公共団体に対して交付します。
また,私立高等学校等の生徒については,就学支援金として授業料に充てるために一定額(118,800円。低所得世帯の生徒については1.5~2倍した額)を支給します。その際,簡便かつ確実に授業料負担を軽減できるように,学校が生徒本人や保護者に代わって受け取り,授業料の一部と相殺することとしています。さらに,国の支援に加えて,各都道府県の取組により,今まで以上の手厚い支援が行われることになります。
この制度により,全ての意志ある高校生が,教育にかかる費用を心配することなく,安心して勉強に打ち込めるようになるとともに,多様な教育機関での学びを支援することによって,生徒が多様な学習機会を広く選択できるようになることが期待されます。また,「経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約」に規定する中等教育における無償教育の漸進的導入の条項に関する留保を撤回し,国際社会と肩を並べるだけの教育条件を整備していく方向に向けて,歴史的な一歩を踏み出したといえるでしょう。
この制度を通じて高等学校等で勉強されたみなさんが,将来の我が国の社会の担い手として広く活躍されることを期待しています。
平成22年4月1日施行
家庭の状況にかかわらず,全ての意志ある高校生等が安心して勉学に打ち込める社会をつくるため,公立高校の授業料を無償化するとともに,高等学校等就学支援金を創設して,家庭の教育費負担を軽減する。
対象となる学校種は,国公私立の高等学校,中等教育学校(後期課程),特別支援学校(高等部),高等専門学校(1~3年生),専修学校・各種学校等(高等学校に類する課程として文部科学省令で定めるもの※)とする。【高等学校,中等教育学校には,全日制・定時制・通信制を含む。】
※専修学校の高等課程
各種学校のうち外国人学校であって,文部科学省令で定める要件を満たすものとして文部科学大臣が指定するもの
公立高等学校(中等教育学校(後期課程),特別支援学校(高等部)を含む。)については授業料を不徴収とし,地方公共団体に対して授業料収入相当額を国費により負担する。
(2)以外の高等学校等の生徒については,高等学校等就学支援金として授業料について一定額(私立高等学校等に在学する低所得世帯の生徒は増額※)を助成(学校設置者が代理受領)。
※所得(市町村民税所得割額により判断)に応じ,一定額(118,800円)を1.5~2倍した額を上限に助成。
市町村民税所得割非課税237,600円(2倍)
所得割額18,900円未満178,200円(1.5倍)
| 国 | 授業料の徴収/不徴収 | 授業料無償化開始時期※ |
|---|---|---|
| 米国 | 不徴収 | 州ごとに異なる (マサチューセッツ州で1827年に無償化。南北戦争前に6州で無償化。) |
| 英国 | 不徴収 | 1944(イングランド/ウェールズ) 1918(スコットランド) |
| カナダ | 不徴収 | 1930年代までに無償制一般化 (州ごとに異なる。) |
| イタリア | 徴収(ごく軽微な額) | - |
| オーストラリア | 不徴収 | 不明 |
| ドイツ | 不徴収 | 1919(ワイマール憲法) (旧西独及び現行ドイツでは各州が無償制を規定) |
| フランス | 不徴収 | 1933 |
| スウェーデン | 不徴収 | 不明 |
| ニュージーランド | 不徴収 | 1936 |
| オーストリア | 不徴収 | 1962 |
| ベルギー | 不徴収 | 1959 |
| デンマーク | 不徴収 | 不明 |
| フィンランド | 不徴収 | 不明 |
| オランダ | 不徴収 | 不明 |
| メキシコ | 不徴収 | 不明 |
| スペイン | 不徴収 | 不明 |
| ポルトガル | 徴収(ごく軽微な額) | - |
| 韓国 | 徴収 | - |
※授業料無償化開始時期については,無償化に関する法制化が行われた年。
(出典)国立国会図書館調べ
A1 所得にかかわらず,一定の受給資格を満たすすべての生徒が対象となります。
この制度は,国民的な教育機関となっている高等学校等の教育を社会全体で支えることを目的としています。また,諸外国では後期中等教育が無償とされていることや経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約にも中等教育における「無償教育の漸進的な導入」が規定されているなど,高校の無償化は世界的にも一般的なものといえます。こうしたことを踏まえて,所得による制限なく支援することとしています。
A2 今回の制度の対象となるのは,
○高等学校
○中等教育学校の後期課程
○特別支援学校の高等部
○高等専門学校の1年生から3年生
○専修学校及び各種学校のうち,高等学校の課程に類する課程を置くものとして文部科学省令で定めるものとなっており,全日制の高等学校や中等教育学校だけでなく,定時制,通信制の課程も対象となっています。
専修学校及び各種学校については,具体的には,中学校の卒業者を対象としている専修学校の高等課程と,各種学校のうち一定の要件を満たす外国人学校が対象となります。
このように,多様な教育機関における学びを支援することによって,生徒が本当に学びたいと思える場所での勉強を経済的に後押ししていくことになると考えています。
A3 今回の法律によって,原則として公立高等学校(中等教育学校の後期課程及び特別支援学校の高等部を含む。)の授業料は徴収しないこととされています。
ただし,授業料を徴収しないことが公立高校における教育に要する経費に係る生徒間の負担の公平の観点から相当でないと認められる特別の事由,例えば,既に高等学校等を卒業したことがある場合や,修業年限を超えて在学している場合には,授業料を徴収するかどうかを地方公共団体に委ねることとしています。地方公共団体によって取扱が異なりますので,各学校,高校を設置している都道府県(市区町村立の場合はそれぞれの市区町村)にお問い合わせ下さい。
A4 就学支援金制度では,私立高等学校等に在学するすべての生徒に対し,11万8,800円まで支援することとしています。また,これに加えて,私立高等学校等における授業料等の経済的負担が重いことを踏まえて,保護者の所得に応じてより手厚い支援を行うこととしています。具体的には,生徒の保護者の市町村民税所得割が非課税の場合には2倍,市町村民税所得割額が1万8,900円未満の場合には1.5倍まで支給されます。
さらに,今回の制度に加えて,これまで都道府県で行われてきた授業料減免などの取組がより充実されるよう,国としても後押しをしていきたいと考えています。例えば,
○授業料減免補助に係る地方交付税措置を拡充(平成22年度予算約50億円(対前年度約30億円増)
○私学助成に係る生徒等1人当たり単価を充実(306,143円=国庫補助金と地方交付税の合計単価(対前年度5,200円(1.7%)増)
○経済情勢の悪化を踏まえ,都道府県が行う経済的理由により修学困難な高校生への奨学金事業や私立高校生に対する授業料減免補助に対して緊急的な支援を行うため,高校生修学支援基金(平成21年度第1次補正予算約486億円,21~23年度の3カ年分)を措置(平成22年度より入学料減免補助事業を対象に追加)などの支援措置を講じています。
なお,年収250万円未満程度の世帯に対しては,24自治体で新たに授業料全額免除相当の支援を行い,既に行っている13自治体と合わせ37自治体で全額免除相当の支援となるなど,特に支援の必要な低所得世帯の私立高校生に対しては,就学支援金と授業料減免補助を合わせると,いずれの都道府県でも従来と同水準か更に手厚い支援となります。(平成22年4月1日現在における,各都道府県への聞き取り調査による)
(平成22年度予算における高校無償化関連施策)
○就学支援金として,私立高校等に在籍する全ての生徒に約12万円を支給。
○年収250万円未満の世帯には2倍額(約24万円),年収250~350万円未満の世帯には1.5倍額(約18万円)を支給。
○入学料の減免補助を「高校生修学支援基金」の対象事業に追加。
※就学支援金の増額の基準となる収入については,市町村民税所得割で判断する。
年収は,4人(両親と子ども2人)の世帯の場合の例。
A5 今回の制度が対象にしているのは,授業料です。
一方で,授業料以外の教育費も軽視できない負担となっています。各都道府県ではこれまで貸与制の奨学金事業を行ってきているところであり,平成20年度の実績で,15万9千人(約464億円)が奨学金事業の対象となっています。こうした奨学金は,授業料以外の費用についてもあてることができるものです。なお,日本学生支援機構が行っていた奨学金事業については,平成17年度の入学者より,都道府県に移管されています。国としては,各都道府県において確実に事業が実施できるよう,平成21年度は高等学校等奨学金事業交付金約281億円(平成22年度は270億円)を措置しています。
また,高校生就学支援基金においては,都道府県が行う奨学金事業の財源の一部に充当可能であるとともに,私立高校生に対する授業料以外にも実質的に授業料と同等と見なすことができる納付金(施設設備等)についても活用が可能です。加えて平成22年度からは入学料の減免補助についてもその対象事業とし,国としても授業料だけではなく,それ以外の教育費の負担軽減に対する都道府県の取組を後押ししています。
A6 私立高等学校等に在学する生徒が就学支援金の支給を受けるためには,学校の設置者を通じて,都道府県知事等に申請書を提出し,受給資格の認定を受ける必要があります。この際,日本国内に住所を有すること,高等学校等を既に卒業していないことや,36月以上在学していないことといった,一定の要件を満たす必要があります。
また,所得に応じた加算支給を受けるためには,その旨の届出と保護者の課税証明書等の添付書類を提出する必要があります。
A7 この制度により,全ての意志ある高校生が,教育にかかる費用を心配することなく,安心して勉強に打ち込める効果があるものと考えています。
例えば,経済的理由により高校を中退する生徒数は,近年では毎年2,500人前後にのぼっていますが,本制度の実施によって,こうした生徒が高校教育を継続して受けられるように支援できることになります。
また,この制度は専修学校高等課程などにおける多様な学びを支援することとしており,これまで高等学校の学習になじめず中退せざるを得なかった生徒にとっても多様な学習機会を選択できるきっかけになると考えています。
これに加えて,対象となる生徒に対しては,本制度の意義について学校を通じて周知することを契機として,自らの学びが社会に支えられていることの自覚を醸成し,国家・社会を形成していく者としての成長を目指して,学習意欲を維持向上する効果も期待しています。
このため,自分たちの学びは税金で支えられていること,そして,その税金の背景には国民の納税があり,納税の背景には勤労があるということなど,生徒が社会の一員としてその公共の精神を改めて認識することにより,仕事への意欲や職業意識を高めるような機会を教育現場でもつことなどにも取り組んでいきたいと考えています。
この制度を通じて,生徒の皆さんが,将来の我が国社会の担い手として,広く活躍されることを期待しています。
A8 就学支援金制度では,すべての私立高等学校等の生徒に対し,公立高等学校の生徒1人当たりの支援と同等の支援を行うこととしています。さらに,低所得世帯の生徒に対しては,加算して支給を行うこととしています。
このように,公立高校だけでなく,私立高等学校等への就学について手厚い支援を行っており,従来に増して,本人の希望にそった多様な進路選択が可能になります。これまで経済的理由で私立高等学校等を選んでいなかった世帯の子どもが,私立高等学校等を選択することも考えられることから,一概に公立高校に入りにくくなることはないと考えます。
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