【ワシントン=勝田敏彦】体外受精の成功率を上げるため、受精前の卵子の全染色体を検査する新しい着床前診断の初の臨床試験(治験)が欧州で行われ、3人の赤ちゃんが生まれた。受精卵を調べる従来の着床前診断には、「命の選別」という倫理的な批判があるが、そうした批判を避けられる利点もあるという。欧州生殖発生学会(ESHRE)が発表した。
発表によると、ドイツで双子の女児が6月に、イタリアで男児1人が9月に生まれ、母子とも健康という。いずれも「比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)法」と呼ばれる方法で、未受精の卵子の染色体の検査を受けた。
この方法だと全染色体を短時間で調べることができ、着床させる卵子を選ぶ精度が上がるため、妊娠に成功する可能性が高まるとしている。受精卵を「命の始まり」と見なすカトリック教会の影響などで受精卵の検査や操作を禁じているドイツなどでも着床前診断に道を開くことになる。
女性が高齢になると卵子の染色体異常が増えて体外受精の成功率も低くなる。ESHREは「この方法は37歳以上の女性や流産を繰り返す女性に有益」としており、2011年には規模を拡大した治験を行う予定だ。
日本では日本産科婦人科学会(日産婦)が受精卵を調べる着床前診断について会告を定めている。原則として重い遺伝性の病気を避ける場合などに限られている。日産婦の吉村泰典理事長(慶応大教授)によると、未受精卵を調べる診断についての規定は設けていないという。