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特集:「開かれた新聞」in沖縄 普天間問題を中心とした民主党政権報道(その1)

 ■新聞週間 「開かれた新聞」in沖縄 毎日新聞と琉球新報の第三者委の合同委員会

 発足10周年を迎えた毎日新聞の「開かれた新聞」委員会と琉球新報の「読者と新聞委員会」による合同委員会が9月29日、那覇市の琉球新報本社で開かれた。「普天間飛行場移設問題を軸とする民主党政権の発足1年」をテーマに両紙の報道を検証。論議は3時間半に及んだ。毎日新聞は昨年11月に共同通信再加盟を発表した際、紙面検証機能の強化を図るため第三者機関の合同開催を表明していた。全国紙と地方紙が外部の有識者で構成する第三者委員会を合同で開催するのは初めて。なお毎日側参加者は28日に辺野古と普天間飛行場を視察した。【司会は、磯野彰彦「開かれた新聞」委員会事務局長、玻名城泰山琉球新報取締役編集局長。写真は琉球新報提供】=毎日新聞の紙面は東京本社発行の最終版を基にしました。

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 ◆座談会出席者

 ◇毎日新聞「開かれた新聞」委員会委員

柳田邦男委員(作家)

玉木明委員(フリージャーナリスト)

田島泰彦委員(上智大学教授)

吉永みち子委員(ノンフィクション作家)

 ◇毎日新聞の主な出席者

 岸井成格主筆▽河野俊史・東京本社編集局長▽冠木雅夫・論説委員長▽岩松城・西部本社編集局長▽小松浩・東京本社編集局次長▽小菅洋人・同政治部長

 ◇琉球新報「読者と新聞委員会」委員

新垣幸子委員(元沖縄県出納長)

山内彰委員(沖縄県NIE推進協議会会長)

我部政明委員(琉球大教授)

仲吉朝信委員(沖縄銀行顧問)=紙上参加

 ◇琉球新報の主な出席者

 富田詢一社長▽名城知二朗・編集局次長▽普久原均・同▽松元剛・政治部長

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 ◆毎日新聞の紙面

 ◇差別の問題念頭に--柳田委員

 ◇沖縄の空気伝えて--玉木委員

 ◇少数意見どう尊重--田島委員

 ◇紙面交換できたら--吉永委員

 富田詢一・琉球新報社社長 毎日新聞「開かれた新聞」委員会との合同委員会が実現したことに大きな喜びを感じています。「読者と新聞委員会」には日ごろから貴重な意見をいただき、紙面に反映できるよう努力してきたつもりで、ややもすると独りよがりの新聞づくりに、第三者の提言は大変貴重だと考えており、高い見地、見識からの意見は欠かせません。「良薬は口に苦し」と申します。沖縄の新聞だからと手を緩めず、是々非々で指摘していただきたい。

 岸井成格・毎日新聞主筆 毎日新聞は10年前、他社に先駆けて第三者委を設置し、さらに昨秋の共同再加盟発表を機に地方紙との合同開催を検討してきました。このたび記念すべき第1回合同委が、この那覇で開かれるのは非常にタイムリーだと思っています。今回のテーマは、歴史的にも国際的にも非常に重いものです。本土と沖縄のメディアには場合によっては認識にギャップもありましょうが、この議論を今後の紙面展開に生かしたいと考えています。

 我部政明委員 記事をまとめて読んだが、分量的にも結構報じている印象だ。しかし、報じられている割に、政権の沖縄への理解は浸透していないのではないかと感じた。紙面で面白かったのは「悲憤の島から」を取材した3人の女性記者が感想を書いた記事(8月31日朝刊)だ。自分の考えを書いていたのは新鮮だった。しかし、何か物足りなさも感じた。もう少し3人の個人的な意見や若い世代としての視点を直接的に表現したら良かった。

 山内彰委員 シャープな記述と見出しには驚かされた。例えば、辺野古移設の閣議決定を受けて1面に政治部長が書いた「安保もてあそんだ罪」(5月29日朝刊)。鋭い表現で鳩山由紀夫前首相の責任を追及している。同じ日の社説でも「『最低でも県外』は党公約ではないと釈明を重ねる姿に首相の威厳はない」など、中央紙は政権に強く物を言えるのだなと力を得た気がした。総じて普天間問題の分析はよく分かったので、次は基地問題の方向性の提言を琉球新報と提携してやってほしい。

 新垣幸子委員 毎日新聞が沖縄の基地問題をこんなに拾って取り上げているとは知らなかった。「悲憤の島から」では、戦争中の問題からアメラジアン(主に米軍関係者と沖縄女性の間に生まれた子供たち)まで出てきた。「まず負担軽減で信頼を」とした社説(7月7日)には県民が勇気づけられたはずだ。「日米合意に盛られた軽減策には、環境関連事故時の米軍基地立ち入りなど両政府が決断すればただちに実施できるものもある」とあった。毎日新聞の読者の胸にどう届いたのか知りたいと思った。

 私は県庁で日米地位協定の改定を訴える広報活動をしてきたが、65年たった今も基地があり続けることでもたらされる県民生活への被害、実態を全国民に知らせることが、新聞の使命ではないか。沖縄の声を他県の方々にどう理解してもらうのか。中央紙と地方紙が相乗りし、時には紙面を交換するような紙面づくりができたらと思う。

 吉永みち子委員 県民大会があった4月25日の琉球新報2、3面の紙面だけでも中央の新聞で見たいと思った。すべての都道府県の人たちが知りたい、読まなければと思う紙面の交換が可能になると、私たちが共有できる部分が多くなる。

 仲吉朝信委員 毎日新聞の幅広い記事や各方面からの論評をもってしても、県民の痛みや思いが広く国民に伝わったとは言い難い。琉球新報が取り上げた「米議会で高まる海兵隊不要論」など、さらに紙面で検証・分析・追跡し健全な世論を育てていってほしい。そうすれば、基地負担の重要性も自分のことと考える国論が醸成されてゆく。

 田島泰彦委員 毎日新聞のほかにもいくつかの本土の新聞を読んでいるが、やはりそれだけでは見えてこない問題がある。それは、日米安保や米軍再編の根源にある枠組みの前提にかかわる本質論だ。例えば「抑止力」。毎日の紙面でも抑止力の議論はなされているが、東京で読む多くの新聞は「抑止力がある」というのが自明の前提になっている。果たして本当に抑止力が存在するのかどうか。あるとすればどういう意味があるのか。もう少し丁寧な、議題設定そのものの本質を問うような議論は東京の新聞に少ないように思う。沖縄で挙げられる具体的な論点は確かに地方の問題ではあるが、我々の国や、我々の国を構成している一人一人の普遍的な問題だと思われる。

 柳田邦男委員 毎日新聞と琉球新報を読み比べると、紙面から「肉声」が聞こえてくるかどうかが大きな違いだと思う。普天間飛行場の周辺の人々が感じている命の危機感は、そこにいま住んでいるというだけでなく、沖縄戦を経験した歴史的な背景があるから強い。若い人たちには体験がなくても地上戦を経験した親や親族がいてその記憶は生々しく残っている。だから、そこで感じていることは東京や北海道で生まれ育った者には分からない。

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 ◇「グローカル」に本質追求--毎日新聞東京本社編集局長・河野俊史

 普天間飛行場の移設報道に関して、地元と反目する「中央のメディア」とひとくくりにされることに、私たちは納得していません。例えば今年4月、琉球新報の富田詢一社長(当時は編集局長)に寄稿してもらったコラムでは「メディアは誰のためにあるのか」という根源的な問いかけがありました。

 基地問題に対して、琉球新報そのものが極めて高い当事者性を持っているといえます。山内委員の「分析にとどまっていて、その先の提言に踏み切れていない」との指摘からは、沖縄の読者はその物足りなさに「ワジワジー」(方言で「イライラする」の意)しているんだろうと感じます。

 私たちに何ができるのか。肉声を伝えることは大事ですが、一方で、安全保障という極めて透明性が低い問題の真相を見きわめる必要があります。日米安保全体を検証しながら事実をつなぎ合わせていく。それが在京メディアの大事な使命だと思います。マクロ、ミクロの両方のアプローチです。両紙が互いの役割を補完し合えれば、グローバルかつローカル、「グローカル」の視点が生まれる。まさに現場の熱気と冷静な分析で、本質に迫る報道ができると信じています。

 ◇毎日新聞の取り組み 「多様な視点」読者に提供--小松浩・東京本社編集局次長

 歴史的な政権交代のあと、私たちが関心を持ったのは、国の仕組みがどうなるのか、政治の方法がどう変わるかということだった。その中で、当面の最大テーマである普天間飛行場移設問題は「政策決定のガラス張り化」「多様な視点」そして「歴史的な視点」という三つを柱に据えて報じてきた。

 「辺野古移設」閣議決定までどんな協議がなされたかを探る検証紙面(5月31日朝刊)を作ったが、多様な視点を提供することに特に気を使った。琉球新報の編集局長や政治部長にも寄稿いただき、中央メディアに対する地元からの批判も積極的に紹介した。全国メディアでは、普天間問題を最も手厚く報じてきたという自負はある。また「転換期の安保」企画の中で沖縄と同じ構図を抱えているグアムにいち早く記者を派遣した。

 「悲憤の島から」(全3部、13回)という連載は歴史的視点を意識した。20代後半から30代の女性記者を現地に出張させ、コザの孤児院や集団自決に関するさまざまな証言を集めた。地元では目新しくない話かもしれないが、共通の歴史認識を持った上でないと普天間問題の議論は成立しないと考えた。現地に張り付くミクロ的報道も、政権中枢を探る中央メディアならではのマクロ的視点も必要だ。両立は難しいが、極力目配りした。

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 ◇「開かれた新聞」委員会とは

 毎日新聞の第三者機関「開かれた新聞」委員会は(1)人権侵害の苦情への対応をチェック=記事によって当事者から人権侵害の苦情や意見が社に寄せられた際、社の対応に対する見解を示し、読者に公表する(2)紙面への意見=報道に問題があると考えた場合、意見を表明する(3)メディアのあり方への提言=より良い報道を目指すための課題について提言する--という三つの役割を担っています。記事による人権侵害の苦情や意見は各部門のほか、委員会事務局(ファクス03・3212・0825)でも受け付けます。

毎日新聞 2010年10月15日 東京朝刊

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