きょうの社説 2010年10月19日

◎羽田の国際化 地方空港の追い風にしたい
 羽田空港の新滑走路と新国際線ターミナルの供用開始は、小松、富山、能登など羽田便 をもつ地方空港にとっては、海外との新たな扉が開くことを意味する。とりわけ、小松、富山空港は、2014年度に北陸新幹線が開業すれば羽田便の利用者減は避けられず、羽田の国際化は新たな需要を開拓するチャンスである。

 日本の航空政策が大きな転機を迎えるなか、気がかりなのは、国が羽田、成田の一体運 用でハブ化を進めようとしている点である。成田もむろん大事だが、ハブ空港を一本に絞らない戦略が裏目に出れば、両空港の拡充が中途半端に終わる懸念もある。

 羽田の国際化と発着枠の拡大は、地方活性化につながる大きな可能性を秘めている。国 は拠点空港としての羽田の価値を追求し、首都圏の国際競争力強化にとどまらず、地方活性化の追い風となる戦略を打ち出してほしい。

 羽田空港で21日に4本目の滑走路の供用が始まれば、年間発着枠は現在の年30・3 万回から40・7万回に増える。このうち、国際線には昼間6万回、深夜早朝3万回が割り当てられ、今月末からは欧米を含む17都市と結ばれる。

 北陸の空港から羽田経由で海外へ出掛けたり、海外から羽田経由で北陸を訪れる人も増 えてくるだろう。国際便が拡充され、使い勝手がよくなれば、成田、中部、関西国際空港を利用していた北陸の客が羽田へシフトするのは間違いない。地方空港の国際化戦略も、アジア直行便に、羽田経由を加えた新たな視点が求められる。

 羽田、成田両空港について、国土交通省は共存共栄の道を探っているが、両空港のバラ ンスに気を使い過ぎれば、せっかくの羽田国際化もメリットを十分に引き出すことはできない。

 成田は今月13日、国際線の発着回数の上限を現行の22万回から30万回に増やすこ とで、国、地元自治体、空港会社の合意が成立した。これは羽田の3倍に上り、成田の国際空港としての機能も一段と強化されることになる。両空港間のアクセスも改善されないなかで、一体運用の道筋は一向に見えてこない。

◎中国の反日デモ ガス抜きか、すり替えか
 尖閣諸島をめぐって、中国・四川省などで起きた反日デモが各地に広がり、また暴徒化 した。日ごろからうっせきした不満が爆発し、破壊行為に発展したのだろう。デモの実態は、複数の香港紙でも報じているように、中国当局に巧みに誘導された「官製デモ」の可能性が高い。中国外務省の報道官は、暴力の自制を呼び掛ける一方、「日本側の一連の誤った言行に義憤を示すことは理解できる」と擁護した。政府への不満のはけ口を日本に向け、同時に日本を揺さぶろうとする得意の手口に見える。

 国家の本性は、こんな時にこそ表れる。無邪気に友好を唱えるのではなく、相手の本質 を見抜く冷静な目を持ちたい。企業経営者は目先の利益にとらわれず、チャイナ・リスクにしっかりと目を向けていく必要がある。

 本紙「北風抄」の執筆者で、中国情勢に詳しい評論家の宮崎正弘氏(金沢市出身)は自 身のブログで、中国共産党が反日デモを展開させた理由を4つ挙げた。第1は「ノーベル賞騒ぎのガス抜き」、第2は「尖閣問題で胡・温執行部を突き上げようとする上海派の陰謀」、第3は「西欧マスコミに対する問題のすり替え」、第4は「頻発する炭鉱事故など国内の悪政から目をそらすため」である。

 中国の場合、デモのプラカードに書かれたスローガンと目的は必ずしも一致しない。日 本政府は官製デモの拡大に慌てず、現地法人企業の保護や旅行の自粛などに全力を挙げて欲しい。

 今回と2005年に頻発した反日デモの違いは、発生場所が地方都市ばかりという点で ある。インターネットへの検閲が厳しく、好ましくない書き込みは即座に消される中国で、西安、成都、鄭州ではデモ告知の書き込みが削除されなかったという情報もある。

 中国政府は上海万博が開催されている上海やアジア大会が来月から始まる広州などの大 都市で、反日デモが起きる事態を好んでいないだろう。地方都市ならば、デモのコントロールは可能だと考えても不思議はないが、その思惑が外れるとやっかいなことになる。