第三十五話 綾波レイの激奏 ~ENOZ featuring REI~
※小説「涼宮ハルヒの分裂」の第二章から登場する名前不明の下級生(αー1、αー5)はこの連載では未登場です。(驚愕などで詳細が判明したら登場させようと思います)
※加持エツコと加持ヨシアキは私の作品「チルドレンのためのエヴァンゲリオン」から引っ張って来たオリジナルキャラです、詳細な説明はそちらの作品をご覧ください。
<第三新東京市 ネルフ本部 会議室>
ハルヒの発生させた閉鎖空間と神人を抑えるため閉鎖空間に向けて出撃したレイ、カヲル、イツキを見送ったアスカ、シンジ、ユキ、ミクル。
戦闘の直接指揮はミサトが執る事になり、アスカ達がリツコと一緒に突然周囲に現れた佐々木達の一団や、マナに関する話し合いを行おうとした矢先に、また厄介事が飛び込んで来た。
青い顔をした加持リョウジがアスカ達と同じ年ぐらいの少女と少年を連れて会議室に入って来たのだ。
2人は北高の制服を着ている。
「加持君、その子達は?」
「ああ、俺とミサトの子供だそうだ」
リツコの質問にサラッと答えたリョウジの返事を聞いて、その場に居たリツコやアスカ達は声にならない悲鳴を上げた。
それとは対照的に、少女と少年は安心したような嬉しそうな表情を浮かべている。
特に少女の方は能天気にアスカ達に向かって手を振っている。
「加持君、一体これはどういう事?」
いつも冷静さを装っているリツコも手がガタガタと震えていた。
「俺もよく分からないんだ。少し前にネルフのゲートでこの2人が騒いでいるのを見つけてな。突然父親だと言われて抱きつかれて驚いたぜ」
「だって、母さんの名前を言ってもネルフの職員の人達は取り合ってくれないし、心細かったんだよ!」
「そこに死んだはずの父さんが姿を現したから、僕達もつい感激してしまって……」
少女と少年は興奮した様子でそう叫んだ。
「残念だが、俺はお前達の事を全く知らないんだ。順を追って説明してくれ」
リョウジに言われて席に座った少年と少女は自己紹介をして状況を話し始めた。
ミサトに似た紫色を帯びた長い黒髪をポニーテールにまとめたスタイルの良い少女は加持エツコと名乗った。
もう一人の琥珀色の瞳を持った、シンジに似た感じの少年は加持ヨシアキと名乗り、外見がミサトやリョウジに似ていないのは戦災孤児だった所を拾われて養子になったと説明した。
2人は中学を卒業した後、母親の”加持”ミサトと共にアワジランドと言うアフリカの小さな国で暮らしていた。
日本に居るアスカ達とは手紙で近況を知らせ合っていて、高校生になったアスカ達からの手紙が届いた日の夜、自分達もアスカ達と同じ高校に通っている不思議な夢を見たと言う。
そして、2人は目を覚ました時、北高校の新1年生の制服を着て第三新東京市の空き地に居た。
住んでいた家が跡片も無く消えていた2人はパニックになったが、日本に居る事に気が付いた2人は第三新東京市内を迷いながらも何とかネルフ本部の正面ゲートまで歩いてたどり着いた。
ネルフの職員に向かって加持ミサトの名前を言う2人の対応に困った職員が、戦闘の指揮で取り込み中のミサトに連絡しにくいのでリョウジの方に通報して、リョウジが正面ゲートに行った。
リョウジも見覚えの無い初対面の2人だったのでリツコに相談しようとネルフの会議室に連れて来たわけだ。
「そんな事情があったのか、それならお腹が空いているだろう。何かデバるか?」
「じゃあ、カツ丼ちょうだい! ある事無い事洗いざらい白状しちゃうから!」
「無い事を言っちゃダメだよ」
エツコのボケにすかさずヨシアキがツッコミを入れた。
「この時代遅れのジョークは……」
「間違い無くミサトの子ね」
リョウジとリツコはそう言ってため息をついた。
「もしかしてさ、アンタ達ってハルヒの言っていた”異世界人”じゃないの?」
黙って話を聞いていたアスカがそう呟くと、シンジ達は騒然となった。
「どういうこと?」
「平行世界、パラレルワールドと呼ばれるところから来た存在。平行世界はビックバンと呼ばれる宇宙創造の時から、この宇宙以外にも無数に存在すると考えられている」
「要するに枝分かれした他の世界からやって来たという事ね」
シンジの疑問の声に答えようとしたユキが解説をしようとしたところを、リツコが短くまとめてさえぎった。
「やっぱりハルヒが望んだから、異世界人が来ちゃったのかしら。アンタ達も散々よね、こんな事に巻き込まれちゃうし」
「あはは、私は別に構わないよ、こーしてアスカやシンジとまた会う事が出来て嬉しいから」
能天気に笑顔で答えるエツコにアスカ達は少しあきれてしまった。
「元の世界に戻りたいとか思わないの?」
「こういう子なんです、だから皆さんも仲良くしてあげて下さい」
シンジ達に向かってヨシアキは深々と頭を下げた。
「そう言えば、母さんはどうしているの?」
「ミサトは発令所で戦闘の指揮をしているわ。神人と戦っているチルドレン達のためにね」
エツコの質問にリツコがそう答えると、エツコとヨシアキは訳が分からないと言った顔になる。
「……神人ですか?」
「うーん、使徒のようなものなんだけど……説明しにくわね」
ヨシアキの質問に対してリツコは難しい顔をして答えた。
「じゃ、そう言う事でよろしくなリッちゃん」
「待ちなさい加持君、逃げる気!?」
会議室を立ち去ろうとしたリョウジをリツコが呼び止めた。
「この子達はあなたが責任を持って預かりなさい、あなたの子供でしょう」
「おいおい、勝手に子供を作ったのは異世界の俺だろう? それに、葛城の家に住まわせればいいじゃないか」
「私達は一軒家でアスカとシンジと一緒に暮らしていたから別に構わないけど?」
リョウジの言い分にエツコも同意した。
「ちょっと待ってよ、アタシ達の方はアンタ達の事を良く知らないし……」
「それに今ミサトの住んでいるアパートの部屋では狭すぎるわ」
アスカとリツコの強硬な表情を見て、リョウジは溜息をついた。
その後の話し合いの結果、エツコとヨシアキの2人はリョウジの住んでいるアパートに引き取られる事になり、そこから1年生として北高校に通う事になった。
2人が北高校の制服を着ていつの間にかこちらの世界の第三新東京市の空き地に居た上に、何故か1年5組の名簿に2人の名前が載っていたからだった。
ハルヒをごまかすために経歴はアワジランドから帰って来たリョウジの親戚の子だと言う事にした。
<第二新東京市立北高校 中庭>
新学期が始まり2週間ほど経った頃、中庭では北高に存在する部活の新1年生に向けた合同説明会が行われていた。
それぞれの部に机1個分程のスペースが与えられ、新1年生は部室棟を回らなくても部活の雰囲気を知る事ができた。
狭くて限られた場所なので、主に案内窓口の役割を担っていて、興味を持った生徒はその部の部室に行き、さらに説明を受けると言う段取りになっていた。
映画研究会はSSS団との共同作品である『怪盗ハルにゃんの事件簿 Episode 01 猫の恩返し』のVTRをコンピ研から借り受けたノートPCで展示するなど、人だかりができるほど目立っていた。
CG加工などをしたのはコンピ研であると、コンピ研部長達も自慢げに鼻を高くしていた。
そんな中、生徒会がマークして居たのはSSS団だった。
「きっとまたバニーガール姿などハレンチな格好をして校門でビラ配りをするに違いない!」
教職員達からの要請もあって、生徒会長は副会長の喜緑エミリと一緒に陣頭指揮をとって校門で取り締まりを行っていたのだが、SSS団の団員は誰一人姿を現さなかった。
「姿が見えないのは不気味だ、そう思わないか喜緑君?」
「考え過ぎですよ、平和なのは良い事ではありませんか」
生徒会長から問いかけられて、エミリは穏やかに微笑みながら答えた。
「それは、そうだが……」
中庭に設けられたSSS団のスペースには、キョンが1人で座っているだけで他に誰も居なかった。
SSS団の入団試験の説明会を夕方から開始すると言う説明が書かれた手製の看板があるだけで、他には何も無かった。
しかし、キョンは入部希望者が現れない時でも、常に背筋を伸ばして気を張り詰めていなければいけなかった。
ものすごいプレッシャーを背後から感じていたからだ。
ハルヒはキョンの後ろに椅子を持ってきて、腕を組みながら中庭に集まって来た新1年生達を眺めていた。
新1年生の中にもハルヒの事を知っている生徒は少なからず居るらしく、キョンの後ろに居るハルヒを指差してはボソボソと話し、遠巻きに眺めながら去っていく姿も見受けられた。
キョンはそんなハルヒを曲解する生徒達の姿を見て腹が立ったのだが、だんだんとハルヒの側に居る自分が誇らしくなり、笑みが零れるようになった。
「やっぱり、東中出身の連中はあたしの事を避けて通るのよね」
ハルヒはそんな新1年生の姿を見て、ポツリとつぶやいた。
「谷口からさんざん聞かされたけど、あんな無茶苦茶な中学校生活を送って居れば関わりたくない気持ちも起こるだろう」
「何よ、あんたまで尾ひれが付いたウワサに耳を貸しているわけ? ……まあ、中には本当の事もあるけど」
ハルヒはそう言って憂鬱そうにため息をつくと、さらに言葉を続ける。
「ジョン・スミスに『世界を大いに盛り上げる団』に所属して居るって聞いて、とっても羨ましく思ったの。本当に中学時代の生活は退屈でイライラしてたわ」
「俺はそんな事、言った覚えは無いけどな」
「はあ? 何でそこであんたが出てくるのよ?」
失言をしてヤバイと思ったキョンは話題を反らそうとする。
「なあ、去年の今頃みたいに校舎をうろついて新しい団員を探そうとしないのか?」
「あたしさ、新年度が始まってから休み時間は1年の校舎を探索していたのよね」
「姿が見えないと思ったら、そんな事をしてたのか」
予想通りのハルヒの答えに、キョンはヤレヤレとため息をついた。
「でも、あたしが勧誘したくなる生徒はどこにも居なかったのよ。だから多分入団希望者からの消去法になるでしょうね」
「この調子じゃ、夕方の説明会にどれだけ集まるかどうかわからんぞ」
「何よ、たまに声を掛けてくる生徒は居るじゃない」
「映画が撮りたいなら映画研究部に入れと追い返してばかりじゃないか」
「いいから、あんたはSSS団の受付窓口としての職務をまっとうしなさい!」
隣の映画研究部のスペースに展示されている『怪盗ハルにゃんの事件簿 Episode 01 猫の恩返し』のVTRを見て、ハルヒに興味を持って声を掛けてくる生徒も居たのだが、その度にハルヒは不機嫌そうに映画研究部の方を指差すのだった。
それでもたまには純粋にSSS団と言う名称だけでは意味がとても分からない団体に興味を持って話しかけてくる生徒にはキョンが対応する事になる。
「あの、SSS団ってどんな部活何ですか?」
「SSS団と言うのは『涼宮ハルヒと惣流・アスカ・ラングレーの世界を大いに盛り上げる団』の略称で、宇宙人、未来人、異世界人を探し出して楽しく遊ぶ事を目的としている団なんですよ」
「そ、そうなんですか……」
「今日の夕方、部活棟の部室で入団試験の説明会を行うので興味があったら是非来て下さい」
「はい……」
こんなやりとりをキョンと生徒の間で交わしていた。
説明の途中で、興味本位でハルヒに声を掛けてハルヒの気に入らない事を言うと、即刻ハルヒに追い払われると言う事もあった。
「そんな態度じゃ、ビビって説明会に来てくれないかもしれないじゃないか」
「あたしは下手に出てまで団員を勧誘するつもりは無いわ、他の部活の説明会に行きたいならそっちに行ってくれれば良いし。あたしはオンリーワンの人材を求めているのよ!」
「じゃあお前が説明してやれよ」
「窓口担当は平団員のあんたの仕事よ、団長自らやるもんじゃないわ」
「団長様なら部室で堂々と待っていたらどうだ?」
「団員のあんたがサボらないように見張るのも、団長の仕事なの!」
新入生への気まずさと、ハルヒのプレッシャーに板挟みになり、どっと疲れてため息を吐き出すキョンだった。
ペット事件解決から阪中さんなど元1年5組のクラスメイト達には受けが良くなったSSS団だったが、まだまだ悪評の方も広まっているようだった。
しかし、ハルヒの方もそんな悪評を信じる生徒の方を気にかけてはいなかった。
「こらキョン、何をだらけているのよ、しゃきっとしなさい!」
春眠暁を覚えずと表現されるこの季節、ついウツラウツラしてしまったキョンの背中に、メガホンを持ったハルヒの怒声が飛んだ。
それを聞いたキョンは姿勢をビシッと正し、少しウンザリした様子でハルヒの方をチラッと見た。
そんなハルヒとキョンのやりとりを人気の無い体育館の裏庭から眺めて難しい顔をしている女子生徒が1人。
それは、シンジに接近するためにSSS団に入ってみたいと思うマナだった。
クラスメートとしてだけでなく、SSS団の団員としてアスカと並ぶ存在になりたい。
マナの気持ちはとても熱いものだった。
「霧島さんは、そんなにSSS団に入りたいのかしら?」
不意に後ろから声を掛けられたマナは、勢い良く振り返った。
すると目の前にはリョウコが人当たりの良い微笑みを浮かべて立っていた。
「あなたは……朝倉リョウコ!」
マナは思いっきりリョウコをにらみつけてそう言い放った。
リョウコはマナに敵意を向けられても、全く気にしない様子で微笑みかける。
「私が抜けた後、ネルフ中国支部は霧島さんを雇ったみたいね」
馴れ馴れしい様子で話を続けるリョウコに、ついにマナの堪忍袋の緒が切れる。
「私はあなたを絶対に許さないんだから!」
「どうして? 私が裏切り者だから?」
「違う!」
キョトンとした表情でとぼけるように答えたリョウコに、マナは叫んだ。
「シンジ君を殺そうとした事よ! 葛城さんも甘いわ、あなたみたいな危険な人間をのさばらせておくなんて!」
マナの言葉を聞いて、リョウコの表情と周囲の雰囲気が神妙なものに変化する。
「ごめんなさいね、あの時の私は間違った考えを持っていたわ。小さい頃から戦闘訓練ばかりで過ごす毎日……」
リョウコが語り出すとマナの怒りの表情の中に次第に困惑した表情が入り混じり始めた。
「私が任務を受けて潜入した頃、クラスのみんなに好かれるように演技をしていたけど、内心バカバカしく思っていたわ」
そこまで話すとリョウコは自分自身をバカにするように乾いた笑い声を上げた。
そんなリョウコを見つめるマナの瞳にも同情と悲しみの色が混じり始める。
ひとしきり笑い終えたリョウコは、一転穏やかな表情になって制服に刻まれた北高校のシンボルマークを優しく撫でる。
「でも、葛城先生に教えられてクラスの友達と過ごす日々はとても楽しいものなんだって気がついたのよ。霧島さんもそう思わない?」
リョウコに微笑みかけられて、マナは思わず頷いてしまい、すっかり毒気を抜かれてしまった形になった。
うつむきかげんでマナはリョウコに向かってつぶやく。
「だけど……私はまだ朝倉さんを許すわけには……」
「それじゃ、私に罪を償うチャンスを与えてくれないかしら?」
その後リョウコはマナにそっと耳打ちをした。
<第二新東京市立北高校 SSS団部室>
キョンとハルヒ以外のメンバーはハルヒの命令により部室の飾り付けをしていた。
「まったくハルヒってば、1年中お祭り騒ぎなんだから!」
アスカはそう言いながら、クリスマスツリーの飾り付けをしていた。
その隣でシンジが笹の葉の飾り付けをしている。
さらにその横でイツキが夏祭りの飾り付けを、部屋の反対側ではミサトが正月の飾り付けで門松を置いている。
ユキは机に団員の数だけ並べて置かれたパソコンのチェックを入念にしている。
「あのー、私も手伝いましょうか?」
忙しそうにしている4人を見かねてミクルが声を掛けた。
「大丈夫よ、ミクル先輩はハルヒに言われた通りおいしいお茶を淹れてくれればいいの」
「そうそう、この部屋には盆と正月が一緒に来てるけど、それほど忙しくないわ」
「ミサトさん、誰が上手い事を言えと」
アスカとミサトの言う通り、部室は広くは無かったので飾り付けにそんなに時間が掛かるわけでもなかった。
「碇君、体育館から椅子を持って来たわ」
「お疲れ綾波、カヲル君」
「椅子を10人分とは、涼宮さんも気合が入っているね」
カヲルはそう言って軽く笑い声を立てた。
「霧島さんとか、あの2人とか、何人かやって来そうな心当たりはあるけど、10人も来るのかな」
「アタシはあんまり増えて欲しくないわね」
「どうして?」
「気の合う仲間とワイワイやって来たからSSS団も楽しいわけだし……」
アスカは顔を赤らめてさらにポツリとつぶやく。
「シンジとの仲を邪魔されたりしたら嫌だから……」
「はいはいアスカもシンちゃんもごちそうさま」
ミサトがニヤニヤしながら手を叩いて冷やかすと、見つめ合っていた2人はパッと視線を反らして飾り付けの仕事を再開した。
そんなSSS団の部室に、軽音楽部の演奏が漏れ聞こえてくる。
「軽音楽部のみんなは楽しそうですね」
「何組のバンドが部室で演奏会をするそうですよ」
ミクルがお茶を淹れながらニコニコしながらそうつぶやき、イツキがみんなに内容を説明するようにそう言った。
「バンドかあ、僕も中学の時にトウジとケンスケと委員長と組んでやったっけ」
「地球防衛バンドだっけ? まあ名前はダサかったけど、ヒカリがプロ顔負けの歌唱力だったのは驚いたわ」
「碇君はどんな楽器を弾いたの?」
レイに聞かれたシンジは質問されて不思議そうな顔をした。
「私はあの時にはまだ2人目だったから、知らないの」
「あ、ごめん……キーボードを弾いていたんだ」
暗く沈んだレイの表情を見て、シンジは謝りながらそう答えた。
「私もバンド、やってみたかったかな……」
「綾波はカヲル君と一緒にギターの練習をしているんだっけ?」
「ええ、学校から帰った後にカヲル君の部屋で、だけど……」
シンジとレイのやり取りを聞いていたアスカは、何かを思いついたかのように嬉しそうな顔でポンと手を叩く。
「そうだ、SSS団でもバンドをやりましょうよ!」
「え?」
突然そんな事を言い出したアスカに、シンジが驚きの声を上げた。
「ハルヒのやりたい事ばかりを押し付けられるだけじゃなくて、アタシ達のやりたい事も主張して行くべきよ!」
「さすが惣流さん、副団長として素晴らしい提案ですね」
アスカの提案に、イツキも笑顔を浮かべて賛成した。
「でも、勝手な事を言い出したら涼宮さんの機嫌が悪くなるんじゃないかな」
「何でもかんでも自分の思い通りにならないって言う事を、そろそろハルヒも学んで良い頃よ」
「素晴らしい信頼関係ですね」
シンジの反対意見を自信たっぷりに押しのけたアスカを見て、イツキは愉快そうに言った。
レイは軽音楽部から聴こえてくる曲が気になっているのか、軽音楽部の部室の方をチラチラと眺めている。
そんなレイに気が付いたのか、アスカが声を掛ける。
「レイ、軽音楽部の演奏が気になるなら、渚と聴きに行ってもいいわよ」
「でも……」
「残りの椅子ぐらい、アタシとシンジで運んでおくから平気よ」
「綾波、アスカはお節介を言い出したら止まらない性格だからさ」
「むう、悪かったわね」
「ありがとう、アスカ」
アスカの申し出に戸惑っていたレイだったが、そこまで言われたのでアスカの好意を受け入れる事にした。
<第二新東京市立北高校 軽音楽部部室>
軽音楽部の部室はステージとたくさん運び込まれた椅子による客席に分けられていて、小さなライブ会場のようになっていた。
レイとカヲルが部室に到着した頃には、バンドの演奏も終盤を迎えていたようで盛り上がりは最高潮に達して居た。
熱気に驚いた2人が廊下から部室を覗き込んで1分も経たないうちに演奏は終了してしまい、曲を聴く事は出来なかった。
ぞろぞろと観客が帰っていく中で、来たばかりだったレイとカヲルは物足りなさを感じてしまいすぐに帰る事も出来ずに廊下に立っていた。
演奏を終えた部員達が汗をかきながら、部室に残った熱烈なファンと会話を交わしている様子を2人で黙って眺めていると、レイは軽音楽部の部員の1人に声を掛けられる。
「あなた達、入部希望者?」
「いえ、私達は……」
レイが首を横に振って否定すると、そのショートカットの女子部員はレイの制服をマジマジと見つめてため息をつく。
「そっか、2年生だからとっくに他の部に入っちゃってるか。じゃあ、バンドの演奏を聴きに来てくれたんだ」
「僕達は先ほど来たばっかりだからほとんど曲は聴けなかったんだ」
「そう、それは残念ね。じゃあ後でアンコールをしてもらえるようにあの子達に頼んであげようか?」
カヲルの言葉を聞いたその女子部員は奥で汗をふいている部員達を指差した。
「どうして、あなた達は汗をかいていないの?」
しかし、レイは目の前で話している部員の様子の方が気になった様だった。
演奏後の興奮に包まれて、頬を上気させて楽しそうにしている部室の中に居るバンドメンバーの部員達よりも、廊下に居るレイとカヲルに声を掛けてくれた部員とその隣に立っている女子部員の寂しそうな表情の方が気になって仕方が無かったようだった。
「私達はメンバーが居なくなっちゃって、演奏が出来なくなっちゃったんだ……」
「そう……」
「あ、私は岡島ミズキ。ドラムをやってるの。で、こっちの子は財前マイ。ベースをやってるんだけど」
ミズキに紹介されたマイは軽く頭を下げた。
「私達、ENOZって言うバンドをやっていたんだけど、ギターをやっていた中西先輩が卒業しちゃって、ボーカルの榎本さんも去年の学期末に転校しちゃったの」
「ドラムとベースだけじゃバンドは成り立たないから、解散しようかなと思っていたところなのよ」
ミズキとマイは乾いた笑い声を上げた。
2人からはすっかり諦めムードが漂っている。
「僕達は趣味でギターを練習して居るんだけど、楽譜を見せてくれないかな? 興味があるんだ」
「そう? じゃあ中へ入ってよ!」
カヲルがそう言うと、マイは少し元気を取り戻してレイとカヲルを部室の中へと招いた。
2人は好奇心に逆らう事はできず、軽音楽部の部室へと足を踏み入れる。
そして、楽譜とギターを渡されたカヲルとレイは、時間を忘れてミズキとマイと一緒に演奏を楽しんだ。
「あなた達とこれからも一緒に演奏が出来たら楽しいのに」
「本当、ENOZ復活も夢じゃないわ!」
ミズキとマイが嬉しそうに言ったその言葉は、レイとカヲルの心を激しく揺り動かした……。
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