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[21385] 【クロス】戦極姫・無双~石田三成伝~【習作】
Name: 佐々木君◆faffb3e6 ID:e33f44ce
Date: 2010/10/17 04:39
 どうも、佐々木です。

 今回は、小説の腕を磨くのも兼ねて、この作品を投稿したいと思います。
 もし、小説の書き方に不快な思いをされた方は、すぐに感想にてお申し付けください。すぐに訂正したいと思います。

 その他、感想も受け付けておりますのでどうか宜しくお願いします。

 尚、この小説は題名にもあります様に、戦国無双2の石田三成が戦極姫(PS2の奴)の世界に行くと言う、クロス物ですので、もしそれが嫌な場合は、戻るボタンでお願いします。

 ちなみに、この物語は一応。恋愛戦記をジャンルとして置いているので、それを踏まえて、お読みください。

 ※作者は4人以上のハーレムは大嫌いです。
  なので、三人は在っても、四人は・・・無いです。



[21385] プロローグ
Name: 佐々木君◆faffb3e6 ID:e33f44ce
Date: 2010/09/04 00:30


【京都・六条河原の一角】




先の大戦、関ヶ原での合戦に敗れた俺はすぐさま捕らえられ、この京都・六条河原にて処刑される事になった。




「三成殿、覚悟は出来ておいでか?」

俺の耳に、人生の最後を宣告する言葉が投げ込まれた。
その言葉に対し、俺は何の反応も示さない。
いや、示した所で結果は同じ、不を示しめそうが、可を示そうが、意味も無し。故に俺は、ただじっと、目を瞑る。

そして、思う。今までの事を。
始まりから、終わりまでを。発端から、全てまでを、ただ単に思う。

一人の男に拾われ、一人の男に殿と呼ばれ、二人の男に親友と呼ばれた事を。
ある者達から横柄者と、不器用と、生き難いと言われた事を。
またある者達からは、感謝の言葉を言われた事を。
またある者達からは、軽蔑の言葉を言われた事を。

人に忌み嫌われてきた俺を、支えてくれた者達を。

「万民が一人のため、一人が万民のために尽くせば太平の世が訪れる。」
その言葉と共に、大切な事を教えてくれた者達を。


「大一、大万、大吉か・・・」
ふと昔の事を思い出していると、自然に口から、そう言葉が漏れていた。
それに対し、近くに居た介錯人が「それは何か?」と聞いてくる。
俺は鼻を小さく鳴らすと、冥土の土産として教えてやった。

「万民が一人のため、一人が万人のために尽くせば、太平の世が訪れると言う意味だ。貴様には分からんだろうな。今までもこれからも・・・」

ただ、人の笑顔が見たいと言うだけで天下を統一した男。
しかし、それを権力としか見なかった狸には、俺の言葉は分からないだろう。
そういう意味で言ったが、成程、この介錯人は勘違いをしたのか、はたまた、俺の言い方が不味かったのか、刀を抜くと、天高く突きかざした。

どうやら、俺の人生もいよいよこれで終わりらしい。
今、改めて思い返すと、実に幸せな人生だったかもしれない。
確かに、かつての主君の遺言は守れなかったけど、こんな形で人生を終える事になったけど。

あの男に仕えれて、あの男の殿になれて、あの男達と誓いを交わせて・・・
幸せだった。実に幸せだった。
寺の坊主として働いていた頃は、こんな所まで来るなんて思いもよらなかったけど。
歴史に、この日本の歴史に。俺は名前を残せたんだ、それはとても幸せな事じゃないか。

そこまで思い返すと、俺は自然と叫んでいた。
その声は、今までの俺とは、思えれない程に。ただ、叫んでいた。叫べずに死ねるか、そう思いながら、こう叫んでやった。


「実に良い人生だった!!石田治部少輔三成では無く!ただの三成として!この人生は、実に良かったぞ!!俺は!俺は!俺は!この上なく幸せ者だぁあああああ!!」

叫び終えた、その直後、俺は満面の笑みを浮べる。
今までの人生を、今までの気持ちを全て、ただ一言に言い表せれた事に対して。
喜びと感動を言い表せれた事に対して。そして、これからの時代に対して。

そして、その満面の笑みを、俺の最期の意志として受け取ったのか、ポカンと口を空けていた介錯人が、我に帰ると、顔を引き締め、小く息を吐いた、そして・・・。

俺の首元へ白刃を振り降ろした・・・・・・・。


石田治部少輔三成。享年41歳。

首は三条河原に晒された後、生前親交のあった春屋宗園・沢庵宗彭に引き取られ京都大徳寺の三玄院に葬られた。



「筑摩江や 芦間に灯す かがり火と ともに消えゆく 我が身なりけり」

三成、辞世の句。

◆◆◆



【米沢城・城内】

奥州の米沢城。
それは、奥州の大名、伊達家の居城である。
輪郭式に本丸から外側へ二ノ丸、三ノ丸を構え、10基の櫓と17棟の門が開かれており。技術の乏しさ故、石垣や天守は構えられず、土塁を築き本丸に2基の三階櫓を建てて天守の代用としている。
そんな米沢城の城内にて事件が起こった。


時刻は黎明。
外では、明け方にも関わらず、様々な動物達が一斉に活動を始めていた。
あともう少しで、動物達の鳴き声が、一日の始まりを告げるであろう、その時。
一人の女中が、驚愕の表情をしつつ、城内の廊下を必死に走っていた。
その女中の様子は、明け方故であろうか、髪はきちんと整えられておらず。服装も少し乱れている。
そんな状態のまま、女中は、目的地である、城のとある一室の前まで来ると、すぐさま両膝を付いた。そして深呼吸をすると、大声で叫んだ。

「景綱様!景綱様!大事にござりまする!大事にござりまする!」

その叫びに、すぐさま部屋の戸が勢い良く開かれる。
そして、中から巫女の様な格好をした一人の女性が現れる。こちらも寝起き故か、髪に少し寝癖が見られる。
そんな状態の彼女に、女中はすぐに深深と頭を下げる。
それを見た巫女は、目を擦りながら右手で制し、用件を問う。

「どうしたんだ?こんな夜明けに、見るからに只事では無さそうだが、・・・まさか?どこかが攻めて来たとでも言うのか?」

その言葉に女中は首を一生懸命、横に振って否定した。
その様子に巫女は胸を撫で下ろす。

「じゃあ何なんだ?私は昨日、遅くまで書き物をしていたから眠たいんだ。用件が無いなら戻るぞ?」

そう言って戻ろうとした巫女を、女中は必死に止めると、用件を大声で言った。

「中庭に!天から!天から若者が降って参りました!!」

その言葉を聞いた途端。戻ろうとしていた巫女は、動くのを止め、ゆっくりと女中を見た。
まさか、と言う表情をしたまま、じっと女中を見つめる。
それに対し、女中は、もう一押しと言わんばかりに言葉を続けた。

「今、中庭にて兵士が取り囲み、警戒しております。どうか、どうか!すぐに中庭に参られますように!」

その言葉に嘘偽りの無いと判断した巫女の格好をした女性――――片倉景綱は、驚愕の表情を浮べた。そして、すぐに行動の沙汰を下す。

「分かった。お前は先に行って様子を見ておけ、もしかすると敵国の調略かもしれない、私は成実と政宗を起こしに行ってくる!」

その沙汰に、女中は短く答えると、急いで中庭に向かった。
それを見届けた景綱は、愛刀を刀掛けから取ると、腰に差す。
それから、すぐに部屋を出ると、主君である伊達政宗の寝室がある場所へ一気に駆け出した。

続く。



[21385] 第一話 石田三成 『修正版』
Name: 佐々木君◆faffb3e6 ID:e33f44ce
Date: 2010/08/28 06:04




政宗は夢を見ていた。
いや、意識がある時点で、それが本当に夢なのかと言われれば、正直それは分からない。
でも恐らくコレは夢だと政宗は思う。何故だかは分からないが、勘がそう告げていた。

そんな夢の中で政宗は今、一人の男を見つめている。
後ろ姿のため表情は良く分からないが、あれは男だと雰囲気で悟った。

その男の髪の毛は日本人では珍しい茶色で、服装は白を強調した陣羽織を着ていた。
その陣羽織の背中には、真ん中に大きな文字で、「大一大万大吉」と書かれている。
それがどんな意味を指しているのかは政宗には分からない。
でも、それがその男にとって大切な物だと言う事は分かる。
何せ、自分の着ている服に縫い込む程だ。どうでも良い様な文字は書き込まない。

そう考えていると、知りたくなった。
大一大万大吉―――その言葉に一体、どんな意味が含まれているのかが、知りたくなった。

政宗は、理由を聞きたいがために、ゆっくりと男に近付いていく。
ゆっくりとゆっくりと・・・・・確実に。

そして気付くと、何時の間にか男の真後ろに立っていた。
そして、そこに立った事で、政宗は気付いた。
男が泣いている事に・・・。


表情は分からない、でも何故か、この男の感情が分かる。

それは、かつての自分。
そう、今も忘れられない自分に似ていた。
まさしくそれは瓜二つ。
大切な何かを失った自分に・・・凄く似ていた。

「うっううぅ・・・親父様!・・うぅっう・・親父様!・・・・・」

気付くと、男が泣きながら『親父様』と言っているのが耳に入って来た。
その言葉に、まさしく自分を照らし合わせる。

かつての出来事・・・それにより失った父。
それを悲しみながら、かつての心を捨て去った自分。

それと同じ悲しみを今まさに背負おうとしている男が居る。
政宗はそれを知ると、何故だか、男を掴もうとして手を伸ばした。
しかし、その手が男を掴む事は無かった。

気付くと、男は先程よりも遠くへ移動していた。
政宗もそれに追い付こうと走り出す。
しかし、幾ら走ろうが先程みたいに政宗が男に近付く事は無かった。
むしろ更に距離が離されていく。

それに追い付こうと、今度は全速力で走った。
しかし、全速力で走っても、距離が縮まる事は無い。

それでも尚、追い付こうと走っていると、何時の間にか、景色が変わっていた。
政宗は、目の前に居た筈の男を捜して辺りを見回す。すると後ろ姿の男が、丘の上で兵士達に命令しているのが目に入った。

政宗は再び走った。
その背に追いつこうと、これでもかと言う程の全速力で走った。
すると、今度は離れる事は無く、男に次第と近付いていった。

そして男の真後ろまで後一歩と言う所まで近付き、足を止めた直後、天地を揺るがす様な音がした。
政宗は、その音に思わず尻餅をつく。
そして直ぐに、再び男の下へ行こうと立ち上がると、男が伝令の言葉を聞いているのが目に入った。そしてその伝令の言葉が政宗の耳に聞こえて来た。

『小早川秀秋殿!寝返り!』

寝返り―――すなわち裏切り。
かつての父が裏切られた様に、目の前の男も今まさに父と同じ悲しみを背負おうとしていた。
その男の感情が政宗の中に入ってくる。

悲しみと憤怒。
裏切りの連鎖と人の情の脆さ。
絶望と暗闇。

どれもこれもが、かつて裏切られた父が、心の底で味わったであろう感情。
その父と同じ思いをした男に、政宗は更に気持ちが高ぶった。

この男なら!この男なら私の気持ちを分かってくれる!父の気持ちをわかってくれる!

そう思い、再び走り出した。
しかし、またしても男は離れていく。
それでも政宗は諦めない。その男を知りたいがため・・・その男に分かって貰いたいがため・・・。

しかし、思いとは裏腹に益々離れていく男に、政宗は必死になった。
足に痛みが走るが、それを堪えて、走っていく。目の前の男を求めて、走っていく。

そして走っている途中。またしても景色が変わった。
今度は、何処だろうと思いつつ、目の前に居た筈の男を捜して辺りを見回す。
そして、男を視界の中に入れた途端。
政宗は膝から崩れ落ちた。
目線の先には、目の前に居たあの男が、白い着物を着て斬首されようとしている光景があった。
それが政宗には信じられなかった。

何故?自分と同じ悲しい思いをした男が、こんな仕打ちを受けねばならない?
何故?父と同じ悲しみを知っている男が、こんな仕打ちを受けねばならない?

そこで、政宗は先程の景色を思い出す。
恐らく先程の景色は合戦の景色。その合戦で、この男は負けてしまったのだと直感で分かる。

『勝てば官軍。負ければ賊軍』
かつて源平合戦が行われていた頃に誰かが言った言葉だ。
確かにそれは利にあっている。勝てば生きて、負ければ死ぬ。

まさしくそれが今の世、戦国時代の慣わし。
しかし、それでも政宗は思う。
こんな非道があってたまるかと、こんな悲しみを知る男が、死んで良いのかと。
あの男だって、辛い筈だ。あの男だって悔しい筈だ。
そんな男が、こんな仕打ちを受けて良いのか・・と。

政宗はそう思い、叫ぼうとした。
しかし、それよりも早く、あの男が叫んだ。

「実に良い人生だった!!石田治部少輔三成では無く!ただの三成として!この人生は、実に良かったぞ!!俺は!俺は!俺は!この上なく幸せ者だぁあああああ!!」

大声で確かに、そう叫んだ。
その言葉に政宗は信じられないと言う表情をする。

一瞬だけ呆気に取られると、政宗の心に、男の感情が流れ出した。
そこには、負の面など一切も無かった。


友を得れた喜び。
同志を得れた喜び。
父を得れた喜び。
生まれた事への喜び。
全うな人生を送れた事への喜び。
そして何よりも・・・・歴史に名前を刻み込めれた幸せを。

それだけで、男の心は満たされていた。
確かに、こんな最期になってしまったが、確かに、守れなかった物があったが・・・。
それでも男には、十分だったんだと。それだけで、十分だったんだと・・・。

政宗は悟った。
この男は違う。私なんかより、全然違う・・・と。
自分は弱く、この男は強い。
その事実を政宗は知った。
故に、今まさに、斬首されようとしているその瞬間。
政宗は叫んだ。
満面の笑みで死のうとしている、男の名を・・・その男の生き様を・・・。

「石田三成!まだ死ぬな!死ぬのは、この私が許さん!」・・・と大声で叫んだ。

そして叫んだ直後、政宗の夢は儚くも・・・覚めた。





「やはり・・・夢だったのか?」

上半身を起こして、政宗は寂しそうにそう呟く。
その表情には、先程の余韻がまだ残っているのか、ほんわりと頬が紅くなっていた。

・・・・体が熱い。

そう思いながら政宗は起き上がる。

そして辺りを見回すと、足元に可愛い妹である伊達成実が、必死にしがみ付いて居るのが目に入る。
その光景に政宗は一瞬、悲しみに包まれるが、それを何とか堪えて成実の頭を撫でた。
そして夢の中の男――――石田三成を思い出す。
恐らく、現実には居ないだろうと分かっていながらも、三成に憧れた。

自分もあの様な生き方をしたい。
あの様な笑顔をしてみたい。
あの様に強くなりたい・・・と強く思う。
しかしそれ以上に、三成と共に生きてみたいと思った。

しかし、それは考えるだけで、言葉には出さなかった。
どうせ夢の中・・・・あの様に強い男が現実で居る訳が無い。
現に居たとしても、三成以外の男と生きたいとは思わなかった。
諦めるには、男である石田三成が良すぎたのだ。

そう思っていると、とある唐の言い伝えを思い出す。
見た夢を正夢にさせるには、先ず夢から覚めた後の第一声で言葉に出すのが良いと、唐の書物で読んだ事があったと思い出す。
政宗は駄目元で小さく呟いてみた。

「石田三成に会いたい・・・そして共に生きてみたい」

震える声でそう言ったが、何時になっても何も起こらない。
政宗は駄目元でやったにしては・・・酷く落ち込んだ。

やっぱり駄目か・・・。
心の中でそう呟く。

しかし、呟いた瞬間。部屋の襖が勢い良く開かれた。
政宗は肩を震わせて驚くと、誰が空けたのだろうと入り口を見た。

そして、意外な事に、そこに立っていたのは子供の頃からの心の友とも呼べる、片倉小十郎だった。

「起きろ梵天丸!中庭で大変な事が!って、え?どうしたんだ?お前にしては早起きだな?」

「いや、夢を見てな・・・それよりも小十郎こそどうしたんだ?中庭に油虫でも大量発生したか?」

政宗は三成の事を心の奥底へ閉じ込めながら、小十郎に疑問の顔を向けた。

「ああ!そうだ、油虫が大量に発生・・・って違うぞ梵天丸!中庭に男が降ってきたんだ!男が!」

「男?男か・・・天から・・・男が・・・まさか!?」

政宗は直ぐに、刀掛けから愛刀『山城大掾藤原国包』を掴むと、すぐさま腰に差した。
そして、部屋を一目散に出て行く。

「それよりも政宗、その変な夢って一体・・・・って、何処に行くんだ政宗!?」

小十郎のそんな叫びを無視して、廊下へと躍り出る。
そして中庭へと全速力で走り出した。



政宗の部屋では、幸せそうに涎を出しながら眠る成実と、政宗を起こしに来た景綱の二人だけがポカ~ンと取り残された。



◆◆◆



「どけっ!邪魔だ!」

政宗は、中庭に着くなり、兵士達の群れを掻き分けた。
途中で「政宗様!」や「危ないですよ!」等と聞こえるが、今の政宗にとっては雑音でしか無い。

そして、兵士達の群れを超えて、天から降って来たであろう男を見つけた。
地面にうつ伏せに倒れているその男の背中には、ハッキリと夢の中で見た文字が刻まれていた。

大一大万大吉!間違いない!この男だ!

心の中で歓喜の渦に巻き込まれながらも、倒れている男を仰向けにさせる。
そして顔を覗き込む・・・・そこには紛れも無い、石田三成の顔があった。

本当に叶った!本当に三成と会えた!

政宗は心躍る様な錯覚に思わず、三成を抱きしめる。
周りの兵士達は、政宗のいきなりの行動に驚きを隠せないでいた。

「三成ぃ三成ぃ!」

何度も何度も、名前を呼びながら三成を抱きしめる。
そして、顔をじっと見つめる。しかし、そこには苦痛に苦しんでいる表情が浮かんでいた。
その光景に、政宗はもしやと思い、額に手を当てる。
そして、人間の体温では有り得ない程に高まっているソレに、政宗の顔がだんだんと焦る表情へと変わっていく。

「凄い高熱だ・・・おい!誰かコイツを客間へ運べ!早くしろ!軍医も呼ぶんだ!早く!」

政宗は焦りながらそう叫ぶと、再び三成を抱きしめた。




続く



後書き。

いやぁ・・・やっちまったな・・と。
マジでやっちまったなと。
何だコレ、まさかの一話で政宗がデレるって可笑しく無いですか?
いや・・・一人称はやっぱ苦手だなと思いつつ、三人称に変えた途端。これですよ。
嫌になっちゃうなぁ・・・・orz
感想掲示板を開くのが怖いです。

でも、不快に思った場合は気遣いなどせずに、正直に感想に書いて下さい。
それが作者の小説製作の動力源となりますのでw
では、これからも宜しくお願いします!

           佐々木君より



[21385] 第二話 石田三成 『弐』
Name: 佐々木君◆faffb3e6 ID:e33f44ce
Date: 2010/09/01 15:20








「清正ぁああああああああ!!」

「三成ぃいいいいいいいい!!」

そう叫びながら、お互いの得物を激しくぶつけ合う二人の男が居た。

片方の鉄扇を武器に戦っている男が、石田三成。
そしてもう片方の、鎌に似た槍で戦っている男が加藤清正。

その二人の男は、この平野―――関ヶ原と呼ばれる地にて、雌雄を決するために激突していた。


「オラァあああああああ!!」

「チッィいいいい!!」

何度も互いの得物が交差する度、激しい火花が何度も散る。
そんな激闘の最中でも、お互いの舌戦が止む事は無かった。

「馬鹿が!お前は今の状況が見えていない!早く目を覚ませ!」

「黙れ!お前こそ、目ん玉ひん剥いて、見るもん見ろよ!」

三成は清正の言葉に舌打ちをしつつ、懐から爆弾を取り出す。
その爆弾こそ、三成が愛用する事で知られている特製の瞬間性爆弾だった。
その球体型の正体を良く知っている清正は、一気に目を見開いた。

「チッ!爆弾かっ!?」

清正は咄嗟の判断で、防御の体制をとった。
三成は清正の体に目掛けて、爆弾を放り投げる。
そして、愛用の鉄扇「嘉瑞招福」をバッと勢い良く開く。
そして・・・

「鬱陶しいのだよっ!」

そう呟きながら広げた鉄扇を・・・閉じた。
その動作を合図に、放り投げられた爆弾達が勢い良く爆発していく。
清正は、その爆発に耐え切れず四間程、勢い良く吹き飛ばされた。
三成は、吹き飛ばされた清正に追い討ちを掛けようと、鉄扇を再び構えようとする。

しかし、先程の爆発によって凄まじい爆風が引き起こり、辺りには大量の砂埃が舞ってしまい、それが三成の視界を曇らせた。

チッ・・・これでは清正の居る場所が分からん・・・マズイな・・・
恐らく、あの爆発では清正はまだ死んでいない所か、大した致命傷さえ負ってないな・・・

三成は心の中でそう呟くと、精神を集中しつつ、鉄扇を開いた。
そして、耳を澄ます。
今の三成はまさしく“無”の状態。つまり何も無ければ、何も必要としない。
そして、ただ気配だけ感じ、清正の位置を知ろうと集中する。

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

決して短く無い時間が経った後、三成の頬を心地よい微風がゆっくりと撫で上げた。
その微風に、三成の瞼が気持ちよさげに僅かに動いた。
その瞬間、激しい殺気が三成を襲う。


っ!来るッ!?

三成がそう感じた刹那、土埃の中から突如清正が現れる。
それに反応して三成が体を捻る、すると清正の槍が三成の頬を掠った。
しかし、三成の鉄扇は清正の首元をしっかりと捕らえ、致命傷とも言える一撃を与える。

そしてお互い、擦れ違う。



「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

互いに無言。
しかし、一陣の風が吹き荒れた瞬間。
清正がコチラを振り返る。
それに習って、三成も振り返る。

そして三成は、清正の表情を見た。
とても、悲しそうな目でコチラを見てくる。
それにどう答えれば良いのか分からない様な表情を三成がすると、清正はフッと笑った。
三成もそれに習い、取り合えず・・・笑った。

清正は、その笑みに満足そうな表情を一瞬だけ浮かべる。
その一瞬に,三成は驚く様に目を見開いた。

清正と三成の間に、もう一度、一陣の風が吹き荒れた。
そして、それが止んだと同時に・・・




清正はゆっくりと―――――崩れ落ちた。









「清正っ!!」

そう叫びながら三成は、目を覚ました。
そしてすぐに布団から体を起こすと、先程の光景が全部夢だったのだと悟る。

「・・・クソッ・・・・嫌な夢を見たな・・・」

三成は舌打ちをした後に、深く溜め息を付いた。
そして普段の冷静さを取り戻すと、すぐさまある事に気が付き、段々と表情が青ざめていく。
三成はすぐさま立ち上がると。自分の首を右手でしつこい程、触り始めた。
そしてしばらく触った後に一言・・・

「死んでない・・・!?」


そんな馬鹿な事があるかっ!!!

三成は心の中で叫ぶと、近くにあった等身鏡に自分の体を写す。
そこには白い寝巻きの下から、本来人間が生まれる際に持つべき物として持っている、五体の内の二つである二本の足もちゃんと写っている。
その事実に幽霊では無く本当に生きているのだと三成は驚く。

「しかし・・・確かに・・・確かに俺は死んだ筈だ・・・あの六条河原で・・」

脳裏には、介錯人が下ろした刃が自分の首元に吸い込まれた直後の痛みがハッキリと写っている。

それでは、何故自分が、こうも普通に生きているのか?
三成は『神算鬼謀』の持ち主とも謳われた頭脳で必死に考えるが、いかんせん疑問が解決する事は無かった。

そして、幾ら考えても分からない状況に、天才とも言われた三成の脳が根を上げた。

「はぁ・・・・仕方ないな・・・考えるのは、もう止そう。俺にも・・計算外の事があるんだな・・・」

三成は鬱憤を溜めた様な溜め息を吐きながらそう呟くと、他の事に目を向けようと頭の中で踏ん切りを付けた。
そして、それにより冷静さを取り戻した三成は、ふと気付いた様に部屋を見回した。


何処だ・・・此処は?


そこは、客間なのだろうか?広さはおよそ十二畳程だ。
見た所、普通の畳座敷だが、三成には心当たりが無い。
普段から使っている佐和山城内にある自室でも無ければ、見知った人物の部屋でも無い。

三成は、疑問に思いながらも、他に何か手掛かりは無いかと所々を注意深く見回した。

すると自分が寝ていた布団に目をやる。
そこには、先程まで自分の頭に掛かっていたであろう手拭いが落ちていた。
ソレを見ると三成は、まさかと思い、額に手をやる。
そして指先が額に触れた瞬間。
触れた額が程良いぐらいの冷たさになっているのが、触れた指先から伝わって来た。

まさか・・・誰かが俺の看病を・・・?

首を傾げながら、三成は気付いた様に目線を移動させると、枕元を見た。
そこには薬草をすり潰す時に使う擂鉢が、中にすり潰した薬草を残したままの状態で置かれている。そして、その横には新鮮な水が入った桶まで用意されていた。

「この匂い・・・スギナか?」

三成はそう呟くと擂鉢に近付き、残っていた薬草を指先で少し摘む、そして鼻先までソレを持ってくると匂いを嗅いだ。
そしてツンと来るスギナ特有の匂いが鼻の奥に吸い込まれていった。
その感覚に、間違いない。これはスギナだと三成は判断した。

「スギナ・・・か、熱を冷ますのに用いられると聞くが・・・、まさか俺のためにか?」

三成は、まさかと思いながら首を振った。
今では悪人の代名詞とも言われている自分が、見ず知らずの者からこんな施しを受けられる筈が無いと溜め息を吐いた。

その直後、三成は真剣な表情になって考え始めた。

「しかし・・・もしもこの世界が死ぬ前とは違う世界だったらどうなる・・?」

そう呟きながら、三成の頭に一つの憶測が浮かんだ。
もし、この世界が前世(前世と言う事にしておく)とは違う世界だったら?

その考えを裏付ける証拠は何処にも無いが、三成の勘がそう告げていた。
それに、死んだ後に違う世界にて再び生き返ると言う話を、三成は唐の書物で読んだ事がある。


その書物の内容は、一度死んだ若者が三国に分かれた時代にまで魂が遡り、三国の中でも人徳が高いとされる劉玄徳に仕える事から始まる。
そして、それから数々の戦で武功を立てていき、天下統一を果たす所までは行かなかったが、それでも小国だった蜀を三国屈指の大国にまで拡大させ、蜀の中枢を担った人物として評価される所まで描かれている。


正直、三成はこの書物を本物では無いと当初、疑っていた。
しかし、その書物の内容はとても繊細で、きめ細かに記されており、とても嘘だとは確信出来なかった。

そして今、三成自身で、その書物と同じ様な事を再現している。
それに、もしその物語と同じ原理ならば、今自分が此処で生きている事も、唐の書物を元に考えれば、何となく辻褄が合う。

そこで三成は悟った。つまり、自分は転生に似た様な物をしたのだと・・・

そこまで考えると三成は、ただ立ち尽くすしか出来なくなっていた。
そして、動かない体の代わりに頭脳だけが動いていく。
三成は考えた。

もし、この世界が本当に俺の知らない世界だったら・・・俺は一体どうすれば良いのか?

三成は部屋にあった窓の障子を開け、空一面が星に包まれている夜空を見上げた。
そして、今はもう会えないかも知れない二人の朋友を思う。
その他にも、自分を支えてくれていた大勢の者達も懸命に脳裏に一人づつ思い出していく。

その中には、大谷吉継や宇喜多秀家、立花誾千代や島津義弘など多くの西軍諸侯の名前があった。

確かに、あの時自分に悔いは無いと思って死んだが、こうして生きているとなると、三成はどうしても気になってしょうがなかった。
三成は半ば諦めながらも、それでも諦めきれない様な目で空を見上げた。


「・・・・駄目だな、まだこの世界が前とは違う世界だとは決まっていない。憶測だけで動くのは、俺の悪い所だと左近も言っていたな・・・」


三成は今は亡き忠臣の忠告を思い出しながら、自分にそう言い聞かせる。そして今一度思考を冷静なソレに戻した。
そしてふと気付いた様に襖を見る。

早い話、此処の住民に会えば良い事では無いか、それに見た所、もしかしたら誰かが俺の看病をしてくれたのかも知れない、それに対しては最低限の礼の一つもせねばならんだろう。

三成は、掌をポンと叩きながら、襖に向かって歩き出した。
この部屋の持ち主に会うために・・・・


そして、三成が襖に手を掛け――――――るよりも早く、襖が開き、いきなり人が入って来た。
あまりにも突然で偶然的な出来事に三成は思わず驚く。


「うわっ!?」

「なっ!?」

三成は咄嗟の事で驚き、見っとも無い声を出してしまう。
それは相手も同じだった様で、相手も同じ様に、驚いた様な声を出していた。

「すまない!」

三成はそう言うと、すぐさま頭を下げる。
すると、相手もソレに習うあの様に頭を下げながら謝罪をする。

「こっこちらこそ!すまん!」


三成は頭を下げたまま、その声に疑問を抱いた。

この声・・・・もしかして女か・・?

三成は顔を確かめようと、ゆっくりと頭を上げようとした。
すると相手も考える事は同じだったらしく、ゆっくりと頭を上げている最中だった。

その結果、二人同時に上げている最中で、お互いの顔が至近距離で向かい合う事になる。
そして・・・

三成は、至近距離で相手の顔を見て。
相手は、至近距離で三成の顔を見て。

二人は同時に驚きの声を上げた。

「「ちっ近いぞお前(貴様)!!」」




それが、三成にとってこの世界初めての女性との出会いだった。





続く。





後書き

今、書き終えて思った事。

今回、三成の事しか書いてねぇ・・・・orz
しかも序盤の夢の中とか、あんまり意味の無い話だったし・・・もう自分でも何してんのか分からんとです。

正直、今回の話は、ボツにしようかとも思ったのですが、何せ色んな時間を削って書いた力作なので、捨てるのには惜しいなぁ~~と思いながら投稿しました。

もし今回の作品に気に入らない点が御座いましたら、感想にてご指摘お願いします。
それが作者の小説製作の動力源となります!(あれ、これ前にも言った様な・・

ちなみに感想にて『完結してください!』との言葉がありましたので、不慮の事故やパソコンに異常が無い限り、完結を目標に頑張っていきたいと思います!

では、これからもどうか宜しくお願いします!


              佐々木君より



[21385] 第三話 片倉景綱
Name: 佐々木君◆faffb3e6 ID:e33f44ce
Date: 2010/09/01 15:42
【米沢城・客間の一室】





「お前が・・・片倉景綱だと?」

「ああ、そうだ」

そう言われた三成は、頭を抱え込む。
その様子に片倉景綱は首を傾げながら、三成の様子を不思議そうに見つめる。

「もう一度だけ聞くぞ・・・・お前が“あの“伊達家筆頭家老の片倉景綱で間違いないんだな?」

「ああ、間違いない、私が“あの”伊達家筆頭家老の片倉備中守景綱だ」

三成は堂々と胸を張りながら、そう宣言する女――――片倉景綱に溜め息を吐くと、再び頭を抱え込んだ。


何故、こんな展開になっているのかと言うと、少しだけ時を遡る事となる。



◆◆◆



『何故こうなった?』
俺の頭の中はその言葉で一杯だった。

この部屋の持ち主に、挨拶兼状況把握するために襖を開けようとしたら、いきなり目の前の女、自称片倉景綱と鉢合わせしてしまった。
最初、この部屋の者かと思い、頭を下げたが声が明らかに女だったため、不審に思いながら頭を上げると案の定、そこには居たのは女だった。
そして俺は、この女が此処の女中かと思い、つい、いつもの癖で軽口を叩いてしまった。


「何だ・・・女中の者か・・・少しは気をつけろ」

全く持って、嫌な癖だ。
まさか心配したつもりで言った事が、この女には不快に感じられる物言いだったらしい。
言い終わると同時に、冷たい視線を体中に浴びせられた。
そして、女の額に青筋が浮かび、それと同時に暗い顔をする。
その顔は思い返せば、かの毘沙門天よりも恐ろしい形相だった。

「我々に助けられた者の癖に、女中相手だと恩も忘れるのか?まさかとは思ったが、馬鹿は風邪を引かないと言うのはどうやら嘘らしいな?」

その言葉に、俺の眉がピクリと動いた。
そして、止せば良いのに、つい何時もの癖で言ってしまう。

「何?貴様・・・俺が馬鹿なら、貴様の脳は鼠以下だ」

そう言い終えたその後は、想像に難しくない通り、俺とコイツとの激しい口論が始まった。

そして、その口論の最中に、俺が「女中の癖に大層な態度を取るのだな?」と言った事がキッカケで、コイツの名前を知る事になる。

“片倉景綱”
この女が名乗った名前だ。


そして、冒頭のやり取りが展開された訳だ。


最初は、自分の耳をこれでもか?と言うほど疑ったが、どうやら本当の事らしい。
と言っても、まだ確信出来る証拠などひとつも無いが、兼続も言っていた通り、まずは人を信じる事から始めなければ、人の利は得られない。それは関ヶ原で嫌な程、体験した。

それに、この状況下に置いては、この女の妄言とも取れる言葉でも、信じる他、手立ては無いのだ。
ならば、この女の妄言に付き合ってみるのも悪く無い。
もし、本当の事だったらそれまでの事、もし嘘だったとしても、その程度は笑いで済ませられる。

第一、先程、この女が言った通り、俺は保護されている身だ。
景綱も、俺が熱を出して中庭に倒れていたのを保護したと言っている辺り、まず間違いは無いだろう。
それに、今も少しだけだが頭が痛む。

そして、少し痛む頭に手を置きながら、俺は呟く様に言葉を続けた。

「そうか、お前が片倉景綱だとすると・・・やはり・・・この世界は・・・」

「おい、何をブツブツ言っているんだ?私が片倉景綱と言う事実に、何か問題でもあるのか?」

「いや・・・無いが・・・そうだな、お前にも聞きたい事がある。しかし、質問するに至って、俺が言う事に所々、疑問に思う所があると思うが、あまり気にしないでくれ、良いな?」

俺がそう言うと、景綱は取り合えずと言う具合に頷いた。

恐らく、この女の場合は先程の口論からも分かる様に、詳しい説明をしなくても悟ってくれるだろう。
何せ、証拠は無いが『智の景綱』とも呼ばれた人物だ。期待は出来る。

「では、早速だが聞くぞ?・・・今は何時だ?」

「永禄二年の長月辺りだ」

永禄二年・・・桶狭間合戦の一年前か。
それに長月・・・つまり秋か。恐らく歴史が本格的に動き出す直前・・・と言った所だな。

「お前が仕えている武将は・・・伊達輝宗公か?」

「いや、その娘。伊達政宗公の方だ」

伊達政宗が・・・娘だと?
いや、可笑しくは無いか、何せ証拠は無いが、片倉景綱が女と言う事になっているこの状況下。
伊達政宗が女になっていても不思議は無い。

「今の所・・・伊達の勢力はどれくらいだ?」

「南出羽を半分。そして南陸奥に城を一つ」

南出羽を半分・・・か。となると、最上、蘆名は未だに支配下に抑えて居ないか。
そうなると佐竹は勿論、南部や上杉。関東には北条まで健在と言う事になる・・忌々しいな。

「今現在の伊達家の兵力は?」

「そんな事までか・・・良いだろう。今の兵力は後方部隊も合わせて八千と言った所だ、その上、殆どが戦慣れしていないと見て良いだろう」

戦慣れしていない兵力か・・・まさかだと思うが、大戦をした直後くらいか。恐らく、人取橋の戦いから間もないのかも知れんな・・・。

「では最期の質問だ。この世界の武将は、殆ど女なのか?」

「この世界?・・・・ああ、殆ど女が武将だな。何せ、男じゃ中々役に立たんからな」

女が殆ど武将か、男じゃ役に立たないのか?
まさかだとは思うが、この話を聞く所、本当に前世とは違う別世界らしいな。
フンッ、理解に苦しむが、俺にも計算外の事がある。故にこの事実を否定しようとはせぬ。

しかし・・・・男が役に立たない・・・か。聞いていて虫唾が走るな・・・。

「おい、私からも質問して良いか?」

「かまわん」

「お前の名前を教えてくれ」

そうか、まだ名前を言っていなかったな・・・そう言えば、俺の名前を名乗って女武将になっている奴は居るのだろうか?

「石田三成だ・・・肩書きは・・・無いな」

官位も告げようかとは思ったが、どうせ一度は死んだ身だ。
そう思うと、官位を一々言うのも帰って恥かしい思いをするだけだと、自重した。

「そうか・・・やはり、お前が石田三成か・・・参ったな」

「どうした?」

景綱の表情がいきなり暗くなる。
その表情からは、疲れたと訴えているのが伺える。

俺が石田三成では何か不都合なのだろうか?

「いや・・・梵天丸・・・つまり政宗がな?お前の事を・・その・・・・好きになっているんだ」

「・・・・・・は?」

思わず、見っとも無い声が漏れた。
いや、この場合は仕方ないだろう。いきなり伊達家の当主と言われる政宗に好かれているなど言われても、唖然とする以外、思いつかない。

いや、そんな事より何故だ?何故、俺の事を好く?まったく意味が理解出来ない。

「意味が分からないと言う様な顔をしているな?・・・良い機会だ。説明してやろう」

景綱はそう言うと、俺に分かり易く説明してくれた。


◆◆◆




「分かったか?つまり梵天丸はお前の事を夢で見て、一目惚れしたと言う訳だ」

私は、気だるそうな態度で目の前の男――――石田三成に説明してやった。
石田は、私の説明に頭を抱えながら困惑している。

それもそうだろう。
目が覚めた瞬間に、伊達家の私に会い。その上、私が仕えている伊達家の当主がお前を好いているなど言われても、何が何だか分からないと私でも混乱するだろう。

しかし、この男・・・まさか本当に死んだ者だとはな・・・。
しかも、此処とは違う世界で戦国の世を駆け抜けていたとは・・・・にわかには信じられんが、梵天丸の夢の事もある。どっちみち石田を信じるしか無いな。

「それで・・・伊達政宗は何と言っているんだ?」

「さぁ?具体的には分からんが・・・願わくば、共に生きたいと言っている」

私がそう言うと、石田は再び頭を抱え出した。
恐らく、この男には理由が分からないんだろうな・・・、梵天丸が惚れた理由が。

私には分かる。
梵天丸が夢の中で、この男の生き様に惚れた理由が・・・。
それは、この男が梵天丸の父、伊達輝宗公に似ていたからだ。

私自身で夢の内容を見た訳では無いが、梵天丸の話を聞いて判断すると、それが大体の理由だろう。

別に梵天丸の恋路に水を差そうとは思わない、だが・・・そのせいで天下統一の夢が無くなってしまうのでは無いか?と、つい思ってしまう。

梵天丸に限ってそれは無いと思うが・・・心配だ。
梵天丸が寝ていた石田を見ていた表情。特にあの目は女が本当に恋をした時の目だった。
この恋が、良い方向に実ってくれれば、それで良し。
しかし、もし・・・もし悪い方向に向かったら・・・・・。


「なぁ、石田。ひとつ質問しても良いか?」

「何だ?何か聞きたい事でもあるのか?」

「いや・・・・どうでも良い質問なんだが・・・・もし、お前のせいで天下を狙っていた女が、その夢を諦めざる負えなくなったら・・・お前ならどうする?」

この質問は一つの賭けだ。
故に、この男の思いを確かめたい。
それに、大きな合戦で戦っていたと言うこの男なら、少しは梵天丸の助けになるかも知れない。

しかし、だからと言ってこの男が信用出来るかどうかは私には分からない。
難しい事だが、この質問で石田がどう言う男なのかを少しでも見極めるしかない。

そう思いつつ、私は石田を期待を込めた真剣な表情で見つめると、石田もその意図に気付いたのか、真剣な表情を見せた。


「・・・・・・・」

「・・・・・・・」


そして、沈黙が続いた後・・・石田がゆっくりと口を開いた。
その口に、思わず視線が集中してしまう。

そして・・・・

「どうでも良い質問を俺にするな・・・」

「なッ!?・・・・・石田!・・・・お前・・・」

期待していた言葉とは間逆の言葉に、私はガッカリする。
先程の口論で、この男がもう少しまともな奴かと思ったのが間違いだった。

今の言葉で、コイツの大体は分かった。
少なくとも客観的に見れば、この男はただの『意地っ張りだ』
そんな短角的な男に、あの梵天丸を任せられる筈が無い・・・。
残念だが、コイツは始末しなければならない、少なくとも他家に情報を流されては堪らん。
残念だ・・・・本当に・・・・。

私は肩を落としながら、襖の方へ向き直る。そして開けようと思い、手を襖に掛けようとした瞬間。
しかし、未だに言葉が終わっていないかの様に、背中越しに石田が口を開いた。

「・・・だがな景綱・・・もしだ。もし俺のせいで・・・俺が”惚れた”女の夢が途絶えてしまったのなら・・・・簡単な事だ。俺が代わりに天下を取ってやる。そして・・・その惚れた女に天下をくれてやる。」


その言葉に、慌てて振り返ると石田は、まるでそれが当たり前とも言う様な表情でコチラを見ている。
私は失望していた石田に、まるで光が差し込んだ様な目を向けた。

危なかった・・・もう少しでコイツの認識を誤る所だった。
その事実に思わず、胸を撫で下ろしてしまう。

しかし・・こいつ・・・ふふっ、嬉しい事を言ってくれるな・・・・”惚れた女”か・・・・。恐らく、未だ居ないんだろうな・・・惚れた女が・・・。

・・・・出来るなら・・・そんな目で、私も言われたかったよ・・・。

私は、世迷言だと思いつつ首を振ると、三成の顔をマジマジと見つめる。
三成は、言った内容が照れ臭いと思ったのか、少し表情が赤い。
まるで、少年の様な表情に思わず微笑んでしまう。


この男になら・・・梵天丸を・・・・。


「おい、石田。付いて来い。案内してやる」

「何処にだ?っ!?いきなり引っ張るな!」


私は、驚く石田を無理矢理引っ張ると、襖を勢い良く開けて廊下へ出た。


◆ ◆ ◆



廊下を男女二人が堂々と歩いていく。
いや、歩いていると言うより、男の方は引っ張れていると言った方が適切かもしれない。

そう、石田三成は片倉景綱に引っ張られていた。
それはもう、腕が千切れるのでは無いかと思う程の力で。

「おい!何処へ連れて行くつもりだ!?仮にも俺は病人だぞ!」

「ならば丁度良い、これから布団がある部屋に連れて行ってやるぞ?そこでゆっくりと寝ろ」

絶対に何かある。
三成は、黒い笑みを浮かべる景綱を睨みながら、言い知れぬ不安感を抱いていた。
この女が、自分を何処に連れて行こうとしているのか、皆目、検討が付かない。
それに、知っていたとしても、体力が無い今の状態では、景綱の腕を振り解こうにも振り解けないだろう。

「さぁ付いたぞ?」

「おい・・・何処だ此処は?」

景綱は、不安そうに呟く三成を無視し、とある部屋の前で立ち止まると、襖をゆっくりと開けた。

そして、中を覗き込むなり、景綱の表情は黒い笑みを益々強くした。

「何だ・・・、今日は服を着て寝ているのか・・・まぁ良いかな・・」

「おい、何を見ているんだ?」

「喜べ石田。お前の望んだ通り、この部屋で思う存分療養する事が出来るぞ?さぁ!入れ!」

三成は、景綱にいきなり背中を押されてしまい、思わず均衡感覚を失ってしまう。
それを見た景綱は、前のめりに倒れそうになる三成を、すぐさま襖を開けて部屋の中へと無理矢理突入させようとする。
それに対して三成は、必死に抵抗しようと腕をブンブン振るが、重力の法則には勝てる筈も無く、抵抗も虚しく部屋の中へと入ってしまった。

そして、入ると同時に地面にゴンッ!と大きな音を立てて顔面をぶつけてしまう。
その様子に景綱は苦笑しながらも、襖をゆっくりと閉めた。

「あっ!?貴様!待て!」

急いで襖に駆け寄るが、時すでに遅し、襖はガッチリと閉められていた。
その様子に溜め息を吐きつつ、一体この部屋に何が?と言う気持ちに駆られ、部屋の中をじっくりと見てしまう。
そして、ある光景を見た途端。一瞬で三成は唖然となる。




何故ならば、目の前にある布団から、眼帯をした女性―――伊達政宗が恥かしそうに布団で顔を隠しながら、こちらをジッと見つめていたのだから・・・






続く




後書き

はぁ!・・・何故だ?何故なんだぁ!!!クリリ~~~ン!!
そんな気持ちです。はい。
えっとですね、今回は一人称に挑戦してみました。
どうですかね?何か不自然な点は御座いませんでしたか?もし変な所があれば、是非ともご指摘お願いいたします。

それとストーリーの方ですが、このまま伊達さんとの恋愛をどうしようかな?と考えています。
個人的には、まぁ・・・あんな事になったり、こんな事になったり~~。と言う展開をさせようかと思います。(如何わしい事じゃないですよ?)

ちなみに、景綱さんの性格がちょっと可笑しくね?とか思った方もおられるとは思いますが、これは作者のお姉さん風な性格を書き上げるために用いる、想像力もしくは文章力の欠如の結果です。故にあしからず・・・。

ちなみに、この小説で不快に感じる所が御座いましたら、感想にてお申し付けください。
それでは、これからも小説を頑張って書き上げたいと思いますので、宜しくお願いします。

                  佐々木君より


PS 平日の朝方から書き始めると、終わり頃には遅刻しそうな時間帯になってしまいますので、くれぐれも皆様は、お気をつけください



[21385] 第四話 伊達政宗 『修正版・改』
Name: 佐々木君◆faffb3e6 ID:e33f44ce
Date: 2010/10/16 12:27



『一体どうすれば良いんだ?』

三成は独り、胸中でそう独白すると、自身の頭部をガシッと両手で抱え込む。
そして、パッと両手を離すと、目線を目の前の光景に移動させた。

「・・・ん?どうしたんだ?三成?」

目線の先には、首をクイッと小さく傾げながら、コチラを見つめてくる少女が居る。
大人顔負けの長身に、腰まで伸ばされた美しい黒髪。まるで日など一度も浴びた事が無いと主張しているかの様な真っ白い素肌。そして隻眼故に隠されている片目。
しかし、その分を取り返すかの如く、隠されて居ない方の目は、まるで黒真珠の様な深みのある黒い瞳をしている。
そんな、まるで人間が想像する美しさの全てをその身に体現しているかの様な容姿をしているのは、今現在、この米沢城を居城にしている伊達氏の棟梁――――伊達政宗、その人である。

「いや・・・・俺はどうすれば良いのだろうと考えて・・・・」

「どうすれば良いって・・・普通に此処で寝れば良いだろう?」

「それは御免こうむる」

「何でだ?」

「嫌だからだ」

「私は嫌じゃないぞ?」

そう言われた三成は「むっ」と咽る思いをしながら、顔を赤くする。

「くっ、俺は嫌だ!」

「ムッ・・・・そんなに私の事が嫌いなのか?三成?私はこんなに好きなのに・・・」

シュンとした顔を、悲しそうに俯かせながら政宗は答える。
三成は再び咽る様な気持ちに駆られながらも、頭を抱え込んだ。


思えば、此処に来た当初は、今のコレとは立場がまるで逆だった筈だ。
別に三成が「俺の事を嫌いなのか?政宗?」などと言っていた訳では断じて無い。
だが、政宗が一言一言に顔を赤くしたり、布団に潜り込んで隠れていたりなど、今とは全く別人の様な行動をしていたと言う事は確かである。
しかし、そんな行動も、三成がこの部屋に入った理由や、景綱から聞いた全ての話しを政宗に聞かせた途端に、コロっと態度が変わった。
どう変わったかと言われると、説明し辛い所ではあるが、強いて言うならば『受ける様な姿勢から、途端に攻める様な姿勢に変わった』と言うのが適当だろう。
とにかく、政宗は三成に対し、執拗な求愛行動の様な物を取り始めたのである。
半ばヤケになっていると言って良いかもしれない。

「はぁ・・・やはり、『政宗が俺に好意を持っている事は既に知っている』・・・・等と言うべきでは無かったかもしれんな」

半刻程前に、口に出してしまった単語を三成はしみじみと小声に出しながらも後悔していた。
三成の横柄癖が、此処に来て、やはり仇となってしまったのである。
しかし、それはそれで流石に仕方の無い事だったのかもしれない。
そうでもしなければ、政宗とちゃんとした意思疎通が出来なかった可能性もある。
つまり、それほどまでに政宗の狼狽は激しく。三成が一言喋るだけで布団に潜り込んだり、事在る事に逃げ出そうとしたりと、羞恥心ゆえの行動が非常に過激だった訳だ。
それを思い返せば多少、別の意味で過激な行動を取っている今でも、意思疎通が可能と言う点では、まだマシと言う物だろう。
そうに決まっている。・・・多分。

「はぁ・・・・景綱め、余計な事をしてくれたな」

「私にとっては、嬉しい事この上無いがな」

「黙れ、この饒舌家め」

三成は口を尖らせながら政宗を思いっきり睨みつける。しかし、全然意味が無い。むしろ逆効果なのか、政宗は嬉しそうな表情まで顔に醸し出している。
もはや只の変態な政宗に、三成はうんざりな表情をしながら、苦し紛れの抵抗として話題の変更を試みる。

「それよりも、先ずはこの部屋からの脱出手段を考えねばなるまい、言っておくが!俺は此処で夜を明かすなど、微塵も考えてなど居ないからな!」

「でも此処から出るなんて無理だぞ?此処は三階櫓の天守。外に飛び出すのも無理だし・・・・観念するしか無いんじゃないか?」

政宗の言う事は最もである。
此処は米沢城の北櫓の三階。地面から天守までの高さは約4間(約7.2m)はある。
とてもでは無いが、すぐに外へと脱出すると言うのは無理に近い物であった。

「無理か?」と三成は政宗に神妙な顔付きで聞く。三成自身としては、女子と夜を明かすなど脳離に在ってはならないと考えている。
その考えは三成の胸中での事であったが、が、しかし、政宗には三成の顔を見るだけで、その考えが分かってしまっている。伊達に恋するだけの乙女では無い、仮にも戦国大名である。三成の見え透いた考えなど、否応無く手に取る様に分かってしまっていた。

「無理だな、自力で出ようとすれば降りる途中で力付きよう。その上、今の三成は病み上がり者だろ?そんな体では益々無理な事だぞ」

政宗は無理を言う三成に、困惑した表情で口説く。政宗は三成の事が心の底から心配なのだ。
しかし、そんな政宗の悲痛な叫びも三成には届かない。いや、三成自身も政宗の胸中を少なからずは知っているのだ。だが、男としての意地がソレを許さない。三成は不器用な男であった。

「いや、そんな事を言っても俺は此処から出る。いや、出なければ、ならん!女子と夜を明かすのは夫婦以外ではならん事だ。それに、仮にも米沢十万石の大名である貴様と、何処ぞの馬の骨とも分からん俺が、例え何事も無く一夜を明かしただけと言っても、それをネタに、城内であらぬ噂を立てられる事もあるやも知れぬ。それは何としても避けねばならん。それぐらい貴様も分かるだろうに」

例えソレを貴様が望んでもな、と三成は部屋に付いている窓を見つめながら呟く。
その語尾は何処か哀愁じみていた。別に政宗の事が好きと言う訳では無い、第一、会ったばかりだと言うのに好きになれと言う方がどうかしている。
だがしかし、嫌いと言う訳でも無い。会ったばかりであるから当然とは言え、美しい女子から一途の好意を受けると言うのも甚だ悪い心地はしなかった。勿論、だからといって政宗に心を許した訳でも無い。
ただ、一国の女城主であるが故に、好いた男と身分の違い如何こうで一夜も明かせぬ、その身重たさに三成は哀れみと同情に似た感情を感じていたのだ。

「やはり・・・お前は強いんだな」

胸中、幾ばくか重たい考えをしていた三成に、政宗はソッと呟いた。
三成は何事かと、政宗に向けていた背をクルリと返すと、向き合う様な形で政宗の前へ鎮座した。

「何がだ?」

首を傾げながら、三成は疑問の表情を政宗に向ける。
対する政宗の表情は、先程とは違い、悲しみと苦笑に塗れていた。

「全部が、・・・だ」

「全部が、だと?」

フッ、と鼻で笑う。そして「それは違うな」と三成は続けようとした。が、その先は政宗に遮られてしまう。

「ああ、全部だ・・・・私には、お前の全てが強すぎるんだ・・・」

「何を言う・・・俺はっ」

俺は何だ?と政宗はグイッと三成に詰め寄る。

「・・・・俺はっ・・・・・・・俺は、弱い」

「でも、私にはお前が強く見える」

「それは短慮と言う物だ!俺が居なければ、豊臣家も安泰だったろうに!!」

三成の叫びに含まれた聞き慣れぬ家名に、政宗は「豊臣?」と小声で呟き、クイッと首を傾げた。
北国に位置する伊達家ではあるが、されど情報収集は見事な物であり、北は蝦夷の蠣崎家に始まり、西は島津家まで日の本すべての大名家を把握している。
そんな優秀な伊達家の更に棟梁である政宗の頭脳にしても、与り知らぬ家名と言うのは、もはや存在しないと言うに等しかった。
そんな政宗の唸り声に気付いた三成は、目を細めつつ、政宗に視線をやり「貴様が知らぬのも詮無き事だ・・・・皮肉にもな」と呟いた。

三成の呟きには、微々たる物ではあるが、されど複雑な思いが篭っていた。
確かにその気持ちは無理も無い物かもしれない。
かつての三成の義父である秀吉は、小田原を攻めた際、当時、奥州の覇者であった政宗が遅参した折に、土下座をする政宗に対し、普通ならば打ち首物であった罪状を許したばかりか、その上、本領安堵まで申し付けている。
いわば伊達家は豊臣に対し大恩がある筈なのだ。
しかし、関ヶ原の戦の際には、どう言う訳か、奥州で伊達家、最上家、共に兵を挙げての上杉挟撃と言う結末。
その上、世界が違うとは言え、今では豊臣の名さえ伊達家の脳離には一欠けらも残っては居ない。
その事実は、どう考えても詮無き事なのだが、しかし、三成の心には少なからず悔しさと悲しみを招いていた。

「何か言ったか三成?」

「何でも無い・・・・」

三成は拳をギュっと握り締めながらも、詮無き事と必死に我慢した。
もし、目の前に居るのが、前世の政宗であったならば、三成は例え素手であろうとも掴み掛かるか、あるいは殴りかかったであろう。
たとえ力が及ばずとも、何かの為なら自身の身を惜しまない。それが、この男、石田三成なのである。義憤に駆られていると言っても良い。
しかしそんな三成を今現在、彼自身の胸中ではやり切れない思いが刻々と見えぬ傷を付けていた。三成は一度思った事はとことん考慮する性格であり、何事も直ぐには振り切れぬ頭を持っている。
故に、目の前の女が、前世とは違う伊達家だと言う事を、真実で受止めては居ても、事実としては受止められずに居た。

「三成・・・・」

そんな三成に何かしらの感覚で感じ取ったのか、政宗は心細い声を三成に投げ掛けた。
三成もその声に我を思い出し、再び窓の方へと体を戻す。

「とにかく、話を戻すが・・・・。今日は此処では寝ない。出来れば、襖から出て行きたい物だが、もはやソレも望めまい。止むを得んが、窓から出るとする」

三成の冷たい声が、彼自身の口から、その背後に佇んでいる政宗の耳へと流されていく。
その温度差に政宗は最早、何も言うまいと押し黙ったままだった。
政宗自身も、三成に対し今宵ばかりは、これ以上媚びようとは思わなかった。
当初は、恥かしさ故の媚ではあったが、次第にそれも本気のソレへと変わっていっていたのだ。
しかし、三成自身がソレを望まないと言うならば、今宵だけでも諦めようと、唇の端を噛みながらも心を決めた。
それに三成の考え通り、政宗は今現在、伊達家にとってとても身重たい物を背負っている。
連日の悪天候による農作物の被害、その上、疫病による錬度の高い古参兵の不足。
そればかりか、先日起こったばかりの『人取り橋の戦い』に置いても、伊達家は甚大な被害を蒙っていた。
今現在は、それなりの徴収や重度の募兵をしたために兵力や財力は潤っているが、それもギリギリな状態でもあり、何時爆発するか分からない。
文字通り数え切れぬ程の『爆弾』を背負っている。
その中でも、内政では特にであり、民衆の心は既に伊達家を離れている。その上、軍事的な物でも兵の錬度が低く、家臣も有脳な者の大半は前述の『人取り橋の戦い』で失っている。
その証拠に、内政の殆どは政宗の腹心である『片倉景綱』ただ一人で取り仕切っていると言っても過言では無い状況でもあった。
そんな中での、伊達家の棟梁。
つまり伊達政宗自身の良からぬ噂がひとつでも家中に流れるとなると、それが齎す結果は火を見るよりも明らかなる物だった。

先ず、家臣の不信感を買う事から始まる。
およそ、伊達家の大半が政宗に対し不信感を抱く事になるだろう。
それだけで済めば良い物だが、しかし現実はそう甘くは無い。
すぐさま、この話しは他国に漏れ、およそ佐竹や葦名に調略のネタにされ、伊達家に百害在って一理無しの結果が齎される。
例えるならば、松平家の『信康事件』が良い例であり、大賀弥四郎などが正にソレの類である。
そんな事が分からぬ政宗では無い、しつこい様だが、仮にも一国の主でもある。
政宗は重々その事を承知して置きながらも、三成に媚を売っていた。だが、やはりこうして考えを改め直すと、その事の重大さが初めに思っていた事よりも何倍もの重圧になって、政宗に降り掛かってきた。

「私は・・・・悲しいな」

自分の立場を思い返していると、政宗の口は自然にそう呟いていた。
先程まで、独白していた三成も、今はずっと無口に黙っている。
いや、黙っていると言うよりも、喋る必要が無くなった。と言う方が適切かもしれない。
とにかく、三成は政宗の言葉に耳を傾けていた。

「三成・・・私はな、嫌なんだ・・・・苦しいんだ・・・今が、全てが・・・」

三成は、政宗の方へゆっくりと向き直った。
政宗の顔を見てみると、何時の間にか涙を流していた。
その様子に多少、驚きながらも、三成は黙って政宗の言葉を聞いている。

「生まれて物心付くころは、もはや片目は無くて・・・・それが元なのか、母上からは忌み子として忌み嫌われて・・・・、ロクに抱いてもくれなかった」

三成は何も言わない。
尚も黙ったままで、政宗の話しを聞く。

「それにな?信じられるか?その母親に毒殺されそうにもなったんだぞ?ははっ、笑うしかないだろ?・・・・全く・・・・可笑しな話だ・・・・」

三成の目が見開かれる。
だが、それでも何も言わない。
ただ、静かに政宗の話しに耳を傾ける。

「それでな?弟にも殺されそうになった。母上は私より弟を選び、そして、嗾けたんだ・・・・、信じられるか?弟にだぞ?」

三成の返答は無い。
政宗もそれを既知であり、直ぐに話を続ける。

「それでな?・・・・私は直ぐに弟を・・・・実の弟を・・・・殺したよ」

政宗は耐え切っているのか、嗚咽を漏らそうとしない。
今でも崩れそうな膝は、しかし、政宗の意思によって何とか均等を保っていた。
無論、三成はそれをどうにかするでも無く、ずっと無言で、ただ政宗の言葉に耳を傾ける。

「結局は母上の指示だって、分かってたけど・・・・でも、母上は殺せなかった・・・・好きだったから・・・・」

涙を堪えようとゴシゴシと目元を腕で拭うが、涙は一向に収まらず、流れ続ける。
傍から見れば、今の政宗は惨めな物だが、しかし三成はソレを止めない。
いや、止めてはいけないと分かっていた。
故に、三成は無言で耳を傾け、政宗の話を聞く。

「父上も好きだった・・・・お前は知らないかもしれないが、父上は米沢の龍とも言われた豪傑なお人でな?それはもう、私の憧れの人だったんだ・・・・」

三成は何か言おうと口を開きかけるが、直ぐさま政宗に遮られる。
三成の表情は悲痛なソレに変わっていた。

「それでな・・・・義にも篤く、武勇に長け、それでいて・・・寛大な人だった」

政宗は震えながらも、必死に言葉を続ける。
三成は目を閉じ、盲人と見間違うかの如く、静かに黙って政宗の言葉を聞く。
その表情に悲痛なソレは最早、消えていた。

「何時の日だったか・・・ある日、降伏した筈の者に捕らわれてしまってな?・・・・・・阿武隈川と言う川で対峙した時は・・・・もう遅くて・・・父上は敵に刃を突きつけられてた・・・」

そこで政宗の言葉は止まるが、三成は何も言わない。
その先を言おうが言うまいが、政宗の自由である。故に、何も言わない。
このまま、政宗は何も言わないのか?と三成が思ったその瞬間、政宗の口が開かれた。

「仕方なかった!!仕方なかったんだっ!!父上も!父上もソレを許してくれた筈だ!父上も!父上が!父上が!父上が許してくれたからっ!」

突如、政宗は大声で叫んだ。
その全てが言い訳とも取れる内容で、父への懺悔、そのものであった。
三成はどうにも出来ない、ただ聞くしか出来ない。
今の政宗は見苦しく、それでいて、儚くも薄幸故の美しさを醸し出している。

「三成ぃ・・・・私はどうすれば良い?どうすれば良いんだ?頼む・・・教えてくれ・・・・私は・・・どうすれば・・・・・」

何時の間にか、政宗の両腕は三成の双肩をガシッと掴んでいた。
その手に込められた力は、最早、少女のソレでは無く、一大名の戦国の武将としての宿命を背負っている者の力であった。
政宗自身の気持ちの表れと言っても良い。

「政宗・・・・」

三成はソッと呟いた。
政宗もそれに応じる様に、三成を見つめる。
涙と鼻水まみれのその顔に三成は内心苦笑しながらも、しかし表情は無表情のまま、自らの双肩に置かれた政宗の両手をゆっくりと引き剥がした。

「だから・・・・・だからどうした?」

「・・・・・え?」

「だからどうしたんだ?・・・・・・貴様は殺されそうになった。父親を止む無しに殺した・・・・。それを俺に話してどうしたい?」

「そっそれは・・・・お前に全部、聞いて・・・・聞いて欲しくて!」

「ああ、聞いた・・・・だが、聞いた所で、何も変わらぬだろう・・・・・それとも、それで貴様の心が晴れるのか?晴れるならば良し、晴れぬならば、そもれもまた詮無き事であろう?」

政宗は三成の言葉に、微かに震えながらも頷く。
政宗も知っている、己の気持ちを三成に暴露したとしても、それは全て独白と相変わらない事を、しかし、それでも三成に話したのは、単に恋する男に自分の全てを知って欲しかった。と言う訳でも無い。
ただ、自分の弱さを三成に知って欲しかったのだ。
自分の弱さ、その弱さを誰かに知って貰えれば、楽になれる。
政宗はそう考えていた。しかし、現実はどうか?三成に話した所で、当初は余韻に浸っていたものの、三成の現実的な言葉で一気に元に戻ってしまった。余韻も何も初めから無かったものだと、知ってしまった。
いや、酔いが覚めたと言った方が良いかも知れない。
とにかく、政宗は気付いてしまった。自分の悲劇的な生い立ちを三成に話した所で、ソレはただの自己満足に過ぎないのだと言う事を、三成の一言、
『だからどうした?』
その一言が政宗の幻想を打ち倒したと言っても良い。

「大体、いきなりにこんな話しをされても困るな・・・・。知っておけ、棟梁が威厳を失くしたら、その家は終わりだ。故に、政宗」

「なっ・・・なんだ?」

政宗は涙と鼻水で塗れた顔を、自身の懐のチリ紙で必死に拭っている。
その様子に、三成は微笑み掛けると、直ぐに続けた。

「お前は強くあれ、過去の生い立ちが足枷にならぬよう・・・逆に、その足枷さえも自らの威厳とせよ・・・・全ての業を飲み込め、天に昇る、あの竜の様にな・・・・」

「竜・・・・・」

「ああ、そうだ。竜だ・・・お前は・・・独眼竜政宗・・・そうであろう?」

「独眼竜・・・・政宗」

政宗は、まるで運命の様な、その言葉に心の底から沸き立つ物を感じた。
まるで、興奮を絵に描いた様な、その表情に、三成は優しく微笑み掛けると、今の内にと、窓をバッと開け放つ。
そして、下をゆっくりと見下ろした。
その様子に政宗は慌てると、三成の裾を力強く。先程の何倍もの力で握り締めた。
その思いがけぬ力強さに、三成は内心、驚きながらも「それで良いんだ」と胸中で独白した。

「まっ待て!三成!お前はどうするんだ!?」

「ん?どうする・・・・とは?」

「だから、これからの事だ!私はお前を家臣にしたい!」

政宗はこれだけは譲れないと言った表情で、三成を繋ぎとめようとする。
三成は、「ああ、その事か・・」と呟くと「これもまた、詮無き事・・・か」と政宗を見つめた。そして、思い出した様に、掌を掌でポンと叩く。

「そう言えば、貴様にはスギナの恩があったな?良いだろう、その恩に報いてやる」

「と言う事は・・・・?」

「ああ、貴様に仕えてやる。光栄に思え」

三成の言葉に政宗は「ああ!」と何度も頷いた。
そして、次の瞬間から「軍議にお前の席を設けねばな」とか「禄はどれくらい、取らそうか?」等と、最早、翌日が楽しみだと言わんばかりに考え始めた。
三成はヤレヤレと、手を振りかぶる。

「言っておくが、禄は要らん。お前には恩がある。この石田三成、禄で志は売らぬ。食い扶持さえ持ってくれれば、それ以上は求めぬ、それに、軍議の席へは、俺の実力だけで這い上がってやる。俺はそういう男だ」

でも!と政宗が言おうとするが、三成はソレを遮り「もう何も言うな」と手で制した。
政宗もソレに従い黙ると、三成は不敵な笑みを浮かべながら窓を跨いだ。

「では、政宗様。本日付で家臣の儀、在り難くお受けいたします」

「むっ・・・もう敬語か・・・・良きに計らえよ?」

政宗のムスッとした表情に、無表情の三成はフッと鼻で笑うと、スルスルと瓦伝いに三階櫓を降りていった。

「石田三成・・・・早く出世しろ・・・・・・私のためにな」

政宗は、無事、地面に降り立った三成に、感心しながらも微笑むと、窓を開けたまま寝ようと布団へと向かう。
その途中、畳の上に何やら、一切れの紙が転がっているのに気付いた。

「むっ?何だこれは・・・・・・え~と、『銀杏散る されど散らぬか 彼岸花 織り成す夢も 色は褪せなん』か、むっ?石田三成より・・・・か、彼岸花・・・・不吉だな」

だけど、三成らしいな。と呟くと、布団にいそいそと潜り込んだ。
何やら、窓の外から「待て!怪しい者が出たぞ!」や「捕らえろ!」など、聞こえるが、三成では無いだろう。と冷や汗を掻きながら政宗はゆっくりと瞼を閉じた。



1559年九月九日 長月 

この日、南出羽の半分と奥羽の一部を手中に納めている小大名である伊達家に、一人の男が召抱えられた。
この男が、これから、この戦乱渦巻く日の本に、どう影響を齎すのか、この時は未だ誰も知る者は居ない。





続く。


どうも、佐々木君です。
いやぁ・・・更新が遅すぎた・・・orz
何と言うか、申し訳無いです。ハイ。
前回のアレが物凄くカス過ぎたので、急遽、書き直しを致しました。
(書き直しても、ご都合主義っぽさは抜けないのですが・・・orz)
一応、プロットは作ってるんですよ?でも何故か上手く書けない・・・。
自分の文章能力の無さに恥じ入るばかりでございます。

では、長くなりましたが、これからも、是非に宜しくお願い致します!

             佐々木君より。



[21385] 第五話 白石宗実
Name: 佐々木君◆faffb3e6 ID:e33f44ce
Date: 2010/10/17 01:08


サンサンと日光が降り注ぐ中。
一人の男が汗に濡れながらも、ボロボロになった長屋の屋根を直すため、屋根の上でコンコンと音を立てながら金槌を懸命に振っていた。
その男の背中には『大一大万大吉』と書かれており、その意味を知っているのは、この世界では当人だけ、それ以外は唯の一人も知る者は居ない。

そんな文字を背負う男が、その右手に持った金槌で、屋根板目掛けて最期の一本を打ち込もうとしていた。


◆◆◆


「ふぅ・・・これで最期か・・・」

コンと最期の一発を釘に打ち込む。
そして額の汗を拭うと、修理した長屋の屋根を改めて見回した。

「良い出来だな」

先程までボロボロだった屋根は、俺の懸命な努力の末、まるで新築同様の輝きを解き放っている。
自分でも怖くなる程の上手さだ。
そんな出来栄えに、いっそ武将など辞めて大工になろうか?などと考えてしまう。
と言っても、大工はそんな軽い気持ちでなれる程、甘い職業では無いのだが・・・。

俺は落胆と苦笑を混ぜた様な表情をすると、手拭いを取り出し、再び額の汗を拭った。

「さて、そろそろ部屋に戻って水でも飲むとするか」

流石に午前中から働き詰めだっただけに、喉がカラカラになっている。

俺は屋根に立てかけていた梯子をスルスルと下ると、これからの我が家となるであろう長屋に入った。

「やはり・・・何度見ても質素だな・・・・・悪く無い・・・・」

前世では一国一城の主だった俺だが、だからと言って長屋が嫌いな訳でも無い。
秀吉様の子飼い武将だった頃は、これが当たり前だった。
こうして長屋を見ると、不快感どころか懐かしい思い出をハッキリと思い出せて、逆に嬉しさまで込み上げてくる。

「景綱に感謝せねばな・・・」

景綱に連れられて何処に案内されるのかと多少の期待を抱いて来て見れば、連れてこられたのは、このボロボロの長屋だった。
修理する前が、どれだけボロボロだったかと言うと、まず屋根が所々抜けていて、雨漏れする。
その上、屋根から漏れた雨が、床を延々と濡らし続けたため、カビが繁殖していて酷い物になっていた。

まぁ、カビだらけの床は、俺の家臣が何とかしてくれたため、今現在は屋根と同様に新築状態になっているが。

とにかく、当初はボロボロだったこの長屋も、今はそれなりに住める状態になった。
壁などは多少、酷い部分などがあるものの、そんな物は気にする所では無い。
俗に言う『住めば都』と言う奴だ。

「にしても・・・家臣か・・・」

この長屋の内部は外見よりも、それほど広くなく、台所と六畳程の寝室という二部屋に分かれているだけで、とてもじゃないが二人では住めそうもにも無い。
だというのに、これから此処へ住むのは俺一人だけでは無い。

そう、先程も言った通り、俺には家臣が居る。
普通、俺みたいな薪割り奉行と言う下っ端小役人には家臣など要らない。
いや、要らないと言うより、家臣そのものを召抱える事が出来ないと言う方が適切か。

つまり、“今の所“俺には家臣を養う財力など無い。
この役職のままだと、養う財力どころか、自分の食い扶持まで危うくなるとまで言える。
ひもじい思いをするのには慣れているが、家臣にまでソレをさせると言うのは、いささか気の引ける所でもある。

それに――――

「おい、入るぞ」

「どうぞ・・・・」

粉雪の様な、か細い声が寝室の中から聞こえてくる。
それを肯定と受け取ると、継ぎ接ぎだらけのボロボロな襖をゆっくりと開けた。
そしてゆっくりと寝室に足を運ぶ。
寝室の真ん中には、一人の女が居る。
その女は、俺のと、恐らく自分のとであろう二つの布団を、細い腕で皺伸ばしをしている最中だった。

トンッと、布団と布団の間。つまり、女の真ん前辺りに俺は胡坐を掻いて座る。
すると、女はソレに反応し、布団から顔を上げ、コチラを見た。
急に顔を動かしたためか、長い黒髪が美しくも乱れる。
その髪の毛の一部が、大きめな特徴の目に掛かり、女は細く、白い腕でそれを掻き揚げた。
その一つ一つの動作が妖艶に見える。俺は、そんな自分の認識に、不純な物を感じると、直ぐに視線を剃らした。

「これは石田様」

頭を下げて俺に応えるが“三成様”とは呼ばない。
普通ならば主従である者同士、下の名で呼ぶのが基本である。
これは俺の事を未だ主として認めていないという事を指す。

「面を上げろ・・・・白石・・・・・白石え~と・・・・なんだったか忘れた・・・・・」

ムカついたので、ワザと分からないフリをした。
少しは応えたかと、表情を見るが、しかし宗実は意にも解さず涼しい顔をしている。
その表情がまた・・・・一段とムカツク。

「宗実・・・宗実です、石田様?・・・石田・・石田・・・あら、私もボケたのでしょうか?石田様の下の名前が・・・・・」

俺への返しなのか知らないが、宗実がワザワザ頬杖を付いて、知っている筈の俺の名前を必死に思い出そうとする。
その一挙一動ひとつひとつ全てがどれもワザとらしい。
面倒くさいので、最初は「三成だ」と言おうとしたが、後々考えると、何だか凄く癪な物なので、此処は敢えて無視する事にした。

「何とでも呼べば良いだろうに・・・・しかし、働いた後の水はやはり美味いな」

愚痴を零しながらも、俺の目の前に、何時の間にか置かれていた湯飲みを手に取り、ゴクゴクッと中に入っている水を喉に嚥下させる。新鮮な水だ。恐らく、この長屋の近くにある井戸から汲み上げたばかりの物なのだろう。
宗実は無愛想な所があるが、こういう所はとても気が利く。
これで、もう少し愛想が良ければ、満点物だろうに・・・・いや、無愛想なのは俺に対してだけかも知れない。
まぁ、気にはしないが。

「フフッ・・・・さて冗談は置いとくとして・・・・、もう屋根板は直ったのですか?石・田・様?」

冗談でも、下の名前では呼ばないんだな、と心の中で毒付きながらも、素直に“嗚呼”と応えた。
すると、宗実はニコリと微笑みながら、「ご苦労様でした」と皺伸ばしを再び続け出した。
その表情に、彼女の魅力を感じながらも、俺は気になっていた事を思い出し、宗実に切り出した。

「あ~~・・・それよりも話があるんだが・・・良いか?」

「はい?何でしょうか?」

「あ・・・いや、これからは一つ屋根の下で共に暮らす事となるのだが・・・・・抵抗は無いのか?と聞きたくてな」

真剣な表情で聞くと、はい?と宗実が意外そうな顔付きで首を傾げた。
まるで、何を言っているのかさっぱり。と言った具合だ。

「だから、俺と共にこの長屋で暮らすという事についてだ。見ての通り、これからしばらくは、俺同様に、お前もひもじい思いをしなくてはならない。それは惨めで過酷な物だ・・・・もし嫌なら、お前は自分の居るべき所へ帰っても良いぞ?と聞いてるんだ」

ワザワザ説明してやる事も無い内容だが、それでも念入りに聞いておかなくてはならない。
それに、もし嫌だと言うなら、こっそり景綱には内緒でこの女を元の場所に帰してやらねばなるまい。
そう思った故の問い掛けだったのだが、宗実は「まぁ!」としか言わない。
コイツにはそれほど、俺の言葉が意外だったのかも知れない。

「石田様は本当におもしろいお方ですね?」

「何だと?」

クスリと着物の裾で口を隠しながら宗実は笑う。
俺は、その仕草に思わず見惚れてしまうが、直ぐに我に帰った。

「だって、これは命令なんですよ?しかも片倉景綱様・・・いえ、伊達政宗様、直々のご命令なんです。逆らえる訳ないじゃないですか?」

宗実の口から出た言葉に、いささか驚いてしまい、思わず目を見開いた。
片倉景綱ならともかく、まさか政宗がこんな事を命令したとは思ってもいなかったからだ。
それに、その事自体を俺が知らされていないと言う事も、これまた意外だった。

「何?俺は聞いてないぞ?そんな話は・・・。それに大体、何故そんな事を貴様が知っているんだ?普通、お前の主になるのは俺なのだから、先ずは俺に話しの筋を通すのが道理というものではないのか?」

宗実は俺の問いに、頷きながら「ええ、それが当然です」と言った風に堂々と笑う。
しかし次に「でも」と言葉を濁した。

「確かに、石田様は仮にも私の主君になるお方です。ですが、お言葉かもしれませんが、貴方は私よりも後に入って来た言わば新参者です。はっきりと申し上げますと、私の素性云々はともかく、貴方は完全には信用されていない。特に景綱様には・・・ね?」

宗実は普段の穏やかな表情から一転。
まるで戦場の狼の様な目付きで俺を睨む。

「なっ!?」

その殺気に溢れた目付きに、俺は思わずたじろぎながらも、耐える。
その様子に、少し驚いたと言う表情で宗実は俺を睨むのを止めた。

「あら?石田様は知恵者だと聞きましたのに・・・可笑しいですね?」

恐らく、俺が殺気に耐えた事を言っているのだろう。
確かに俺は知恵者(主に軍師系統の者)だが、それでも(七本槍には入らなかった物の)賤ヶ岳では自ら槍や鉄扇で戦って武功を挙げているし、その上、忍城攻めでは、秀吉様の尻拭いまでしている。
軍の統率力の方でも、関ヶ原で六千を超える軍勢を率いているのだ。
簡単に舐めてもらっては困る。少なくとも、目の前に居る宗実よりは戦上手だと宣言できる自信が俺にはある。要は場数が違うのだ。

「おい・・・いきなり殺気なんか出すな。一日目でこれでは先が思いやられる」

「フフッ・・・それもそうですね。すいませんでした」

そう言って頭を下げて謝る。それに俺は、鼻笑いで了承した。
それから宗実は、特に何も喋らずに自分の作業へと戻った。
俺はと言うと、特にする事が無いので仕方無しに、長屋を出て直ぐの所にある湯屋に向かう事にした。

「汗を掻いた。湯屋に行って来る」

俺の問いに宗実はハイと答えると、軽く頭を下げ、箪笥から浴衣を出し、それを俺に渡す。俺が湯屋に行くと言う旨を、快く了承してくれたのだろう。
それを確認すると、俺はすぐさま、居心地の悪いこの寝室から抜け出した。


「はぁ・・・やはり監視役・・・か・・・。まさか政宗が・・・」
思い返すだけで胸くそ悪い。しかしそれも仕方ないかと納得してしまう自分が居る。
その悔しさに思わず「クソッ」と毒付きながら頭を掻き毟った。
そして、湯屋への道すがら「やはり女は面倒くさいな」と、俺は再認識するのだった。



◆◆◆




「どう言う事ですか?景綱様」

何時もの軍羽織に身を包んだ石田三成が、米沢城のとある一室で胡坐を掻きながら、彼の上司、片倉景綱に疑問の声を挙げた。
対する景綱も、三成と同じ様に胡坐を掻いており、彼女特有の細長く纏められた髪を、手櫛で決め細やかに手入れしながら、半ば不真面目に三成の声を受止めた。

「どうもこうも、説明しようが無いだろ?良いじゃないか、家臣の一人や二人くらい」

いい加減に答える景綱に、三成は目を細めて嫌悪感を現した。
普段の景綱はとても優秀で真面目な人物である。別に、三成が直に景綱の真面目な所を見た、と言う訳では無い。
ただ、政宗の話に「今の伊達家は景綱が居るから、何とかなってるんだ」と我が身の様に自慢していたのを思い出すと、この目の前に居る人物がどれほど、家中で重宝されているのかが伺える。
だがしかし、目の前の人物と、今まで聞いてきた話しのどれもが結び付かない。
その証拠に、景綱は話しもロクに聞かない上に、何時も巫女服姿。普通なら、正装。つまり裃やソレの類で登城しなければならないのだが、しかし景綱はご覧の通りの姿である。
ちなみに三成も、その点では違反しており、どうこう言える立場では無い。しかし、ソレはただ単に、他に着る物が無い。と言うだけであり、仕方が無いと言える。
仮に、服装の事は許すとする。だが、景綱の場合はソレだけに押し留まらなかった。
それ以上に問題だと三成が思ったのは、『他人に無理難題を押し付ける』と言う点である。
現に、今、三成に対して、とても出来そうにない無理難題を押し付けている最中である。
その様子から、とてもでは無いが、しかし、真面目を地で行っている様な人物には、どうしても見えない。この時の三成には、そう見えた。

いや、見えたと言うよりも、感じたと言った方が良いかもしれない。
第一、無理難題の内容が重すぎたのだ。
一歩間違えれば、「お前は餓死しろ」と言っている様な内容である。
それもその筈、今、三成は無俸禄の無石高者なのだ。それなのに、家臣を雇えと言うのである。簡単に言って無理だ。
普通の家臣なら(足軽等は含めず)少なからずの領地を所有しており、其処からの税、つまり年貢で、自分達の飯が食えている。
しかし、三成は、己の義侠心で禄は要らないと政宗自身に言ってしまっている。
これがもし、三成一人の生活なら、「食い扶持だけ持ってくれれば良い」と言っている事から未だ何とかなるだろう。しかし、これに家臣が付いてきたらどうなるのか?
つまり、一人の食い扶持で、二人分の生活を賄わなければならない。
簡単に貧しいとかの問題では無くなる。珍しくも三成自身が焦るのも無理は無い。

「家臣の一人や二人・・・ですか?・・・・はぁ・・・、残念ですが、無理ですね」
三成の口から思わず出た溜め息には、憂鬱感が混じっている。
景綱もソレを感じ取ったのか、困った表情をすると、その場にドンッと立ち上がった。
「景綱様?」
三成が疑問の声を挙げる。
「少し気分を紛らわそう。今少し待て、美味しいお茶をお前に淹れてやる」
景綱は、一室の角に備え付けられた炉の蓋を開ける。
そして、慣れた手付きで、茶を淹れる準備を始めた。

ちなみに、今、三成達が居る部屋は茶室では無い。しかし、この部屋に炉があるのには訳がある。
これは、この城の城主『伊達政宗』の趣味が、食の研究や茶の研究である事から、言わば私事で備え付けられている物である。
故に、この部屋以外に城内にあと三部屋程、コレと同様に、畳に炉を掘っている場所があり、どれも、政宗お気に入りの部屋で、少しでも時間が空けば、何時もの私室か、この部屋で憩いの時を過ごしている。言わば、『政宗専用の心休む部屋』と言う訳である。
しかしながらも、そのせいか、普通ならば簡単に出入りできない部屋となっており、それが理由で、女中や男衆からは『開かずの間』等と呼ばれている。
しかし別段、『曰く付きの部屋』と言う訳では断じて無い。
ただ、一般の者には入れないと言うだけである。
しかし、そんな部屋に三成と景綱が入れていると言うのは、いかに彼等が政宗から信頼、又は寵愛を受けているのかが計れる、『数少ない羨望の一つ』とも言えるだろう。

「あれ?おかしいな・・・・」

「どうしました?」
先程まで、景綱の準備を黙って見ていた三成が、景綱の呟きに気付き、口を開いた。
「いや・・・茶器が見当たらなくてな?何処に仕舞ったんだ?梵天丸の奴は・・・」
何時もなら茶器が置いてある筈の茶器入れに、何故か茶器が見当たらない。
景綱は困ったと言う表情で、茶器入れを丹念に漁る。
「もしかして、茶器が無いんですか?」
三成が神妙な顔付きで、うんざりだと言う声音で聞いた。
対する景綱は、その問い掛けに、右手を振って応える。
「はぁ・・・」
三成は溜め息を吐くと、仕方ないと言う風に、近くにあった箪笥にゆっくりと手を伸ばした。
「あっ、こら、勝手に触る「ありましたよ?」なっ・・・おっ!それだ」
三成の行動を咎め様としたが、しかし、三成の手は早く、既に手元には箪笥に入っていた茶器が、しっかりと掴まれていた。
景綱は咎めるのも忘れ、ニコリと三成に微笑むと、三成に「さぁ、こっちに寄越せ」と右手を差し出した。

「ん・・・・フム」
三成は、差し出された手に茶器を渡そうとしたが、何を思ったか、咄嗟にそれを引っ込めた。

「んっ?」

景綱はその行動に疑問を持ち、クイッと首を傾げる。
「どういうつもりだ?」
「いえ・・・・・」
景綱の問い掛けに、三成は言葉を濁す。
「もし良ければですが・・・」
「何だ?何かお願いか?・・・あっ、言っておくが、家臣の件は無しだぞ?」
「いえ、違いますよ」
ただ、と三成は続ける。
「・・・・もし良ければ、私に茶を淹れさせて貰えませんか?」
三成の言葉に、えっ?と景綱が驚く。
まさか三成が茶を知っている者だとは、今までに一度も思わなかったからだ。
しかし、改めて三成の顔を見ると、何気なくも、それと分かる文化人に見えてこなくも無い。
景綱はしばらく考えた後、コクリと頷き、三成の申し出を許可した。

「有難う御座います」
三成は頭を下げる。そして直ぐに直ると早速、釜に杓子で水を入れ、炉に火を掛け、其処へ釜を置いた。
その手際の良さに、景綱は驚きと感心を三成に寄せながら、ピッと背筋を伸ばし、茶の作法に従い、湯が沸くのを待つ。
対する三成も正座をし、ピッと背筋を伸ばして景綱のソレに習う。
そこには、先程までの微妙な主従関係の面影は無く。まさに列記とした二人の茶人が居た。

「・・・・ところで、景綱様はどの様な茶をご所望ですか?」
湯が沸くまでの間。
三成は之と無しに景綱に視線をやった。
「ん?そうだな・・・とにかく美味ければ良い・・・かな?」
景綱の要望に「承知しました」と三成は返す。すると間が良く、同時に、湯が沸いた。

「沸いたな」
「ええ沸きましたね」
三成は、釜の蓋を開けると、杓子を掴んだ。
普通ならば、此処で、釜の湯を茶碗に移し、茶粉をその中へ入れて、茶筅でのノ地を書く様に掻き混ぜるのが主流である。
しかし、三成はソレをせず、いきなり何を思ったのか、水差しに入った水を杓で掬い上げ、釜に水をピシャと淹れた。

「っ!?」

景綱は、いきなりのその行動に、思わず目を見開き、三成を凝視する。
しかし、三成はソレを意にも返さず、釜から湯を掬い、茶碗に淹れると、茶杓を取り出し、その中へ茶粉を入れた。
そして、茶筅で勢い良く掻き回す。
景綱も、もはや何も言うまいと思ったのか、ソレをずっと見つめながら、表情も冷静なソレへ戻した。

「出来ました・・・・」
三成が「どうぞ」と、茶碗を景綱へ差し出す。
景綱は頭を下げ、作法の礼に従うと、三成の茶碗をゆっくりと受け取った。
そして、茶碗をクイッと回すと、恐る恐る、口を付けた。

「ゴクッ」

喉が茶を嚥下させると同時に鳴る。

「くっくくく」

まるで、普段の景綱とは掛け離れた萎縮したその様子に、三成は腹を抱えて笑いたかった。
内心で“してやったり!”と、大笑いしている三成を、景綱は知らない。
そして、茶碗を口元から離すと、景綱は一言。

「美味い!」

その一言がまた、三成にある微かな童心を擽った。
景綱は、ニヤリとほくそ笑む三成に、気味悪さに似た気持ちを覚えながら、茶碗を覗き込んだ。
景綱の脳離には、飲んだ直後の味がしっかりと浮かんでいる。

茶の温度はそれほど熱くなく、それでいて、味は逃がさず。
茶の本来の美味さを絶妙に引き出している。
その妙技と、茶を知り尽くした様な味に、景綱は思わず『おかわり』を三成に申し付けていた。

「はい、どうぞ」

三成は、ほくそ笑む表情を止めず、更に躍動感を携えながら、茶碗を景綱に渡した。
そして、景綱がそれを嚥下させる度に、三成は胸を張って“どうだ!”と景綱に表情で訴えた。

「むぅ・・・お前と言う奴は・・・」

対する景綱は、三成を敬意に満ちた目で見つめる。
確かに、今の三成は気味悪さ十分の表情をしていて、とてもでは無いが敬意を払う対象には為り得ない。
しかし、景綱の脳離には茶の味が鮮明に残っている。
その味が、三成に対する敬意を生み出していた。

それもその筈だろう。
この景綱が飲んだ茶は、あの茶の先人とも言われた。
千利休から直々に教えを乞うた男の茶なのだ。
それだけでも美味くない筈が無い。しかし、それに、三成の丁寧さが更に磨きを掛けている。
最早、茶の天才――とまでは行かなくとも、素人でも分かるハッキリとした美味さが其処には在った。

「いや・・・驚いた。お前がこんなに茶を淹れるのが美味いなんてな・・・」
「いえいえ、それほどでも・・・」
三成は謙遜しながら、頭を下げた。
「でもな・・・そのニタリ顔はどうにかならないのか?」
「えっ?」
三成は思わず、声を挙げた。
まさか、自分の内心での事が顔にまで表れていたと言う事実に、驚いてしまう。
普段の三成は、何時も無表情で、まさに『仮面を被っている』と言われても反論出来ない程、表情が寂しい。
しかし、此処に着てから、早、五日。少し表情が緩くなって来たと三成自身でも気付いている。
だが、まさか内心のしかも赤裸々にも、有りの儘の気持ちが表情に出るとは思っても観なかったのだ。
「いえ・・・まさか」
故に三成は、どう言えば良いのか迷った。
ソレを察したのか、景綱は、ニコリと微笑むと、三成にソッと打ち明けた。
「良い表情だと思うぞ?・・・そっちの方が私は良い。でも・・・家臣の件のお返しかは知らないが、その“してやったり顔”はもうするな。流石に気味が悪い」
そう言うと、景綱は再び、茶碗に口を付けた。
うん!美味い!と大袈裟な反応をする景綱に三成は、先程までの羞恥に満ちた表情から、普段の無表情へと戻っていった。




「白石宗実。ただいま、参上致しました」
今度は三成自身が自分の淹れた茶に舌鼓を打っていると、不意に襖の奥から若い女の声がした。
景綱は、声だけで分かったのか「やっと来たか」と独白すると「入れ」と襖に投げ掛ける。
すると、ゆっくりと襖が開き、一人の女が入って来た。

三成は茶碗から口を離し、女の顔を見た。
歳は二十代の後半だろうか?今の三成は、体形から独自判断し、およそ十代後半である。
だから、三成よりも十才程、年上の女性と言う事になる。
(しかし精神年齢は三成の方が遥かに上だが)

「説明しよう。コイツが今後、お前の家臣となる白石宗実だ。覚えておけよ?」
三成が、まじまじと宗実を見ていると、不意に景綱がそう言って、白石を親指でグイッと指差した。
指で差された白石は、優しそうに微笑みながら、三成に頭を下げた。
三成もソレに習い、頭を下げる。
家臣になる者への礼は不必要なのだが、しかし、三成は生粋の生真面目男である。
故に、頭を下げなくても良かろうが、そうでなかろうが、頭を下げる。
それは、三成の癖とも性格とも言えた。

「フフフッ・・・面白いお方ですね?景綱様」
宗実が着物の裾で口を覆いながら突然笑い出す。
何事かと、三成は下げていた頭を上げ、宗実を見上げる形で視線を移した。
「どうしたんだ?宗実?」
景綱も、不審に思い、疑問の声を挙げる。
すると、宗実は「失礼しました」と、笑いを収める。
「いえいえ、だって石田様がこれから家臣になると言う私にワザワザ頭を下げるんですもの。それが可笑しくて可笑しくて・・・」
そう言って、また笑い出す。
その様子に景綱はヤレヤレと言った風に手を振ると、申し訳無さそうな表情で三成を見た。
「すまんな、コイツは元からこういう奴でな?別にお前がどうこうと言う訳では無いんだ。コイツの態度は私と梵天丸。そして・・・あともう一人だけには礼儀正しいんだが・・・。しかし、それ以外にはどうも・・・なぁ?」
景綱は溜め息を吐きながら宗実を見た。
宗実もその視線を感じたのか、笑いを止めた。
「おい、宗実。これからはそう言う態度でコイツには接するなよ?これからのお前の主なんだ。少しは愛想良くしておけ、でないと、コイツが出世した時には、疎んじまれて、お前は出世させてもらえぬぞ?」
景綱なりの鎮め方で、宗実を咎めようとする。
しかし、宗実はソレを無視し、三成を見下す形で笑った。
「でも、このお方が出世出来るとは世辞でも・・・・ねぇ?」
宗実の言葉にピクリと、三成の眉が動く。
その行動を見た景綱も、流石に不味いと思ったのか、宗実をキッと睨んだ。

「おっと・・・失礼致しました。・・・それでは真面目な話しを・・・。えっと・・・只今の、石田様のお役職は薪割りと聞きましたが・・・一応の奉行職。およそ、どれ程の禄を召されたのでしょうか?」
宗実は態度をコロリと変え、急に真剣な顔付きをすると、三成の禄を聞いた。
おそらく、彼女なりに兵の動員数や、米の入り具合を聞きたかったのだろう。
もし、それなりの兵が動員出来るのならば、合戦の際に功でも立てて、三成を出世させる事も出来る。そうすれば、家臣としての勤めも、十分な程に出来るだろう。
それをネタに、三成への謝罪として受け取って貰おうと、そう思っての質問だったが――――
「禄は無い。俺は禄無しで雇われている。申し訳ないが、お前の禄も当然無しだ」
「えっ?」
三成の口から出た予想外な言葉に、宗実の肩が震える。
景綱はその様子に無理も無いと、頭を振った。
「・・・・まさか・・・っ!景綱様っ!あの話しは本当ですか?」
「ああ・・・本当だ・・・コイツは正真正銘、無俸禄の無石高者だ」
そんな!と宗実が吼える。
すると、三成が飲み掛けの茶を啜りながら、口を開いた。
「嫌なら別に仕えなくても良いぞ?どうせ、貴様のする事など殆ど無いからな」
言葉とは裏腹に三成の顔は萎縮していく。
彼なりに宗実には申し訳無いと思ったのだ。
確かにそうだろう、主人が無俸禄ならば、その家臣も然り。
無俸禄の主従では、動員数は愚か、生活さえも間々ならない。
しかも、ソレを知らずに三成の家臣にされたのだ。あまりにも酷な話しである。
ならばいっそ、この一言で、俺に仕えるのを止めて欲しい。そう三成は考えた。

しかし―――
「・・・・良いでしょう。そこまで言うのなら、この白石宗実。どうされようが、貴方にお仕え致しましょう。それに、これは景綱様からのご命令。断ろう筈も御座いません」
「っ!?」
三成の考えとは裏腹に、事がポンポンと進んで行ってしまう。
この展開に『もはや仕方ない』と三成は諦めた。
やはり、彼独特の横柄癖が此処でも、災いした。三成にとって、最早、天敵と言って良い程の癖である。

「おぉ!そうか!仕えてくれるか!」
景綱が先程と打って変わって喜ぶ。
しかし、それとは対照的に、三成の顔は優れない。
ソレを見て、景綱は何を思ったのか、三成の顔を両手でグッと掴むと、グイッと宗実の体へ向かせた。
「なっ何をするんですっ!景綱様っ!」
「良いから、良いから。ほら、見てみろ、この宗実の体を!この白い肌、美しい括れ、大きめな尻、そして何よりも、この巨乳!こんな美人と一緒に、一つ屋根の下で生活するんだぞ?少しは喜んだらどうだっ?」
突然、そんな変態的な言葉を発する景綱に、三成は思わず溜め息を吐いた。
「はぁ・・・・しかし、ひもじい生活のせいで、そんな美しい体が少しでも損なわなければ良いんですがね?」
「むっ・・・上手い具合に切り返すな、三成」
それはどうも、と三成は頭を垂れる。
もうどうにでもなれと、三成は再び、溜め息を吐いた。

「でも、まぁ・・・・家臣の儀は了承しましたよ」
三成は景綱の手を強引に離すと、首をコキコキと鳴らしながらソッと呟いた。
景綱はそれに安心したのか、ニコリと微笑む。宗実も宗実で「襲わないでくださいね?」と景綱とは違う意味で微笑んだ。
何はともあれ、と言う感じで、三成の第一家臣が此処に生まれた。



◆◆◆



「いし・・さまっ!」

ん?何だ・・・声が聞こえる・・・。

「石・・・様っ!」

誰かが俺を呼んでいるのか?

「石田様っ!石田様っ!」

五月蝿いな・・・

「石田様っ!石田様っ!・・・・もう・・・起きてください!」

「ああっ!五月蝿い!少しは静かにしろ!って、宗実?」

そう言って、ガバッと起きる。
すると、目の前にいきなり宗実の顔が飛び込んで来た。

「おはよう御座います。・・・石田様?」

「んっ・・・おはようございます?・・・と言う事は俺は・・・」

「ええ、寝てましたよ?ぐっすりと・・」

宗実の言葉に、まさかと思いつつ、窓から漏れる月の光を頼りに、周りを見回す。
すると視界に、継ぎ接ぎだらけの襖や新築同然の床が入って来た。
それを見て、此処は今日直したばかりの我が家で間違いないと確認する。

「寝ていた?・・・そうか、湯屋から帰って来て・・・それから寝てしまったのか・・」

「ええ、気持ち良さそうにぐっすりと・・・・ね?」

ニコリと宗実が微笑む。
俺も、ニコリと微笑み返すと、んっ~~~と大きく腕を伸ばした。

「しかし、俺をワザワザ起こしてどうした?油虫でも発生したのか?」

「いえ、そうではありません。・・・・・ただ」

「ただ・・?」

「石田様が魘されていたので・・・」

そう言われて、自分の寝着を見る。
魘されていた為か、寝汗でびっしょりと濡れていた。

「そうか・・それだけの為に・・・、して、今は何時(なんどき)位だ?」

「はい、丑三つ頃かと・・・」

「・・・そんな時間に、俺が魘されていたと言うだけで起きたのか?」

見ると、宗実も寝着に身を包んでいる。
恐らく、寝ていたのだろうと安易に想像出来た。

「ええ、一応、貴方は私の主君ですもの・・・。これくらいの事は・・・・」

「そうか・・・。礼を言う、宗実。すまんな・・・眠たかっただろう?だから、俺の事は気にせずに・・・・もう寝ろ」

「では・・・お言葉に甘えて・・・・」

宗実は、俺に頭を下げるとイソイソと布団へ潜り込んだ。
そして、俺もソレに習う様に、自分の布団へと潜り込んだ。

「石田様・・・?」

「何だ?」

寝ようと思っていた刹那、宗実が俺に声を掛ける。
珍しいと思いつつ、コチラも応えた。

「何故、魘されていたのですか?」

「んっ?・・・いや・・・昨日の事を夢に見てな」

「昨日の事?・・・ああ、あれですか」

宗実も分かったらしい。
クスリと笑い、思い出したと言いながら、コチラを向いた。

「あの時はまた・・三成様の表情が面白くて・・・フフッ」

「あの時とは・・・、貴様が俺に向かってコイツは出世しそうに無いと言った時か?」

え?と俺の発言に宗実は笑いを辞める。
そして、バツが悪そうな顔をすると、自分の両手を顔の前で合わせた。

「あの時はすいませんでした」

「声が小さいぞ、宗実」

「ウフフッ・・・・いえいえ・・・」

「まぁ良いが・・・・しかし、俺が無俸禄と聞いた、お前の顔がまた・・・おもしろかった」

そう言うと、むぅと宗実は頬を膨らませる。
しかし、直ぐに顔を綻ばせると、クスリと笑った。

「でも、無俸禄と聞いて驚きました。まさか本当に石田様が無俸禄なんて・・・」

「政宗様の話しには、そんな事は含まれていなかった・・・と言いたいのか?」

ええ、と宗実は小さく頷く。

「しかし、お前もまた可笑しな奴だな?俺の監視役だと言うのに、俺が無俸禄と言う事を聞かされなかったとは・・・またまた、政宗様に嫌われている様にしか思えんな?」

冗談半分で言った事だが、しかし宗実の表情が段々と曇ってくる。
まさかと思ったが、もしかして、本当に嫌われているのだろうか?

「おい、宗実・・・何故お前は俺に監視役だと話した?まさかだとは思うが、本当に嫌われているのか?」

「・・・・・・ええ、嫌われてますよ?」

重々しく宗実はそう言うと、フイッとあちら側を向いた。

「何故だ?」

「父上ですよ・・・。父、白石宗利が先代の伊達輝宗様に仕えていた頃、謀反人の一人を領内から脱出させようとしたのです」

「何故そうしようとした?」

「友だったんですよ・・・その謀反人が父上のね?」

「友だった・・・・か」

俺にも友が居た。掛け替えの無い友が・・・。
だからなのか、俺は宗実の言葉が少しは分かる様な気がした。

「ええ・・・、でも、結局その謀反人は捕まって処刑されちゃいましたけど」

「そうか・・・」

「そのせいでしょうか?私・・・。いえ、白石家が政宗様に嫌われ出したのは・・・」

「・・・」

「もう寝ますね・・・つまらないお話をワザワザ聞いて頂き、どうも有難う御座いました」

そう言うと、宗実はグイッと布団を瞼の辺りまで被った。
俺は俺で、もう何も言わずに寝ようと、宗実と同じ様に布団を被った。

「・・・石田様?」

「何だ・・・?寝るんじゃなかったのか?」

未だ寝ないのか?とは言わずに、素直に宗実の問い掛けに耳を傾けた。

「あの・・・石田様はどう思います?・・・その・・・」

「友の話しか?」

「・・・ええ」

こう言う時には、どう言えば良いのか分からない。
普通ならば、この女を傷付けない様に優しく言えば良いのだろう。
しかし、俺はそんなのには慣れていない。
だから、俺は俺らしく、思った通りに口にする。

「良いか悪いか・・・と聞かれれば、明らかにお前の父が悪い」

「っ!・・・ですよね・・・私の父が悪いです「でもな・・」え?」

「・・・俺にも、お前の父の気持ち・・・分からなくも無いぞ?」

「・・・貴方にも・・・居るんですか?友が・・・」

「ああ・・・居る。いや・・・“居た“・・・」

「っ!?」

宗実がゆっくりと体を動かすと、こっちを向いた。
まるで、どうして?とでも言いたそうな表情をする。しかし、俺は何も答えずに目を瞑った。
すると“待って“と言う意味なのか、それとも違う意味なのか、宗実はいきなり俺の右手をギュッと握って来た。

「どうした?」

「いえ・・・ただ・・・夜は怖いので・・・」

「そうか・・・お前は見掛けに寄らず、怖がりなんだな?・・・・・・良いだろう、寝るまでしっかりと握っておいてやる」

「フフッ・・・石田様も、見掛けに寄らず・・・ですね?」

「五月蝿い。黙って寝ろ・・・」

「はい・・・おやすみなさい・・・三成様」

「ああ・・・おやすみ・・・宗実」


俺がそう言うと、宗実は安心したのか幸せそうな寝顔で、静かに寝息を立てながら眠り始めた。
寝るのが早いな・・・等と、呟きながらも、俺も目を瞑る。
そして、深い闇へと落ちて行った。






続く






何だかなーーーー。
凄く自分の小説がご都合主義に見えてきた・・・。
何だか、自信を無くしてしまいました。
もし、アドバイスが在れば、感想で何なりとお申し付けください。
批判。励まし。感想。何でも御座れデス。

では、これからもこの小説をお願い致します。

佐々木君より。


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