「清正ぁああああああああ!!」
「三成ぃいいいいいいいい!!」
そう叫びながら、お互いの得物を激しくぶつけ合う二人の男が居た。
片方の鉄扇を武器に戦っている男が、石田三成。
そしてもう片方の、鎌に似た槍で戦っている男が加藤清正。
その二人の男は、この平野―――関ヶ原と呼ばれる地にて、雌雄を決するために激突していた。
「オラァあああああああ!!」
「チッィいいいい!!」
何度も互いの得物が交差する度、激しい火花が何度も散る。
そんな激闘の最中でも、お互いの舌戦が止む事は無かった。
「馬鹿が!お前は今の状況が見えていない!早く目を覚ませ!」
「黙れ!お前こそ、目ん玉ひん剥いて、見るもん見ろよ!」
三成は清正の言葉に舌打ちをしつつ、懐から爆弾を取り出す。
その爆弾こそ、三成が愛用する事で知られている特製の瞬間性爆弾だった。
その球体型の正体を良く知っている清正は、一気に目を見開いた。
「チッ!爆弾かっ!?」
清正は咄嗟の判断で、防御の体制をとった。
三成は清正の体に目掛けて、爆弾を放り投げる。
そして、愛用の鉄扇「嘉瑞招福」をバッと勢い良く開く。
そして・・・
「鬱陶しいのだよっ!」
そう呟きながら広げた鉄扇を・・・閉じた。
その動作を合図に、放り投げられた爆弾達が勢い良く爆発していく。
清正は、その爆発に耐え切れず四間程、勢い良く吹き飛ばされた。
三成は、吹き飛ばされた清正に追い討ちを掛けようと、鉄扇を再び構えようとする。
しかし、先程の爆発によって凄まじい爆風が引き起こり、辺りには大量の砂埃が舞ってしまい、それが三成の視界を曇らせた。
チッ・・・これでは清正の居る場所が分からん・・・マズイな・・・
恐らく、あの爆発では清正はまだ死んでいない所か、大した致命傷さえ負ってないな・・・
三成は心の中でそう呟くと、精神を集中しつつ、鉄扇を開いた。
そして、耳を澄ます。
今の三成はまさしく“無”の状態。つまり何も無ければ、何も必要としない。
そして、ただ気配だけ感じ、清正の位置を知ろうと集中する。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
決して短く無い時間が経った後、三成の頬を心地よい微風がゆっくりと撫で上げた。
その微風に、三成の瞼が気持ちよさげに僅かに動いた。
その瞬間、激しい殺気が三成を襲う。
っ!来るッ!?
三成がそう感じた刹那、土埃の中から突如清正が現れる。
それに反応して三成が体を捻る、すると清正の槍が三成の頬を掠った。
しかし、三成の鉄扇は清正の首元をしっかりと捕らえ、致命傷とも言える一撃を与える。
そしてお互い、擦れ違う。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
互いに無言。
しかし、一陣の風が吹き荒れた瞬間。
清正がコチラを振り返る。
それに習って、三成も振り返る。
そして三成は、清正の表情を見た。
とても、悲しそうな目でコチラを見てくる。
それにどう答えれば良いのか分からない様な表情を三成がすると、清正はフッと笑った。
三成もそれに習い、取り合えず・・・笑った。
清正は、その笑みに満足そうな表情を一瞬だけ浮かべる。
その一瞬に,三成は驚く様に目を見開いた。
清正と三成の間に、もう一度、一陣の風が吹き荒れた。
そして、それが止んだと同時に・・・
清正はゆっくりと―――――崩れ落ちた。
「清正っ!!」
そう叫びながら三成は、目を覚ました。
そしてすぐに布団から体を起こすと、先程の光景が全部夢だったのだと悟る。
「・・・クソッ・・・・嫌な夢を見たな・・・」
三成は舌打ちをした後に、深く溜め息を付いた。
そして普段の冷静さを取り戻すと、すぐさまある事に気が付き、段々と表情が青ざめていく。
三成はすぐさま立ち上がると。自分の首を右手でしつこい程、触り始めた。
そしてしばらく触った後に一言・・・
「死んでない・・・!?」
そんな馬鹿な事があるかっ!!!
三成は心の中で叫ぶと、近くにあった等身鏡に自分の体を写す。
そこには白い寝巻きの下から、本来人間が生まれる際に持つべき物として持っている、五体の内の二つである二本の足もちゃんと写っている。
その事実に幽霊では無く本当に生きているのだと三成は驚く。
「しかし・・・確かに・・・確かに俺は死んだ筈だ・・・あの六条河原で・・」
脳裏には、介錯人が下ろした刃が自分の首元に吸い込まれた直後の痛みがハッキリと写っている。
それでは、何故自分が、こうも普通に生きているのか?
三成は『神算鬼謀』の持ち主とも謳われた頭脳で必死に考えるが、いかんせん疑問が解決する事は無かった。
そして、幾ら考えても分からない状況に、天才とも言われた三成の脳が根を上げた。
「はぁ・・・・仕方ないな・・・考えるのは、もう止そう。俺にも・・計算外の事があるんだな・・・」
三成は鬱憤を溜めた様な溜め息を吐きながらそう呟くと、他の事に目を向けようと頭の中で踏ん切りを付けた。
そして、それにより冷静さを取り戻した三成は、ふと気付いた様に部屋を見回した。
何処だ・・・此処は?
そこは、客間なのだろうか?広さはおよそ十二畳程だ。
見た所、普通の畳座敷だが、三成には心当たりが無い。
普段から使っている佐和山城内にある自室でも無ければ、見知った人物の部屋でも無い。
三成は、疑問に思いながらも、他に何か手掛かりは無いかと所々を注意深く見回した。
すると自分が寝ていた布団に目をやる。
そこには、先程まで自分の頭に掛かっていたであろう手拭いが落ちていた。
ソレを見ると三成は、まさかと思い、額に手をやる。
そして指先が額に触れた瞬間。
触れた額が程良いぐらいの冷たさになっているのが、触れた指先から伝わって来た。
まさか・・・誰かが俺の看病を・・・?
首を傾げながら、三成は気付いた様に目線を移動させると、枕元を見た。
そこには薬草をすり潰す時に使う擂鉢が、中にすり潰した薬草を残したままの状態で置かれている。そして、その横には新鮮な水が入った桶まで用意されていた。
「この匂い・・・スギナか?」
三成はそう呟くと擂鉢に近付き、残っていた薬草を指先で少し摘む、そして鼻先までソレを持ってくると匂いを嗅いだ。
そしてツンと来るスギナ特有の匂いが鼻の奥に吸い込まれていった。
その感覚に、間違いない。これはスギナだと三成は判断した。
「スギナ・・・か、熱を冷ますのに用いられると聞くが・・・、まさか俺のためにか?」
三成は、まさかと思いながら首を振った。
今では悪人の代名詞とも言われている自分が、見ず知らずの者からこんな施しを受けられる筈が無いと溜め息を吐いた。
その直後、三成は真剣な表情になって考え始めた。
「しかし・・・もしもこの世界が死ぬ前とは違う世界だったらどうなる・・?」
そう呟きながら、三成の頭に一つの憶測が浮かんだ。
もし、この世界が前世(前世と言う事にしておく)とは違う世界だったら?
その考えを裏付ける証拠は何処にも無いが、三成の勘がそう告げていた。
それに、死んだ後に違う世界にて再び生き返ると言う話を、三成は唐の書物で読んだ事がある。
その書物の内容は、一度死んだ若者が三国に分かれた時代にまで魂が遡り、三国の中でも人徳が高いとされる劉玄徳に仕える事から始まる。
そして、それから数々の戦で武功を立てていき、天下統一を果たす所までは行かなかったが、それでも小国だった蜀を三国屈指の大国にまで拡大させ、蜀の中枢を担った人物として評価される所まで描かれている。
正直、三成はこの書物を本物では無いと当初、疑っていた。
しかし、その書物の内容はとても繊細で、きめ細かに記されており、とても嘘だとは確信出来なかった。
そして今、三成自身で、その書物と同じ様な事を再現している。
それに、もしその物語と同じ原理ならば、今自分が此処で生きている事も、唐の書物を元に考えれば、何となく辻褄が合う。
そこで三成は悟った。つまり、自分は転生に似た様な物をしたのだと・・・
そこまで考えると三成は、ただ立ち尽くすしか出来なくなっていた。
そして、動かない体の代わりに頭脳だけが動いていく。
三成は考えた。
もし、この世界が本当に俺の知らない世界だったら・・・俺は一体どうすれば良いのか?
三成は部屋にあった窓の障子を開け、空一面が星に包まれている夜空を見上げた。
そして、今はもう会えないかも知れない二人の朋友を思う。
その他にも、自分を支えてくれていた大勢の者達も懸命に脳裏に一人づつ思い出していく。
その中には、大谷吉継や宇喜多秀家、立花誾千代や島津義弘など多くの西軍諸侯の名前があった。
確かに、あの時自分に悔いは無いと思って死んだが、こうして生きているとなると、三成はどうしても気になってしょうがなかった。
三成は半ば諦めながらも、それでも諦めきれない様な目で空を見上げた。
「・・・・駄目だな、まだこの世界が前とは違う世界だとは決まっていない。憶測だけで動くのは、俺の悪い所だと左近も言っていたな・・・」
三成は今は亡き忠臣の忠告を思い出しながら、自分にそう言い聞かせる。そして今一度思考を冷静なソレに戻した。
そしてふと気付いた様に襖を見る。
早い話、此処の住民に会えば良い事では無いか、それに見た所、もしかしたら誰かが俺の看病をしてくれたのかも知れない、それに対しては最低限の礼の一つもせねばならんだろう。
三成は、掌をポンと叩きながら、襖に向かって歩き出した。
この部屋の持ち主に会うために・・・・
そして、三成が襖に手を掛け――――――るよりも早く、襖が開き、いきなり人が入って来た。
あまりにも突然で偶然的な出来事に三成は思わず驚く。
「うわっ!?」
「なっ!?」
三成は咄嗟の事で驚き、見っとも無い声を出してしまう。
それは相手も同じだった様で、相手も同じ様に、驚いた様な声を出していた。
「すまない!」
三成はそう言うと、すぐさま頭を下げる。
すると、相手もソレに習うあの様に頭を下げながら謝罪をする。
「こっこちらこそ!すまん!」
三成は頭を下げたまま、その声に疑問を抱いた。
この声・・・・もしかして女か・・?
三成は顔を確かめようと、ゆっくりと頭を上げようとした。
すると相手も考える事は同じだったらしく、ゆっくりと頭を上げている最中だった。
その結果、二人同時に上げている最中で、お互いの顔が至近距離で向かい合う事になる。
そして・・・
三成は、至近距離で相手の顔を見て。
相手は、至近距離で三成の顔を見て。
二人は同時に驚きの声を上げた。
「「ちっ近いぞお前(貴様)!!」」
それが、三成にとってこの世界初めての女性との出会いだった。
続く。
後書き
今、書き終えて思った事。
今回、三成の事しか書いてねぇ・・・・orz
しかも序盤の夢の中とか、あんまり意味の無い話だったし・・・もう自分でも何してんのか分からんとです。
正直、今回の話は、ボツにしようかとも思ったのですが、何せ色んな時間を削って書いた力作なので、捨てるのには惜しいなぁ~~と思いながら投稿しました。
もし今回の作品に気に入らない点が御座いましたら、感想にてご指摘お願いします。
それが作者の小説製作の動力源となります!(あれ、これ前にも言った様な・・
ちなみに感想にて『完結してください!』との言葉がありましたので、不慮の事故やパソコンに異常が無い限り、完結を目標に頑張っていきたいと思います!
では、これからもどうか宜しくお願いします!
佐々木君より