糞 便 検 査




糞便検査は文字通り犬や猫の糞便や腸管内容物を用いて行う検査であり、一般的に動物病院ではワクチン接種の際や症状として下痢が続く時等に行う。
実際の動物病院で行なう糞便検査は色々な種類があるが、私たち動物看護研究同好会では寄生虫及び寄生虫卵の検査を主として行っている。
その為、ここでは特に顕微鏡学的検査の『直接塗抹法』と『飽和水浮遊法』について詳しく取り扱う。




★糞便検査の意義★
  糞便検査や尿検査は検査対象動物にあまり苦痛を与えずに行える検査であり、
  かつ重要な情報を得られる検査である。
  糞便検査は主に消化器系における消化吸収の状態寄生虫の有無出血の有無
  ある種の疾患に関する重要な情報等を得る事が出来る。



★便の採取★
  検査を行なうには糞便を採取しなければならないが、その方法は大まかに分けて2種類ある。

  ●自然排泄法
   動物が、路上やペットシートの上で自然に排便した糞便を採取する方法であり、
   その糞便を飼い主の方に持ってきてもらう必要がある。
   自然排泄の為、検査対象の動物に苦痛を与えずに行なえるが、後にも述べるように、
   保存の問題や異物混入(砂や石等)の問題がある。
  ●採便法
   直腸から直接糞便を採取する方法であり、動物病院内で行える為すぐ検査を行う事ができ、
   異物の混入の心配もない為、検査に適している。
   手袋をはめた指や、採便棒と呼ばれる棒を検査対象動物の肛門から直腸に直接入れて便を採取する。
   その他、直腸で体温を測った時に体温計に付着した便を用いる場合もある。




★検体の取り扱い方★
  糞便検査時の糞便、尿検査時の尿、血液検査時の血液等、その検査の検査対象物の事を検体という。
  検体は基本的に、すぐ検査を行なうのが原則である。時間が経つと正しい検査結果が得られない為である。
  すぐに検査を行なえない場合は保存する必要があり、基本的には冷蔵保存4℃)する。
  また、長時間保存を行ないたい場合は、10%ホルマリンを加えてよく混和すると良い。
  検体は重要なものであり、その検体に関する情報も同様に重要になってくる。
  検体の動物種、年齢、体重、採取方法、採取時間、保存方法等の情報は必ずメモしておくのが重要である。



★検査の種類★
  糞便検査の種類には、大きく分けて3つある。

  ●物理性状検査
   形・硬さ・臭気・色調・異物の混入等を人間が直接調べる検査。
   検査者の五感によって判断される為、主観的な検査となっている。
  ●化学的検査
   科学的検査としては、ビリルビン検査・ウロビリン体検査・潜血検査等がある。
   今回は科学的検査は行なわなかったので、ここでは取り扱わない事にする。
  ●顕微鏡学的検査
   顕微鏡を用いて行なう検査。
   糞便中の食物残渣(食餌が消化されてるかどうか)について調べたり、寄生虫・寄生虫卵の有無を調べたりする。
   動物看護研究同好会では、この検査を特に中心に行なっている。




★物理性状検査★
  検査者の五感を頼りに行なわれる、主観的な検査である。検査項目には以下のようなものがある。

  1.形と硬さ
   爪楊枝や割り箸を用いて、糞便の硬さや形を調べる。
   ●正常・・・掴める程度の固形便(〜形のある軟便)
   ●異常・・・水様〜タール状→下痢便等(大腸を急速に通過した便)。
          硬便→便秘便等(大腸に長く留まっていた便)。
  2.臭気
   便の臭いを嗅いで調べる。
   ●正常・・・多少の悪臭
   ●異常・・・腐敗臭→重度の腸炎等による下痢等。
          生臭い臭い→血便・パルボウイルス感染時等。
          酸味臭→消化不良・食事アレルギー時等。
  3.色調
   割り箸等で便を少しほぐし、便の内部の色を観察する。
   ●正常・・・淡褐色〜黄褐色(時間経過・採食食物により変化する)。
   ●異常・・・淡い黄色・黄緑色→重度の下痢等の場合に見られる。
          赤色・黒色→血便時に見られる。
          粘土状便→脂肪の吸収が悪い場合に見られる。
  4.異物の混入
   割り箸等で便をほぐし、異物の混入が無いかを調べる。
   ●正常・・・異物の混入無し
   ●異常・・・石・毛・ビニール・寄生虫体(回虫・条虫等)・寄生虫卵等が見られる。
   




★顕微鏡学的検査★
  顕微鏡学的検査とは、顕微鏡を用いて行う検査であり、鏡顕(きょうけん)と言う。
  検査を行う前にまず標本を作るが、標本の作り方は検査方法によって変わってくる。
  糞便検査の鏡顕には、食物残渣・細胞成分・寄生虫卵(寄生虫の卵)・原虫の栄養型及び
  嚢子(寄生虫の幼虫がつまった頑丈な袋状の物)の検査がある。
  動物看護研究同好会では、特に寄生虫寄生虫卵の検査を主として行っている為、
  今回はそれ以外の検査については取り扱わない。
  寄生虫・寄生虫卵の有無を調べる検査については直接塗沫法、飽和水浮遊法、ホルマリン・エーテル法等があるが、
  私達は糞便検査の際には直接塗沫法飽和水浮遊法をを行っている為、その2つについて紹介する。
  なお、顕微鏡の使い方については以前看護基礎班の発表会で取り扱ったので、そちらを参考に。→顕微鏡の使い方
 



★直接塗沫法★
  最も基本的な糞便検査の鏡顕の方法である。
  あらゆる発育状態の寄生虫(原虫のシスト・オーシスト・各種の虫卵・卵嚢・幼虫)を検出する為に行われる。
  直接塗沫法の標本作製及び検査方法は以下の通りである。

  1.スライドグラス上に生理食塩水を1滴滴下する。
  2.楊枝で糞便を少量(0.2gほど)とり、〔1.〕の上に乗せ、よく攪拌する。
  3.均一に攪拌したら、気泡が入らないようにカバーグラスを乗せる。
  4.鏡顕を行う。

  標本作製自体は簡単で慣れれば数分で出来るが、作製時にいくつかの注意点がある。
  まず、〔1.〕の時点で必ず生理食塩水を用いるという事である。
  生理食塩水とは動物の体内の塩分濃度に近づけて作られた食塩水の事で、普通の水とは違いこの食塩水の中では
  微生物や細胞等は比較的長生きできるものである。
  また、〔1.〕や〔2.〕で滴下する生理食塩水の量や糞便の量にも気をつけなければならない。
  生理食塩の量が多すぎると、細菌観察等の時に支障が出てしまう。
  糞便の量が多いとカバーグラスを乗せる際に気泡が出来てしまうのである。
  直接塗沫法の検査において重要な事は、この検査で用いる糞便は極少量なので、検出率は低いという事である。
  なので、この検査で完全に陰性寄生虫はいないとは言いきれないという事を覚えておかなければならない。



★飽和水浮遊法★
  飽和水とは、ある一定量の液体にある物質を解ける事の出来る限界量まで溶かした溶液の事である。
  飽和水浮遊法は集卵法と呼ばれる寄生虫卵を一箇所に集める検査の一つで、寄生虫卵の検出を目的としている。
  寄生虫卵より比重の高い溶液に糞便を溶かす事によって、寄生虫卵を浮かび上がらせるものである。
  今回用いる溶液は飽和食塩水比重1.2)だが、飽和食塩水よりも高比重の寄生虫卵を検出したい場合は
  飽和硝酸ナトリウム溶液(比重1.4)等を用いたりもする。
  飽和水浮遊法の標本作製及び検査方法は以下の通りである。

  1.試験管に飽和水と約2g程度の糞便を入れ、割り箸等でよく混和する。
  2.〔1.〕の試験管に飽和水を加えていき、試験管の口から液が表面張力で盛り上がるまで加える。
    液面が盛り上がるまで加えたら、静かに30分放置する。
  3.30分放置後、盛り上がっている液面にカバーグラスを付着させ、スライドグラスにのせる。
  4.鏡顕を行う。

  こちらも直接塗沫法同様手順は簡単だが、いくつか注意点がある。
  まず、用いる溶液は飽和食塩水であるという事。これは上で述べた通り、寄生虫卵を浮かび上がらせる為である。
  私たちの勉強会では、この飽和水浮遊法と上の直接塗沫法を同時進行で行なう為、液を間違える可能性がある為、
  気を付けなければならない。
  また、〔2.〕での静置時間は25〜30分という事も重要である。
  静置時間が短いと寄生虫卵がもしあったとしても、完全に浮かびきってない為、検出できない事があり、
  静置時間が長すぎる(45分〜)折角浮遊した寄生虫卵が再び沈んでしまうのである。



★検査の手順★
  ここで述べるのは、私たちの糞便検査の手順なので、正しい手順と言うわけではありません。

  1.各机ごとに1つ検体を配るので、まずは物理性状検査を行う。
  2.顕微鏡を用意し、飽和水浮遊法の標本を作製、静置の段階まで行なう。
  3.直接塗沫法の標本作製及び鏡顕を行う(静置している間に)。
  4.静置後30分経ったら飽和水浮遊法の鏡顕を行なう。
  5.検査結果を記入する。
  6.顕微鏡を片付け、検査を行なった台と手指の消毒を行なう。

  私たちのサークルではこのように糞便検査を行なう。
  以上が我がサークルにおける糞便検査である。