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[ICON]田中宇の国際ニュース解説

劉暁波ノーベル授賞と中国政治改革のゆくえ

田中宇

提供:田中宇の国際ニュース解説

 その深センで8月21日に温家宝が放った前述の演説は、政治改革の必要性を明確に指摘する、画期的な内容だった。温家宝は演説で「(欧米式でなく)中国式の民主化を進めねばならない。社会主義体制を自浄的に改善していく政治システムの構築が必要だ」とも述べ、共産党の一党独裁体制を維持しつつ政治改革を進める方針を示した。ノーベル授賞した劉暁波が「一党独裁の体制を壊さないと、中国の政治は良くならない」と考えたのと対照的に、温家宝は「一党独裁を維持しつつ、中国の政治を良くする」と提唱した。
Political stasis is China's Achilles heel

 中国のマスコミは、8月21日の温家宝の深セン演説について、ほとんど報じなかった。中国では、首相の言論の自由すら制限されていた。温家宝は、欧米流の民主化を敵視する党内保守派に気を使って「中国式の政治改革」を説いたが、それでも党上層部全体の同意を得られなかった。「中国では、首相より共産党宣伝部の方が、はるかに権力を持っている」と、米国の新聞から揶揄された。

 10月15日から共産党の中央委員会が開かれるのに合わせ、10月に入って、政治改革の要求が党内から出てきた。温家宝は10月3日、CNNのインタビューで「私を含むすべての中国人は、民主主義や自由を抑えがたいほど強く求めている。中国は、ゆっくりだが持続的に(政治改革を)前進させていくだろう」と述べた。
China to carry out political reforms within Constitution: Wen

 10月8日の劉暁波ノーベル授賞の発表をはさんで、10月13日には、すでに定年した人民日報と新華社の元編集局長ら、リベラル派の高齢の共産党幹部23人が、党中央に対し、言論の自由を認めていくことを求めた公開書簡を発表した。これは劉暁波授賞の影響を受けて発表されたかのように報じられているが、この書簡が作成署名されたのは10月1日で、劉暁波授賞より前だ。むしろ、今春来の温家宝の政治改革提案を支持する党内リベラル派が、10月15日の党中央委員会に合わせて発表した感じだ。23人は以前から政治改革を求めており、高齢であるがゆえに処罰されず黙認されてきた。党中央が黙認するぐらいだから、書簡の影響力は弱いと考えられている。
Chinese Elders Blast Censorship

 胡錦涛政権の任期は2012年までで、その後は習近平が主席になって政権をとると予測されている。胡錦涛政権は慎重さを優先する傾向が強い上、天安門事件後の政争を生き抜いた世代なので政治改革に消極的で、しかも任期があと2年しかない。その間に政治改革を大胆に進めるとは考えにくい。今年に入って温家宝が政治改革についてさかんに語ったのは、現政権での改革を企てたものではなく、12年に次政権ができるときに政治リベラル派を多く政権中枢に送り込み、習近平の政権下で政治改革を進めていこうとするリベラル派の長期戦略と考えられる。
China's Democratic Conversation

 今年、首相の温家宝が政治改革の提案を連発したのに対し、上司にあたる主席の胡錦涛は沈黙している。これは、胡錦涛が、温家宝らリベラル派を支持していないことを示すと解説する分析者もいるが、胡錦涛もまた胡耀邦に育てられた指導者で、05年ごろには、今年の温家宝がやったような、胡耀邦を礼賛するそぶりを何度も見せていた。私はむしろ、胡錦涛と温家宝は役割分担をしており、温家宝がリスクをとって政治改革を提唱する一方で、胡錦涛は温家宝が保守派との政争に敗れて権力を喪失した場合、その後も権力を維持し、次世代の政争に備える役割だと考える。上司の黙認のもと、部下がリスクをとることで、上司に傷がつかないようにしているとも言える。これは、北朝鮮で、張成沢が経済改革を提唱しつつ権力を拡大した一方、金正日はそれを黙認しつつ保守派で反改革派の軍を支持し続けているのと同様の権力構造である。

 中国共産党内では、政治改革をめぐる政治闘争が続いている。8月には軍のリベラル派将校が「今年中に政治改革を始めざるを得ないだろう」と発言している。そんな闘争下で発表された劉暁波に対するノーベル授賞は、党内保守派に「政治改革は共産党体制を維持しつつやったとしても、中国を崩壊させようとする欧米勢力に付け入るすきを与え、中国にとってマイナスだ」という反論を強めさせることにつながりかねない。政治改革をめぐる党内闘争がこうじると、89年の天安門事件の再来にもなりかねない。
General and scholar test reform waters

 これらの困難さはありつつも、2012年ぐらいまでには米英覇権の失墜が今よりもっと進み、中国が政治改革を進めても、米英に付け入られない状況になる可能性が高い。中国が政治改革を成功させると、中国は今よりさらに強化される。日本では「政治改革を進めたら中国は混乱し、崩壊する。だから中国に民主化を求めて圧力をかけ続けるのがよい」と楽観視する傾向が強いが、米英覇権が衰退する一方で、中国が政治改革を成功させたら、対米従属一辺倒の日本は、今よりさらに困った立場に追い込まれる。日本は、米英覇権の行方とともに、中国の動向をよく観察し、早めに対策を立てた方がよい。少なくとも、小沢一郎の復権が必要だろう。
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田中宇の国際ニュース解説

田中宇

共同通信社、MSNを経て有限会社田中ニュース代表取締役を勤める。報道スタイルは世界中の新聞などを読み、照合・分析して解説を加えるという独特の記事で構成されている。

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