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[ICON]田中宇の国際ニュース解説

劉暁波ノーベル授賞と中国政治改革のゆくえ

田中宇

提供:田中宇の国際ニュース解説

 しかし現実を広く見ると、中国が独裁なのは、政治の自由化を慎重にやらないと自由化が国家分裂につながりかねないからだ。そして、米英や日本には、口では中国を良い国にするためにと言いつつ、実は中国を国家分裂させて弱体化したいという隠れた意図を持って、中国に民主化を求める勢力がいる。

 台頭する中国の近傍で脅威を感じる日本の上層部が「中国は崩壊した方が良い」と思って劉暁波の受賞に喝采したり、万歳三唱的な号外を配ったりしたのは当然だ。しかし同時に、中国側が「欧米日が中国の民主化を求めるのは、中国を崩壊させたいからだ」と思うのも当然だ。これは「善悪」を装った国際政治の戦いである。

 劉暁波らが構想した08憲章は、中国を共産党独裁から多党制の民主主義に転換するとともに、今は共産党の軍隊となっている人民解放軍を国家の軍隊に衣替えし、チベットやウイグルなどに大幅な自治ないし独立を容認して中国を連邦制に転換することを主張している。今もし中国がこれらの転換を実施したら、ここぞとばかりに米英の軍産複合体が中国内部やチベットなどに諜報的な策略をしかけ、政治的分裂や国家崩壊を誘発するだろう。中国が崩壊したら、世界の多極化を阻止でき、軍産英複合体が支配する米英覇権体制を維持できるからだ。
08憲章 = 中華連邦共和国憲法要綱

 日本は、中国より国土がずっと小さく、しかも江戸時代に260年間の幕藩体制が維持されたため、全国的な国家制度や、国民的な統合の前段階としての人々の均一性が、明治以前にある程度醸成されていた。だから日本は、明治維新後すぐに富国強兵政策をやれたし、短期間に民主主義を導入できた。日本は、政治体制が安定しているので、言論統制や世論誘導の仕掛けも入念に作れ、隠然とやるだけで大きな効果がある(日本人はもっと徳川家康に感謝すべき。右翼は、靖国より日光や静岡に行くべきだ)。

 日本と対照的に中国は、国土が広大で地域間の差違が大きく、強権を使わないと国家の統一を維持できない。地方勢力は、常に中央に対して面従腹背だ。中国が弱体化すると、チベットやウイグル、台湾などは、分離独立した状態で安定しうるが、中国中心部の漢民族の地域は、分割されると相互に統一欲を持って内戦になりかねない。漢民族全体のアイデンティティがあるので、地域ごとに分裂しようとする政治力学と、漢民族全体を統合しようとする政治力学の両方が存在するからだ。中国は、少なくとも漢民族の地域が統一国家になっていないと安定した国家になれない。そのため、強い中央集権が必要となる。

 日本の260年間の幕藩体制のように安定した国家統合状態が長く続けば、中国でも強権は必要なくなり、民主主義が導入しやすくなるが、中国でその手の安定が得られたのはトウ小平の改革開放以来の30年であり、しかもその間にも天安門事件の政治反乱があり、政治の自由化を進めにくい状況だった。

 劉暁波は天安門事件の時、学生と政府との交渉を主導した学生側の一人だった。経済自由化が10年間行われた後の1989年に起きた天安門事件は、自由化の過程で経済を私物化した共産党の役人たちの腐敗に人々が怒り、その怒りを学生が集約して運動にすることで発生した。劉暁波らが08憲章で、共産党独裁をやめて多党制に移行すべきだと主張したのは、共産党独裁をやめない限り中国の役人腐敗はなくならないと考えた結果だろう。しかし、共産党独裁をやめて多党制にしたら、本当に腐敗がなくなるかどうか、やってみたことがないので誰にもわからない。自由な政党政治を許すと、地方ごとに地縁血縁を重視する政党ができ、地方豪族的な勢力が群雄割拠し、アフガニスタン的になってむしろ腐敗がひどくなる感じもする。

 近代の中国で大きな勢力は共産党と国民党(現台湾政府)だが、いずれも党が政府や軍隊を支配し「国家」という容器の中に「党」という容器が入っている重箱型の権力構造だ。共産党も国民党も社会主義政党である。アヘン戦争以来100年続いた混乱期に、多様で分裂し、貧農が圧倒的多数だった中国を手っ取り早く国家統一するには、秘密結社の党が独裁的に国家を支配する二重構造がやりやすかった。

 世界の多くの国が、国民を国家に統合するための独自の仕組みを持っている。社会主義とか立憲君主制などである。日本は天皇制を持っている。それら各国の仕組みを破壊しようとする者は、直接的・間接的に攻撃される。日本で天皇制打倒を主張する言論家にノーベル平和賞が与えられることになったら、日本の世論やマスコミはどう反応するだろうか。マスコミはできるだけ報道せず、野党は「ノルウェーと国交を断絶しろ」と叫ぶかもしれない。こうした反応を中国流に変換したものが、劉暁波の授賞に対する中国の反応である。現実には、日本が米英に忠誠を誓う限り、天皇制打倒論者にノーベル平和賞が与えられることはない。

 劉暁波らの08憲章は、もはや中国も経済成長を経て豊かになり、人々の生活も安定して分別がついてきたので、そろそろ二重構造を卒業して、国家と国民が直結する国民国家制度に転換しても大丈夫だという提案と考えられる。たしかに、中国はそろそろ国民国家体制に転換できるかもしれない(権力にしがみつき、多党制への転換に反対する意見が共産党の上層部に多いので、多党化は難しい)。しかしその前に、すきあらば中国を潰そうとする米英中心主義の勢力(軍産英複合体)がドル崩壊などによって弱まり、覇権の多極化がある程度進まないと、民主化は途中で大混乱に陥って失敗する。劉暁波らの08憲章は、中国民主化の前に世界多極化が必要だという現実的な順番と関係なく発表されている。

 劉暁波は、中国の民主化は急いで進めると失敗するのでゆっくり進めるべきと主張してきた。中国と世界の変化の現実に合わせてゆっくり進めるなら、多極化の進展と中国の民主化の速度が合致するかもしれない。米国などに亡命した中国人民主活動家の中には、民主化をゆっくりやるべきだという劉暁波を批判する者が多い。亡命人士の中には、軍産複合体系の研究機関などから活動資金をもらっている者が多い。そのような傀儡系の人々が、性急な中国の民主化を求め、劉暁波を批判している。
Liu Xiaobo points way to gradual PRC reform

 劉暁波は、共産党当局に危険人物と見なされた後、海外(豪州)に短期留学を許されている。その時に劉暁波が亡命申請すれば、当局は彼をやっかい払いできた。だが劉暁波は、外国の傀儡になりたくないので中国に帰るといって帰国し、中国国内で獄中や当局監視下の生活を送る道を選んだ。劉暁波は、傀儡群と一線を画す生き方をしてきたわけだが、共産党独裁をやめるべきだと主張する彼の思想は、中国を崩壊させようとする欧米の勢力の道具に使われやすい。今回のノーベル授賞もその一つだ。
Beijing should let sleeping Nobel dogs lie

▼党内で政治改革を提唱する温家宝との対比

 劉暁波の政治運動は、共産党の外部(党外)で行われている。劉暁波は、中国を多党制に転換していくために、自分が党外で言論活動をする必要があると考えているようだ。中国国内には、党の了解を得ないで言論活動できる場所がほとんどない。劉暁波は、香港や在外のメディアやネット上で言論活動をしてきた。
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田中宇の国際ニュース解説

田中宇

共同通信社、MSNを経て有限会社田中ニュース代表取締役を勤める。報道スタイルは世界中の新聞などを読み、照合・分析して解説を加えるという独特の記事で構成されている。

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