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[ICON]田中宇の国際ニュース解説

劉暁波ノーベル授賞と中国政治改革のゆくえ

田中宇

提供:田中宇の国際ニュース解説

この記事は「世界システムの転換と中国」の続きです。

 10月8日、ノーベル平和賞が、中国の反体制活動家の劉暁波氏に授与されることになった。この件を知って私がまず思ったことは、タイミングの悪さだ。劉暁波は08年末、共産党の一党独裁をやめて多党制に移行すべきだと主張する「08憲章」の立案を主導したため中国政府に逮捕されて有罪になった。今回のノーベル平和賞は、08憲章に代表される劉の中国民主化をめざす運動に対して与えられている。

 08憲章の発表後、劉に対する授賞は昨年も取り沙汰された。だが結局、オバマ米大統領が授賞している。劉への授賞が今年でなく昨年だったら、授賞による影響は、欧米(特に米英中心主義の勢力)にとって、まだましなものになったかもしれない。中国は当時まだ、国際社会における政治力が今より弱く、欧米に反撃するより低姿勢でやりすごそうとする傾向が強かった。

 しかしここ1年、中国の国際政治力は急拡大した。ドルの崩壊感が強まる中、中国の出方が国際基軸通貨制度の今後を決定する事態となっている。人民元が対ドル為替の切り上げを決めたら、ドルの崩壊感が強まるだろう。欧米の対イラン制裁は中国の協力なしには進まないし、北朝鮮も中国の傘下に入った。
Currency wars are necessary if all else fails

 中国は今のところ、米英中心の世界体制を積極的に壊そうとしていない。だが、劉暁波へのノーベル授賞は中国政府の面子を真正面から潰すものだ。中国は、自国の外貨備蓄に損失が出ても、ドルを崩壊させて米国の覇権を潰した方が自国の国益にかなうと考える傾向を強めていきそうだ。中国は目立たないやり方で外交的な策略をやる。中国政府が希土類の対日輸出を止めていないと言っているのに、対日輸出が止まっているのが象徴的だ。中国は米国に対し、目立たない形で報復を強めるだろう。

▼中国が米国を押し倒せる状況下で屈辱を与える

 11月からG20の議長国となるフランスのサルコジ大統領は、中国に対し、EUと中国が組み、IMFのSDR(特別引出権)を活用してドルに代わる基軸通貨体制を作ろうと提案している。
France woos China over currency talks

 米連銀が、ドルや米国債の過剰発行に拍車をかける量的緩和を11月から再開する見通しが強まり、ドルは自滅の道に入っている。米連銀では、インフレの目標値を従来の2%から4%に引き上げる構想まで取り沙汰されている。人為的にインフレを作り出すことによって、リーマンショック後に増えている米国民の預金を吐き出させ、消費に回させて経済をテコ入れしようという政策らしいが、これは米国が世界の投資家に「どうかドルを見捨ててくださいね」と言って回っているようなものだ。日本など対米従属諸国がいくらドル高誘導の為替介入をやっても、うまくいくはずがない。
Downside Risk For Stocks Is Nearing Its Highest Level In A Year

 このような状況下で、米国は中国の面子を潰す劉暁波へのノーベル授賞を演出し、EUは中国に「ドル(米国覇権)を見捨てて新しい国際基軸通貨制度を作りましょうよ」と誘っている。米国は、劉暁波へのノーベル授賞によって、中国を怒らせ、米国覇権を壊そうという気にさせ、それと同期してドルを弱い立場に置いて中国が少し押すだけでドルが崩壊する状態にして、米英覇権を壊し、世界を多極化しようとしているように感じられる。

 自分の国の監獄に入れられている人にノーベル平和賞が与えられたのは、今回で史上3人目だ。劉暁波より前の2人は、ドイツのナチス政権に反対して投獄され、1935年に受賞した政治活動家のカール・フォン・オシエツキーと、1991年に受賞したミャンマーの野党政治家アウンサン・スー・チーである。つまりノーベル賞委員会は中国に「おまえらは、ナチスやミャンマーのような極悪と一緒だよ」と宣言したのである。これは「悪の枢軸」に入れられたようなもので、自国が米国と並ぶ大国であると認識し始めている中国の上層部にとって、大きな屈辱だ。中国敵視が多い台湾独立派の新聞タイペイタイムスでさえ「中国をはずかしめるべきでない」という趣旨の記事を出した。
EDITORIAL : Reforming, not shaming China

 対照的に米国勢は、中国に「ざまあみろ」を連発している。中国人がノーベル賞をとったのは、全部門を通じて今回が初めてだ。ウォールストリート・ジャーナルは「大国ぶりたい中国は、ノーベル賞を一つもとれないのでイライラしていたが、今回ようやく受賞することができた」と、中国を冷やかす記事を出している。
Peace Prize to Liu Xiaobo will one day be a source of national pride

 ノーベル平和賞は昔から政治的な存在だ。反ナチス運動家への1935年の授賞は、第一次大戦の破壊から立ち直って再台頭しそうなドイツを悪者に転じさせる英国の謀略だったと考えられる。逆に1940年代には、英国に楯突いてインドの独立運動を率いたマハトマ・ガンジーが5回もノーベル平和賞の候補となり、英国がノーベル委員会などに圧力をかけまくって5回とも阻止している。昔からノーベル平和賞をめぐって、英国覇権(今の米英覇権)を維持しようとする勢力と、それを崩壊させて途上諸国を台頭させようとする多極化勢力との暗闘があったようだ。
Nobel Committee faces down the dragon

▼善悪を装った国際政治の戦い

「中国は、一党独裁体制をとって言論の自由を封殺する極悪非道なことをしている。劉暁波のノーベル受賞に怒る中国の方が間違っている」という考え方が、日米のマスコミなどにあふれている。近代欧米の「善悪」観で二元論的に言うと、たしかに中国は「悪」だ。また中国共産党の幹部の中には私腹を肥やすことを最優先にしている連中が多く、彼らの存在は「悪」そのものである。
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田中宇の国際ニュース解説

田中宇

共同通信社、MSNを経て有限会社田中ニュース代表取締役を勤める。報道スタイルは世界中の新聞などを読み、照合・分析して解説を加えるという独特の記事で構成されている。

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