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【講義の概要】

第1回:【環境民俗学とは】
第2回:【自然・環境をめぐる思想史】
第3回:【環境問題の捉え方】
第4回:【環境プラグマティズムと環境学】
第5回:【環境利用システムとコモンズ論】
第6回:【環境問題と社会的ジレンマ論】
第7回:【生業・生活をめぐるリスク回避論】
第8回:【生活世界とマイナー・サブシステンス論】
第9回:【小テスト】

第10回:【農村における社会集団とその労働】
第11回:【漁村における社会集団とその労働】
第12回:【都市における社会集団とその労働】
第13回:【山村における社会集団とその労働】
第14回:【社会をより複眼的にみるために】

第15回:【最終テスト】

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【第1回】:「環境民俗学とは」


【キーワード】:民俗学 / 環境民俗学 / 伝統と現在 / 生業論


■さまざまな「民俗学」
     
→柳田國男、坪井洋文、福田アジオ、宮本常一、篠原徹、鳥越皓之
     →「民衆がどう感じ、どう思うということから発想する」(宮田登)

■二つの方法論
     →微視的地域志向と巨視的地域志向(櫻井徳太郎1987)
       @世代的継承、 A聞き取りによる、B口承による、C経験・実証的なもの
       D伝承範囲が限定的、E一見無体系・無秩序なもの

■生業・労働研究の現状
     ・「民俗学は落日のなかにある」(山折哲雄1995)
     ・生業論:生業を中心的な課題、あるいは素材とした研究
     ・とくに民俗学のなかでも生業や労働研究
        →学問の取り扱うべき対象の変貌
        →分析する視角と方法論の欠如
        →最終的な到達点の不明確性 などの問題である。

■柳田國男にとっての生業と労働論
     ・柳田國男による民俗資料の三分類
        「有形文化(生活外形)」「言語芸術(生活解説)」「俗語(生活意識)」
          →モノからの生業論
  
     ・生業論からみた柳田の問題点
       →心意伝承に重きを置く
       →経済的な側面の軽視
       →実践的な課題を取り扱う視点の欠如

■柳田以降の生業・労働研究の課題
     ・「現在へとほとんど還元されなかったことが問題なのである」(千葉徳爾1966)
   ・「歴史的な叙述」が生業の研究に不可欠なものとして扱われている。
   ・伝承:「伝え、引き渡す行為を示すと同時に伝えられた人間を教化し拘束する力、
        そのことから派生し伝え受けるという行為」(川田順造1993)


■民俗学における「環境」研究
   ・「自然環境」は地域の概観を示す補足資料のひとつ(〜90年代の自治体誌)
   ・「生活環境」を知るための「自然環境の変化」

■現代の生業と労働論
  ・人と自然とを取り結ぶあり方=生業と労働を中心とした課題
    →「生態民俗学」「民俗自然誌」「環境民俗学」

   「生態民俗学」:野本寛一1987
     *◎日本各地の生業活動を詳細に記載=文化のドキュメンテーター
     *▲歴史的な関心により、方法論的な検証なしに起源論を展開

   「民俗自然誌」:篠原徹1990、1995
     *自然誌(動植物の生活の科学的な記述)+民俗誌(人びとの生活総体の記述)
     *イーミックな視点の強調、歴史還元主義の批判

   「環境民俗学」:鳥越皓之1989、1984
     *「人の手の加わった自然」を対象とし、住居者の生活の問題を解決する。
     *「生活者の内在的な論理を抽出する」という立場が明確→生活環境主義
     *人びとの生活をアプリオリに共生的と判断する可能性がある。

■環境民俗学とは
   「人びとがどのように生きているのかを問い、
             これからどのように生きていくのかを考える学問」
        →生態人類学(人類生態学)、環境社会学、環境経済学
     *現代社会からの問題発見
     *将来にむかう生活実践の見直し
     *生業がもつ社会経済的な背景への注目



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【第2回】:「自然・環境をめぐる思想史」

【キーワード】:人間中心主義 / ディープエコロジー / 世代間倫理 / 環境的正義


■「人間中心主義」を越えて
  *Preservation、Conservation から Environmentalism へ

  *保全:「人間が適切に管理しながら、賢明に利用」
  *保存:「人間の活動をも規制し、保護する」

  (問い)

自然(=地域生態系)を守る行為が、人間のためにならないときでも、自然を守るべきか?



■思想家・活動家
   「保全」派:ピンチョ:「最大多数の最長期間の最大幸福」
   「保存」派:ジョン・ミューア:「自然物も神的な霊の塊」

■「自然物の当事者適格」・「ディープエコロジー」・「動物解放論」(1970年以降)
   「自然物の当事者適格」:C・ストーン
      →自然(自然物、動植物)そのものに法的な権利はあるか
      →人間側の関心の濃淡によって、自然に線引きをしてしまうのでは?
        Ex)アマミノクロウサギ裁判  

   「動物解放論」:P・シンガー
      →苦痛を感じる可能性のある動物も平等に扱う。
         植物は?

   「ディープ・エコロジー」:A・ネス

      →自然中心主義、とくに自己の精神改革も含む思想
      →対抗理論の欠点

■アメリカと日本での「自然」
    「アメリカ」:訴訟の対象となる自然は、必ずしも人間の生活とはかかわりない形で重視
    「日本」:人間と自然との関わりのなかに自然がある。

     Ex)「もののけ姫」:サンとアシタカの言葉

■環境倫理学からの主張(加藤尚武1992)

     @生物の生存権、A将来に対する責任(世代間倫理)、B地球全体主義

■最近の流れ
    「生命地域主義」(Bioregionalism)
       →生態系と人間の意識の領域(流域など)を単位に住み直す思想。
     
    「環境的正義」(environmental justice)
       →大多数のパターナリズムに基づく決定を排除する。

    「エコフェミニズム」

      →人間の抑圧(男性による女性支配)を取り除けば、他の抑圧もなくなるのではないか。



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【第3回】:「環境問題の捉え方」

【キーワード】公害開発問題期 / 環境問題 /加害・被害論 / 生活環境主義


■環境問題の歴史的段階

   「公害・開発問題期」:戦後復興期から高度経済成長を経て、1980年代前半まで
  
   「環境問題の普遍化期」:1980年代後半の時期、地球環境問題の登場

■環境問題とは
   @自然破壊→森林破壊、生態系の破壊、気候の変動
   A環境汚染→大気破壊、水俣病、水質汚濁
   Bアメニティーの破壊→町並み保存、新幹線公害

      →不可逆性、社会的・生物的弱者、世代間公平性を欠く

■そもそも「環境」とは
   ・文化的意味を帯びた自然及び物的条件
   ・原生的な自然環境、人為的に作られた建築物、室内の空間
   ・人為的介入によって加工・変形された自然環境

     →大気、海洋、土壌、動植物

■「公害・開発問題発生期」
   @産業公害、A交通公害、B薬害、食品公害、C自然保護問題

     →地域開発優先政策、公害防止制度の立ち遅れ、研究の遅れ

■「環境問題の普遍化期」
   1980年以降の時期、地球環境問題の誕生

■環境問題普遍化期における対応
   *気候変動枠組み条約(1992年)、
   *環境基本法(1993年)、
   *容器包装リサイクル法(1995年)、
   *環境アセスメント法(1997年)

■環境問題に対する理論的な潮流
     「被害構造論」、「受益圏・受苦圏論」、「生活環境主義」、「社会的リンク論」



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【第4回】:「環境プラグマティズムと環境学」


【キーワード】:プラグマティズム / 環境問題 / 人間社会と生物資源 / 移入生物


■環境プラグマティズムとは

【立場】:現前の環境問題、現実問題を生活の現場から問いなおす
【手段】:人文学・理工学の手段を多角的に活用
【方向性】:解決に向けた選択肢の提示、環境政策の形成に貢献


■例えば「民俗学」や「環境社会学」では、
   「(民俗学は)現代科学の一つにしなければならぬ」柳田國男1965
   「私たちの学問が実用の僕となることを恥としてはいない」柳田國男1965
   「環境問題解決のための方向性の提示」飯島伸子1999

■環境プラグマティズム(Environmental Pragmatism)という言葉
  ・環境倫理学が提示
     →倫理学が環境政策の形成に対してどのような実際的な効果があったのか
     →問題志向型(Problem-oriented)

    「事例そのものの詳細な吟味と、そこからの一般的を目指す」
    「持続可能な慣習と制度を持った複合世代社会の形成」

■環境問題への対応

  ・環境民俗学や環境社会学の研究
  *伝統社会・地域の生活のなかから環境問題の解決策を見つけ出す
  *伝承や慣行をもって開発や政策の規制を主張(民俗学者の一部)

  →伝統的な生活や技術を容易に賛美する危険性
  →地域や生活者という言葉の曖昧さ
  →特定の選び取った場所だけを保全の対象に
  →特定の場所が環境保全的であると暗黙のうちに認めてしまう可能性


■環境プラグマティズムの視点
    
      報告:「移入生物は資源か?」
          【Are  non-indigenous  species resources?

    
    対象地域:滋賀県琵琶湖・有害外来魚駆除政策の事例から


        →小テスト提出

      *生物多様性の理念と生業の論理
      *ワカサギも資源か?
      *自然再生と順応的管理



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【中間テスト】

 【問題提起】


 
地域生態系(=自然)を守る行為が、
        地域の伝統的な生業活動を損なう場合でも、
           自然を守るべきか?



 【キーワード】 ふたつ
  
  生物多様性の理念、自然再生、生業活動、自然環境主義、近代技術主義
  
  世代間倫理、地球全体主義、保全生態学、移入生物、地域生態系




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【第5回】:「環境利用システムとコモンズ論」

【キーワード】:コモンズ論 / 所有権 / 共同管理 / 入会・共同漁業権漁場


■所有制度の類型
  
  *非所有制度:すべての個人や団体によって利用が可能。排他的権限がない。
             →オープンアクセスの悲劇

  *公的所有制度:資源の所有権は国や地方自治体にあり、管理も公的機関が行う。
             →フリーライダーの問題、政府の失敗

  *共的所有制度:特定のメンバーによって管理されている。入会や共同漁業権漁場など
             →フリーライダーの問題

  *私的所有制度:資源の所有は個人にあり、利用・収益・処分ができる。
             →エンクロージャーの悲劇

■管理や利用への着目
  *所有権:財産を利用し、そこから収益を獲得し、その財産自体を処分できる権利。

  *管理:自己や他人の財産を管理する
      →管理のあり方は、所有のあり方と独立している場合もある。
      →中国の場合:土地や森林の所有権→国家、利用権や用益権:人民


■「コモンズ」とは
 
   *「自然資源の共同管理制度、共同管理の対象である資源そのもの」
   *コモンズという言葉
       →「みんなのもの」共有資源:放牧地、湖沼、入会地、漁業資源
       →人と人を規定する所有制度:入会権、共同漁業権

   *レベル別
      →ローカルコモンズ:地域社会レベルで成立するコモンズ
      →グローバルコモンズ:地球レベルで成立するコモンズ
   *規制別
      →タイトなコモンズ:集団内である規律が定められ、明示的な義務がある
      →ルーズなコモンズ:利用は比較的自由
   *オープンアクセスの悲劇は・・・。
      グローバルで、なおかつルーズなコモンズで悲劇が起こる可能性がある。

■資源の持続的な利用
   *偶然的な持続的利用→無意識的な行為が結果として持続的な利用につながっている。
   *副産的な持続的利用→別の目的をもった行為が結果として持続的利用につながっている。
   *意識的な持続的利用→持続的な利用を目的とした利用

■オスロームが提示する資源の持続的利用の条件
   *コモンズの境界・領域が明らかであること
   *監視・観察の必要性(モニタリング)
   *コモンズを組織する権利が保たれている

■日本の事例→入会地や共同漁業権漁場

   入会林野:一定の地域に住む人びとが共同で利用し管理している林野
   入会権の特徴
     @入会権の内容は各地方の慣習に従う、
     A入会権は一定の集落に住むものがもつ権利
     B入会権は世帯がもつ、
     C入会権は相続されない
     D入会権は他人に譲ることができない


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【第6回】:『環境問題と社会的ジレンマ論』

【キーワード】:社会的ジレンマ論 / 自己回帰性 / 共同集合財 / 琵琶湖石けん運動


■環境問題の現代的な特徴

 *公害・開発問題期(戦後〜1985年)
     →戦後復興期、高度経済成長期、低成長期
 *環境問題の普遍化期(1986年〜)
     →「公害対策基本法」→「環境基本法」
 *環境問題の現代的内容
     →オゾン層の破壊、森林伐採、野生生物の減少、発展途上国の公害

 *環境問題の現代的な特徴
     →発生原因の拡散性
     →自覚の困難性
     →自己回帰性

■二つの「地域」環境問題と社会的ジレンマ論
 
  *【産業公害型】と【生活迷惑型】
  *「共有地の悲劇
     →「誰でも自由に利用できる(オープンアクセス)状態にある共有資源が、管理が上手くいかないために、過剰に摂取され、資源の劣化が起こること」

■社会的ジレンマの定義と特徴
    *複数の行為主体
    *相互規制なく
    *私的に合理的に行為
    *集合財の悪化
                    →『集合財をめぐる合理性の背理』

■集合財とは
  *集合財:「非排除性」と「競合性」
  *共有資源:共有牧草地、森林、水産資源:再生能力:枯渇
  *共有環境:大気、海洋:浄化能力:汚染
  *共有施設:道路、公園、堤防:施設容量:混雑

☆ケーススタディー:「琵琶湖石けん運動」
  *【問題点】
     @合成洗剤に含まれる界面活性剤が健康被害
     Aリン分が琵琶湖に流入し、赤潮等を発生させ、富栄養化
  *【到達点】
    1980年『滋賀県琵琶湖の富栄養化防止に関する条例』の施行

■琵琶湖石けん運動の教訓

  →社会的ジレンマの克服はいかに
   *身近な問題なので動機付けしやすい
   *受益圏と受苦圏が重なっていること
   *市場メカニズムによる競争圧からの自由
   *環境悪化のメカニズムが比較的単純



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【第7回】:『市場経済の浸透とリスク回避論』

【キーワード】:リスク回避論 / 市場経済の浸透 / 多種・多品種栽培 / 生業の持続性


■「環境問題」をめぐる動向
  *地球サミット:「森林は発展途上国が主権を持つ資源だ」との声
  *地球温暖化会議:「温暖化によって島嶼国は危機である」との声
  *先進国での環境思想:環境にやさしい、自然の戻る

■発展途上国の環境と環境破壊
  *国際的な開発体制 → 多国籍企業の存在
  *土地所有/利用の制度 → 国家政策や商業伐採
  *日本の影響 → 「木材価格安定緊急対策」

■市場経済の浸透を迎える地域をどのように捉えるか
  *リスク回避とは、
   ・在地の人びとの「危険の最小化」への志向
   ・社会及び成員によって具現化される
   ・単位社会におけるリスク観の共有

  *「利益の最大化」<「危険の最小化」(JC.Scott,1976)
    →リスキーな大当たりより、失敗を避ける

  *「農民個人の経済的な利益の最大化にこそ関心がある」(S.Popkin,1979)
    →利益の最大化こそ関心がある。

  *市場経済の浸透をどのように捉えるか?
    →経済原理だけで読みとるのではない。

■リスク回避へのアプローチ
  *処方的リスク研究:リスク予見のための確率論を採用し、効率的な管理を目指す。
  *記述的リスク研究:リスクの経験的知識に着目し、様態理解を目指す。

     →閉じられた社会の、生態的な要素を対象としすぎ

■検討すべき「リスク回避」
  *地域共同社会(community)の動向
     →社会的規制(rule)、社会的規範(sense value)、社会的道徳(moral)

■【自然災害や市場の変動を回避】
  *複合生業論(狩猟、採集、農耕、飼育、漁撈を複数)
  *多品種・多種栽培、多角経営
  *資源の多様性に連関した方法

    Ex)中国海南島五指山市初保村における複合生業論

生産低減型】:資源の量的限界からもたらされる脅威に対する在地リスク回避

  *自然と社会との均衡した関係の崩壊
     →単純に生産を続け、資源利用を放棄するやり方
     →自然利用を低減させ、生産量を抑制するやり方

    Ex)千葉県安房郡白浜町の海女漁、京都府舞鶴市野原地区の磯見漁

人間関係調整型】:人間と人間の関係に生じる脅威に対するリスク回避

  *日本の「入会」の事例:資源分配の公正性
    →自然へのアクセス制限
    →社会の持続性の持続

    Ex)解放前の中国海南島リー族の合畝制



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【第8回】:『生活世界とマイナーサブシステンス論』

【キーワード】:労働と楽しみの連続性 / 身体性 / 技術と技能 / 生業の持続性


■労働のなかでのマイナー・サブシステンス論(Minor subsistence)

 *マイナーサブシステンスとは
 
 『いつも集団にとって最重要とされている生業(労働)活動の陰にありながら、
       それでもなお脈々と受け継がれている副次的ですらないような活動』

 
 『消滅したところで、その集団にとっても、当の生計を共にする単位世帯にとっても、
    たいした経済的影響を及ぼさないにもかかわらず、意外なほど情熱的に継承されている。』

 *従来の仕事・労働論の限界
    →自家消費的・小規模個人的・低生産的な生業になぜこだわるのか?
    →農耕民が行う採集や漁撈:従来、娯楽の色彩の強い生産活動として記載

 *@中心的生業 / A副次的生業 / Bマイナーサブシステンス
    →@A:現金収入の差異、摂取エネルギー量の差異という経済性や生産性
    →@A:客観的な判断での区分が可能
    →B:経済的尺度に還元でいない。

■マイナーサブシステンス論の定義
   @経済性がないわけではない大きくない。
   A捕獲から消費までが直接的につながっている
   B自然性を備えた活動
   C道具の未発達性、個人差が大きい
   D資源の分散性が大きい。


■技術と技能との関係性
   *メジャーサブシステンス:機械化や技術改良の不可逆的な傾向、自然との没交渉
   *マイナーサブシステンス:経済的な報酬よりも社会的な威信や評価をもたらす。

    
 【機械化と装置化、技能と技術、暗黙知と明示の違い】

■マイナーサブシステンスの経済的な意味

    →家計に対してあまり重要な経済的意味をもっていない。
      ⇔ほとんど重要でないにしても、経済的な意味がある。

    →「ちょっとした」収入を決まった時期に
         
        Ex)『宮古群島の鷹狩
り』(松井1993)

■マイナーサブシステンスの社会的意味
    →自然に関する知識や手法には社会的な評価が伴う。
    →単純な労働で肉体的には厳しい。
        
        Ex)『福島県ウグイのセノヨボリ漁』(佐治1998)

■マイナーサブシステンスの時空間
    →空間軸
       *山地や里山、海岸、ため池、渓谷

        Ex)沖縄県久高島サンゴ礁の採集活動(熊倉1998)

    →時間軸
       *捕獲の対象物が生き物であるために同じ時期に実践される。
        
       EX)手賀沼の水鳥猟

■マイナーサブシステンスの技術上の特質
   *極めて単純な技術(Technology)で、水準の低いもの
      →限定された時期にしか行われないため、精緻で特別な技術は用いられない。
      →利用可能な範囲で最高の技術と考えられている。

   *高度な技能(Technique)水準の必然化
      →技術が単純であるため、それを使用する人間側の技能が必要
      →個々人が経験を積み、知識を身につける。

■マイナーサブシステンスの意味

   *人間から自然環境への接近
   *高度な身体性の要求
   *生業の持続性


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【第9回】:『中間小テスト』

 小テストの内容は、講義中に説明します




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【第10回】:『農村における社会集団とその労働』

【キーワード】: 複合生業論 / 稲作単一文化論 / 並立と内部化 / 多元性


稲作をめぐる民俗学的研究

 *「あまりにも日常茶飯の事象として、調査の対象ですらなかった」(野本1992)
 *稲作単一文化論(柳田國男)
      →畑作や漁撈、商工なども研究の視野に
 *稲作(民)・畑作(民)・漁撈(民)・狩猟(民)といった分析・個別テーマ
 *「稲作対畑作」とか「稲作対漁撈」対立的テーマ
 *「多元的」(岡正雄1958)
 *生業研究:「生きる(生計維持)」という視点にたち生業の複合的形態の検討

■日本人の多くが稲作に向かわせた力とは


 *イネに潜む霊的な力(柳田)
 *権力者による強制(坪井)
 *「連作障害が起きにくい」:農学や植物学から
 *畑作や漁撈を稲作の論理に取り込む力を持っていた(安室)

■複合的な生業研究とは
 *水田稲作農村
    →「資源の開発や利用の特徴は、稲作水田の利用に収斂した著しくモノカルチャーな特色を持つ」
 *山間の農村
    →「資源の開発・利用形態は、雑穀栽培をはじめ、有用植物の採集とその加工・利用あるいは狩猟などを中心に、極めて多岐にわたる」

生業活動の民俗学的研究
   →人(または家)を中心としたその生計維持方法を明らかにする
   →「稲作文化と畑作文化」→「単一生業志向と複合生業志向」

■複合的生業アプローチの展開
   *狩猟活動=クマやイノシシなどの大型獣の狩猟と、ウサギや小型鳥類の狩猟
   *水田=稲作作業と、フナとドジョウ漁などの水田漁撈
   *漁撈=主要な漁業活動と、背後農地における水稲や畑作
   *山間部=ウサギ漁

複合生業の実際<サト・ヤマ・ウミの生計活動>

 *<サト>における生業研究
    →稲作に高度に特化する傾向を示す
    →サトと隣接する低湿地を対象とする研究

 *<ヤマ>における生計活動
    →サトのように水田稲作といったひとつの生業技術に特化しない
    →特定のものに特化させては自然災害などの危険性を回避できない

 *<ウミ>における生業活動
    →ウミの生業=漁業という固定観念
    →漁業のみに注目した技術論

■稲作からみる生業の複合的展開
  
  *内部化と並立とは
  *内部化に事例
  *生計維持システムの歴史的展開



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【第11回】:『漁村における社会集団とその労働』

【キーワード】: 「磯は地付き、沖は入会」 / 共同漁業権 / 海洋資源の特徴 / 身体性

■漁業制度の概要

 *江戸時代の漁業制度
    【一村専用漁場制度】と【個別独占漁場】

 *『磯は地付き、沖は入会』:この考えは現行の漁業法にも踏襲されている。

 *現行の漁業法
   →昭和24年に成立
   →漁業権:行政からの許可によって設定された一定の水域を排他的に利用できる権利
   →「定置漁業権」「区画漁業権」「共同漁業権」

 *「共同漁業権」の重要性とは

■漁法の三要素

  *探魚法
  *集魚法
  *漁獲法

■漁業の特徴(→漁業資源への危険性)

  *更新性の天然資源
  *無主性
  *資源の状況確認の困難性

■さまざまな慣習(→資源枯渇への対応)

  *漁具・漁法の制限と禁止
  *禁漁期や禁漁区の設定
  *漁獲物・漁獲量の制限

■漁民集団における年齢差と漁獲量


  *加齢による漁獲構成物の変化
     →安定した漁獲高は可能か
  *「山型」にみられる漁獲効率
  *潜水漁=身体機能+知識と技能
  *労働効率=身体機能+技能+加齢+個人差

■漁業・漁村研究

 *主要な漁業活動と副次的な漁業活動と小規模な漁業活動といった年周期的活動の把握
 *経済活動以外の海への志向
 *加齢に応じて個人の意欲や願望を満足させる生産活動
    →労働観や生きがいの意味の応用




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【第11回】:『都市における社会集団とその労働』

【キーワード】: プッシュ・プル理論/ 季節労務の類型 / なわばり / 集団の維持原理


■「都市へ」と「都市で」

 *変化を捉える方法の曖昧さ
 *都市の多様さへの対応の難しさ

■季節労務とは
 *「労働の報酬を受け取ることを目的とし、毎年一定の季節に居住地以外の地域に
   働きに出る労働力の季節移動」をいう。
 *「出稼ぎ」「長期出稼ぎ」「移住」「移民」の違い

 *「プッシュ・プル理論」で考える出稼ぎ

季節労務の諸相
 @単純家内労働力の補充
   →手のあく季節がある場合、その季節に家内労働力を欲している雇用主に雇ってもらう。

     Ex)京都府舞鶴市野原の事例
         →農繁期と農閑期の使い分け
         →勤務先で自分たちの漁獲物を売り歩いた。次第に顧客を持ち、行商に変化

 A地域産業の発展と外部労働力の導入
   →労力が不足する農村と余剰労働力を持つ村との関係

■出稼ぎの二類型と問題点
   
   →「水平的出稼ぎ」と「垂直的出稼ぎ」
   →以前は次男や三男、女性が中心で世帯主は原則として参加していない。
   →一家の柱に相当する父親や長男が出て行くケースがおおい。
   
   →出稼ぎが地域の構造をどのようにかえるのか」

■「都市で」の生業

  *テキヤ集団:独自のなわばり、最近では都市における若者の教育機能として再考
  *ヤクザ集団:「八九三」、上納金制度を持つ。興行界や炭鉱発掘、サラ金など多角化。

集団の維持原理
  
  *血縁否定:血縁者からなる関係性を嫌う。
  *序列間移動:分家したもののうち、優秀なものが本家の跡継ぎになるような仕組み。
  *新参者の恒常的受け入れ:男であれば誰でも入ることはできる。
     →親分子分関係はみられるが、村社会での親分子分関係を含む親族集団とは異なる。


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【第12回】:『山村における社会集団とその労働』

【キーワード】: 焼畑農耕/ 陸稲 / 循環システム / 照葉樹林

■焼畑農耕(Shifting Cultivation)とは

 *野焼きと焼畑の違い
 *焼畑は「粗放な農業」(佐々木高明1972)
    ⇒決して否定的な意味ではない。
 *日本を含め、中国、インドネシア半島、ボルネオ、ニューギニア、中南米でも見られる。

■焼畑システム
 
 *一区画を土地の肥沃さの回復程度の目安となる指標植物に基づいて選定
 *若干の大木と有用樹を除き、胸高ぐらいまで樹木を伐採。
 *ある期間放置され、木・枝・下草が枯れるのを待ってから火入れする。
 *火入れによって肥沃な灰が残る。
 *火入れ後、作物の播種を行う。
 *3〜5年間の栽培期間の後に、休閑期間が10〜15年とられる。
 *放置された畑は、素の植生へと戻り、十分に地力が回復される。

■焼畑の目的
  ⇒土地生産性は低くとも労働生産性は高い。
    →常畑の方が生産性が高いというのは平地側の論理。

  *一方、人口の急激な増大がしばしば休閑期間を短縮させる。
   →そのため急速な森林破壊が引き起こされる場合がある。

  *焼畑後→草地→潅木→二次林→極相林
   □有機成分は、ある程度のところで一定化し、極相林にしたところで増加しない。
   □栄養分が最大で、大木を伐採する労力を少しでも少ないうちに山を焼く。

■森林のシステムに組み込まれた農法
  Slash and Burn Agriculture から Shifting Cultivation

■日本における焼畑農耕
  *1935年で約7万ha、→1950年で9,500ha
  *日本の焼畑タイプとその内容
    コバ型:四国や九州の山岳地帯
    ナギハタ型:中部日本の1,000m前後の山地に見られた焼畑
    カノ型:奥羽・出羽山地
    アラキ型:秋田県北部と北山山地

■根菜型と雑穀型
  *根菜型
    →東南アジアの熱帯雨林地域に発生した栄養繁殖作物を主とする作物。
    →タロイモ、ヤムイモ、バナナ、サトウキビなどから

  *雑穀型
    →アワ、キビ、モロコしなど種子植物を栽培する。
    →播種をすることから鋤を必要とする。

アジアにおける焼畑研究の論点
  *焼畑研究の論点
    →焼畑を菜園型・水田補助型と特徴付ける(佐々木)
    →焼畑の持つ意味は近代になっても大きかった(岡1998)
  *「米/雑穀」といった二項対立の概念ではなく、複合生業論的な視点からみる。



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【第13回】:『社会をより複眼的にみるために』

             キーワードでみる現代社会

■「人間中心主義を超えて」
   →自然保護から環境主義へ

■環境倫理学で検討すべき問題

   →世代間倫理、コンセンサス形成論、自然の権利、ディープエコロジー

■環境問題の歴史的位相
   →自覚の困難性、自己回帰性、発生原因の拡散化

■環境問題に対する理論的支柱
   →被害構造論、受益圏・受苦圏論、生活環境主義、社会的リンク論

■環境問題と所有制度
   →オープンアクセスの悲劇、フリーライダーが考えられる。

■コモンズの悲劇を回避するには

  →境界がはっきりしていること、相互モニタリング、外部から侵食されない。

■社会的ジレンマとしての環境問題
   集合財をめぐる合理性の背理  再生能力

伝統主義と歴史修正主義
  これまで研究は小集団だかりであった。

抵抗論
  →人びとの日常的実践として、意識的かむ意識的か分からないが、ともかく実践に着目
  →抵抗=生き残るための戦略ではなく、人びとがいかに支配を撹乱しているのか。

   問題点:抵抗する側、される側を一枚岩で描きすぎ



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【最終回】:『テスト』


以下の中から一つ選択して答えてください。

@日本でトキの保護が大きく報道されているが、中国からトキを移入して保護することに、どのような意味があるのか?

Aクマが人を傷つける報道がなされているが、駆除という名のもと、人がクマを殺すことは悪ではないのか?

B日本のエコロジカルフットプリントが国土面積の8.5倍であるとされているが、それを減少させるにはどのようにすればよいのか?

C愛知万博で「人と自然との共生」がキャッチフレーズであるが、そもそも人間は自然と「共生」しているのか?



持ち込み全て「可」です。
質問もテスト中に受け付けます。

成績の付け方は、テスト前に確認します。




【環境民俗学】講義の概要