- 犯罪的な為替操作
中国が経済力をつけた第一の要因は、異常に安い人件費を実現したことである。しかしこれは中国人の給料をカットして実現したものではない。ほとんど全て度重なる人民元の不当な切下げと、為替介入による不当な為替維持による。
参考までに05/8/1(第400号)「中国の為替戦略」で示した人民元の対米ドルの為替レートの推移を再揚しておく。
人民元の対米ドルの為替レートの推移
| 年 | 為替レート | 年 | 為替レート | 年 | 為替レート |
| 81 | 1.71 | 87 | 3.72 | 93 | 5.76 |
| 82 | 1.89 | 88 | 3.72 | 94 | 8.62 |
| 83 | 1.98 | 89 | 3.77 | 95 | 8.35 |
| 84 | 2.32 | 90 | 4.78 | 96 | 8.31 |
| 85 | 2.94 | 91 | 5.32 | 97 | 8.29 |
| 86 | 3.45 | 92 | 5.51 | 98 | 8.28 |
昔、1米ドルが1人民元であった。それを中国は勝手にどんどん切下げ、94年のピーク時には1米ドルが8.62人民元になった。外から見れば、中国人の人件費は8分の1以下になったのである。
中国は、人民元を切下げることによって、国際競争上で製造業の生産性を格段に上げることに成功した。たしかに人民元を切下げることによって輸入原材料の価格も上がるため、全体として中国製品の国際競争力が8倍になったわけではない。それでも為替を切下げることによって、中国国内の付加価値に対する生産性は5〜6倍程度の上昇になったと推計される。
本来、国際競争力をつけるには、生産工程を合理化したり創意工夫によって実現するものである。中国はこのようなことを一切省略し、これを為替水準の訂正だけで一気に行った。たしかに昔の1米ドル=1人民元は中国にとって高い為替レートだったかもしれないが、購買力からみても1米ドル=8人民元はべらぼうで不当な人民元安である。
さらに中国は、見掛の人件費の異常な安さ(日本の25分の1から30分の1)を武器に、先進国から資本と技術の流入を促した。特に89年の天安門事件で先進国の中国離れが起った以降は、為替切下げ政策をさらに強化し、東南アジア諸国に流れていた先進国の資本を自国に向かわせることに成功した。特に97年のアジア通貨危機後は、中国の一人勝ち状態である。
このインチキで犯罪的な為替操作によって、先進各国では製造業の空洞化が起った。比較的競争力の強い日本やドイツにおいても、先進的な技術を持つか、あるいは海外に生産拠点を持つことができる大企業だけが生き残っている状況である。米国などはあらかたの国内製造業が壊滅状態である。
輸出は飛躍的に伸び、貿易黒字は巨額になったが、中国は人民元安(1米ドルが8人民元程度)をずっと維持してきた。今日ようやく先進各国は中国の為替政策を本格的に批難し始めた。米国議会は対中制裁法案を可決する段階に来ている。
さすがの中国も各国の動きを意識し、多少人民元高に誘導している。一頃の8人民元から6.7人民元程度の人民元高を演出している。たしかに対米ドルに対しては人民元は少し高くなっている。しかし対日本円では1人民元は98年の15.5円(128.25円÷8.28)から今日の12.1円(81円÷6.7)とむしろ逆に円高・人民元安になっている。ちなみに筆者は考える適正な為替水準は1人民元=60円とずっと主張してきた。ただしその後、中国での物価上昇・日本での物価下落があったため、今日の適正水準は45〜50円程度と見ている。
- 中国領事館用地
本誌は中国の不当で犯罪的な為替操作を集中的に取上げたことが二度ある。最初は01年で、日本が「ネギ」などにセーフガードを発令した時である。本誌は9年前01/5/28(第209号)「中国との通商問題」で、購買力平価で見て中国の人民元が異常なくらい低位に操作されていることを指摘した。問題の核心は不当な為替操作なのに、当時、日本のマスコミは自由貿易の問題にすり替えた。多くのマスコミは中国は発展途上で人件費が安いからしょうがないと誤解していた。
続く01/6/4(第210号)「中国の為替政策」と01/6/11(第211号)「深刻な中国との通商問題」で、人民元安の維持政策は中国にとって一番重要な戦略であることを本誌は示唆し、中国は決して人民元安政策を放棄することはないと予言した。またこの戦略によって、先進国の産業が空洞化して行く様を予想した。今日振返ると、この時の本誌の予想通りの展開になっている。
さらに01/11/5(第229号)「中国通商問題の分析(その1)」、01/11/12(第230号)「中国通商問題の分析(その2)」、01/11/19(第231号)「中国通商問題の分析(その3)」で筆者なりの中国経済の分析を行った。特に第231号では中国の水産業について簡単に触れ、中国が水産物の日本への輸出国から消費国に転じたことに言及した。その後、どうも中国は乱獲によって沿海の魚を獲り尽くした可能性があり、今回の事件のように尖閣諸島など遠隔地まで漁に出向くようになったように見られる。ちなみに韓国は年間5,000隻もの中国漁船を拿捕しているという話がある。つまり尖閣諸島近辺での中国漁船の違法操業によるトラブルは今後も起る可能性は高い。
二度目は上海領事館襲撃などの反日暴動が中国で起った05年である。背景として中国に日本の国連の常任理事国入りを潰す意図があった。筆者は05/4/18(第386号)「鎖国主義への誘惑(その1)」と05/4/25(第387号)「鎖国主義への誘惑(その2)」で「日中友好」「戦略的パートナシップ」なんてことは有りえないと主張した。ここでの「鎖国」とは、日本にとっては中国や韓国との接触をなるべく減らすことを意味している。相手を丁重に扱うが、互いに深く立入らない関係を作ることが、歴史的に見て日本と中・韓との平和を長く維持するために必要と筆者は説いた。これは先人(例えば江戸幕府)の知恵である。ところが05年の反日暴動が起った05年に17,000社であった日本企業の中国進出が、これにこりず逆に今日25,000社まで増えているのである。
また日本の名目GDPは、中国との経済関係が大きくなる前の方が大きかった。ただ筆者は、中国との経済関係が大きくなったから名目GDPが小さくなったとまでは言わない(可能性はあるが)。中国経済への依存が大きくなる過程において、一方で財政支出を絞ったからである。
本誌は、05/5/9(第388号)「中国進出の主導者」で日本企業の中国進出の主導者で宣伝マン達が、ことごとく緊縮財政論者や構造改革派であることを指摘した。まさに緊縮財政で内需を縮小し、日本企業を中国進出に駆り立てたという図式になる。したがって再び日本経済を活性化させるためには逆のことを行えば良い。財政支出を格段に増やし、内需拡大によって中国に出て行った日本企業を呼び戻すのである。
また企業に呼び戻すには、日本の財政支出拡大だけでなく、人民元の大幅な切上げが必須である。しかし中国はこれに応じないであろう(せいぜい1米ドル=5人民元程度の中途半端な人民元高に収めるつもりと見る)。その程度の為替調整ならば、日本は中国との経済関係を断つ方向に動かざるを得なくなると筆者は考える。
中国の経済関係を縮小(縮小ではなく断つ方が筆者は良いと思うが)する過程で、一時的に経済的な混乱と名目GDPの減少を伴うが、50年、100年単位での日中の平穏な付き合いを考えるならその方が良いと考える。繰返すが中国との経済関係が深まる前の方が、日本の名目GDPは大きかったのである。そして対応する経済政策さえ間違えなければ、中国との経済関係を断っても、日本経済は万全な方向に持って行ける。これが先週号で述べた「腹を括(くく)る」ということである。
それにしても中国の日本国内における不穏な動きが多すぎる。中国人が日本の山林を買いたがっている。中国人になぜ日本の山林が必要なのだ(宅地などに比べ山林の売買に関する規制は緩い)。また日本に六ヶ所も中国領事館がある。狭い日本にどうして六ヶ所も中国領事館が必要なのだ。今、新潟の万代小学校跡地(15,000平米と広大)が新たな中国領事館用地として売却の話が上がっている。中国領事館ということになれば、敷地内は中国本土と同じということになり、日本の行政権(特に警察権)が及ばないことになる。とにかく地方の不動産価格は下がる一方であり、地主は土地を買ってくれるなら誰でも良いという心境にある。
尖閣諸島の土地を国有地として買上げるという話が出ている。筆者は、同様に中国人が買いにきている山林や万代小学校跡地は、とりあえず国が買上げるべきと言いたい。たいした金ではない。そしてこういう事が日中間のトラブルを未然に防ぐことに繋がる。
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