東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国に日本、中国、米国など域外8カ国を加えた初めてのASEAN拡大国防相会議が今月中旬、ハノイで開かれた。
会議では、南沙(英語名スプラトリー)諸島や西沙(同パラセル)諸島の領有権をめぐって中国と一部のASEAN加盟国とが争っている南シナ海問題について、中国をけん制する発言が相次ぎ、さながら「対中国スクラム」が形成されたような状況だったという。
この会議で示されたASEANや米国の動きは、尖閣問題をきっかけに、対中外交の立て直しを進める日本にとっても、大いに参考になりそうだ。
中国は軍事、通商の要衝である南シナ海を「核心的利益」と位置付け、ほぼ全域を自国の権益圏とみなして、軍事活動を活発化させている。こうした中国の拡大志向に対し、日本同様にASEAN諸国も強い警戒感を抱いている。
今回の会議では、直前に米国がASEAN各国と個別に接触し、南シナ海に言及するよう呼び掛けたとされる。米国も、中国がこの海域を勢力下に置き、自国の船舶の航行が脅かされる事態となるのを警戒している。
米国のゲーツ国防長官は会議で、南シナ海の領有権問題を念頭に「実力行使なしに、外交を通じ国際法に沿って解決されるべきだ」と述べ、名指しはしないものの中国を強くけん制した。
会議では、米国を含め7カ国が南シナ海問題に触れ、インドなど5カ国が南シナ海における「航行の自由」に言及したという。日本の安住淳防衛副大臣も「東シナ海でも海洋問題が各国間の懸念を呼んでいる」と発言した。
これに対し、中国の梁光烈国防相は「中国の軍事力は誰かを脅かそうとするものではなく、国際的、地域的な平和と安定を促進するためのものだ」と述べたが、強い反発は示さなかった。
7月のASEAN地域フォーラムでは、中国は同じような批判に対して外相が激怒し、声を荒らげて反論する場面もあった。今回、こうした対応を取らなかったのは、尖閣問題での対日強硬策が国際的な批判を浴び、これ以上の孤立化を避けたかったためとみられる。
ここからの教訓は、時として強引で独善的な行動を取る中国に対するには、多国間の安全保障や経済の枠組みに中国を引き込み、「1対多数」の構図で、理性的で平和的な行動を取るよう要求する手法が有効だということである。
実際、中国は会議の空気を事前に察したのか、西沙諸島で拿捕(だほ)していたベトナムの漁民を会議直前に解放している。
今月下旬から来月にかけ、ASEANプラス3(日中韓)やアジア太平洋経済協力会議(APEC)など、日本と中国がともに参加する多国間会議が相次いで開催される。こうした場を利用して、国際的に責任ある態度を取るよう、中国を誘導していくことが大事だ。
=2010/10/18付 西日本新聞朝刊=