2010年10月13日

少量から中等量の飲酒で、重度の認知機能低下のリスク低下なし。

スペインの55歳以上の男女3,888人を平均4.5年間追跡したところ、過去飲酒者を除いた非飲酒者と比べて、アルコールで1日24g未満(日本酒約1合に相当)の飲酒者で、認知症の発症を含む重度の認知機能のリスク低下はなかった。論文はAmerican Journal of Epidemiology電子版に2010年8月10日掲載された。

対象者の飲酒状況は、研究開始時点で質問票により調べた。男性の33.9%が非飲酒者、45.2%が現在飲酒者、20.9%が過去飲酒者(飲酒中断者)だった。女性でのそれぞれの割合は、86.1%、9.7%、4.2%だった。現在飲酒者の大半がワインを飲んでいた。

対象者の認知機能は、研究開始から2.5年目と4.5年目で評価した。対象者3,888人のうち、追跡期間中に425人が死亡、367人が脱落し、残る3,096人の認知機能を評価した。すると、412人(13.3%)が認知症の発症を含む重度の認知機能低下と判定された。

その結果、非飲酒者と比べた場合の重度認知機能低下のリスクは、男性では、現在飲酒者のうち一日12g未満で0.61倍、12−24gで1.19倍、24.1−40gで0.69倍、40.1g以上で1.27倍、過去飲酒者で1.03倍と、いずれも誤差範囲の結果で、リスクの低下も上昇もなかった。女性では、一日12g未満で0.88倍、12−24gで2.38倍、過去飲酒者で1.03倍と、やはりいずれも誤差範囲の結果だった(女性の24.1g以上の飲酒者は少数のため分析から除外)。

著者らによると、先行研究の一部では、少量から中等量の飲酒による認知症や認知機能の低下を認めている。しかしこれらの研究の大半では、非飲酒者と過去飲酒者を区別せずに「非飲酒者」とし、このグループを基準群として、少量から中等量の飲酒のリスクを比べ、リスク低下を認めている。

しかし、過去飲酒者は病気や障害が原因で飲酒を止めた高リスク群が含まれているため、過去飲酒者を非飲酒者と区別せずに基準群とすることで、少量から中等量の飲酒のリスク低下を過大評価している可能性がある。実際、著者らのデータでも、過去飲酒者と非飲酒者をまとめて基準群とすると、男性の中等量飲酒者(一日24−40g)で誤差範囲を超えるリスクの低下を認めたという。

⇒少量から中等量の飲酒の影響を調べる際に、非飲酒者と過去飲酒者を区別して非飲酒者を基準群とすることの重要性を指摘した研究。半面、現在飲酒群のうち重度認知機能低下が生じたのは男性で58人、女性で25人と少数だった。追跡期間を延長して、この人数が増えれば、この集団でも一日12g未満の飲酒によるリスク低下を認めた可能性もある。さらに長期間の追跡調査を行ない、中等量までの飲酒が認知機能低下に及ぼす影響を調べる必要があるだろう。

論文要旨

ytsubono at 06:00論文解説  この記事をクリップ!
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