2010年10月18日7時0分
土葬されたイスラム教徒たちが眠る墓地で祈る日本ムスリム協会名誉会長の樋口美作さん=山梨県甲州市塩山牛奥の文殊院
山中にある墓地建設予定地の手前に立つ建設反対の看板=栃木県足利市板倉町
担当課長は「墓地の建設は、人家から100メートル以上離すことなどを定めた県の条例には違反していない。しかし、土葬を受け入れられない住民の感情もわかる。両者にとっていい方法を探りたいが、前例がないので困っている」と話す。
日本に住むイスラム教徒の多くは1980〜90年代、パキスタンやバングラデシュ、イランなどから労働者として来日した。一部は日本人女性と結婚するなどして定住し、結婚した女性の中には改宗する人もおり、国内のイスラム教徒は大幅に増えた。
今年3月、早稲田大学(東京)で開かれた第2回モスク代表者会議。全国のイスラム教徒たちが議論した課題の一つが「墓地の不足」。遺体を防腐処理して母国に帰し、土葬することもできるが約80万円かかるという。
同センターなどによると、現在、国内でイスラム教徒向けの霊園は山梨県甲州市と北海道余市町の2カ所だけ。
甲州市塩山牛奥の霊園は仏教の寺「文殊院」にある。1963年、日本ムスリム協会(東京都渋谷区)が土地を買い、南アルプスを見渡せる山の上に造った。約150人が眠る。しかし、住職の古屋和彦さん(45)は今年5月、「これ以上、イスラム教徒の墓を増やすことを総代に説明できないと感じている」と、同協会名誉会長の樋口美作さん(74)に打ち明けた。
墓は予想以上の早さで増え、墓地は4800平方メートルになった。古屋さんは最近、「土葬の盛り土を見るのが怖い」「農作業の後、近くを通りたくない」という声を聞くようになった。埋葬から数年間は土が徐々に沈むため、数回にわたり土を盛る。その様子を気味悪がる声も上がっているという。
半世紀前、同協会を受け入れたのは古屋さんの父である先代住職。樋口さんは「地域で信頼のある住職が墓地の必要性を地元の人に説明してくれたからできた。自分たちだけでは難しかっただろう」と話す。