【北京・成沢健一】中国四川省綿陽市で17日午後、沖縄県・尖閣諸島付近での中国漁船衝突事件に抗議する大規模な反日デモが起き、参加者の一部が暴徒化して日本料理店などを襲撃した。前日に3都市で起きた反日デモは「官製デモ」との指摘も出ているが、参加者の暴徒化や他都市への飛び火は当局も想定していなかったとみられ、事態の沈静化を急いでいる模様だ。
香港メディアなどによると、綿陽市のデモ参加者は1万人以上とみられ、3万人に膨れ上がったとの情報もある。インターネット上での呼び掛けで集まった若者らが「日本製品ボイコット」などと叫びながらデモ行進、日本料理店やパナソニックの販売店などに投石し、店舗のガラスを割ったほか、路上に止まっていた日系メーカーの乗用車のガラスを割るなどした。前日の大規模デモと異なり、周到な準備をうかがわせる横断幕を掲げる参加者は少なく、警官隊と小競り合いになる場面もあったという。
目撃者によるネット上での書き込みによると、「学生はましだが、一般人が紛れ込み、不満を発散している」と警官が話したという。綿陽市は16日に大規模デモがあった四川省成都市の北東約100キロに位置し、08年の四川大地震で大きな被害を受けた。貧富の格差や住宅価格の高騰といった全国共通の問題に加え、震災後から続く生活難による不満が破壊行為につながった可能性もありそうだ。
成都市と陝西省西安市、河南省鄭州市で起きた16日の反日デモは、東京の中国大使館前で行われた中国への抗議デモに対抗したもので、中国指導部も日本の対中強硬論に不満を表明するために内陸部でのみ実施を容認したとの見方が強い。17日付の中国系香港紙「文匯報(ぶんわいほう)」は、成都でのデモは各大学の学生会が1カ月前から準備を進めてきたと報じた。学生会は共産党や政府の指導下にある団体で、ネット上の呼び掛けで規模は膨らんだものの、実態は官製デモだったと言えそうだ。
国営新華社通信は、16日のデモについては英語版のみで報じ、暴徒化した事実には触れなかった。綿陽市でのデモは中国メディアで報じられていない。
中国外務省の馬朝旭報道局長は17日未明、「合法的、理性的に愛国の熱情を表現すべきで、理性を欠いた違法な行為には賛成しない」として、冷静な対応を呼びかける談話を発表した。また、北京の日本大使館周辺は17日、前日よりも多くの警察車両や警官が配置された。今月下旬にはハノイでの東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議に合わせて日中首脳会談が行われる見通しで、中国側も早期収拾を迫られているようだ。
一方、北京の日本大使館は17日、鄭州市で22日から予定していた日中文化交流行事「河南日本週間」について河南省政府の申し入れを受けて延期することを決めた。反日デモの暴徒化と広がりが、修復に向けて動き始めた日中関係に冷や水を浴びせた形となっている。
毎日新聞 2010年10月17日 23時00分(最終更新 10月18日 9時15分)