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[22373] 【習作】 はやく早く速く、受け止めて…… (ベースは化物語)
Name: 鬼瓦◆b61185a2 ID:f16d5d61
Date: 2010/10/06 00:21


はじめまして。
次ページより稚拙な文章で展開して参りますが、拙作をご覧頂きました皆々様のご意見・ご指摘等賜りたく、今回、勇気を出して投稿させて頂く事にしました。


タイトルにもあります通りベースは『化物語』ですが、主人公を筆頭に殆どオリジナルキャラが動く事になります。
そこに別の物語の設定や世界観を織り交ぜて、ごった煮の様な多重クロスSSになると想定しております。


闇鍋にならないよう、頑張りたいと思いますので、何卒よろしくお願いします。





[22373] ①修正版(Ver1.01)
Name: 鬼瓦◆b61185a2 ID:f16d5d61
Date: 2010/10/06 19:56



職場からの帰宅中、車を走らせていたその時、ふと感じた悪寒。
あまりに唐突な違和感に、慌てて減速し路肩に停車した。
車の外へ出て振り返ったが、しかし、周囲には誰も居ない……。
そう、それもまた不自然で……普段のこの時間帯は交通量も多い筈なのに、今、全く人の気配を感じないのだ。
対向車や後続の車が見当たらない道を何度も見やり、そしてやっぱり何も無かったことを確認し首をかしげる。

(う~ん、おかしいな……まあいいや)

思い直して車に乗り込もうとしたら、助手席においてあったはずのカバンが運転席に。

(あれ?)

手に取り、再度助手席に置こうとしたら、そこに誰かが座っていた。
女だ……目が合った。

「ハロー、お邪魔しま~す」

(っ!?)

目が合った瞬間、先程と同じ質の悪寒、だがもっと強烈なモノに襲われた。

(なっ、なんだこれっ……これさっき感じた気配だぞ、なんなんだこれ?)

後々思い返せば、それはまるでコンビニでバイトしてた頃ドリンク補充で冷蔵室に篭ったまま数時間を過ごした時のような、そんな感じ? 北海道などの極寒地域で感じる真冬の痛い感覚ではなく、-5℃前後の機械的・強制的な寒さ?と表現すれば良いだろうか。
目線を逸らしたいのに、逸らす事が出来ない・・・というか金縛りにでもなったかのように体の全てが全く動かない。
どちらかというと顔はかわいい系な外人さんという印象の、その女性に抱いた感情は恐怖だった。

「え~っと……取り合えず、あなたの目的地までで構わないので、乗せてってくれないかしら、ねっ?」

ねっ?と言われた瞬間。
ついさっきまで硬直していた体が急に動き、それまで背後に状態を反らそうとしていたが為、体が後ろに傾いて……ドンっと尻餅をついた。

「えっ! ダイジョブ?」

外人さんが驚きと共に声を掛けてくる。
だが、こちらはそれ所ではない。
金縛りが解けたのか? 悪寒もいつの間にか消えているが、えと、どうすればいい?
いや、どうしよう、この女は何者だ? っていうか何でオレなんだ? 一体何がどうなってるんだ……?
所謂パニックに陥っていた。

(……ぇえぃ、くそっ、と、取り合えずえ~っと、顔はか、かわいいな。
 っじゃねー! い、いかん落ち着け、多分ヒッチハイクだ、いやそう思っとこう……なんか、こ、怖ぇ)

腰が抜けていた訳ではなかったようで、両足に力を込めれば直ぐに立ち上がることが出来た。
精神面は全然大丈夫ではないが、なんとか「わ、わかりました」と返答する事はできた。





機械的に、だが安全運転で自宅方面に向かう。
いつの間にか乗り込んでいたこの女性に対する不信感と恐怖でガチガチだったが、慣れゆえか車の運転に支障はなかった。
怖さゆえに運転に集中していたのだが、むしろそれが良かったようだ。
暫く走っていると、徐々に精神面も落ち着いてきた。

そんな走り出して暫く経った時、前触れも無く外人さんから話しかけてきた。

「日本車って初めてだけど、なんだっけコレ、助手席にもこういうスポーツ風なシートがあるって事は、標準装備なのね? コレ」

(ちょ、突然なんだ? 独り言か? このポンコツに興味があるのか? ……っていかん、と、取り合えず落ち着けオレ)

焦りつつも思う……車好きな自分と共通の話題があったりすれば、多少気が楽になるのかもしれない。
だが気付いたら思いとは裏腹にド直球で問いかけていた。

「……あなたは何者だ?」

(ぬぉ、しまった……我ながら不躾だった)

「ん~ホントはね、秋葉原とか行きたかったのよねー、私単なる旅行よ~。
 あ、結構アニメ観てるよ! 聖闘士星矢とかドラゴンボールとか。
 ジャパニメーションいいね、ガンダムはあまり解らないけどエヴァは解るよ!」

平常時とは程遠いが、ガンダムという言葉に反応するぐらいには冷静だった。
自他共に認めるガンダム好き故に心の中で突っ込む。

(おいぃ!? ガンダムが解らんとは何事じゃー!)

「まさか間違って名古屋の方に来ちゃうとは思わなかったけど、なんとかして秋葉原はいきたい。
 あと富士にも登りたい。
 わびさび?感じたいね~。
 それから……お台場? 18mのガンダムまだあるのかしら?」

(お台場のガンダムはもう撤去済みで、今年は静岡に立つっちゅーねん、情報仕入れてから来日しろよ……あれ、割と冷静なのかな? オレ)

心の中で突っ込むが、取り合えず黙っておく。
ちなみに現在は2010年7月……静岡の1/1ガンダムは既に組み立てが完了し、もうすぐ一般公開される予定だ。
どうでもいい話だが、昨年のお台場に引き続き、今年もお盆休みの際には観に行く予定を立てている。

「まあ、確か名古屋はおいしい料理多いって聞くね、味噌カツ? 味噌煮込み? 天むす? きしめん? 全部食べたーい。」

たまたま信号が赤で停車した為、恐る恐る助手席を見た。
食い気を顕にする外人さんを横から眺めてみる。
座っている為想像の域を出ないが、スタイルはかなり良さげだ。
特に胸のボリュームが中々Goodな感じにみえる。
胸以外もボリュームがあったらちょっとイヤンだが、ジーンズに包まれたスラッと伸びる足を見る限り、それは無さそうだ。
舐めるように横から眺めているが、当の本人は「あれが食べたーい」などと、日本全国の有名な郷土料理を列挙している。

(こうして目線を合わせずに観ているだけなら問題ない、か……あの悪寒はなんだったんだ?)

だが、ハンドルを硬く握り締めている右手を緩め広げた手の平に視線を移せば、案の定汗でベッタリであった。
ふと顔を戻せば、丁度信号が赤→青に切り替わった。
慌ててローにギアを入れ、再び走り出す。

「へ~、クラッチ繋ぐの上手だね、日本の車は殆どAutomaticだと思ってたよ。
 ToyotaやHondaはIndustrial depressionで直ぐにFormula oneから撤退しちゃったけど、モータスポーツの意識? Mind? ちゃんとあるのだねー。」

(ぉいーっ!横文字しゃべんなよ、英語はサッパリ解らんゾ!)

「って、私ばっかりしゃべってるけど、私の日本語通じてる?」

「あー、はい、日本語お上手ですね」

慌てて答える。
事実、日本は初めて来たみたいに言う割りに喋りはマジ上手いと感じていた。

「ホント? サンキュ~♪ 頑張ってアニメ吹き替えじゃないの観たりして覚えた甲斐あったよ……甲斐だったかな、頑張った成果?」

(怖い外人さんの正体はアニオタかよ、マジで怖えぇ……)

そんなやり取りをする内に、自宅付近まで近づいてきていた。

「もう直ぐ私の自宅に到着するのですが、どうされますか?
 近くに電車……Train?のStation?がありますけど、そこまで送りましょか?」

「いいよ、車とめる所で降りてあとは歩くから……駅の方向教えて」

(おいおい、家まで来る気かよ……早く降りてくれー)

想いは届かず、そのまま自宅に到着してしまった。

「ここがお家?」

頷くオレを確認してから車を降り、我が家を眺める外人さん。

「助かったよ、ありがとう、駅はどち?」

「この道真っ直ぐ行って左折したら見えてきます、ここから概ね3分ほどですよ」

教えてあげたら、無言で後部座席のドアを開け、キャリーバッグ降ろした。
そのまま後ろ手に転がしながら、すたすた歩き始める。

(つ、疲れた……。
 しかしなんだ? 全く音を立てず気配も感じさせずにキャリーバッグを後部座席に乗せて、さらに助手席に乗り込むなんて事を、オレがほんの少し目を放した隙にやってのけたんか?
 それにあの悪寒。
 なんなんだあの外人さんは……)

ハンドルにへたりこみつつ、外人さんの後姿を眺める。
服の上からでもそのスタイルの良さはかなりのものだろうと想像できる。
先程横目でチラ見した時の胸のボリューム具合を考えると細身巨乳っといったところか。
小ぶりだが形のよい尻ときゅっと締まった腰がなんともGoodだった。

(まあ、さすが外人さんだな、足長げぇや。
 だが、やっぱりあの悪寒だけが気になるし、色んな意味で危険だった……さてと)

今日の夕食を想像しつつ車庫入れし、自宅に入った。





車を降り、駅の方に向かいつつも、先ほどの男の家の位置をしっかり頭に叩き込む。

(ふむ、恐らく名古屋の北を流れる木曽川の近くまで北上できたとは思う)

車の中でややテンパリ気味に喋り続けてしまい、今更ながら少々恥ずかしい思いに浸りつつも、移動途中にみた市町村の境界看板の文字は覚えている。
空港で買った地図をリュックから取り出して確認してみた。
恐らくこの辺一体は名古屋のベッドタウンであろうと想像する。
都会からはそれなりに離れている為、取り合えず自身を隠す事ぐらいは容易に出来るだろうと判断する。
そして、みれば極端なド田舎という訳でもないので、情報収集も難しくはないだろう。
しかし個人的に残念なのは、先ほどもポロっとこぼしてしまったが、荷物にまぎれて乗り込んだ飛行機が羽田や成田ではなく、中部国際空港に到着した事だった。

(秋葉原とか行きたかったのに……まあ東京は日本の首都だから、いきなり飛び込む危険を考えればマシだろうけど)

後方の気配が自宅と称していた家の中に吸い込まれていった事を感じ、振り向いて確認した。
特にコレといった意味は無いが……運転は上手だったなぁと、しなやかにシフトノブを操作する左手の動きを思い出す。

(……。
 さてさて。
 よ~し、でわでわこの近辺をぐるっと観て回ってみようかしらね~)

おもむろに跳躍し、近くの家の屋根に飛び乗り、そのまま屋根伝いに走り始めた。
と同時に、精神を集中する。

(キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの影響は日本全土に波及している筈……油断しないように気を付けなきゃ)

そのまま、夜の闇に溶け込んでいった。




10/5 投稿(Ver1.00)
10/6 修正(Ver1.01)



[22373]
Name: 鬼瓦◆b61185a2 ID:f16d5d61
Date: 2010/10/09 15:08



今日は木曜、固定サルベージ※の日だった。

 ※サルベージ
   オンラインゲームFF11のコンテンツの1つ。
   1パーティ(6人)で突入しダンジョン攻略を行う。
   目的はそこで得られる装備の素材を得る事、金策、などなど。

固定メンバーでのパーティで毎週通っているが、欲しい物がちっとも得られず既に2年以上が経過している。
今夜もやはり何もドロップしなかった……実に残念である。
ひと段落ついたので、ゲームをシャットダウンし軽く伸びをした。

(ゲーム中は忘れていたけど、やっぱ帰宅時のあの悪寒は怖かったなぁ。
 もしかしたらなんかネットとかに情報出てねぇかな?)

寝る前に検索サイト等で確認してみようと、マウスに手を伸ばした、そのとき。



(なっ、なんだっ!?……ちょ!、これさっき感じたあの悪寒だぞ!?)



あの外人女性の存在が脳裏に浮かんだ。
今、感じている感覚はあの時と同じだった。
しかし、今回はあの時と違い体がちゃんと動いてくれた。
腕を擦る……鳥肌が立っている。
恐る恐る周囲を見渡してみるが、自分の部屋には自身以外の存在を確認する事はできない。

(もしかして、カーテン開けたらベランダから「ハイこんにちわ~」とか?
 んなバカな……で、目が合ったらまた動けんくなったりするのか?)

まさかと思いつつも、そんな想像をしてしまったが為に、カーテンの向こうが気になってしまった。
ゆっくりと南の窓に掛かるカーテンに近づき、そしてゆっくり開けてみた。

(……ん!?……ぬぉっ! 杉本さん家の屋根の上にイターーーーーっ!!)

道路を挟んだ向かいの家の屋根の上に立ち、こちらを見ていた。
目が合った。

(ぎゃーっ!……って、あれ?)

金縛りにはならなかった。
目が合った瞬間悪寒も消えていた。
なんとなく外人さんの方が驚いてる様なリアクションをしてたようにも見えたが、ひらひらと笑顔でこちらに手を振り、そして助走も無しにジャンプっ!

(なっ!)

向かいの家とベランダとでは5m以上ある筈だが、あっさり飛び越えた。
そして、まるで重力を感じさせないかの様に音も無くスッと目の前のベランダに乗り移った。

「え~っと……や、やっほ~。
 と、取り合えずさっきはありがと~」

頭をぽりぽりとかきつつ、網戸を開けようとする外人さん…一見すると微妙に戸惑っている様子にも見えるが、超人的な跳躍力を見せられ言葉を失っているオレには、相手のそんな様子に気付く事は無い。
その人間業じゃない跳躍力に……オレは既にもう人間じゃないと決め付けていた。
そしてそんな怪人というか化け物というか、とにかく危険な存在が、網戸を開けようとしている事の方が問題だった。
エアコンをつけずに窓を大解放していた為、網戸を開ければ直ぐ部屋に入る事が出来る。

「でさぁ、そのついでと言ってはなんだけど……凄く唐突だけど暫く泊めてくれない……ねっ?」

(はあ?
 なっ!? 何言ってるんだこの外人さんは……「ねっ?」じゃねぇー)

案の定、網戸を開け勝手に開け、部屋に入ろうとする。
思わず後ずさるが、得体の知れない相手に恐れ、足が縺れ・・・・・・尻餅をついた。
本日2度目である、尻が痛い。

「だ、ダイジョブ? ……あっと日本は靴脱がなきゃだった」

1歩2歩、部屋に足を踏み入れた所で土足厳禁に気が付き、慌ててベランダに戻りパンプスを脱ぐ。
その間、尻餅をついたまま化け物を恐る恐る眺めている事しか出来なかった。
あっさり部屋への侵入許してしまった……当の本人は部屋を軽く見渡しながら、ふ~ん、とか、想像してたのよりも比較的片付いてるじゃない、とか勝手な事をほざいている。

「で。
 さっきも言ったけど、暫く泊めて貰えると嬉しいの、OK?」

こちらを向いて、改めて泊めろという。

(なんなんだ一体。
 コレはなんのゲームだ? オレは嵌められたのか?
 泊めろとか訳分からん……そのエロい体でエッチな事しようとか、オレの精気吸い尽くそうとか、そういう事か?
 ってことは、こいつサキュバスか何かか!?)

「あ~、ご家族への事情説明とか、そういう諸々の情報操作は、明日の朝になれば都合のいいようになってるから。
 心配しないでダイジョブよ」

こちらの訝しさと恐れの混ざった微妙な表情を気にしてか、訳のわからない事を言い出す化け物。
今のオレにはサッパリ気付けていないが、この台詞もまた不可解ではあった。

「じゃ、了解してくれたって事で……まだ自己紹介してなかったよね。
 モニカリタ・フェアチャイルド・バーグマンブレードって言います、みんなモニカって呼んでるからあなたもそう呼んでくれるとうれしいな~。
 よろしくね~」

「くっ……山田誠っす……あ、あなたは一体、な、何者、なんですか?」

自分は普通の人間ですが、あんたは化物ですか? 何ですか? というか、そもそも泊める事に了解なんてしてないし。
と、問いかける……既にパニックで訳分からない状態に陥っているが、それにしては意外な事に、割と冷静な部分がまだ自身にはあるようだ。



……相変わらず尻餅をついた状態のままだったが。



「う~ん……そうよねー、普通屋根の上を軽々と飛び移るってNinjaでもなきゃありえないよね。
 ホントは内緒にするべきなんだけどなぁ……。

 ……むぅ、そもそもなんで私に気付いたのか不思議なのよね~、車乗っけて貰う時も気が付いたら自然に停まってくれたし。
 私ちゃんとステルスアビリティ作動させてるのに……。

 え~っと、他の人には内緒にしてね? 絶対だよ!
 私、日本で言うところの妖怪? みたいな感じかしら。
 ほら、あなた月姫ってやった事ある? 私はあれで言うところのアルクェイドみたいな感じだよ」

途中、あさっての方向を向いてブツブツ言っていたが、全部丸聞こえである。
だが今のオレにその意味を考える余裕は無い。
こちらに向き直って話しかけてきた言葉の中に『月姫』という知っている単語が出てきて、若干、ほんの少しだがモノを考えるだけの落ち着きを取り戻す事ができた気がする。

「月姫は知ってるが……妖怪だ?
 ……怪異、吸血鬼、か」

「Vampiresで通じるかしら……でも私、人間を使徒にした事は一度も無いし、そもそも人前にはあまり出歩かないようにしてるのよね、何があるかわかんないから。
 今はたまたま用があってこうやって出てきてるけど、基本隠れて行動するようにしてるし。
 実際、今現在、誠さん以外の人には私を認識する事が出来ない筈よ、そういう力使ってるから」

確か、吸血鬼は2つの意味で血を吸う。
1つは食事として、そしてもう1つは使徒にする為。
高位の吸血鬼になればなるほど、行動は慎重になり、或いは怠惰になり、あまり現世に現れないというのが通説だったか?
まあ、吸血鬼を題材にした物語によって、その解釈は様々だが。
だがしかし、このモニカとかいう外人風の化け物は吸血鬼だと自己紹介した。
本当か嘘か解らないが……それはつまり、最悪の可能性としては、吸血衝動が発生したら真っ先に俺は食われるかも知れない、という事だ。

「月姫知ってるならわかるよね、真祖って。
 私も真祖だし、そもそも普通にご飯食べてれば問題ないし、吸血衝動もないし、誠さん、あなたに危害は加えるメリットもないし。
 ただ泊めて貰うだけだから、特に問題も実害も無い筈なんだけど」

なんだか突拍子もない事態になってきた。
マジで小説や漫画のファンタジーな世界に来てしまったかのような……がしかし、あの形容し難い強烈な悪寒の正体がこの女である事はもはや明白となった訳だ。

(実害はないとか、そんな事素直に信じられるかよっ。
 化物語風に言わせりゃ、怪異がそこに存在するにはそこに住む人の信仰とか意識とか、意味があるとかって、え~っとなんだ?
 と、とにかく、オレの直感で言えばオレはお前の食事なんだろ? ちくしょーめ!)

口には出さずに悪態をつく。
が、ポロッと口にだしてしまった次の台詞は、相手も全く意図しない発言だったようだ。

「そ、そもそも、得体の知れない悪寒を撒き散らして、何が危害を加えない、だ?」

「えっ、悪寒?」

「オレの車を止めさせた時。
 それから、えーっと、オレと初めて目線を合わせた時。
 そしてついさっき、オレにカーテンを開けさせた時。
 ……全てオレに何らかのプレッシャーを掛けてたろうがっ!」

一気にまくし立てた……そう、怖かったのだ。
だからこんな夜中(もう直ぐ日付が変わる時刻である)にも関わらず、大きな声で抗議した。
だが、隣の部屋から妹が苦情を言いに来る様子はない。
今、自身の五感で感じるものは、パソコンのFANやHDDの駆動音のみだった。
よくよく思い返してみれば、路肩に駐車し思わず車を降りた時も、不自然に周囲に人の気配がなかった。
不気味で仕方が無いのだ。
相手は驚きの表情を浮かべ、頭を捻っているが、こっちとしてはもう何がなんだかサッパリである。



ちなみに、未だに尻餅状態である……かなりダサいが仕方あるまい、今回はどうやら完全に腰が抜けているのだから。



「えと、ちょ、ちょっと待って!
 私にはサッパリ身に覚えないんだけど。
 ……いや、確かに奇妙な違和感はあったけど、まさか、まさか私の気配を感じ取ったというの?」

待ってと言われても困る。
そもそも何を待つというのだ。
これがゲームや小説の主人公なら、上手く立ち回って撃退するのだろうが、生憎オレはヘタレたおっさんだ。
化け物なんぞと戦う事など出来るはずも無く、むしろチビってしまいそうだ。

「チラっと部屋を見たら、それが悪寒というキーになって、カーテン開けさせた? つまり私の存在気付かれたって事?
 その、正直悪寒とかいうのが良く解らないけど……たぶん私の視線というか存在を示している? ……たぶんトリガーになってるんだろうなぁ。
 でもでも、え~っ、そんなぁ……じゃあじゃあ、私が張った結界とかも何らかの形で把握出来ちゃってたりするの~?
 日本に到着してからこっち、最低限の気配だけ残してキッチリ隠れてた筈なのに……日本はそういう土地柄なのかしら?
 さもなくば……山田誠さん……あなたVampire hunter? いや、その素養がある、ということかなぁ……」

独り言をブツブツと呟く女……こちらを見、その目つきが段々と細く、鋭くなっていく。

「どうやら、私、さっき言った事、早速嘘ついちゃう事になっちゃいそう……ねっ!」



 …──ィィキイイィィィィ──……



「えっ……ぐわぁぁぁっっっ!」

突然ものすごいプレッシャーが正面から襲い掛かってくる。
耐え切れず仰け反るかと思ったが、体が固まったかのように仰け反る事すら出来ず、プレッシャーを真正面から受る。
目を瞑ろうにも瞑る事すら出来ず、眼球に痛みが走る。
涙が溢れるが、拭う事すらできない。

「まさか日本到着初日からいきなりこんな事態になるとは、私もついてないわ~。
 けど……力を解放して敵を呼び寄せる訳にも行かないし。
 とりあえず結界は張ってるけど、極力セーブして……うん、コレぐらいは余裕で大丈夫、申し訳ないけど大人しくしててね」

言いながらゆっくりと部屋の蛍光灯の真下に移動する。

「……ふんっ!」

そしておもむろに立位体前屈の姿勢で右手を自分の足元の影に突っ込んだ!?
右手の手首から先がめり込んでる? いや、見えない。

(体柔らかいな……じゃねぇっ!
 おいぃ、ヤツの手が! 床めり込んでるとかそういうんじゃないぞ!?)

それはまるでゲームとかでありがちな異空間に繋がってるとか、そんな感じだろうか。
何かを得たのか、今度はゆっくり引き抜かれていく右手。
それは何かを摘んでいる。
……なんで小指を立てて摘むような形で持ち上げてるのかわからないが、どうみてもそれはくそデカい剣の柄だった。
更に持ち上がっていくと、青黒い刀身が見えてきた。
非常に太い、そして曲がりくねった長大な刀身が顕になる。

(ま、不味い……オレの人生……やべぇ、ココで終わるのか……っ!)

力を入れようにも、体は動いてくれない。



……マジでオシッコチビりそうだった。




10/9 投稿(Ver1.00)



[22373]
Name: 鬼瓦◆b61185a2 ID:f16d5d61
Date: 2010/10/16 18:47



足元の影から取り出したモノ……それは吸血女の身の丈には見合わない程の大きさの両手剣だった。
俗に「フランベルジュ」または「フランベルジェ」、ドイツ語で「フランベルク(こちらは一般的に片手剣ほどの大きさとも言われている?)」とも呼ばれるフランスで主に使われた特殊な波切刀をもつ武器である。
最古のモノでは8世紀頃のシャルルマーニュの伝説に登場する騎士の1人が所持していたという。
この切刃を持った剣身は、美しい見かけとは裏腹に非常に殺傷能力が高く、この刃によって傷付けられると、傷口は肉片が飛び散り、抉り取られたような傷となる為、なかなか傷が治らなくなる。
また、突き刺し、引き抜く際にも傷口を広げる効果があり、今と違って衛生事情が現在と比べ物にならなかった時代には、破傷風などに感染して死亡する例が多かったという。

治りづらい傷を作るため「死よりも苦痛を与える剣」として知られるこの両手剣を、FF11というゲームの中で愛用していたオレは……

(こいつ暗黒騎士※かよっ!)

 ※暗黒騎士
   オンラインゲームFF11の職業・EXジョブの1つ。
   純粋に戦闘能力を極めるため『黒魔法』をも習得する、アウトローの騎士。
   取得クエストが面倒くさいとの理由で取得しないプレイヤーも結構いる。
   得意な武器が両手鎌と両手剣、特に最大D値を誇る両手鎌が主武器となる。
   尚、暗黒騎士の代表的な主要NPCが黒く巨大なフランベルジュ形状の両手剣(バリンソードではないかと言われている)を持っている。

……自キャラのメインジョブが暗黒騎士の為か、軽い近似感を感じていた。
否、そう感じている事も含め一言で言えば現実逃避である。
油断すれば間違いなく膀胱が決壊し、部屋の一角に生暖かい異臭を発する水溜りが出来てしまうだろう。

「ふぅ……こんなところで剣を抜く事になるとは思わなかったわー。
 さて、これから誠さん、あなたにちょっとした処置を施したいと思います。
 その為には剣を構えなきゃいけないの……ちょっと怖い思いをさせてしまうけど、でもまあ、殺すとか血を流すとかそういうのは無いから大丈夫!
 あ~、けど、もしかしたらちょこっと痛いかも~(汗 」

摘み上げた巨大な両手剣を狭い六畳間の中で器用に持ち替える。
そして、剣の腹の部分をオレの左肩に軽くあてた。
ちょっとでも動けば首筋を走る太い動脈がざっくり切り裂かれそうだ。

(……な、なんか剣が、微妙に、こ、こう、プルプルっと、震えて、るんだが……こ、怖えぇぇぇぇ)

「なんで剣を剣として使わない時ってグラビティコントロール発動しないんだろう……水平を保ち続けるのはキツいわ。
 むぅ、つらい、結構重いよぉ~(笑)」

なんか笑っていらっしゃるのだが……オレの肩に触れている剣、その刀身の重みを一応この化け物が支えているようだ。
だが、敢えて言わせてくれっ!
プルプル震えてるのがかえって危険だから力抜いてくれーっ!と。

「この剣には私の力が色濃く反映されているわ。
 イメージとしては磁石に似てるかな~。
 こう、鉄をくっつけておくと、いつの間にか単なる鉄が磁力を帯びてる、アレね。
 だから魔法の杖みたいな感覚で触媒のように利用出来るの。
 という訳で、え~っと、つまり私はこう見えて魔法使いなのよん♪」

ニコッと笑顔。
だが……相変わらず両手剣がプルプルしてるんですが。

「……」

「……う、ごめんなさい嘘つきました。
 憧れてるだけで殆ど我流というかなんというか……。
 ま、まあ、とにかく、私から寒気? 冷気みたいなものが発せられているというのなら、私の力……そう、オーラ力?
 それをちょこっと誠さんに馴染ませるというか送り込むというかしてあげる事で、たぶん順応か反発かするようになって、結果気にならなくなるんじゃないかなと思うのよ、うん。
 完全に感覚をなくする事は出来ないと思うけどね。
 もう私の中ではさ、誠さんの存在含めてココを日本での拠点にしようって決めちゃったしー。
 だから、そんな私の気配をいちいち感じては鳥肌立つような状態じゃ可哀想だしー。

 ……という訳で、切って捨てる為じゃなく杖代わりに使いたいので剣を構えさせて貰ってまっす。
 以上、言い訳でした~。
 でわでわ、重いから早速いきますよ~」



 …──ィチィ──……



「……」

(……な、なんだ?)

一瞬、剣の触れている肩から首筋の辺りがチリッと熱かったが、ただそれだけで特に何もなかった。
用は済んだという感じで、吸血女は取り出した要領で剣を仕舞い始める。

「あ~疲れたー、たぶんこれ、明日か明後日ぐらい腕が筋肉痛になるかも……。
 ま、コレで変な寒気とか悪寒とか、風邪引いてる時みたいな感覚は気にならないというか、症状は軽くなったと思う」

良く解らないが助かったようだ。
ちなみに……若干股間が濡れてしまっている。
数滴漏れてしまったようである。

「悪寒とか寒気とかと一緒だったか覚えてないけど、昔似たような事を言う人が居たのよね。
 その時もこんな感じで対処できたし。
 あなたの場合も多分大丈夫でしょう、うん」

よくわからないが、これで悪寒を感じる事はなくなるという。
だが、今のオレにはそんな風に冷静な状況把握が出来る訳も無く……腰が抜けて立てない、混乱し過ぎて声も出ない、あまりの恐怖に少しチビってしまった、という状態もあって固まってしまっていた。

「……」

「……」

見詰め合う二人……否、片方は認識出来ているか否か定かではない。

「……」

「……」

「……あ~、もしかして気絶しちゃった?」

つんつんとオレの頬をつつく。

「う~ん、怖がらせてしまった……しょうがない、詳細は明日って事で。
 このままじゃアレだから取り合えず、ラリホー!」

そして強制的に寝かされました。





(それにしても……)

ステルスアビリティという能力をフル活用して気配を消していたというのに、何故気付かれたのだろうか。
私という存在がこの世に誕生してから約々で460年程の長期間、この特殊能力のお陰でなんとか外敵から身を守り続けてこられたのだ。
今後も平穏無事に生活を送り続ける為には、どうしても原因と対策をしっかり抑えて置きたいところである。

実際、過去にも1度似たような事はあった。
その時、その者は私の視線がトリガーになっていたと言っていた気がする。
敵の敵は味方、という事で利害の一致から協力体制をとる事になった際、その感覚が非常に煩わしいとの事で、今回の様な対処を施した。
今回もそれに近いとは思うけど……視線どころか、私の気配だけで悪寒を感じているっぽい?

(むぅ、何度もくどいけどさ、ちゃんと気配、完全に消してたんだけどなぁー……)

誠さんに送ってもらった後、教えてもらった最寄駅を中心に周辺をあちこち歩いて索敵したが、特にこの町に脅威は感じられなかった。
その後は自身の活動拠点の選定で改めて歩き回ったのだが、手頃な場所はネットカフェぐらいしかなく、しかも駅周辺には1件しかなく、そしてパソコンブースは既に埋まってしまっていたのだった。
たまたま見かけた道端の看板から察するに、もう少し離れた所にも1件あるようだったが、土地勘がない為迷子になりそうだと判断し諦めた。
次点の手段は、立地位置関係等が把握済である誠さんの家にコッソリ忍び込み、家族を落とす作戦だった。
落とすという言葉を使ったが、簡単に言えば術で偽の情報を認識させ、私の存在を違和感無く浸透させようと言うモノだ。
あまり自身の痕跡を残したくはないが、1億2千万という人口密度の高い島国に住まう1家族程度なら問題はないだろう、という判断だ。
それに実際の所、日本の事をある程度は調べて来日したものの、常識を含め知らない事が多いであろう私が、この先1人で的確な行動できるのかと改めて自問すれば答えはNOだ。
そういった諸々の経緯で、誠さんの家の向いの屋根に立ち、全ての部屋の電気が消灯するのを待っていたのだ。

(突然カーテン開けてこっち見るしさ~。
 私も思わず手を振って道路飛び越えちゃったし。
 しかも私ってばなんでヴァンパイアって事教えちゃったんだろ。
 はぁ……取り合えず他の家族への術は成功したからどうという事は無いはずだけど、日本という土地柄か、私自身の不調か、敵が居るのか、誠さんの特殊能力なのか……ちゃんと見極めがつくまでは慎重にいこっと。
 ……あっ! 忘れてたっ!
 誠さんには私の力が干渉して中途半端にしか効かないんだった!
 はぁ、しょうがない……ちゃんと説明して協力をお願いしないとだなぁ)

ちなみに私はヴァンパイア故に元々夜型の生活リズムだったのだけれど、人間の生活リズムに合わせていた方が何かと都合が良い為、気がつけばすっかり昼型の生活になってたりする。
ドラクエからパクった睡眠の呪文で強制的に眠りについた誠さんを横たえ、その横に寝っ転がりながら、反省や今後の展開を考えつつ……いつしか私も眠りについていた。




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