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【物来順応】前警視総監・米村敏朗 「レオニー」に思う拉致事件

2010.10.16 05:19
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 この秋公開の映画「レオニー」の試写会に行った。世界的な彫刻家イサム・ノグチの母、レオニー・ギルモアの生涯を描いた松井久子監督の映画である。

 イサム・ノグチについては、ご承知の方も多いと思うが1904年ロサンゼルス生まれ。父は日本人の詩人、野口米次郎。3歳の時、母レオニーとともに日本に渡り、幼少期の11年間を日本で過ごした。今から約100年前のことだ。

 正直言って、松井久子監督(以下、松井さんと呼ばせていただくこととしたい)のことは全く知らなかった。きっかけは、試写会の1カ月ほど前、「レオニー」完成まで7年に及んだ松井さんのプロダクション・ノート的な講演を聞いたことだった。制作はさまざまな困難な道のりで、とりわけ資金調達の面では「既成概念と前例主義の男たちの反応はネガティブなものばかり」だったそうだ。

 その折、松井さんにレオニー役の英国人女優エミリー・モーティマーについて「とてもいい女優ですね」と申し上げたところ、「警視総監をしていた人がエミリー・モーティマーを知っているなんて」とひどく驚かれた。警視総監の既成概念と女優エミリー・モーティマーとは著しくミス・マッチだったようだ。

 試写会の後、松井さんに「母性とは、まさに意志なんですね」と申し上げたら、「そういう男性の見方があっても」と言われた。女性にとって母性とはそもそもが確固たる、あるいは本能としての意志なのは当たり前なのかもしれない。そしてこの映画のテーマは、もとより私見だが、くしくも松井さんが言われた既成概念という過酷な壁に包まれながらも、あくまで自らの意志で生きていこうとする一人の女性、母親の勇気なのではないか。

 「レオニー」を見て、北朝鮮による一連の拉致問題に思いが及んだ。1995年8月、警察庁外事課長となった私は、北朝鮮による拉致事件の捜査に直接かかわることとなった。その第一歩が横田めぐみさんの事件であった。ジャーナリストの石高健次氏の拉致事件に関する著書も繰り返し読んだ。そして一連の捜査結果を踏まえて、ある時上司にこう申し上げた。「めぐみさんは北朝鮮によって拉致された可能性が高い。警察としてそう言うべきです」。いわゆる拉致認定である。また、拉致認定に依然として疑問を感じていた部下の一人にはこう言った。「仮に間違っておれば腹を切る(辞める)しかない。しかし自分としては、拉致しか考えられない。親としてはなんとしても子供を見つけ出したい。いま、その道は拉致認定しかないのだ」

 一連の拉致問題についていつも思うことだが、どうしてこれほどまでに複雑に扱われなければならないのか。人として、親としてもう一度わが子を、わが肉親を抱きしめたい。ただそれだけのことではないか。

 北朝鮮を相手に「お前はなんと甘いことか」という向きもあろう。目下進行中の権力世襲についてアレコレ言うつもりもない。しかし何事にしても既成概念が優先し、またそれがあらゆる意味で桎梏(しっこく)となっているように思う。その前に人として当たり前のことが当たり前に行われることである。(よねむら としろう)

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